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大砲と騎士と


 ドォォォォォ……ン……。


 夕暮れ近く、公国郊外の長閑な丘に場違いな爆音が轟き渡った。街道を挟んだ別の丘に土煙の柱が立ち上る。


 「なかなかの迫力ねー」


 耳に手を当てたままのるるセンパイが俺に素直な感想を言った。俺も同感だ。クラシックな作り(魔法技術が使われているらしいが)の大砲にしては威力があるように見える。もっとも地球の大砲が使われた所をリアルに見たことは無いので実際の所はわからない。


 「着弾位置は割り出せそうですか?」


 テステッサが大砲の近くから俺たちの所にやってきた。大砲の射撃に必要なのは、装填手が二人、点火手が一人、射角操者が主、副で二人で計五名。これに運搬手を入れると一門の大砲の運用に結構な人数がかかる事になる。


 「射程はわかりました。やや右に曲がりますがブレが無ければ大丈夫かと。時間も弾も無いので山越え射撃の練習は諦めた方が良さそうです。射程ギリギリの位置から直接目視砲撃で敵の工場を叩いた方が……」


 何度も考え直したがその方が良い気がする。るるセンパイも俺の案に賛成してくれた。しかし技術担当できたのになんで軍師まがいの事をしているのか。責任なんか取れないぞ。


 「貴重な大砲を危険に晒しますが、やむを得ないですな……職人が徹夜で作業して、通常の金属砲弾が明日の出発までに三個は出来るそうです。残っていた金属弾が四発、貫通弾が二発、炎焼弾が二発、計十一発の計算です」


 心もとない数だが、敵の飛行部隊の反撃を想定すればそれ以上のんびり撃っている時間も無いかもしれない。


 「了解しました……が、本当に砲兵を自分に預けるのですか?」


 「戦力比が不利な以上、自分も騎士隊を率いて前線に立たねばなりません。他に我が軍にこの魔鉱砲に明るい者もいないとなれば……会って間もない間柄ながら、レンタロー殿の判断と知識を信じさせて頂きます」


 「クソ度胸もね」


 「茶化さないでください」


 頭を下げるイケメン騎士の横で笑うるるセンパイも大概だが、こっちこそ会ったばかりの他所の世界の人間に頼られれば応えないわけにはいかない。


 「自信は無いですけど、最善を尽くします」


 「アテにしていますよ」


 ニヤリと微笑む顔は、どこかるるセンパイに似ている。大物なのだろう。馬に跨り砲兵に撤収の指示を出しながらテステッサは城へと向かい始めた。その背中を見ながらるるセンパイが腰に手を当てる。


 「アレは、元より大砲をアテにしていないのかもね」


 「そうなんですか?」


 「そりゃあ騎士様だもの。自分が戦場の主役でいたいじゃない。ナイトって言えばゲームでも主人公率高いし」


 「そりゃゲームではそうでしょうが……空飛ぶトカゲには剣は届かないんですよ」


 「だから漣太郎くんの銃と大砲が必要なんでしょ」


 もちろん私の竜槍術も、と付け加えるセンパイの顔は少し真剣な物になっていた。ス……と柔らかいセンパイの手が俺の左頬に延ばされる。


 (少し、震えてる?)


 「ごめんね、こんな戦場までひっぱり出しちゃって。ちょっと想定外。でもここまでしないと、リラバティは……」


 俺は自分でも驚くくらいに自然にセンパイの手を握っていた。


 「わかってます。俺もリーリィ達の安全を守りたいです……やりましょう、センパイ」


 今度はるるセンパイが少し驚いたように眼を丸くした。それから少しだけクスッと笑って。


 「大事な時にカノジョの前で他の女の名前を出すなんて、減点なんだからね」


 「へ?」


 俺がその意味を把握する前にセンパイは俺から離れ、クルクルと回りながら行きましょ、と小走りに走って行ってしまう。俺は慌ててその後を追いかけ始めた。







 夕食、そして次の日の朝食は結構な豪華さだった。出陣前と言う事で国中の料理人が総出で腕を振るったらしい。リラバティ騎士団と公国の深緑騎士団も存分に飲み食いし懇親を深めたようである。泥酔者が出ないかセンパイは気にしていたが、そこは流石にプロの戦士。出発前には一人も欠けることなく宮殿前広場に騎士たちが整列していた。


