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深緑の騎士


 馬車に乗せた大量の道具を見て、流石のるるセンパイも飽きれた声を出した。


 「なんでこんなに買い込んでるの」


 「いや、どうにもこっちの旅事情がわからなくて」


 「ドラ○エだって最初はやくそう2個位でしょ」


 「あんな強そうな連中と一緒にされても……」


 リーリィにホットケーキをごちそうになった翌日の午後には姫様率いる第一装甲騎士団と弓兵隊が出発する事になった。総勢30余名の大人数だ。


 強攻馬車の中には俺とるるセンパイのみ。パレィーア高司祭はさすがに教会のお仕事上長期行軍に参加することが出来ないらしく同行せず。不安である。かわりにリド公国から従軍司祭が何人か出るらしいがいずれも死者を甦らせるほどの奇跡を施せるほどではないらしい。とても不安である。


 まぁ竜そのものと戦うわけでは無さそうだし、これだけいれば俺が前線に立つこともないだろうと自分をごまかして出発する事になる。るるセンパイは公務や軍の編成で疲れているらしく、「しばらく横になるね」と言うとガタガタ揺れる馬車の中ですぐに眠ってしまった。逞しい。そして寝顔が可愛い。


 一方俺は昨日寝る前に思いついた案を簡単な図面にまとめる事にした。馬車の振動でまっすぐな線は引けないが大体のラフが書ければいい。あとは“材料”が今回の討伐でいくつ手に入るか。


 異世界ファンタジーと言うのはもっとのんびりなスローライフだと思っていたが毎日毎日忙しいし命の危機もあるし結構ハードだ。出来るだけ早く安泰な学生生活に戻りたい。









 三回の野営をこなし、国境とリド公国のちょうど真ん中にあるという村にさしかかる所までやってきた。特にドラゴレッグや魔物の襲撃もなくやってこれたのだが。


 「北側前方、農作地に襲撃の模様!」


 先行の騎馬隊からの伝令に部隊がざわめきだす。俺も馬車から身を乗り出し町で買った双眼鏡を手に取った。


 「煙が上がってる……あの飛行カゴもいます!」


 「貸して」


 るるセンパイがさらに俺の背中にかぶさるように乗っかった。センパイの体重と胸の柔らかい感触に動きが止まる。


 「いるわね。二、三……五機はいるわ。もっといるかも」


 素早く伝令兵を呼んで騎馬隊を差し向ける指示をすると、センパイは『竜纏鎧』の入っているでかい化粧箱を開く。


 「着替えるから御者席に行ってて!」


 「らじゃーです」


 さすがに生着替えは見せてもらえないようだ。涙を飲んで前の扉から御者席に移る。御者のじいさんに農作地の少し手前につけるよう言ってから、ガンベルトを巻き愛銃に弾丸を込めた。


 今回は討伐作戦という事で工房で弾丸を100発近く作ってもらったが、調子に乗ってバラまいてたらすぐ無くなってしまうだろう。残弾の管理も気を付けなければ。


 先行した騎馬隊、そして弓兵隊が戦闘を開始した。思わぬ大規模部隊にドラゴレッグも怯んでいるが数的にはほぼ同数だ。油断はできない。


 「弓隊構え、撃てぇーい!」


 隊長の指揮のもと飛行カゴに弓兵が射掛けるが、翼に穴は開けられても墜落には至らない。先端にある浮遊鉱石を切り離すか破壊しなければ。できれば壊されたくはないが。


 「行くわ、漣太郎くんは援護射撃!」


 「はい!」


 『竜纏鎧』に着替えたセンパイが颯爽と飛び出してゆく。あの露出しまくりのカッコは何度見ても刺激的だ。なんでこんな命がけの戦闘中にしか見れないのだろうか。


 俺は運命を呪いながら馬車の屋根に乗り銃を構える。こうすればドラゴレッグから切りかかられる危険を防げる。


 「うぉりゃー」


 早速るるセンパイがカゴを一つ落とした。騎士や兵士達の士気も一気に上がる。これに乗じて押し込んでしまいたい。


 「!」


 ガァン!


