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オムソー王


 隣から聞こえてくるセンパイの可愛い寝息が逆に気になって眠れないうちに朝が来た。目を覚ました寝ぼけ眼のセンパイもまた可愛い。


 「めっちゃ眠そうね」


 「お陰さまで」


 眠い目を擦りながら運ばれてきた朝食に手を付ける。スクランブルエッグのようなもの。サイコロ状に切ったイモを揚げたもの。カリカリに焼いたのベーコンのようなもの。それに南国っぽいフルーツ。るるセンパイがロールパンにバターをつけながら半眼で感想を言った。


 「ビジネスホテルみたい」


 「せめてハワイ的と言ってあげましょうよ」


 不思議と新鮮味のない朝食と、果実を絞ったジュースでお腹を満たすと今更のように眠くなってくるがそうはいかない。給仕のメイドが持ってきたテステッサからの手紙によると会議は昼前に始まるそうだ。センパイは忌々しそうに呻いた。


 「気が早い事で」


 「真面目な王様なんでしょう」


 誰かさんとは違って、とは迂闊な俺でも言わなかったが。


 髭もじゃ騎士隊長の訝しむ様な視線を受けながら俺たち三人は会議室へとやってきた。昨晩泊まった部屋の何倍も広く、調度も大変凝った豪華な部屋だ。テステッサと二人ほどの騎士達を控えさせ、中央の真っ白なクロスの敷かれた分厚いテーブルの向こうに座るのが。


挿絵(By みてみん)



 「リド公主、オムソー5世だ。遠路はるばる良くお越しくださった。感謝します」


 勝手に裕福な商人みたいなのを想像していたのだが、全くイメージの違う物腰の柔らかい人物だった。痩身で背は高く、30代くらいだろうが貫録のある髭を生やしている。グリーンの精細な刺繍の入ったローブを纏い、細く切れ長の目からはさすがに国王らしい厳しさを感じる。


 (これが本物の王様か)


 17年の人生で“王”という人物に会うのは初めてだ。隣にはインチキ、もとい影武者の王様がいるが同じ日本人の上に同世代で前から知っているせいで全く王様らしさを感じない。


 席を勧められたが緊張もあって重い金属製の椅子を動かすのも精一杯だった。るるセンパイの横顔も心なしかいつもより硬い。


 「時間を惜しみたい所もあるが、国賓を招いておいて持て成しも出来ぬとあっては国の名折れ。一つ、我が国自慢のレーン酒だけでも味わっていただきたい」


 オムソー王がそう言うと壁の方にいたメイドたちが俺たちに白ワインのような飲み物の入ったグラスを持ってきた。


 「両国の繁栄と」


 「……民の平和に」


 るるセンパイの言葉にオムソー王は嬉しそうに笑うとグラスに口をつけた。俺も恐る恐る飲んでみたが思ったより濃くない。爽やかな果実の匂いが鼻に抜け、まさに高級な飲み物という感じがする。おかげで少しリラックスできた。


 「美しいレディになられましたな、いや、王の器に相応しくおなりだ」


 「か弱くてはリラバティでは生きておられませんので」


 (二人は……いや、オムソー王はルルリアーノ姫と面識があるのか)


 不思議な話ではなかった。そう遠くない隣国であれば何度か会ったことはあるだろう。るるセンパイの皮肉にオムソー王は苦笑しながら酒を飲み干した。


 「失敬。ここは私の負けという事で……早速始めましょうか」


 テステッサの合図で大きな地図が卓上に広げられる。右端にリド国、左端にリラバティ。その二つを繋ぐ街道から少し北、中央より右側に×印が描かれている。


 「ここが目下ドラゴレッグの前線基地とされている位置だ。何度か襲撃を撃退しているので総数は不明だが、おそらく兵数は百から百五十。空飛ぶカゴも10以上あるようだ」


 「大部隊……ですね」


 昨夜テステッサからも聞いていたが、何度聞いても軽く“討伐”と言える数ではない気がする。ちょっとした戦争だ。


 「我々リラバティの騎士は13名、それに姫様、レンタロー殿を入れて15」


 「こちらからは20の騎士と40余名の民兵を出すが……うまくやらねば勝ちは拾えぬだろうな」


 一度しか戦っていないが、ドラゴレッグの戦闘力は脅威だ。騎士でも一対一で戦うのが限界だろう。暗い雰囲気が場を包んだ。俺は胃にストレスがかかるのを感じながら地図の一点、前線基地の少し後ろを指す。


 「今回の作戦の鍵は、この飛行カゴを作っている施設の破壊にあると思います。これさえ叩けばしばらくは奴らの空からの攻撃は抑えられるはずです。その後は後退しつつ敵戦力を漸減させながら戦えば被害が抑えられる……かと」


 昨夜寝ずに考えた作戦を提案しては見るが自信も無いので後半は小声になってしまう。が、ツェリバやテステッサは少し考えてから俺の作戦に協調してくれた。


 「この戦力比ではレンタロー殿の作戦が妥当かと思われます陛下」


 「問題はこの施設をどう破壊するかと言う事ですが……」


 俺たちが言葉に詰まると、オムソー王が、ふむ、と呟いた。


 「テステッサ、先々代が戦に使ったという砲はまだ使えるのか?」


 「は、しかし砲弾に関しては残り10ほどしかありません」


 「砲……大砲ですか?」


 センパイの問いにテステッサが頷いた。


 「過去に地球の技術を交えて試作したと言われる長距離攻撃用の魔鉱砲弾です。製造費用があまりにもかさんだ為に1門しか作られませんでしたが、海戦で多大な戦果を発揮したとの伝え聞いております」


 「今回の戦には使えそうか?」


 オムソー王の問いにテステッサはビシッと身体の向きを変え正対した。


 「砲に簡易な車輪をつけ現地に運搬する事は可能です。適切な砲撃位置を得られれば工場を破壊することは可能だと思われます」


 「どう?漣太郎くん」


 センパイが俺に水を向けた。俺だって大砲を使った経験も知識も無い。しかしそれはテステッサ達深緑騎士団の面々も同じようだ。


 「射程はどのくらいかわかりますか?」


 「記録によると……」


 それから全員であーだこーだ言いながら地図上で砲撃できそうな位置を探す。三十分以上かけてなんとか二つほど、敵に気づかれずに大砲を設置できそうな丘を割り出すことが出来た。


 「実際に試射をしてみたいですね、一発だけでも」


 「それは必要だろう。長らく放置していたからちゃんと動くかも確かめたい。今からでも手配しよう……テステッサ、今から鍛冶職人に追加の砲弾を作らせることはできるか?」


 オムソー王がシャツの襟を開けながら指示をする。だいぶ頭の回転もいいし視野も広いようだ。流石王様。


 「確認してまいります」


 「それでは、この砲撃作戦を主軸に騎士団の配置を組み立てますか」


 「それもいいが、そろそろ食事にしよう。大事な戦の前に餓死者が出ては困る」


 王様には真面目な局面でもジョークを飛ばせる余裕も必要らしい。




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