 「ん?」


 その深緑騎士団の隊列の中に、やたら豪華な金色の馬車がある。どう見ても戦争用では無い。この状況であんなものに乗る人と言えば。


 「オムソー陛下、まさか戦地へ?」


 近寄ってきた俺とるるセンパイに、馬車の窓を開けオムソー五世が顔を見せた。


 「リラバティ国王が戦地に向かうのに、我が国の王が宮殿で震えていると言われては国民に見せる顔が無いのでな」


 「しかし」


 「……こういう御方ですから」


 疲れた顔のテステッサと近衛兵たちもやってきた。昨日まではオムソー王が同行するなんて聞いていなかったから、急に言い出したのかもしれない。


 「何、さすがに戦場までノコノコ行ったりはせんよ。少し離れたところで見守らせてもらう」


 「……陛下は我々が御守り致します。ルルリアーノ殿下はどうか憂いなく振る舞っていただければ」


 申し訳なさそうに言うテステッサ達にこちらもなぜか恐縮してしまう。ともあれ、80名弱のドラゴレッグ討伐隊は公国の民衆に盛大に見送られながら出発を果たした。


 敵の前線基地までは二日ほどの距離になる。しかし一晩野営をし、さらに翌日進軍をしても飛行カゴやドラゴレッグの部隊どころか、偵察兵らしき姿さえ見かけなかった。


 「どう思われます?」


 二日目の野営地、戦場まであと数キロといった位置で簡単な食事を取りながら各隊長を交え最後の作戦会議が開かれた。


 「接近には気付かれていると思うわ」


 断言するるるセンパイに驚く隊長たち。


 「トカゲ人間にそれほどの知恵があるでしょうか」


 「カゴに乗って空を飛んでいる時点で、向こうは私達より優れた技術を持っているのよ」


 意見をする騎士をセンパイが嗜める。向かい側に座るテステッサが慎重な意見を口にした。


 「迎撃部隊が来ないのは、決戦の為に戦力を温存している……と?」


 「奇襲を仕掛けられるという考えは捨てた方が良さそう」


 「……思っていたより、大変な戦になりそうだな」


 オムソー王も難しい顔をしながら携帯用の酒瓶に口をつけた。


 「お帰りになりますか?」


 「まさか。トカゲ相手に尻尾が巻けるか」


 一同がドッと笑う。この王様なかなかにデキる人だ。緊張がほぐれたところでツェリバ隊長が仕切り直す。


 「明朝、日の出にここを発ちます。不必要な荷物は置いていきましょう。我がリラバティ騎士とテステッサ殿の隊が先陣。両翼を民兵で抑えます。姫様はカゴに専念下さい。十分に歩兵を引き付けたところで南西に陣取ったレンタロー殿の砲兵隊が工場を狙う……こんなとこですな」


 「工場の破壊を確認次第狼煙を上げます。それで一旦撤退をしましょう」


 「承知しました。各隊長は陛下を見習って、部下たちの緊張をほぐしてやってください」


 テステッサが会議を締めて立ち上がる。オムソー王も苦笑いしながら馬車に戻って行った。俺とるるセンパイも明日に備えて早く寝る事にする。


 「明日、よろしくね。漣太郎くん」


 「……がんばります」


 暗い馬車のベンチに横になったセンパイに出来るだけ力強く答えると、るるセンパイはうんと満足そうに微笑んで眠ってしまった。


 (こっちに来てから不眠気味だけど、今夜ばかしはちゃんと寝ておかないとな)


 明日は戦争だ。俺は人生初の大乱争に身震いしてしまう。大人の真似をして寝酒のワインでもと思ったが、大事を取ってそのまま布団をかぶった。



 



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