 けたたましい音を上げてロプノールが火を吹く。狙い通り弾丸は弓兵に襲い掛かろうとしていたドラゴレッグの脚に命中した。俺はベルトから弾丸を抜きながら排莢レバーを押し込む。


 カシャッ、と音を立てて銃身の上側カバーが開き空の薬莢が排出された。温まり始めた銃身の中に弾丸を詰め込みカバーを閉じる。


 (便利な所と不便な所がある……貰いものだから仕方ないけど)


 威力はあるし狙い通り弾丸が飛ぶ。そして排莢や装填が楽なのは○。だけど一発ごとの装填にすぐ加熱する銃身はいただけない。このまま量産しても……って感じがする。


 ふっ、と辺りが暗くなる。上を見れば飛行カゴから身を乗り出すドラゴレッグと目が合った。その爬虫類特有の目には殺意などの感情は見られないが手に持っているクロスボウにはしっかりと太い矢がセットされている。


 「うぉああああっ!?」


 慌てて飛びのいた所、板張りの屋根に矢が深々と突き刺さる。下手に食らえば即死する威力だ。パレィーア高司祭がいない時に臨死体験するのはマズい。いやいてもしたくないが。


 「くそったれ!」


 動きの鈍い飛行カゴの先端、水色に光る飛行鉱石の付け根を狙う。発射した弾丸はキィンと音を立てて鉱石をカゴから切り離した。すると、予想通り三匹のドラゴレッグを乗せたカゴが浮力を失いまっすぐ落下する。


 がしゃんと墜落しバラバラになった飛行カゴから出てきたドラゴレッグ達は敢え無く騎士達に斬り払われた。


 「やっぱり、あの石で飛んでるみたいね」


 俺の隣に着地しながらるるセンパイ。飛行カゴをほぼ一人で面倒見ているせいか呼吸が荒い。


 「大丈夫ですか?」


 「あとちょっとだからね、これ飲ませて」


 俺の腰にあった水袋を取って先輩はごっくごっくと一気に飲み干した。


 「よし、回復!じゃあ行ってきまーす」


 袋を俺の手に置いてぴょーんと飛んでいくセンパイのお尻を見送る。水が少しでも残っていれば関節キス出来るのに、見事なまでに中身はカラだ。俺は袋を投げ捨てた。


 (そんな事言ってる場合でも無いけど)


 敵はまだ残っている。と、街道の方から馬の蹄の音が聞こえてきた。土煙と共に現れたのは深緑の鎧に身を包んだ騎士団だった。リラバティ王国の軍ではない。


 「リド公国の援軍だ!」


 馬車の中に避難していた御者のじいさんが叫んだ。数は10名ほど、全員長いランスを携えていて、いかにも強そうだ。これなら勝てるだろう。


 「ん?」


 空を見るとセンパイの攻撃から逃れた飛行カゴの最後の一台がその騎士団の方へ向かっていた。中のドラゴレッグ達は火のついた樽のようなものを持ち上げている。爆弾でもぶつけようと言うのか。


 (ギリギリ射程内……ままよ!)


 慌てて弾をリロードし、ロプノールを構える。ここからじゃ小さい飛行鉱石を狙うのは無理だ。抱えている樽に銃を向け、トリガーを引く! 


 ドォォォン!


 「うぉわあああっ!」


 「なんだ!?」


 思いの外、巨大な爆発音が響き渡った。火だるまになった飛行カゴとドラゴレッグ(樽の中身は油だったようだ)が畑に墜落する。増援の騎士たちも一瞬唖然としていたが、隊長らしき先頭の騎士の号令で残りのドラゴレッグに突撃を開始した。


 戦闘の練度もリラバティの騎士団と遜色ない。向こうもエースの騎士たちを寄越してくれたということなのだろうか。次々と倒されるドラゴレッグを見ながら、俺もサボってると思われない程度に弾丸をケチりながら援護射撃をした。


 「さっき空飛ぶ乗り物を墜としてくれたのは、貴公か?」


 馬車の下から声を掛けられた。見ると先ほど指揮をしていた公国の騎士が馬で近づいてきていた。驚きつつもそうだと頷くと、兜の面を開け軽く返礼された。兜の奥には美しい金髪と透き通った碧眼が見える。


 「兵士ではないようだが、いい腕だ。騎士団を預かる者として礼を言う。事が収まり次第、後程!」


 若い声だ。澄んだ感じで気品がある。挨拶を交わす間もなくその騎士は馬の腹を蹴りランスを構え突撃していってしまった。


 ともあれ、この戦闘はこれで収束しそうだった。


  





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