≪27≫宴会、故郷の味は味噌の巻
「いや~待たせたね。我々の会議は時間がかからない事で有名なんだが、今回は新メンバーの登場に国家機密の買い付けと、話題に尽きないものだから」
あれからちょうど1時間後、アルフレッドはそう言いながら、何人もの召使を連れて部屋にやってくる。
(遅い!!)
マリア―ジュが俺の中で吠える。
「さて、今から待ちに待った夜会としましょう。私はこれで“春貴君”を驚かせたくてね」
アルフレッド伯は、俺の名前を日本語的な語調で呼ぶ。その顔は先程見せたような商人お顔ではなく、悪戯好きの餓鬼其の物。
彼の合図によって召使たちは、料理の入った皿を次々と持ってくる。
もちろんすべての料理は蓋をされ、中身を見ることはできない。
「いったいこれはどういった趣向ですか?」
「いや、な~に。私の心ばかりのもてなしですよ。春貴君が最も食べたいものだ」
俺の食べたいもの。少なくともこの不思議な男に俺の好みなどわかるはずもなく。
「さーさー。遠慮せずにふたを開けてみたまえ」
「はあ、じゃあこれを……」
俺は一番手前にある銀色の蓋を開ける。
「これは!?」
俺の目の前にあるモノ。それはコメの塊。ライスボール。またの名を、おにぎり。おむすび……
「なんでおにぎりがこんな所に!?」
「さて何故でしょうね。当ててみてごらんなさいな」
俺はこの男を殴りたくなったが、仮にも彼は貴族で商売相手、そして現状考えうる最大の後ろ盾。一つ深呼吸をしてから、俺は適当に考えを述べる。
「貴方は俺の考えが読めるのか、それとも貴方は俺と同じ世界の出身かですか?」
「両方ハズレだが、後者は近い。この料理は、私の祖先が考案したものだ」
祖先。要は彼の先祖は日本人なのだ。この世界にやってきた地球人は、俺だけではなかったのだ。
(どういうことだマリア―ジュ?)
(し~らない。世界の狭間に落ちて、別の世界に行っちゃうことって、ない話でもないのよね~)
このコピーのマリア―ジュに聞いてもどうしようもないだろう。例によって重要な知識やチート能力は封印されているのだ。
「エリザ嬢もメルラも、遠慮せずに食べなさい。これは我が祖先がこの国で生涯に亘って無駄金を使いまくった、まさにその結晶であり、春貴君の故郷の味に限りなく近い料理だ」
アルフレッド伯が再び合図をすると、召使が一斉に料理の蓋を開ける。
「味噌汁。魚の煮つけ。天ぷら。刺身。勢ぞろいだ……」
「これが春貴の国の食べ物か。生魚を食うということは、漁民だったのか?」
「島国だったんだよ。この魚はこの黒いタレにつけて食べるんだ」
「生魚ってこんなに美味しいのね……」
俺は醤油らしきソースに刺身をつけ、山葵らしき香辛料を乗せて口に運ぶ。実際美味かった。しかしこの鮪らしき魚はきっと何か別の魚なのだろう。
「刺身から食べるということは、君の名付け親が変人だったというわけではないのだね。漁民以外はまず生魚を食わないのだから。君は本当に日本帝国、明治の世から来たのか……」
「日本帝国?明治?」
どうやら彼の先祖は明治時代の人物らしい。そのことについて別に驚きはなかったが、俺はどう説明したものか迷った。こればっかりはメルラやエリザに聞くわけにもいかない。
「……アルフレッド伯、日本帝国は二度の世界大戦で滅びました。今は同じ場所に同じ国が、日本という名で残っています。私はそこの人間です」
「因みに西暦何年の何年どしから来たのだね?」
「西暦……2014年の午年からです」
「そうか、やはり私の仮説は間違っていなかった。ああ君の国の話など後で聞かせてもらおう!それより今は宴だ!!一族の悲願だ!!」
俺のその答えにアルフレッド伯はその青白い肌に赤みがさすほど喜んだ。ほとんど感嘆、絶叫と言ってもいい声で、エリザとメルラが見慣れない箸に首をかしげるのをやめるくらいに。
「すっばらしい!!最高だ!!ご先祖様は気が狂った変人ではなかったんだ!春樹君、君はとても素晴らしい存在だ!必ずやこの国を救う英雄となるだろう!!きっとそうに違いない!!よし、今日は酒を飲もう!葉巻も吸うぞ!!」
「ちょっと持ってください!」
次の瞬間には俺の手に高純度の日本酒モドキが手渡され、乾杯。
誰よりもハイテンションで、アルフレッド伯は夜通し飲み続けた……




