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≪2≫到着、異世界ファンタジーの巻

 次に僕が目を覚ました時、僕は柔らかなクッションに寝かされていた。

 場所はそう、高い天井に金細工のような装飾がほどこされているような、洋風のお部屋である。こういった部屋はいかにもファンタジーらしく、僕はその風景をすごく気に入った。なによりそう、部屋がとても広いのがいい。


「いっや~ついにやったぞ第二の人生。まったく何が何だかわからないけれど、体の調子もいい感じだ」


 ミンチになった元の肉体から、次に移った肉体は、しなやかで弾力のある筋肉に長い爪。尖った耳に全身に生え揃う3色の体毛。あれ?


「なんじゃこら~!!!」


 よくある話だ。そうよくある話である。いれかわっちゃった~とか。そういうのである。

 僕の体は何故か4足歩行に退化し、代わりに三色の体毛を手に入れたのだ。そして部屋が広いと思ったのは、自分の体が小さいからだ。何という事だろう。ああ何てことだ……

 僕はあまりのショックにその場で固まる。鏡を見て見ようかなどと言う気にはならない。絶対に。きっとこんなバカみたいな顔をした猫が居れば、酷く疑問に思う人が多いだろう。それほど今の僕の顔は猫の表情筋の限界を試そうとしていた。


「先日の話は本当にどうかしているわ!私がそんなに馬鹿に見えるのかしら~?」

「お嬢様お気を鎮めてください。廊下でその様なお話をされてはいけません。誰が聞いているやもしれません」

「馬鹿おっしゃい!ここには私とあなたしかいないわ。絶対そうよ。人払いし過ぎたぐらいよ。もし誰かがこの声を聴いているなら衛兵を文字通り首にしてやるわ」


 だれか女の人二人が此方へ向かってきている。一人はとても機嫌が悪そうなのが良く声に現れていて、あまり近づきたくない状況だ。


「どうすればいいんだ……」


 僕はそう言って辺りを見回すが、生憎この部屋にそんな隠れるスペースはなさそうである。それに隠れる事も満足にできないの現実だ。何故なら僕の体がこの猫の体にまだなじんでないらしい。今一歩踏み出そうとした僕の右足、続く足が前と後ろでこんがらがった。


「あ~もう腹立たしい!!」


 僕の体の調節け破る様な勢いで部屋の扉が開き、中に二人の女性が入ってくる。一人は豪華そうな赤いドレスに、これまた高そうな宝石なネックレスを付け、表情が怒りに満ちている。その顔は明らかに美人の類、それも気品と自身に満ちているようだが、今はそれよりも怒りが面に出ているようである。

 対する一歩さがって後に続く女性は、恐らくは召使か何かなのだろう。長いスカートにエプロンがついて、いやらしくないデザインであることからも、嘘くさくないメイドさんと言った感じだ。そして僕の考察だが、恐らくこの世界には不細工は居ないのだろう。彼女もまた美人だ。その顔はシンプルなメイクが良く似合うと言った感じの、キレのあるタイプの顔だ。なんとなくマリア―ジュに似ているような気もする。(絶対同一人物ではないけれど)


「お茶!!」

「用意します」


 そう言ってメイドのお姉さんが下がると、お姫様は部屋に備え付けられた天蓋月のベッドに勢いよく体を預ける。


「ふ~い~もういや~」


 女性はそう言って面倒くさそうにネックレスを取ると寝台横のその口を開けた宝石よりも高そうな小物入れに投げ入れた。ナイスショットである。


「つかれた~なにかいいことないのかしら~」


 何とも投げやりな調子でそういったお姫様。そう言いながら思い切りスカートの中に手を突っ込むと、スカートのズレを直している。これは目に毒だ。ヤバイ……


「ちょっと待った!!」


 つい僕はそう言ってしまった。黙っていればよい物を、ついつい言ってしまったのである。


「は?」


 気づかれたもうおしまいである。僕は咄嗟に両手で顔を覆った。体毛が鼻に入ってむずむずする。


「だれ!!出てきなさい!!」


 そう言ってお姫様は立ち上がると、辺りを睨み付ける。

 そして僕を見つけた。僕は改めて考えると日猫的な行動をしているのだ。彼女の目に映った事だろう。


「何この猫?ハンナ~これなに~」

 そう言われると、メイドさんがこちらの部屋へやってくる。彼女の名前はハンナらしい。これもまたファンタジーっぽくていい感じ。これで名前が京子とか真紀だったら幻滅どころではない。

