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≪25≫休養、拳の一撃は許しの証、てめえは漢か!?の巻

 それから3日後の夕方まで、俺が目覚めることはなかった。限界まで酷使した体力や魔力やら、そういった限界値の決まったステータス達は、1から100に戻すのは簡単でも、0から1になるのが難しいらしいらしく、俺はいまだ変身ができない。


「イチチ、まったく体が動かねえ」


 俺は以前猫の姿のまま。マリア―ジュの秘薬であっても、この状況での連続使用はお勧めしないと言われ、仕方なくも気長に自然治癒を待たねばならない。

 この闇市の傘下にある表通りの高給宿屋最上階(サンカイ)。純白シーツに暖かい日差し、牛乳のスープ(猫用減塩仕様)の白一色の生活は、俺の体力を徐々に回復させるのだろうか。


「まだ寝ていてください。もう二・三日は絶対安静だと、お医者様も言ってたでしょ?」


 メルラは俺についっきりで看病してくれる。純白の衣服に包まれた彼女は、まさに白衣の天使だった。いや、俺にとって天使のイメージはここに来る前に地に落ちている。白衣の女神が正しい。

 彼女は悩んだ挙句、この国に数少ない獣医を呼んできて俺を手当てさせた。当初は普通の医者を呼んだのだが、この猫の姿を見せたら怒って帰ったという。


「何ニヤニヤしてるの?……やっぱりこの服似合わない?分不相応?」

「いやいや最高。真っ白なワンピースとか凄い好み」

「そう、ならよかった」


 彼女が屈託なく笑うと、心なしか俺の気力が回復する気がする。癒されているのがわかる。今の俺は、愛と勇気だけが友達ではないのだ。成り行きで作ったとしても、仲間は仲間である。


「ウフフ」

「アハハ~」


 メルラが笑うと俺も笑う。猫が笑う姿は本当に珍しいのだ。普通の猫は人間の女性の真っ白なワンピースを着ているせいで、その姿が太陽に透けてスタイル丸わかりでも、ニヤニヤしないのだ。


「おい、イチャイチャしすぎ。メルラ、ワンピースが太陽で透けてるぞ?」


 俺とメルラの暖かな午後を邪魔するかのように、沢山の本を持ったエリザが、ノックもせずに足でドアを開けて。


「キャ!?もう!!ハルキ気づいてわね!?」

「にゃ~。もうそんな時間か。今日の講義だな」


 メルラはバンパイアのように日の光をよけながら、俺の肉球より柔らかくないその右手で、俺の頬を引っ張りつねる。


「おいおい、怪我人だぞ。それくらいにしておけ」

「でっでも!!私の裸をずっと眺めていたようなものなのよ!?」

「ごめんごめん。悪かった。にゃ~。そういう事で、さっそく講義に入ってくれ」

  

 そう、俺はこの場所で目覚めてからというもの、再びエリザに教えを乞うている。

 内容は様々。時には彼女も知らないような事柄を、二人して勉強するかのように、無論まとも動けるまで毎日だ。

(そして今日は3日目。俺が寝てからだと6日半が過ぎている)


「メルラ、今からはお前の嫌いなお勉強の時間だぞ?逃げなくていいのか?」

「う、嫌いじゃないわよ。勉強は好きよ。特にタダで受けれる所がね」


 そうは言うが、今まで義務教育を受けてきた俺と、彼女との学力差は明確で、生活に根差していなければ、彼女は生活に根差した部分以外はまるで無知だった。

 教養の意味でもお互い文字の壁は厚い。


「その心意気やよし、かな。じゃあ今日は昨日の続きから、この国の貨幣経済の話だ」

「うー、またそれ~」

「お金は大事だ。メルラも俺の従者をするなら頑張って覚えてくれ」


 そういって二人して、やれ金貨がどうだの。銀貨がどうだの。エリザもこの手の類の話は弱かったが、それでもこの世界の文字が読める点では、勉強し放題な分だけ先に進んでゆく。そのための先生キャラだ。


「……ああそう言えば、この後夕食会に招かれてるぞ。ハルキにメルラ、もちろん私も。あとはこの前の女兵士やら何やら。この前の事件に関わった人間すべてが来るらしい。首謀者はもちろん独房だが」


 今日のノルマを終えるころ、ふとエリザがそういう。


「えーッ!?いきなり過ぎるじゃない!!今もう夕方よ?服とかどうするの!?」

「ハルキは猫のままだからいらないだろ?私はこういう場の正装は持っているからな」

「私はどうなんのよ……」


 メルラはそういうと、恐らくは高級な本をエリザに投げつけると、急いで自分お部屋に戻っていった。


「さて、邪魔者はいなくなった」


 エリザはそういって俺を抱き起す。俺はもちろん拒否出来ないし、拒否する理由もなかった。


「ん?夜這いか??でも俺猫だぞ?」

「馬鹿猫。その事じゃない。ボルゾイの事だ」


 (その事……?否、今はそっちが重要ではない。ボルゾイだと!?)

