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神様、そりゃあないでしょう!

俺がまともに異世界トリップを書こうとするとこうなるという例。続かないです。

「起きよ、足柄和彦(あしがらかずひこ)。目覚めの時ぞ」

 何処とも知れぬ空間。惰眠を貪る男の耳元に不意に声が聞こえた。おごそかで、それでいて女性らしさを感じる声。だが足柄は目覚めなかった。彼はなおも惰眠を貪る腹積もりであった。彼の暮らしは極めて暗いものだった。金も友人も無く、ただ日銭を稼いで寝るだけの生活。唯一の趣味がインターネット。どこまでも底辺を歩んだその男は、もはやただ日々を生きるのみの生物となっていた。


「……起こせ」

 言葉少なにおごそかな声が続いた。するとどこからか執事服の男が現れ、足柄の腹を無言で蹴飛ばした。

「っごおおおお!?」

 のたうち回る足柄の首根っこを掴み、強引に引き起こす。そして気付けにもう一発。

「ほげえっ! な、なにをするんだ……!」

 状況も分からずに二発も暴行を受けた足柄だが、それで目が覚めたのか、悶絶しつつも執事服を睨み付ける。だが執事服はそれを意に介さずに虚空に問う。

「本当にこんな奴で大丈夫なのでしょうか? かなり不安と言いますか、それを通り越してますが」

 なおも睨み続ける足柄だったが、その装いたるや惨状であった。古びた無地のスウェット、ボサボサの黒髪。仕事だけは続けていたせいかそこそこの筋肉こそ維持されているものの、攻撃への反応からしてさして戦闘経験がある訳でもないようだ。


「だって仕方ないじゃない! なけなしの信仰はたいてようやく呼び出したんだもん」

 返ってきた声からは先程までのおごそかさが消え失せていた。続いて質素なドレスを着た少女が現れる。長い金髪。控えめな露出ながらもはっきりと主張されたバストとヒップ。その金の髪をかきあげ、執事服を睨む。

「むしろもっとはっきりしてからでも良かったのでは?」

「いや、それだと手遅れになるのやだし。どうせ妾の信仰なんてもう溜まるアテないもん」

「と、言われましてもねえ……。これ、相当マズイ方ですよ? そもそも信仰あらかた吐き出してるんですよね。加護はどうするんですか?」

「あ、あのー? 当人置いといて盛り上がらないで下さいよ。 ここはどこ? 貴方達は誰? いや、むしろなにこれ。俺明日も仕事だし早く帰して欲しいんですけど」

 置いてけぼりの状況に耐えかねたのか、ついに足柄が疑問を投げた。二人が彼に目を合わせる。そして。

「あ、状況説明忘れてた」

「もうちょっと計画を立てて下さい。お願いします」

 もう色々と取り返しがつかなかった。



「……。という訳でお願いだ。神である妾、ヒュームが君を選んで召喚しちゃったので世界を助けて欲しい」

「嫌です」

 即答である。

「なぜだ?」

「いや、だって仕事もあるし。なによりそこの執事が気に食わないし。そもそも俺、なんの力もないし」

「さりげなく私、オズワルドまで否定されましたね」

「そりゃあいきなり二発も暴力されたらですねぇ?」

 執事であるオズワルドが頭を掻いた。そして物騒な言葉を吐きつつナイフを取り出し、己の主に問う。

「この不遜な男を永遠に黙らせますか? 神の恩寵も悪の息吹も届かぬ場所に、一人永久に押し込めますか?」

「やめろ。いや、やめて下さい。お願いします。オズのそういう発言する時の顔、妾は怖くて漏らしそうなのです!」

「あ、はい……」

 神様、平身低頭の上に恥ずかし過ぎるカミングアウトである。ついでに執事のニックネームも判明した。そして執事もドン引きしつつもそれに従う。


「……。まあ言いたいことは分かりますよ? 取り敢えずヒュームさんとやらは古い神過ぎて神様パワーが少ないのに、世界が危険な兆候を掴んじゃって慌てて召喚しちゃった、と」

「はい」

 足柄は呆れ果ててつつ、事態を自分なりの言葉に置き換えて飲み込もうとする。もっとも、このコンビにペースを合わせているといつまでも話が進まないという気配を察知したからでもあるが。そしてそれにあっさり応じる神も神である。

「で、多分アレですよね? チュートリアルで此処へ呼び出したのはいいけど、神様パワーの配分を間違えてチートが出来ない」

「失敬な! 言葉が通じる程度の加護ぐらい残してあるわ!」

「そりゃそのくらいはないとせっかくの呼び出しが野垂れ死にでパアになりますからね」

「オズ、いちいち突っ込まなくていいのからね?」

 どう足掻いてもいちいち漫才を挟まないと話が進まないようだ。とうとう足柄はさじを投げ、成り行きに任せることにした。が。


「まあ……多分ヒューム様も分かっているとは思いますが、いずれにしてもその辺のモンスターに負けて死にますね。このままでは」

「オイ、こんな所で死ねるか。さっさと帰せやっぱり。あ、言葉が悪くなってしまいました」

 やっぱり任せられない、と彼は痛感した。

「あ、ごめん。言い忘れてたけど、神様パワー足りてないから。君帰れないし帰せない」

「……。オズワルドさんとやら。この神様殴りたいんですけど」

 野垂れ死に。元の世界にすぐには帰れない。足柄はこの二つのワードで完全にキレた。右の拳がワナワナと震え、冷たい目でヒュームを睨みつける。

「ヒィッ……! オ、オオ、オズ! 妾を助けてくれぇ!」

 怯え切り、助けを求めるヒューム。オズワルドはやむを得ず気だるそうに動いた。音もなく足柄の後ろに回り、そして一声。

「一応、神様にして我が主なのでな……。すまぬが、それは認めない」

 足柄が首の根元に衝撃を感じた後、彼の意識は途絶えた。

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