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≪24≫助っ人、真っ赤な髪は正義の証の巻

 それから俺は相も変わらず猫のまま、体中に重い鎖を巻きつけられて、巻きずしの様になっていた。そしてこの場所は敵地。それもど真ん中のど真ん中。目の前には俺をとらえて栄転しそうな女兵士をはじめとする、筋肉ダルマ兵士1ダース以上。そして俺の残存魔力ゼロ。体力ゼロ。もはやマリアージュとお話する気力さえなかった。


「さすがに動かんか。この猫が人間だなんて……まったく世の中は不思議だな」

「それもこいつは雇い主様の友人の、伯爵様だか王様だかが作り出したって聞くぜ?」

「……もしこんなもんがそこらに出てきたら、それこそ俺たちはどうやって護衛したり仕留めたりればいいんだ?シャンデリアに化けたこいつを探すために、家じゅうを破壊しまくれというのか!?」


 そういって兵士たちは俺を見てはヒソヒソと。


「俺は無実なんです。何にもしないんで助けてください~」


 俺は文字通り猫なで声でそういうが、兵隊相手には聞かなかった。


「とにかく伯爵に見せよう」

「おい猫、お前これ以上動いたら本当に殺すからな?」

 

 荒くれ兵隊は容赦なく、そのまま俺をボールのように蹴り転がしながら、大広間へと向かう。実際痛いのだが……


「全員止れ!」


 大広間の大きな扉を開けたとたん、暗闇から声がする。兵隊たちは手に持った明かりを周囲に向けるが、生物の気配はない。


「その猫に関しては御心配は無用。コレは特別なものです。あなた方はこれを二度と目にすることはないでしょう」

「いかにも。そして命が惜しければこれ以上の詮索やご相談は止めろ」

「誰だ!!」

  

兵隊たちの怯えるさまを楽しむように、聞こえてくる声とは全く別の方向から、彼らの背後にあるカーテンの影が揺れて、俺を最初に捕まえた黒ローブ達が現れる。 その数、1・2・3・いっぱい。少なくともここの兵士と同じぐらいはいるだろう。


「おっお前らは!?噂の暗殺騎士団か!!何でエルデルタールの奴らがここに居るんだ!!?」

「馬鹿傭兵風情ガ。我々は聖メントリウス紫彩陰騎士団だ。無礼者」


 そういって黒衣の騎士たちの一人が、その両手に持った長いランスを投擲する。

 黒の槍は一瞬で闇夜に溶け、月明かりとランプの明かりに照らされる頃には、女兵士の横の男の腹に風穴があいていた。


「ギャアアアァ!!」

「やりやがった!!陣を組め!こいつらヤル気だぁ!!!」


 さてさて、俺の関係ない場所で、さっそく殺し合いが始まった。

 黒衣の騎士(メンシアの犬)は全員好き放題に個性的な武器を器用に操って、一般兵士達を倒し、自身の生涯殺人スコアを上げてゆく。


「我らの攻撃は変幻自在ィ!!」

「雑魚の傭兵どもが!」

 自分で言うのはどうか。そう俺は突っ込みを入れたいが、そんな雰囲気ではない。 

 その幻影的な攻撃方法は、俺の猫の動体視力をもってしても追い付かない程で、彼らの武器は皆一様に黒く塗装されているからか、このうす暗がりでは間合いが掴めないのだろう

 その証拠に、俺は目の端でなんとなくあの女兵士を追っていたが、彼女が偶然一人敵を刺殺した以外、いまだ黒衣の騎士達は誰も死んでいないようだ。

 対して彼女たちの部隊の半数は俺を見つけたばっかりに、すでに多数の兵士達が地面とキスをしていた。


「やっぱり奴ら強いぞ!!」

「囲まれた!」

「もう半分ヤラレターッ!!」


 哀れ兵士たち。


「円陣を組め!!」


 彼らは何故か俺を中心に円陣を組むと、盾のあるものは盾を構え、剣のあるモノは刺し違えてでも殺そうと切っ先を目の前の影に向ける。


「もしかして……俺を助けようとしてる?」


 俺は彼女たちの足に奇跡的に踏まれていないことからも、希望が見えてきた。


「ウルサイ疫病神!!お前のせいで部隊が壊滅寸前だ!!」

「あっそう。ん?部隊はもう壊滅してるんじゃない?3割損耗で部隊壊滅じゃなかったか?」


 俺は本心からどうでもよさそうにそう言ってやった。敵同士の戦いに興味などない。当たり前だ。この状況では、どっちが勝とうと俺は絶望しかない。否、女兵士率いるどこかの貴族の傭兵の方が、くみしやすそうではあるが……