 隠れる事を諦めた瞬間、もうそんな事を考え始める僕だが、彼女達二人は僕を不審げに見つめている。


「ハンナ、この猫知ってる?」

「いえ、存じません。いつ入ったのかしら?」


 そう言ってハンナさんは僕を持ち上げようとする。あ、ちょっとこの体制は不味い。


「ちょっとやめてください!恥ずかしい~!」

「きゃああああ!」


 僕が思わず声を上げると、ハンナさんの可愛げな悲鳴をあげる。


「ちょっとなにこれ!?」


 お姫様は一歩後ずさった。こうなったら誤魔化しは出来ない。こういう場合はおとなしく正直になるのが一番だ。小さいときお隣さんの窓ガラスを割った時もどうにかなった。今回も大丈夫なはずである。


「話を聞いてください。怪しい物ではありません」

「ふざけるな化け物!!」

「お嬢様この部屋からお逃げください!何らかの薬物で幻覚を見ているやもしれません!」


 そう言ってハンナさんは僕を蹴ろうとする。僕は急いでそれを避けようとするが、生憎まだ足が美味いこと動かない。


「グヘア!」


 ハンナさんのローキックは、僕を宙高く蹴り上げる。僕は受け身を取る暇もなく、断末魔と共に壁に打ち付けられた。


「ヤベテ……ボクニンゲンデス……」

「なおさら気持ち悪いわ!」

「ソンナ……僕本当に人間デス……コロサナイデ~」

「じゃあ人間であると証明しないさいよ!」


 お姫様は部屋の外に走ってゆき、ハンナさんは僕に銀製の燭台を突き付ける。


「えー!人間である証明?何をすれば?」

「私達の知らないことを言ってみなさい。これが私の幻覚なら、知らないことは話さないわ」

「えーと、じゃあ、僕の名前は堂ヶ島春貴といいます。日本生まれ日本育ち、つい先ほどトラックに轢かれて死にました。その後天使様に連れられて遠国に行くところを、魔女に助けられて、それで第二の人生をくれると言われて、気が付いたらここにいました」

「そんな……私の頭は予想以上に犯されてしまったようね。もうだめも知れないわ……」


 ハンナさんは全然信用していないようだった。この場合どう説明したらよいのか解らない。僕にとって今この世界とは。この部屋の中だけなのだから。いったい彼女がなにを知っていて、何を知らないのか見当もつかない。


「すいません。僕の言いたいことは、僕は元は人間だったと言う事です!」


 そう言って僕は無理矢理足をつっぱて、二足歩行をしようと試みる。なんか立ち上がる事は出来たが、それで歩こうとするとそのままこけた。


「そんな……ああそんな」


 まだ信じていないハンナさんの目の前で、あ僕は猫らしからぬ事を連発する。手拍子をしてやった。とっても規則正しいものだ。到底猫にはできない。

 ついでだからと歌を歌ってやろう。


「アッハイ、攻めるも守もクロガネの~お♪浮かべるし~ろぞなんとやら~♪」


 手拍子のついで、思わずなんとなく軍艦マーチを歌う僕。猫っぽい声でうたうこの歌は、なんとなくギャグっぽい。歌詞も細部は知らないので適当であるが、それでもそれをハンナは黙ってそれを聞いていた。

 僕はそのまま声を上げ、猫の姿で歌い続ける。いったいなぜ軍艦マーチなのだろうかと考えるうちに、歌の一番が終わってしまった。


「あざな~すク~ニを~攻め~よ~かし~♪」


 僕が一番を謳いをおえ、二番に行こうか、それとも完走を鼻歌でやろうか考えて一瞬止まると、廊下で聞いていた姫様が拍手をしながら入ってきた。ハンナさんもつられるように拍手している。これは勝ったのだろうか。


「……すごい猫だ……」

「私もこのような歌は知りません。これはもしや本当に……?」

「だから言ってるじゃないですか!僕は元は人間なんです!」


 そう言うと二人は再び黙り込むが、僕がもう一度口を開く前に、お姫様が先に口をひらいた。


「まあ一応は信用しよう。私は聖エルデルタール王国の第四王女、メンシア・セルディール・レ・ジョーカーである。要は貴人、重要人物だ。そんな私の寝室に忍び込んだの訳をいいなさい、猫よ」

