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カメあなどるべからず


 ギャァァァァス!


 大怪獣現る。飛ばないガ○ラと言うかデカい陸ガメと言うか。そもそもまともにガ○ラを観た事はないんだけど。ともかく大きさだけならこの前のレガシーワイバーンよりも大きいかもしれない。大きめの丘がそのまま動いているようだ。


 ドスン!と一本の脚が地につく度に俺達を含め兵士全員がぴょこっと宙に浮きそうになる。それだけならある意味ファンシーな映像だったが。


 「なんですかアレ!」


 「ヴェロータートルね。基本的におとなしいモンスターなんだけど……」


 そのおとなしい亀がグワッと首を上げた。何だ?と思う間もなくるるセンパイが俺を引き寄せ、次の瞬間には二人で空中を飛んでいた。


 「うぉわあああああああああ!」


 「舌噛むわよ!」


 下を見るとちょうど俺たちがいた辺りが紫色の液体がぶちまけられていた。高熱なのか酸なのかわからないがたくさん生えていた雑草が全部溶けてしまい地面がむき出しになっている。


 「時々ドラゴレッグに連れられて町や畑で大暴れするの。人間よりは見た目が似てるから仲がいいのね、きっと」


 (そういう問題かなぁ)


 亀は続けて周りの兵士たちにも液体を吐きまくっていた。そんなに早くない攻撃だから良く見ていれば避けられるが直撃すれば鎧も溶かされてしまうだろう。


 「硬いからあんまり相手したくないんだど、仕方ない」


 嫌そうにボヤきながらセンパイは少し離れた所に俺を降ろしてくれた。


 「ヨダレに気を付けてね!」


 ヨダレなの?、という俺のツッコミは聞かず、センパイはまた飛ぶ。必殺の『竜槍術』。しかしその槍先は頑強な甲羅に弾かれてしまった。


 「かたぁ!」


 二度、三度と攻撃を仕掛けるも、かわらず弾かれてしまう。あの甲羅はドラゴンの鱗より丈夫なのか。


 そうしている間にもヴェロータートルとやらがあたりにヨダレ攻撃を続けている。青々とした草原が無残に禿げどんどんと荒れ地に塗り替えられていた。不幸にもヨダレ攻撃を食らって鎧がドロドロになった騎士もいる。


 銃で攻撃してもいいのだが、ワイバーンの時のように相手の気を引いても『竜槍術』が通用しないのでは意味が無い。弱点が無いか俺は一生懸命観察した。


 (首を狙えば……!)


 亀の首部分には背中と違って装甲が無い。胴体と比べれば細く狙いにくいかもしれないが、脳天や脊髄のド真ん中に当たれば一撃で倒せるかもしれない。


 「センパイ!」


 自分の首のあたりを指差すジェスチャーを送る。るるセンパイは少し迷いつつも掛け声と共に跳躍した。


 ビュウゥゥゥゥ!と風を切り空から必殺の一撃を首に向ける!


 が。


 命中する直前、シュッ!とその長い首が甲羅の中に逃げ込みセンパイの攻撃は外れてしまったのだ。瞬き一瞬ほどの間の事だった。攻撃を避けられたるるセンパイが苦い顔をしながらぴょんぴょんとこっちに飛んでくる。


 「実は前も戦ったことあるんだけど、どうにもあの首引っ込めがやっかいで」


 「センパイの攻撃を避けるなんてすごい速さですね……じゃあやっぱり甲羅を破壊しないとダメですか?」


 「甲羅の下は薄い皮と内臓だからね。甲羅が壊せれば兵士たちの鎧の素材にもなるし……」


 体力にまだ余裕のある兵士たちがヴェロータートルの四本の脚に群がって剣や斧を叩きつけてるが、そちらも鱗が固く文字通り刃が立たない。反対に太い尻尾でぺしぺしと薙ぎ払われていた。


 俺はガンベルトに残っている弾頭を素早く確認した。装填している一発を抜いて、あと六発。


 「……センパイ、俺を掴んでもう一回飛んでください」


 「何か策があるの?」


 「通じるかわかりませんが……」


 イマイチ自信の無い顔をしていると、亀がまたこちらに向かって口を開けた。吐きかけられるヨダレが届く前に俺は首根っこを掴まれて再び空まで運ばれる。


 「信じたからね!」


 上の方で俺を引っ張っているセンパイの声がした。俺は頷いてガンベルトの弾薬を全部出して、ヴェロータートルの甲羅を睨む。


 (これだけあれば!)


 散らばらない様にできるだけまとめて投げつけた。目標はセンパイが攻撃していた中央部分。わずかだがヒビが入っている。


 そこに弾頭が落下する直前、俺はロプノールを構えてトリガーを引いた。甲羅の上で弾頭同士が衝突し、六つの弾が連鎖爆発する!


 「やるじゃん!」


 センパイが喝采を上げながら俺を地面に下ろしてくれた。甲羅の頂点部にはほんのわずか、指三本分くらいの穴が開いたようだ。


 「すいません、ちっちゃな穴しか開けられませんでした」


 「大丈夫、アイツの動きは速くないわ。一発でキメてやる!」


 真剣な顔つきになったるるセンパイが、地面を蹴った。脚の鎧から噴出される『竜気』(ジェット噴射のようなもの)に乗って一気に高空へ舞い上がる。


 「『光条の礫』よ!」


 レガシーワイバーンにも使ったあの閃光を放つ技だ。念には念を入れて視界を塞ぐらしい。連続で炸裂する激しい光に大亀が苦悶の鳴き声を上げる。


 「ぅおりゃぁぁぁぁああああああっ!!」


 気合一閃!センパイの槍があの狭い穴に見事に突き刺さった。暴れるヴェロータートルの甲羅に着地したセンパイは渾身の力でさらに穂先を埋め込んでいく。


 「姫様!」「姫様、頑張って下さい!」


 兵士たちが大声で応援を送る中、口からドボドボと毒ヨダレを流しながら暴れる巨大亀の動きがだんだんと鈍くなり……やがてその動きを止めた。


 湧き上がる歓声。俺はセンパイを出迎える為に駈け出した、がそれがこの日唯一の過ちであった。


 「漣太郎くん、下がって!」


 「え?」


 生気を失いバランスを崩した亀の巨体がゆっくりと傾いてきた。ひっくり返った亀はそのまま甲羅で丘の上から滑り落ちてくる。ちょうど駆け寄っていた俺は避ける間もなく亀の甲羅の下じきになってしまった。


 







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