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センパイは城を乗っ取っていた


 声に振り向くとさっき馬車の上にいた御者と、その主人らしきぽっちゃりと太った中年。それからその召使の様な少年がいた。中年の服装は暖かそうな生地に金の刺繍がふんだんに施されていて中世の貴族か富豪のように見える。


 「危ない所を助けていただきありがとうございます。失礼ですが、もしかして貴女様はルルリアーノ姫殿下でいらっしゃいますか?」


 「ええ、そうよ」


 るるセンパイが胸を張りながら小声で俺に(ほら見なさい)と囁いた。


 (ほらって言われてもなぁ)


 釈然としない俺の前で三人が平身低頭する。


 「姫殿下さまに命を救われるとは……身に余る光栄の極みでございます。手前はリラバティで商いをさせていただいておりますルガミノと申します。先の戦でお怪我をなされたと聞きましたがご無事のようで何よりです。命を救われたお返しは全財産をもってしてもできるものではありませんが手前どもに何かできることがあればお申し付け下さい」


 丁寧にそういう商人に姫様ことるるセンパイはちょうどいいやとポンと手を叩いた。


 






 るるセンパイと俺はルガミノという商人の馬車に乗せてもらうことになった。行先はリラバティ城下。るるセンパイが姫殿下の影武者として治めているリラバティ王国の中枢であるという。


 舗装もされていない道のせいでガタガタと馬車は揺れるが座り心地のいい長椅子があつらえてあるのがありがたい。ルガミノ氏と召使は椅子を譲ってくれて御者席に三人並んで乗っている。富豪の割には気のいい性格だ。


 「ほんとは城に直接戻りたかったんだけど、あの光の柱は人目につくからしょうがなくね」


 やれやれと揺られながらため息をつくセンパイはもうさっきのポンチョを纏ってしまっていた。残念だが仕方ない。


 「そういえば、なんで俺ここの世界の人と喋れてるんですかね?この国日本語つかってるんですか?」


 「ううん、ここに来る前に漣太郎くんにネックレス上げたでしょ。それ魔法の翻訳機なの」


 なんという用意の良さ。さすがセンパイだ。


 「そもそも、なんでそんな恰好なんですか?」


 「さっき私がオーガ……緑の巨人に使った技は『竜槍術』っていう武術なんだけど、リラバティ王国に昔伝わっていたものでね」


 ポンチョの裾から物々しい装甲に包まれた脚を見せる。蒼い金属光沢のある板を金色の縁取りといくつかの宝石で装飾されていて、いかにも王族の鎧という感じがする。


 (しかし胸と股間は最低限しか隠してないんだよなぁ)


 エロいマンガのお姫様みたいな恰好についてるるセンパイは説明を続けた。


 「この鎧は竜の鱗や角、骨から作られているの」


 「竜?ドラゴンですか?」


 「そう、もともと『竜槍術』は空を飛ぶドラゴンと戦う為の技で、そのために高く飛べるよう竜の素材で作った特別な鎧を作ったの。この肩にある翼は飛行をコントロールしていて、腕と腰の羽は方向転換に、脚の鎧はジャンプ力と着地の衝撃を緩和する為に必要なの。逆に言えばその他の部分は全部デッドウェイトになるわけ。それで最低限の部分だけ鎧を着ているの」


 まぁ、なんとなく筋が通っている話のようだ。


 「昔は男の『竜槍術』使いもいたみたいなんだけどどうしても高く飛ぶとなると身軽な女の方が向いているらしくてね、いつしか『竜槍術』使いは『竜姫士』と呼ばれる女だけになってしまったみたい。男は地上で飛ばないけど力の強い『地竜』と戦わなきゃいけないしね」


 「なるほど……でもセンパイはその恰好……恥ずかしくないんですか?」


 「別に……大事な所は隠れてるし、ファンタジー世界なんてこんなものでしょう?お兄ちゃんの持ってたマンガにも似たようなの出てたし」


 ありがとうお兄さん。会ったこともないセンパイの兄弟に感謝をしていると窓の外に大きな尖塔をいくつも持つ優雅な城とそれを取り囲む街並みが見えてきた。


 「あれがリラバティ城。私たちの居城になる所よ」










 あちこちに戦災の傷跡はあるものの、活気のあるリラバティ城下町を抜けて馬車は城門までやってきた。石造りの分厚い城壁が飾りでなく戦の為に作られたものだとよくわかる。ぐるり城壁の中に守られるように建造されている大小いくつもの尖塔を備える巨城、リラバティ城の前で俺とセンパイはルガミノ氏と別れた。


 「ありがとうルガミノ、助かったわ」


 警備兵に囲まれる中、まるで召使いに言うようにルルリアーノ姫殿下ことるるセンパイが言う。演技かもしれないがセンパイは元々天然のSっぽい所があるから自然にやっているのかもしれない。


 「お役に立てて光栄であります。また何か御用名があれば何なりとお申しつけ下さいませ。すぐに参上いたします」


 ぺこぺことルガミノ氏は頭を下げながら馬車で帰って行った。それを見送る俺たちの所に息を切らせながら立派な貴族っぽい服を着た初老の男性が走ってきた。白い立派な髭と大きめの丸いメガネが特徴的だ。


 「お、お帰りなさいませ姫様!心配いたしましたぞ!」


 「ただいまグレッソン、世話をかけたわね。漣太郎くん、こちらはグレッソン。この国の総務大臣をしているわ」


 グレッソンと呼ばれた紳士が深々と頭を下げる。俺も同じように頭を下げた。


 「始めまして、グレッソンと申します。姫様から話は伺っております。お疲れでしょう、どうぞこちらへ」


 大臣様に連れられてセンパイと俺は城の中に入って行った。


 豪華な絨毯、大きなシャンデリア、何人もの兵士とメイドに圧倒されながら階段を五階分は登っただろうか、ようやく人気のなくなった廊下の先にある一室にるるセンパイと共に通される。扉には立派な薔薇の紋章が彫られていた。これがリラバティの国旗?みたいなものだろうか。


 部屋の中も豪華な壁紙に燭台、絵画などが並べられ、特に位の高い王族用の部屋だろうと察しがついた。


 「姫様の執務室よ」


 着替えてくるわ、と言ってるるセンパイは部屋にいたメイドを従えて奥の部屋に行ってしまった。残された俺はグレッソン大臣にすすめられて朱いビロードの高級な椅子に座る。大臣も隣の椅子に座り鈴を鳴らすと、やがて別のメイドがこれまた高そうな陶器のティーポットとカップを三つ持ってきた。


 サイドテーブルに綺麗な色をした紅茶と茶菓子が並べられる。センパイが戻ってくるまではと思ったが、咽喉の渇きを我慢できず一言、いただきますと言って口を付けると今まで飲んだこともない透き通るような果実の味がした。ホットティーなのにとても清涼感がある。俺は驚きを隠せなかった。


 「お口に合いますかな」


 「とても、美味いです」


 それは良かった、とグレッソン大臣は柔和に微笑んだ。そうして自分も一口紅茶をすする。それを見ながら、(異世界にも紅茶はあるんだな)と場違いな事を考えていた。


 「レンタロー様にはもっと平和な時に来ていただければよかったのですが」


 寂しそうにそういう大臣に、俺は慌てて口を開いた。


 「すいません、俺もさっきこちらに着いたばかりで何が何だか……」


 困惑する俺を見てグレッソン大臣は丸メガネをクイと直しながら頷いた。


 「姫様が戻られるまで、私からご説明いたしましょう」










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