「全員動くな。少し待ちたまえ。聖メントリウス紫彩陰騎士団の方々も少し待っていただきたい」


 円陣をにじりじりとにじり寄る黒衣の騎士達の動きが止まる。


「セフィル伯爵!?」


 どうやら、彼はこの女兵士達の雇い主らしい。

 彼女はそのセフィル伯爵に近づこうとしたが、彼を守るように黒衣の騎士たちが構える。彼女たちにしてみれば最悪の状況が一瞬にして出来上がった。孤立無援とはこのことだ。


「すまんね。君たちはそこの猫を見てしまった。仕方がないじゃないか」

「まさか、私たちを口止めする気ですか!?」


 女兵士がそういうと、俺は彼らの足越しに、セフィル伯爵が人の生皮を仮面に張り付けたような、不気味な笑みを浮かべる。


「だから仕方がないのだ。かの国の王族の秘密と、君たちの小さな命。比べるまでもないだろう。まあおとなしく死んでくれたまえ」

「そんな……」

「いやまてよ待てよそこの女兵士。お前だけは助けてやろう。まあ一生私相手の慰安任務になるがね?まあ死ぬよりはいいだろう?」


 ゲスな笑みの意味を知り、女兵士は身震いし、改めて剣を構える。


「そうか。残念だ。ああ、まことに残念だ」


 そういってセフィル伯爵は右手を上げる。それを合図に黒衣の騎士が一斉に弓矢暗器などの遠距離武器を構えた。


「猫には当てるなよ。あれはもう生き返らん。今夜はもうただの喋る猫だ」


 再びピンチ。俺の味方になりそうな可能性が少しでもある方から先に死ぬのは避けたい。ここで俺が少しでも力があれば、覚醒すれば……


(カク!セイ!!)


 ……無理だった。もう今の俺は二度ほど覚醒したオーバートップ人間。この土壇場で更なる躍進など無理無理無理のなんとやら。


「ハナテ!!」


 鋭くとがった物が一斉に射出され、それがまた暗がりに消えてから、兵士たちを襲う。


「ギャアアア!!もう無理だ!!」

「しぬううううう!!!」


 実際に兵士の幾人かは致命傷を受けて倒れる。盾を構えているものもジリ貧。その後の突撃では小回りが利かないために一番のカモなのだから。


「クソ!神はいないのか!!」


 そういって女兵士は空を見上げる。神はいないのだろう。それに万が一いたとして、魔女に負ける位の強さの、緑色の血を流す寄生型の化け物が、彼女の信じる都合の良い神なはずはない。


「この場に神はいない。神とは我が教会におわすのだ」


 黒衣の騎士の一人が、その拷問器具めいた武器を彼女の柔肌に向けて切り付ける。鮮血が飛び散る。

 その、まさに、まさにその瞬間。

 都合の良い神ならぬ、都合の良い短剣が、黒衣の騎士に吸い込まれるように刺さる。細身の見覚えのある形状のその刃物は、俺をただ驚嘆させた。


「なっ何処だ!?」


 彼らもあずかり知らぬ場所。この屋敷の天上を一気に突き抜けて、一人の女騎士が落ちてくる。


「暗殺者ごときがいきがるな!!お前らのやっていることを、お前らの信じる神が認めるというのか!!」


 そういって瓦礫を払いながら立ち上がる人物。赤毛に純白の鎧。そしてクレイモアらしき大ぶりの剣。


「エリザ!!?」


 そう、彼女だ。俺が一度は殺そうかどうかと考えていたというのに、単に利用しようとして接していたというのに、彼女は俺を助けに来た。


「遅くなったな、ハルキ。お前を捕えるような聖エルデルタール寄りの貴族を探すのに手間取った」

「……いや~ギリギリだった……。でもありがとう。まさか来てくれるなんて。エリザの顔を見ることになるとは……」

「フン、まあそういうだろうと思った。メルラが待ってるぞ。さっさと倒すから待っててくれ」


 そういってエリザは剣を構え、女兵士の隣に立つ。


「分け合って助太刀いたす!」

「かたじけない。敵の武器は変幻自在です。間合いに気を付けて」


 女兵士はそういって、徐々ににじり寄ろうとする黒衣の騎士を睨む。


「なるほど、間合いですか。じゃあこうすればどうでしょうか?」


 エリザは自分の大剣を担ぐと、自分が回転の力を乗せて、一気に黒衣の騎士の中心に向けて投げる。あれだ!ボルゾイ戦で見せたクレイモア地雷攻撃だ!!


