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≪23≫奇跡、泥臭い脱出と包囲網の巻


 俺が捕まってから、恐らくは数日が経った。周囲は依然漆黒しかなく、時間間隔が狂っている。今はもしかしたら数時間しかたっていないかもと言う妄想が、俺の心の片隅を汚している。

 あれから俺は一定の期間に、刀剣で全身穴あきチーズにされ続ける等されるという、拷問、動物虐待を受け、その都度苦しみの声と共に変身を繰り返していたところだ。きっとメンシアから変身の話を聞いて、限界ギリギリまで負傷による変身(回復)をさせようとしたのだろう。


(じっさい危なかった。あと5回ぐらいされてたら、本当に死んだかもしれない)


 俺はそう考えながら自分の尻尾を弄る。当然ながら、マリア―ジュは何度か出現しようとしたが、出てくるとすぐに俺ごと串刺しになった。


「ほら、メシだ」


 暗闇から俺に当たるパン。そして少量の水。

 これをもし日に3食毎にくれていると言うのなら、今日は3日目だ。


「トイレどこだっけ……」


 俺はトイレ、と言う名の蓋をされた穴を手探りで探す。

 ちなみにこのトイレ用の穴から逃亡するのは無理らしい。俺も一瞬糞尿に変身する事を考えたが、あまりに余りなので止めた。


(オークションはどうなったんだろうか。それよりもエリザとメルラは大丈夫だろか。俺のこれからはどうなるのだろうか。この拷問はいつまで続くんだろうか……)


 俺はそう考えながら、周囲の音が良く聞こえるように耳を凝らす。しかし聞こえるのは耳鳴り。そして無音。


(こうなったら一回ダメ元で何かやらかすか……?)


 俺は残った体力と気力の大体の残量を計算しようとし、手足を軽く動かす。問題ない。完璧に猫だ。


(マリアージュ。俺は今、鉄塊や鉄の棒に変身するってのを何回もできるか?)

(……厳しいわね。一発大勝負するの?)

(もうそろそろ厳しい。次何か動きがったらと考えてたが、俺の精神と体力が限界だ……)

(まあ止めないわ。ただ、今の状態だと、変身は非生物なら2~3回。その後は一回でも生物に変身すれば、もうスッカラカンよ?もうただの猫になるわ)


 マリア―ジュは俺の精神内でそういうと、魔力消費を抑えるために気配を消す。

 そしてその時、急に俺の牢が緩やかに持ち上がった。猫一匹はいればいいのだから、この檻の大きさは知れている。確かに持ち運び可能だろう。

 この暗闇の中、状況の変化は少ない。まさに今がチャンスだ。


「GYAOOO!!!」


 俺は猫らしい声を上げ、変身。

 周囲から無数の刀が差しこまれるのを肌で感じ、それに貫通される前に自分を布きれに変える。大きな疲労感が俺の中を支配した。

 ただし、この布きれは俺に刺さるはずだった細かい刀よりも網目を緩くしており、俺(布)に貫通した刀剣は一つか二つ。これならば痛みを感じずに、そのまま攻撃ができる。布を檻の鉄の間に滑り込ませると、その三倍大きさのの鉄塊に自分の変化させる。次なる疲労感は眩暈となって表れる。布切れが眩暈を起こすとはこれいかに。


「な、なに!!?」


 檻の鉄柵が曲がる音を聞いた。それと監視役の声。

 俺はその檻の隙間から、外へと出ると、その外というのもまた鉄の箱の中。このおりは二重構造になっていたのだ。箱の中の檻というわけだ。だから暗闇なのだ。


「ギャオオオオ!!」


 次の鉄の箱を破るべく、俺は更に自分の体を箱より大きな総鉄製の槍に姿を変える。

 破裂音が響き、鉄の箱から槍が突き出た!


「なんて奴だ!!」


 見張りの一人が魔法を唱え、槍に雷撃が走る。


「グアアアアアア!!」


 俺の右足の感覚が焼けた。

 しかし俺はそのまま止まらずに何時もの堂ヶ島春貴なるべく、最後の変身。急いで周囲を見回して、俺を拘束しようと掴みかかる見張りをすり抜けた。これは技術ではない。偶然や奇跡だ。


「逃げたぞ!!絶対逃がすなよ!!」


 追っ手の手がすぐ後ろから追ってくるのを感じながら、俺は感覚のない右足を引き引きずるようにして、ひたすら目の前の地面を蹴り進む。それと同時にマリア―ジュの薬を精製してもらい、今の限界値ギリギリまで飲んだ。


