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暴風主


 「何?この音……」


 るるセンパイが不快そうにして耳を抑える。ギリギリで聞こえる高周波のような音だ。騎士たちの戦意を削ぐためなのか、またはドラゴレッグに何かしら影響を与える物なのか……。


 (いや、もっと悪い何か、良くないモノが迫ってきている気がする……!!)


 「漣太郎くん、空!」


 センパイの指が荒れる曇天を指す、その中心は異常な速さで雲が渦を巻いていた。その向こう側に、和紙に墨が染み込むように黒い影が現れた。影はどんどんと大きくなり、その“姿”がはっきりとわかるほどに接近してきた。


 ゴォウ!!


 渦の中心から台風の様な突風が吹きだし、地上にいる敵味方すべての者が飛ばされないように身を屈めた。人間もドラゴレッグも恐れるように天を伺う中、その姿が現れた。




挿絵(By みてみん)



 「ドラゴン……」


 光沢のある蒼と翠の美しい鱗、巨体から伸びる四枚の長大な翼、鰐よりも遥かに深く幅広い顎。


 それは、間違いなくドラゴンと言われる生物だった。


 (デカイ……レガシーワイバーンよりももっとデカイ!)


 距離感が掴みにくいが、前に退治したレガシーワイバーンよりもハッキリと大きさが違うのがわかる。そしておそらくその強さも。


 「ウヴェンドス……」


 「ウヴェンドス?」


 隣で呆然と呟くように言ったるるセンパイの言葉を、オウム返しに繰り返す。


 「暴風主ウヴェンドス。古代より伝わる伝説竜レジェンドの一頭。まさかこんなところに、なんで……」


 そのウヴェンドスとやらが巨大な口蓋を開き、雄叫びを上げると同時に四枚の羽根を羽ばたかせた。


 「うわっ!!」「きゃあっ!!」


 翼に打たれた大気はそれぞれが集まり小さな竜巻にも似た大旋風となる。風の塊が戦場を打ち、騎士たち数名と、彼らと戦っていたドラゴレッグがまとめて木の葉のように吹き飛ばされた。


 (あんなの……太刀打ちできるのか?)


 足がすくんで動けない。勝てるわけがない、と声に出してしまいそうな時、隣から小さな声がした。


 「行くわ」


 槍を掴みるるセンパイが立ち上がった。その顔にはいつもの余裕は一かけらもない。


 「センパイ……」


 「漣太郎くん、先に謝っておくけど」


 「な、なんですか?」


 るるセンパイはうろたえている俺に、見たことないほど優しい笑顔を見せた。


 「二人ともココで死んじゃったら、ゴメンね☆」


 「え」


 止める間も無くセンパイがビュッ!と『竜纏鎧』の力で曇天に向かい飛び出す。ここには城に備えてある巨大な石弓は無い。大砲はさっき爆破してしまった。あの巨大なドラゴンに攻撃をすることが出来るのはるるセンパイだけだ。


 (いや、俺の……)


 俺の手の中のロプノールを見下ろす。こんな簡素な造りの銃であのドラゴンにダメージが与えられるだろうか。レガシーワイバーンにもロクに傷をつけられなかったというのに。


 「でも……!」


 センパイ一人を戦わせるわけにはいかない。いそいで貫通力のある弾頭を装填していると馬に乗ったテステッサが近づいてきた。


 「レンタロー殿、ご無事で!!」


 「これから無事で無くなるかもしれませんけどね」


 「同感です。ここは撤退しましょう、作戦は成功しました」


 「セン……姫様がさっき突撃してしまいまして」


 「なんですって!?」


 全く想定外の事実にテステッサが目を見開いてドラゴンの方を見た。もう黒い小さな人影にしか見えないるるセンパイがウヴェンドスに向かってジャンプをしている。


 「テステッサさんはリラバティの騎士も一緒に撤退させて下さい。騎士ではアイツと戦えません」


 「レンタロー殿は、どうするのです」


 「俺は、コレがありますから」


 「無謀です、止めなさい!!」


 「騎士たちを頼みます!」


 制止を振り切り、俺はセンパイの後を追った。無謀なのは重々承知だ。この銃で仕留められない事もわかってる。でも。


 (ゴメンね☆)


 さっきのセンパイの言葉が胸に刺さる。センパイを見殺しにして、俺だけこんな世界で生き残っても何にもならない。センパイを助けられないで、もしその死体でも見る事になったら。


 キィ……ン……!


 るるセンパイの一撃がウヴェンドスの首の後ろに当たる、が空しい金属音と共に弾かれてしまったようだ。虚空に戻されたセンパイにドラゴンが竜巻を撃ちつけ、センパイの華奢な肢体が独楽のように回る。


 「うおおおおおおおおおっ!」


 恐怖は無い、恐怖は、センパイの死だけだ。俺は怒りだけで走った。あっという間にドラゴンの真下近くまで近づいていた。息を切らせながら銃を連射する。 


 が、頭部目掛けて撃った銃弾も軽い金属音と共に弾き返された。距離がありすぎるのか、鱗が固すぎるのか。とにかくもっと近づかないと気を引く事すら出来ない。


 「こ、のおおおおおおおおっ!」


 上空からセンパイの叫びが聞こえる。額に攻撃を集中させているが、弾き返されては竜巻で吹き飛ばされている。まるで大人と子供だ。


 (!)


 ふと、視界の端にあるモノが止まった。カタパルトに乗ったまま破壊を免れた飛行カゴだ。発進が間に合わなかったのか、翼を広げたまますぐに飛べそうな状態になっている。俺はすがる思いでそのカゴに向かった。


 「ウッ!?」


 カゴに乗り込もうとした時、中に黒ずくめがいるのが目に入った。潜んで待ち伏せを仕掛けようとしていたのかと思ったが、違う。全く動く気配が無い。頭部の近くに工場に使っていたのか千切れた鉄骨が落ちている。逃げ出そうとしたところに不運にもぶつかったのか。


 俺はその人物を無理やり引きずりおろした。被っていたフードがめくれ顔が見えたがドラゴレッグとは全然違う、肌が黒い他は俺達人間とほぼ変わりないような風体だった。気にはなったが詳しく調べている時間も無い。意を決してロックレバーを外す。


 ボンッ!という爆発音と共に全身にGがかかったかと思うと、俺はカゴごと空に撃ち出されていた。






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