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しゃべる豚来訪


 「いやー、助かった。褒めて遣わすぞお前ら」


 「喋った!!?」


 おもむろに人間の言葉を話し出したブタに、四人全員が驚愕の声を上げた。俺やセンパイが驚くのはまだしも、テステッサや博識そうなエルノパさんまで目を丸くしているのだから相当レアな現象なのだろう。


 「失敬な奴らだな、ワシが喋ったらいかんのか。何か世の中に不利益な事でもあるのか」


 いきなり真っ当な意見で怒られ、恐縮する俺たち。


 「いやスミマセン、喋るブタ……さんにお会いしたことが無かったもので」


 ブタという呼び方に少し躊躇しながらセンパイが丁寧な言葉で応対する。傍から見ると何ともメルヘンな光景である。


 「それはお前達人間の価値観が貧弱なせいだ。加えて喋るのは人間だけであるという尊大な勘違いが根深いせいでもある。深く反省し今後は同じような過ちを犯さぬよう」


 「すみません、気をつけます」


 あのセンパイが素直にブタに謝ってしまった。それをさせるだけの威圧感というか偉そうな雰囲気がこの飛ぶブタには備わっている。心なしか頭の金髪も貴族的に見えなくもない。


 「ところでブタさんはなんでこんな所に」


 「初対面の相手にブタとはなんだブタとは」


 「すみません、ブタさんの他にどうお呼びしたらいいか見当がつかなかったもので」


 どんどん茶番めいた会話になってきたが、ブタは心底お怒りのようだった。


 「人に名を聞く時は自分から名乗るのが礼儀であろうが」


 一々正論だが何か腑に落ちない。しかしこのままでは話が進まないので仕方なく俺たちは飛ぶ仔ブタに自己紹介をした。


 「ほうほう、地球からの来訪者とはまた珍しい……ワシはな、ベゥヘレムという名じゃ。ともかく助けてもらった事には感謝しておるぞ」


 どこまでも尊大な態度を崩さない。が地球の事も知っているとはそれなりに知識のあるブタのようだ。


 「いい季節じゃからな、この辺りをな、優雅に散策していた訳じゃよ。可愛いギャルでもいればランチに誘おうと思ってな。そしたら“黒ずくめ”の不潔な奴にとっつかまってこの様じゃ。おお、そういえばあの黒トンチキはどこに行った。ワシをあんなカビくさいところへ押し込めおって、生まれたことを後悔するまで折檻してやらんと」


 (セリフだけ聞いていると昭和生まれの厄介なオッサンみたいだなぁ)


 と思いながらも“黒ずくめ”が怪しげな術で消え失せたことを伝えると、金髪仔ブタことベゥレヘムは空中で脚をバタバタさせて悔しがった。


 「おのれあ奴め、今度会ったらローウン山の火口へ投げ飛ばしてやる」


 このブタは投げ技も使えるのか。


 「じゃあ私たちはこの辺で……」


 関わるのも面倒になってきたセンパイは引きつった笑顔を残しながらブタ、もといベゥレヘムに別れを告げようとした。


 「まぁ待て、お主、リラバティ王と言ったな?」


 「えぇまぁ……一応王女ですけど」


 ブタにまでその身分を通す必要があるのかどうかは疑問が残るが、ベゥレヘムはほうほうと関心を示している。


 「一応王女とな。面白い、これも何かの縁じゃろう。ルルリアーナ王女とやら、ワシもしばらく厄介になるぞ」


 「えええええ」


 理由も聞かずにるるセンパイは露骨に嫌な顔をした。


 「なんじゃその態度は。たかが仔ブタ一頭食わせる金も惜しいと言うのか。嘆かわしい」


 「いやそんなことはないですけど……ううう」


 意外に本気で嫌がっているセンパイに俺がそっと耳打ちした。


 (適当にあしらっといて適当に追い出せばいいんじゃないですか。断ると五月蠅そうですよ)


 (そうなんだろうけど、私の第六感がどうも危険信号というか、ヤメトケヤメトケって言ってて……)


 「じゃあ私も一緒に行こう。時間はあるしベゥレヘム氏とはもう少し話もしてみたい」


 予想外な所から助け舟?が出てきた。エルノパさんがしばらくリラバティでこのブタの面倒を見てくれるらしい。


 「これはお優しいお嬢ちゃんじゃのう。王族と言うならこれくらいの器量を持たんと、国なぞすぐ滅ぶぞ」


 「どうもすみませんね」


 いい加減、敬語を使うのも止めたくなるセンパイの気持ちは良くわかった。気付くとテステッサが1階の調査を終えて上がってきた部下たちの話を聞いている。


 「1階の方は2匹ほど黒子鬼が潜んでいた程度で特に他にヤツラの手がかりも無いようです。撤収いたしましょう」


 「わかりました、お体、お大事にしてください」


 「有難うございます、道中のご無事をお祈りいたします」


 テステッサ達深緑騎士団と別れ、俺たち3人と1匹は馬車でリラバティへの帰途についた。ブタの寝息は存外に五月蠅く、俺たちは城に着くまで睡眠不足に悩まされた。








 何日かして、ようやくリラバティ城のシルエットが見えてきた。


 「やっと帰ってこれたわね……あれ?」


 背伸びをしながら居城の姿を見ていたるるセンパイの動きが止まる。


 「どうしたんですか?」

 

 「いや、しばらく見ないうちになんか形が変わってると言うか、欠けてる気がして……」


 俺も身を乗り出して双眼鏡で城の方を見てみる。


 「……尖塔が二つほど折れてますね。あと第一城壁も少し壊されちゃってます」


 「なんですって!」


 センパイが俺から双眼鏡をひったくって再び城を見た。間違いなく竜対策で築かれた内側の第一城壁と、センパイの居室近くの見張り塔が破壊されていた。煙が上がっているという事はつい今しがた襲撃があったのでは無いだろうか。


 緊張する俺とセンパイの耳に、前方から駆けてくる蹄の音が聞こえてきた。


 「姫様ー!姫様ー!!」


 リラバティ騎士団の銀色の鎧を着ている騎士が、馬に乗り街道を走ってくる。兜は無く、馬共々髪を振り乱し相当焦って飛び出してきたのだろう。


 「どうしたの!?」


 馬車の傍まで走ってきた騎士にるるセンパイは水筒を渡そうとしたが、その騎士はそれすら受け取らず早口で報告をした。


 「先刻、レガシーワイバーン他、竜の集団による襲撃がございました。その数13。我々騎士、兵士総勢で迎撃戦を行いましたが力及ばず、陛下の城に傷をつけてしまい……」


 「城の被害はいいわ、怪我人は?竜は追い返せたの?」


 努めて落ち着いて話そうとするるるセンパイのお陰か、騎士もようやく水に口をつけて呼吸を取り戻した。


 「は、ハッ!怪我人多数出ておりますが死亡者は無し。怪我人もパレィーア司祭の加護により傷を塞いで頂いております。ワイバーンは三頭を退治、他を撃退する事が出来ましたが修復中でした第二城壁は大破、第一城壁も上部を破壊されてしまい……」


 そこまで言うと言葉を失ってしまった騎士の肩に手を置いて、センパイは彼を労った。

 

 「良く戦ってくれたわね。ここまでありがとう」


 それからもう一度城を見て、センパイが俺を振り向いた。


 「急ぐわよ、漣太郎くん」


 「わかりました」


 






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