 俺の心臓が高鳴る。きっと彼女にも、この小さな振動が余すところなく届いているだろう。


「……ボルゾイのって何だよ?」

「とぼけるな。お前、仕方なくボルゾイ先生を殺したっていうアレ、嘘だろ」


 俺の心臓が一瞬止まった。なぜ今なのか。


「う、何でそう思うんだ?」

「最初はなんとなくだ。お前としばらく暮らしていて、何となくそう思った。これは女の勘と言ってもいい。あとは、黒衣のなんちゃら騎士団とか言う暗殺者どもが、一通り全部話してくれたよ」

「そうか……暗殺者の割に根性はなかったんだな……」


 俺はエリザの瞳を見る。まっすぐな瞳。真っ赤な瞳。俺はこの状況で殺されるのもやむなしと、覚悟を決めねばならない。しかしまあ、どのみちあの時エリザに助けられたこの命。ここ数日の安穏な日々を考えれば、悔いはあれど諦めもつくというものだ。


「何か言うことはないのか?」


 俺はこれ以降口が開かない。言い訳は無粋だと思った。


「そうか。申し開きはないんだな」

「ああ、諦めてどのような刑にも甘んじるよ。どうしようもない」


 俺は猫の瞳越しに、彼女の燃えるような信念を見た。

 それと同時にゆっくりとやってくる左拳。ああ、まずはパンチか。


「グヘア!!」


 俺の顔には動物虐待パンチが叩き込まれた。グヘア!!


「どうだ?痛いだろう」

「グギギ、歯が取れた・・・・・・」

「ザマアミロっだ!」


 そういってエリザは俺を持ち直すと、ゆっくりとベッドに戻した。


「あれ?もう終わりか?」

「馬鹿者。お前はこの前の一件で嗜虐趣味でもついたのか?あれは私の獲物を奪ったことへのし返しだ。ボルゾイはいつか私が殺すはずだったのに」


 そういってエリザは悔しそうな顔をする。俺は何やら勘違いをしていたようである。


「うーんと、エリザはボルゾイ殺すつもりだったの?魔法の誓約書で忠誠誓わなかった?」

「あんなもの嘘だろう。そんな便利な魔法があれば、きっとボルゾイ本人が国王から誰にまで、放蕩禁止令や子作り禁止令を受けてるはずだぞ?」

「ウ……まあそうか。悪名高かったらしいね」

「お前、私をただの世間知らずの脳味噌筋肉お嬢様だと思っていただろう?」


 そういわれると、俺は彼女から視線を外すしかなかった。


「そっそンなことないよ。にゃ~」

「誤魔化すな。私はお前たちにはそう見えるよう、いつも演技していたんだ。最初にボルゾイに負けて以来、私はあいつをぶち殺す瞬間を今か今かと待っていたんだぞ?お前が奴を殺す少し前、奴と地元領主のいる場所へ向かったとき、やっとのことで攻略法を編み出したというのに。水の泡になったんだ」

「そうなんだ。だからパンチ一発か。それでいいのか?」

「まあ許してやる。父の仇であるあの男を葬れただけで、この際満足することにするよ」


 彼女は俺の口から飛んで行った歯を拾うと、小さな袋にそれを入れた。


「大魔法使いのボルゾイを葬った化け物の歯か。記念にもらっておく」

「うう、痛い。しかも体の一部を記念に剥ぎ取られた……なんて女だ」


 何やら知らないが、エリザはそれで許してくれたらしい。何となくは逆恨みの気もしないでもないが、それでも美人の仲間は怒っているより笑っている方が百万倍良い。

 

「あ、この血なによ?ハルキ大丈夫?」


 買ったばかりの服を探しまくったであろうメルラは、結局急いでメイド服に着替えてきたらしい。


「ああ、引っかけて傷口が開いたんだ。まあ血はすぐに止まったから大丈夫」

「それよりメルラ、お前はドレスじゃなくて良いのか?豪勢な一張羅買ったよな?」

「今日の晩はお仕事ですから。あの着にくいドレスはまたの機会にします」


 そういって俺が無断でエリザの服を調達し、メルラが改造したメイド服。そのある意味で上品に仕上がったの服を着て、メルラはサービスと言わんばかりにスカートの裾を持って一周回る。


「綺麗綺麗」

「どういたしまして」


 俺が猫手で拍手をすると、メルラは深々とお辞儀する。


「で、いつ出発するの?」

「その事なんだがな。よく考えたら夕食会は明日だったよ。すまんな」

「な……なんですって……?」


 メルラに見えない角度から、ウインクしながらエリザがそういうと、後はキレたメルラが大暴れ。彼女は俺をエリザに投げつけて、テンヤワンヤの大騒ぎである。無論朝まで……

祝、10万字達成。

これからあと少しして、第一部完結させます。

それ以降はMF文庫の賞がひと段落すれば、また書き始めます。

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