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激闘・ウヴェンドス


 成り行き任せで空に飛び上がったはいいが、ウヴェンドスの巻き起こす風で滅茶苦茶に揺れまくりなんとかしないと墜落してしまいそうだ。


 「操縦は!?これか?」


 カゴの中には小型のハンドルがあった。両手で握りなんとかバランスを取るように動かすことで少し安定を取り戻す。


 「後は接近して銃撃すれば……!!」


 接近すればよりその大きさがわかる。ワイバーンの三倍近く大きい。センパイが恐れるのも無理はなかった。でもここまで来てビビって帰れはしない。


 「くらえ!!」


 ハンドルを片膝で抑えながらロプノールを向けさらに装弾しながら連射する。何発かは鱗の隙間に当たり出血させたようだが、やはり致命傷にはならないようだ。ウヴェンドスは俺を気にせずに攻撃を繰り返するるセンパイを追っていた。咢を開き息を吸い込んでいる。


 (火の息か!?)


 風の竜が炎を吐くのか知らないが(地球の物理学的に言えば炎と風、というか酸素はすごく相性はいい)至近距離でのブレス攻撃は危険だ。レガシーワイバーンより巨大なウヴェンドスなら、もっと強力なブレスを吐くだろう。


 「!?」


 ウヴェンドスの巨大なアゴの両脇、魚の鰓のように空気を吐き出しているような器官があるのが目に付いた。


 (あそこで空気を圧縮している……?なら!)


 ウヴェンドスは地上に降下していくセンパイに狙いを絞った。推測でしかないが賭けるしかない。効果が薄いだろうと思って使っていなかった火炎弾をまとめて手に取りリロードしながらひたすら鰓に火炎攻撃を撃ち込んでいく。顎の側面で巨大な火球がいくつも咲き、想像以上に派手な攻撃になった。唸りを上げて意外にも一旦離れるほど怯んでいる。


 「炎に弱いのか?」


 が、センパイの危機を救った代償に俺はウヴェンドスの怒りを買ってしまったらしい。長大な尾が俺のカゴめがけて振り下ろされる!


 (やられる!)


 「漣太郎くん!!」


 地上から飛び上がってきたるるセンパイが俺の乗っている飛行カゴを蹴り飛ばした。ギリギリで俺は難を逃れたがセンパイは躱しきれずに空中で尾に弾き飛ばされてしまった。




挿絵(By みてみん)




 「キャアアアアアアアアアッ!」


 「センパイ!!」


 直撃では無いように見えたが威力は桁違いだ。センパイの纏う『竜纏鎧』が半壊して羽も折れている。あれでは……。

 

 (『竜槍術』が使えない!)


 センパイの心配だけではない。バランスを失った俺のカゴもウヴェンドスの暴風を受けて翼が折れていた。安定を失いほぼ真横に傾いた状態で落下してゆく。振り落とされないようにカゴの縁に必死にしがみつく俺の視界に馬に乗って接近する影が映った。


 「あれは?」 


 地上、撤退していく騎士たちの間から3、4騎こちらに走ってくる。先頭はテステッサ、そして騎士団長ツェリバ、その後ろにいるのは……。


 「ボッズ師!まさか、出来たのか!?」


 馬にしがみつくように乗っているのは間違いなく城の鍛冶師、ボッズ師とその弟子だ。それぞれ大きな木箱を背負っている。


 アレが間に合ったのなら、万が一にも勝機はあるかもしれない。俺は一縷の望みを持ちながらセンパイを探しつつ着陸地点が無いか見回した。ちょうどテステッサ達の進路の先に平らな草原がある。


