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砲撃戦闘


 目が覚めるとどんよりと曇った朝だった。風も強く、灰色の雲が足早に流されていくのが見える。気温も妙に生ぬるくぞわぞわとした悪寒が迫ってくる。


 「正に、決戦、という雰囲気ね」


 髪を櫛で梳いていつものポニテに結びながら、真剣な顔でセンパイが呟いた。クローゼットから『竜纏鎧』を出してあちこちチェックをしている。


 「下手に晴れて気温が上がるよりは、重装の騎士たちにとっては都合がいいわ。雨さえ降らなければこちらに有利」


 「戦慣れしてる感じですね、センパイ」


 「これでも、漣太郎くんより一年長く異世界人やってますからね……昨日もらってきたパンを少し食べて、そしたら出発よ」


 従軍料理長(民兵の一人らしい)から頂いた固いパンを齧ると、リーリィのはちみつパンが恋しくなる。ホットケーキ屋はうまくいっているだろうか。あの幼くておどおどした少女の事が少し心配になった。


 (確かめる為にも、ちゃんと無事に帰らないと)


 苦労して水で固いパンと、炙ったなんとかヤギの干し肉を胃袋に収める。銃とガンベルト。弾薬、双眼鏡をカバンに入れて一足先に馬車を降りた。俺は本体から離れ砲兵隊と先行しなければならない。


 「じゃあ、行ってきます」


 「気を付けて、無理はしないでね」


 少し心配そうな顔で見送ってくれるセンパイに手を振って、慣れない毛の長い馬に跨る。砲兵長のモダ以下、砲を運用する五人と運搬用の太い馬を従える二人、計八人が野営地から街道を迂回し目的の丘に向かった。







 やがて平原を見下ろせる小高い丘に着く。姿を見られないように這いつくばり慎重に平原を双眼鏡で観察すると、そこには予想以上のドラゴレッグ兵がいた。


 (外に出ているだけで……50はいるじゃないか)


 そのどれもが鎧や武器を装備している。戦いに備えているのは一目瞭然だ。


 「こりゃあ、エラい戦争になりますな隊長」


 モダ砲兵長が俺と同じように腹這いになりながら横で小さい望遠鏡を構える。無精髭が特徴と言えば特徴の、面長の古参兵と自己紹介をされた。昔は騎士団に所属していたが機械に詳しい事もあり、今は第一線を退いて機械や補充の仕事をしているらしい。砲の扱いは試射の時にも見せてもらったが信頼できる腕前だ。


 「隊長っての、止めて下さいよ」


 「見えますか?西側にあるへんてこな斜めに刺さってる板。アレがカゴを撃ち出す機械ですかね。それにその向こうにある建物……」


 「でかいですね……あそこで飛行カゴを作ってるっとなれば、結構な数が作られててもおかしくないです」


 飛行カゴ工場と目される建物は、石を積み立てた柱の間に隙間だらけの木の板を雑に並べた酷いつくりだが、広さは相当なものだ。運動公園のサッカー場に匹敵するかもしれない。三方を丘に囲まれた盆地とは言え、街道からそう遠くないこの平原にこんなものを建てていたとは。


 その周囲には10台弱の飛行カゴ。それを上昇させるカタパルトの様な機械が三基設置されている。その周りに大きな穴がいくつか開いていて、見ているとその穴の中にドラゴレッグが出たり入ったりしている。


 「あんだけデカイ小屋作っておいて、寝床は土の中なんですかね」


 「そうみたいですね。結局はトカゲって事なんでしょうが……」


 (ん?)


 工場の屋根部分に人影が見えた。ドラゴレッグとは違う、一回り小さい人間と同じくらいの背格好だ。頭からすっぽり黒のローブを被っているせいで顔の造作はわからない。


 その時、右手の丘の切れ目から野太い雄叫びと地響きが伝わってきた。騎士隊が突撃を仕掛け始めたのだ。


 「いけねぇや、隊長。こっちも準備を始めますぜ!」


 「頼みます!」


 もう隊長でも何でもいい。モダ砲兵長に半分怒鳴るように答えると俺は双眼鏡を戦場中央部へ向けた。テステッサ達の騎士隊はもうドラゴレッグの一団と接触を開始した。曇天の下でも鈍く光る刃が振り回され、次々と血飛沫が上がる。


 (さすがに騎士部隊は互角以上に戦えているが……民兵隊とドラゴレッグが正面でぶつかれば……)


 ドラゴレッグが次々と甲高い口笛のような音を鳴らす。全ての穴から武装したドラゴレッグがぞろぞろと飛び出してくる。何匹かは飛行カゴに乗り離陸を開始し、呼応してるるセンパイらしき人影が跳躍する。工場から少し離れたところで、戦いは早くも血みどろの白兵戦となった。


 (ここまでは計算通りだ)


 ガラガラと魔鉱砲が運ばれてきた。丘の上に設置し方角を決め固定用の太いアンカーをハンマーで撃ちつける。


 「固定良し!隊長!」


 「金属球装填!一発撃って誤差修正をします!」


 「了解、金属球装填!」


 モダ砲兵長の号令で砲の上面が開けられ弾と炸薬の砕いた魔鉱石が入れられる。火薬の代わりに爆発する性質のある灼魔鉱石を使う、名前の割にはシンプルな武器だ。


 「装填良し!」


 「砲撃!」


 耳栓を入れて双眼鏡を構える俺の横でけたたましい音を立てて大砲が火を噴いた。踏ん張らなければ吹き飛ばされそうな衝撃だ。爆発による推進力を得た金属球はものすごいスピードで滑空し工場の端の壁に穴を空ける。


 「やった!」


 砲兵たちから歓声が上がる、がこの射角では致命傷を与えられない。


 「射角修正、左に2、上に4!」


 「了解、左に2!上に4!」


 ぐるぐると重たいハンドルを回し砲が少し回転をする。続けて金属球が発射され、今度は中央部天井付近の壁に大穴が空いた。


 「さすが隊長ですな!」


 「半分カンですよ」


 「いや、銃の腕も立つと聞きました。才能でしょう。次はどうします?」


 こんな時に褒められても何も出やしない。


 「あの壁の薄さなら貫通弾は要らないでしょう。同じ穴に炎焼弾を一発、それから更に少し着弾位置を伸ばしてみましょう」


 「了解です、炎焼弾よォーいいーーー!」


 砲兵達も調子が出てきたらしい。気合の入った掛け声と共に鮮やかな連携で装填作業を終える。


 「砲撃!」


 爆発地点で拡散し延焼する炎焼弾が見事に先ほど開けた壁の穴にすっぽりと入る。中は可燃物ばかりだったのだろう。あっという間に工場の中から黒い煙の筋が立ち上り始めた。


 


 


 





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