「爆ぜろ!!」


 クレイモアは爆発し、大量の短剣サイズの刃物が雨のように降り注ぐ。地面は正に剣山。しかし幻影のような動きをする騎士たちは、その攻撃を難なくジャンプで避けきった。死傷者ゼロ。


「甘い!!我らがこのような大雑把な範囲攻撃でやられるわけないわ!!」


 勝ち誇ったような騎士団の声。しかし、すでにエリザの手には、何本もの短剣が握られていた。


「・・・・・・いや、甘いのはお前だ!」


 エリザが抜群の精度でナイフを投擲。当然ジャンプ中に動ける物など、鳥位のもので。彼らは鳥ではない。


「グア!?」


 もれなく短剣の奇襲を受け、体制を崩した黒衣の運の悪い騎士達は、そのまま剣山へ真っ逆さま。


「フフフ、大損害だろ?それだけじゃないぞ。おい、もういいだろ?」


 そのまま後方に飛んで体勢を立て直そうとした残りの騎士たちだが、エリザ達の次なる策に防御法を持っていない。

 彼らは暗殺者、攻撃者。護衛と防御などが得意であるわけがないのだ。


「チェックメイト!」


 その時、エリザの声にこたえるようにして、大広間に反響しながら誰かの声が響いた。

 初老の男性を思わせる、渋い声。その声と共に、大広間に一斉に明かりが灯る。それも淡い蝋燭の光ではない。強烈な蛍光灯を思わせる、目を背けたくなるような光だ。


「なっ!?この光は!!」


 暗殺者たちの黒服は、今やこの場所で一番目立つ存在となり、暗闇に溶け込む怪しい装備品は、今や大道芸や舞台の小道具のような陳腐さの一面を見せる。


「君たちは完全に方位されている。煙玉とかの小細工は使わないように。煙いの嫌いだからね」


 そういってセフィル伯爵と反対側の扉が吹き飛び、中から黒衣の騎士達と同じくらい不気味な守護騎士達が大量に流れ込んでくる。そして、その中心には、見るからに不健康そうだが、付く所にはしっかりとした筋肉の付いた初老の男性が笑っていた。


「貴方は!?アルフレッド伯爵!!?」

「久しぶりだね。セフィル伯爵。君がまさか聖エルデルタールに味方するとは思ってもみなかったよ。遺憾ながら、内通罪、連合国への明確なる裏切りは、即刻死罪が認められている」


 そういうと、周囲の守護騎士が放った魔法が、黒衣の騎士たちを拘束する。彼らは影に混じることで回避を強化していたが、この明るい中ではてんで役立たずだった。


「待て!私はただ聖エルデルタールの王族と、内密に商取引をしただけだ。そこの薄汚い猫を輸出する。単純な仕事だ!」

「ふん、そう来たか。しかしまあ、彼は君も大好きな闇市の裏オークションの出品者でね。もう既に登録も済んでいる。これを妨害するのはルール違反。よって伯爵権限の元、闇市の掟に従い、君を一時拘束させてもらうか」


 守護騎士はセフィル伯爵の近くに侍る黒衣の騎士達を一瞬で袋叩きにし、伯爵本人も体中を殴られて気絶させられた。


「で、君たちはどうするね?雇い主はたった今拘束された。給金の支払いはたぶん無理だろう」

「どうするって言ったて……給金が出ないんじゃ、ねえ?」


 女兵士は一瞬だけ俺を見て、それからエリザとアルフレッド伯爵を見てから、ゆっくりと剣をしまった。


「ハルキ!!」


 全員の武装が解除されたのを見ていたのか、懐かしい声が聞こえる。

 エリザに抱え上げられ、鎖を断ち切られた俺の元に、メルラが飛びついてきた。


「もう、馬鹿!!何でそんな闇市なんて面倒事に首突っ込むのよ!!」


 彼女の柔らかい胸が俺を圧迫する。まさに圧迫祭り。天国と地獄。


「ウググ。イタイ。で、でも結果的には闇市に言ったお蔭でそこの伯爵が助けてくれたんだし?エリザも怒らないでよ。謝るけど……」


 俺らしいというよりは僕らしい、そんな言い訳をしながら、俺は無事生還出来る喜びをメルラの胸の中で噛み締めるのであった。

 

 


次回で一部終了ですだ。

ギリギリ間に合ったで御座る。

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