 俺は逆さまになってしまったカゴのハンドルを何とか動かして舵を切った。ゴロゴロと二転三転、地面の上でカゴごと転がる。柔らかい草地で助かった。


 「大丈夫ですか、レンタロー殿!?」


 「な、なんとか……」


 「本当に無茶をなさる……」


 駆けつけてきたテステッサ達にカゴから引っ張り出される。普段乗り物酔いはしない体質だけどさすがに気持ちが悪い。嘔吐を我慢して俺はボッズ師に近づいた。


 「『鎧』、完成したんですか!?」


 「ああ、姫様が戦地に向かわれたと聞いてお役にたてればと思ってきたんじゃが……」


 「まさに、ビンゴって奴です!……る……姫様!!」


 センパイもこちらに気づいて駆け寄ってきた。飛んでこなかったところを見るとやはり『竜纏鎧』は壊れてしまっているのか。


 「漣太郎くん!飛べなくなっちゃった!どうしよう……」


 「大丈夫です、ボッズ師が新しい……」


 俺がセンパイを励まそうとした時、ツェリバの怒鳴り声が鼓膜に震えた。


 「ヤツの攻撃が来ます、屈んでください!」


 ウヴェンドスがこちらを見定め口蓋を開いた。その喉奥、地獄の入り口のような大穴から衝撃波にも似た風の塊が吐き出される。


 「うぉおおおおおおっ!?」


 ツェリバとテステッサが大盾を持って俺たち四人を庇ってくれたが、あろうことか暴風のブレスは重装甲の二人を

吹き飛ばしてしまった。全身金属鎧を着た男二人が飛んでいく光景はショックというかシュールすぎて一瞬現実を忘れてしまう。


 「まいったな、着替える暇がない……」


 「こんな事なら積みゲー全部やっとけば良かった。でもあの乙女ゲー30人も攻略あるしでも全員フルボイスだからスキップしたくないし、あとあの狩りゲーもマラソンばかりやっててエンディング見てなかった!スマホのパズルゲーもキャラ揃ってきたとこだったのにあーもうあーもう!」


 半裸のセンパイがパニくって抱き着いてくるのは嬉しいが末期の言葉を聞いているとなぜかとても泣きたくなる。


 どちらにしてももう後がない。なんとかブレスを耐えてもこちらには反撃のチャンスが無いのだ。たった数分、あいつの動きが止まれば……。


 俺が覚悟を決めたその時、どこからか女の声が聞こえてきた。


 「……理は違わず、ただ一時逆らえるのみ……集い、従え、古の……」


 少し離れた丘の上に、ローブを着た小柄な女がいた。この強風の中杖を掲げ空に鎮座する巨大な竜を睨んでいる。


 女は、杖を回し一際高い声で叫んだ。


 「奔放なる精霊よ、怒り、携え、描き給う!邪気あるものに戒めの儀を!奉天雷網!」


 瞬間、ウヴェンドスに無数の雷が纏わりついた。真夏の太陽以上の輝きが辺りを照らし、前触れの無い拘束にウヴェンドスが苦悶の咆哮を上げる。雷は完全にウヴェンドスの動きを封じていた。


 「今のうち!術はそう持たない!」


 女がこちらを見て叫んだ。なんだかわからんがありがたい。俺はセンパイの耳に口を当てて大声で伝えた。

 

 「センパイ!ボッズ師が新しい『竜纏鎧』を持ってきてくれたんです、早く着替えて下さい!」


 「え?ホント!?」


 ハッとセンパイが正気を取り戻す。壊れた鎧を脱ぎ捨て、ボッズ師と弟子の持ってきた箱から出した新しい『竜纏鎧』を身に付ける。


 相変わらずのセンパイの早着替えは見事だった。全員が後ろを向いている間実に1分11秒(手元のGショック計測)。橙紅色に輝く鎧を纏ったるるセンパイが俺たちの前に表れた。俺も最終確認をしながら新しい鎧の説明を伝える。


 夕暮れの様に朱い鎧、刃の様に鋭く並ぶウィング、幅広の穂先を持つ新しい槍。新たな戦装束に身を包んだるるセンパイが自信を取り戻したように目を輝かせている。


 「みんな、ありがとう。頑張ってくるね」




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