「生きてたらどうとでもなる!!」


 久しぶりに感じる地面の感触は最高だった。ここは小さな明かりが点々と灯る地下の様だったが、それでも俺は自由の素晴らしさを一瞬だけ楽しんだ。


「な、なんだお前!?」


 ボロボロのにやけ顔で俺が走っていると、曲がり角で男に見つかってしまった。


「ドケ!!」


 俺はすかさず男を押しのけて前へと進むが、すれ違いざまに男が背中に携えていた短剣を引き抜いていった。


「武器ゲット!!」


 俺はそこから階段を上り、上へ上へ。


「止まれェ!!」


 そういって俺をさす又状の武器で取り押さえようとした男はこの新しい俺の武器の犠牲となる。

 

「キャアアアア!!」


 関係ないであろうこのご婦人も、俺のショルダータックルで気絶した。まさに、今の俺は暴れ牛だった。


「このまま行けば!!」


 うまく逃げれるかもしれない。そう俺は喜び勇み、遂には地下室のドアを開けるに至る。やっとのことの地上だ。

 ドアは鍵もなく開かれると、その先は大きな広間になっていた。建物、それも随分と天上の高い豪邸の一室だ。

 この広い建物を見て、俺は自分の手を短剣できると、あふれ出た血液を階段の方向に向けてたらす。その後すぐに服で血をふき取って、服の端を破り止血すると、それ以上血が零れ落ちないように気を付けながら、血を付けた方向とは逆の方向に向けて走り出した。


「次はどうする。このクラスの館なら塀ぐらいあるか。兵を飛び越えるのは……無理か。じゃあ裏門か。裏門ってどっちだクソ!」


 周囲を見回すが何も標識らしいものはない。


「じゃあその辺の部屋に隠れよう。そうしよう!」


 俺はそう思い部屋の一つを開ける。目の前にあったドアは地味な色をしており、きっと倉庫か何かだ。ここの端で小さくなって魔力を回復し、その後鳥にでもなってここを飛び立てばいい。


「……何か用か?ん?お前誰だ?その怪我はどうした?」


 ……これは失敗。部屋を開けると、そこには十数人の完全武装した兵士が待機していた。この場所はいわゆる詰所だ。俺は中にいた兵士の数を数えると、イクラ薬物強化した肉体でも、この消耗度ではまとも戦うのは自殺行為だということがわかった。

 目の前の褐色の肌を持つ濃い顔の女兵士は、俺を一応は関係者だと認識しているのが唯一の救いか。


「あ、あの~私は新しく入った従者です。仕事中に怪我をして、更に道に迷ってともう散々でして。よかったら裏庭の場所を教えてくれませんか?」


 つい裏庭の場所を聞いてしまった。明らかに不自然だ……

 

「裏庭だ?お前裏庭に何の用があるっていうんだ?」

「え、あ!え~と、裏庭に私の直属の上司が待っているのです。ひとまずそこに向かわないと……」

「ほう、その上司の名前はなんだ?」

「う……アレキサンダー様です……」


 直ぐに言葉が出なかった。消耗しているからか、どうしても地の一部にある“僕”が出てしまう。

 しかしそれはもうすでに問題ではなく、兵士のみなさんは完全に臨戦態勢だ。一番前に居た兵士は、手に持っていたヘルメットをかぶり直し、戦人の目で俺を睨む。


「そうだな……お前は今から動くと死ぬことになる。おとなしくしろ」

「……俺に命令するな。これでも武術の心得はある。死ぬ気でやれば、お前らの半分は道ずれだ!」


 と、言うが早いか俺は女兵士に先程傷つけた自分の腕から、血液を飛ばして目潰し。地味で卑怯だが、女兵士はしっかり怯む。


「糞、目が!!」


 彼女がそういった時には、すでに奥のすべての兵士が俺へ向けて剣を向けているところ。


~三十六計逃げるしかず~


 その言葉が俺の心の中に響いた。何故か祖父の声で。

 そして事実、俺はその通り180度回転と同時に脱兎のごとく。


「逃げたぞ!!手負いなのに速いぞ!」


 賞賛を受けて俺は走る。しかし廊下まで全速力で走ると、途端に足から力が抜け、俺の体は膝から崩れ落ちた。

 これは無い袖は振れないということなのか。俺の体の中のエネルギーはすべて使いきったというように俺の体はそのまま人形のように崩れ落ちた。


「グ……人間の体も維持できない……」


 俺はそのまま猫になる。

 

「なんだと!?人間が猫に……!?」


 そしてアンラッキー。先程俺が会った女兵士の声が後ろで聞こえる。最悪の場合は曲者にとばっちりを受けた猫の振りをして助かろうと思っていたが、それもできなくなる。万事休す。


「にゃ~にゃ~」

「今更誤魔化しても遅い。お前は何なんだ?化け物め」


 そういって俺の細くて毛深い喉元に、女兵士の鋭く冷たいロングソードが当たる。


「く、ついてねえな」

「やっぱり喋った……おい!みんな来てくれ!!!」


 女兵士は仲間を呼んだ。

 俺は目の前が真っ暗になった。

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