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≪30≫出立、別れの涙と国道2号線への巻

 その後、俺は何の問題もなく男爵位を双頭の鷹の会から授かり、緊張しながらも俺の一張羅に取り付けられたソレ(バッジ)は、今も胸元で太陽光で黄金に輝ている。それは俺にとっては名誉なことなのだろうが、面白みのかけらもなかった。


「似合ってるじゃない」


 メルラが俺の服のゆがみを整えてくれる。そう、もう出発の時だった。

 メルラは旅装を整えて馬に乗る、俺とエリザ、そして気前のいいオーロラを送りに来たのだ。


「私が居ても足手まといになるだけだから」


 実際の所、彼女の家事スキルをはじめとする女性らしいまたは民らしい働きは、目の前の二人に臨むべくもないと、俺もわかってはいた。

 しかし、これから向かう場所はいわば敵地である。彼女を人質にされるリスクなどを考えると、お世辞でもそんな事は無いとは言えなかったのだ。

 そう、彼女は今回の遠征に参加しない。その代りと言っては何だが、今回はオーロラがパーティー入りした。彼女の役割は、俺が雇った傭兵。アルフレッド伯の計らいで、金を掴ませて沈黙させられるか、私兵となるかの所を、俺が買い付けた。彼女は俺の変身を見ている為、俺は彼女を市井に流すつもりはなかった。


「じゃあ言ってくる。もし何か用事が有ったら、アルフレッド伯爵を頼ってくれ。もし俺たちに何かあっても、当分暮らせるだけの金銭は残してあるからさ」


 俺がそう言うと、メルラの目じりが赤くなる。


「馬鹿。あれだけ刺されても死なないのに、これ以上あなたに何かあるわけないじゃない。……早く帰ってきてね」

「もちろん。出来るだけ早く帰ってくるさ。……王女様を連れてね」


 俺がそう言うと、メルラは俺の頬にキスをする。社交辞令・挨拶の類であっても、日本にその様な文化はない為、俺はもれなく赤面。

 俺はその赤くなった顔を見られない様に、急いで踵を返すと、馬にまたがってさっさと行こうとする。この数日間は馬に乗る練習しかしていなかったが、やっと今になって何とか馬が言う事を聞くようになったのが幸いだ。


(ハルキ、貴方アホずら晒してると落馬するよ?)

(ウ……自転車より難しい乗り物なんて乗った事なかったんだよ。馬なんてモンスターにいきなり乗れるわけないだろ)


 マリア―ジュが、ここ数日の俺のみじめな馬との格闘をあざ笑う。

 

「あ~あ。お熱いことで~。あんたら新婚さん?道理で私の付け入るすきがない訳だ」


 何とか進み始めた俺の馬に並走するようにして、さっそくオーロラが茶化しに来る。


「彼女は俺の家族みたいなものさ。まだそういう関係じゃない」

「おい、今まだと言ったか!?」


 俺がなんとなくでオーロラの言葉は避けようとすると、別の虎の尾を踏んだらしい。


「いや、それは違う。言葉のアヤだ」

「ホントに~?メルラにエリザ、私。それに王女様に召使。あとは酒場のねーちゃんとか?聞いたところによると会った女会った女口説きまくってるんじゃない~?」


 そう言うと、オーロラは鎧の隙間から見える彼女の谷間を、わざとらしく広げて見せる。

 どうやら俺が動揺し、混乱しながらも欲情する様を面白がっているらしい。


「止めろ。ハルキが見とれて落馬したらどうする?」

「大丈夫じゃない。馬に踏まれてばらばらになっても、次の瞬間にはハイ元通りなんでしょ」


 そう、確かにそうだと俺はうなずくが、それでも痛いものは痛いし、魔力も無限にはない。今回の事で俺はそれを思い知らされている。俺は無敵ではないのだ。


「分かったから二人ともそんなにくっつかないでくれ。馬の顔が近いと怖い」

「なに~?猫の分際でお馬様を侮辱するのか~?」


 そういってオーロラは馬の頭をいとおしそうに撫でた。


「しかもこのお馬様。アルフレッド伯の貸ものだから、超が付くほど高級馬。春樹もこれで馬に慣れて、傭兵の小間使いが使うような馬に乗ったら、痛い目に合うよ?」

「たしかに。この馬はいい馬だな。祖国で乗っていた軍馬には劣るが、それでも新米貴族、男爵が乗るにしては立派過ぎる」


 俺はそういわれて、もう一度馬を見た。

 なるほど。確かに馬にしては凛々しい顔つき。訓練中借り受けた馬もそうだったが遠い昔の記憶、牧場で両親とピクニックに行ったとき見た馬とは、筋肉の付き方も表情もまったく違った。


(そういえば、父さんと母さんは元気でやってるだろうか……?)


 俺はそうしみじみと思う。この世界に来てから時間がたったが、最初のメンシアの部屋でうろたえて以来、両親の事を思い出す暇もなかった。


「どうしたハルキ?浮かない顔して?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと久しぶりに両親の事を思い出したんだよ」

「ふーん。春樹の両親は、猫?それとも人間?」


 オーロラはあえて雰囲気が暗くならないようにと、俺にそんな質問をする。きっと彼女の生きてきた傭兵業界では、その手の話は禁句なのだろう。


「勿論人間だ。マリア―ジュに助けてもらってから、こっちへ来る過程で猫になったんだ。それまでは、オーロラと初めて会った時の姿と変わらないよ」

「そうなんだ。呪いを受けた王子様みたいなおとぎ話の世界の住人なのね」

「それではオーロラと私は、さしずめ彼を守る騎士という所か」


 彼女たちが騎士で、俺を守っていてはおとぎ話にはならない。守られるのは姫で、姫を単身助けに行く側が王子でなくてはいけないのだ。

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