「気がつけばここに居ました。それまで僕は魔女のマリア―ジュさんの部屋で、彼女の質問に答えてました」

「では、この部屋に入ったのは偶然という事ですか?他意は本当にないと?」


 ハンナさんはそう言うと、しゃがみこんで僕の顔を覗き込む。こういう時、ミニスカートならばスカートの中身がばっちりなのだろうが、本式のロングスカートに隙はなかった。


「そうです。マリア―ジュさんは何か考えがあるかもしれませんが……」

「そのマリア―ジュと言う魔女は何処?そもそも魔女とはどういう者の事を言うの?」


 どうやら彼女達は魔女とう言葉を知らないらしい。逆に良かったと思いながら、僕は適当に取り繕う。


「え~と魔女と言うのはですね。僕のような不幸な奴に、気まぐれに奇跡を与えたり、変な薬を作ったり、天使を殺したりする、人間以上の力を持つ女性の事です」


 なんとも変な説明をしてしまった。


「うーん、それはつまり神の一種なのか?」

「いえまあそんな感じかもしれません。誰もお祈りとかしないけれど」

「その天使と言うのはなんだ?」

「死んだ僕の魂を天国へ運ぶと言ってましたが、実はあんまりいい奴じゃないらしいです。血が緑色でした」


 なんだか説明ばっかりしてるな~と僕が考えていたら、ハンナさんが急に僕を抱き上げた。軽々と持ち上げられる僕は、何とも不思議な気持ちになる。このまま胸に抱いてくれないかと考えていると、持ち上げられただけだ。


「アラ、やっぱり♂ですのね」

「恥ずかしいからあまり見ないでください!!」

「たしか、三毛猫のオスはとても珍しいのよ」


 そう言われてみると、僕は三毛猫でオスだった。確かに三毛猫のオスはとても珍しいと聞いたことがある。


「今度は僕から教えてほしい事が山ほどあります。まずこの国は何処ですか?この世界に日本はないですよね……?」

「そこから教えないといけないのですね。この国の名は聖エルデルタール王国。日本なんて聞いたことがないわね。王女の私が聞いたことがない国なんて、よっぽどの小国なのか?それこそ存在しないと思うわ」

「聞いたことがないならいいんです。僕は異世界の人間ですから」

「異世界って?」

「え~と、僕の住んでいた世界とは違う世界と言う意味です」


 そう言っても二人は異世界という言葉の意味をあまり理解出来ていないようだった。

 それにしてもこの抱え上げられた姿勢でお話を続けるのは尋問というか拷問というか。


「で、どうしようかしら。ハンナ、あなたいい考えがあって?」

「そうですね~。猫とは言え、元は人間の殿方であると主張するこの子を、ここに置くのはいかがな物かと」

「でもハッキリ言って、他の者にこの子を見せたくないわ。この子絶対使えるわよ?」

「う……いったい何につかわれるんですか?」


 僕の背中に何かが走る。嫌な予感がした。


「もちろん色んな事。あなたがいれば他人の秘め事を覗き放題だし、謀略やりたい放題よ。政敵全部蹴落とせるわ」

「そんな事……したくないです」

「じゃあ野生に戻る?いえ、戻させないわ。此処で言う事を聞かないなら殺してやるから。貴方は多くを知りすぎたわ」


 そういわれるとそうだ。僕は彼女との初対面を思い出して思わずそれが口に出た。


「それって、スカートに手を突っ込んで、ドレス直してる姿見ちゃったからですか?」

「なっ、なに見てんのよ!」

「お嬢様!はしたないですよ!!」


 そう言われ僕を睨むこの子、メンシアは本気の様だった。きっと従わなければぜった殺されるだろう。


「ワカリマシタ。従います。コロサナイデください」

「当たり前よ。その代り、私はあなたを不自由させないと約束するわ。雌猫でも何でも用意してやるわ。ハーレムよ。喜びなさい。その子供も話せると言うのなら、きっとこの国は世界で一番強くなるわね……フフフ……」


 雌猫。これから僕は雌猫のお尻を追いかける人生を楽しめばよいのだろうか。そう考えるだけで未来が暗く感じる。これがマリア―ジュさんの言った明るい未来なのだろうか。

 目の前にいるのは不気味に笑いながら、野心に燃えるお姫様である。それがいったいどのような楽しげな人生に繋がってゆくと言うのだろう。


「雌猫はいらないです。それよりも、まずはお腹すきました。お昼食べてないんです」

「今は夜よ?」


 どうやら無効と此方では時間差があるらしい。時差ボケと言う奴かもしれないが、ハンナがこの部屋のカーテンを開けると、そこには夜の暗い空が見える。空には巨大な月が浮かんでいる。地球のそれよりも明らかに多きそれは、こっちに落ちて来るのではないかと思える程だ。


「で、でも、このまま眠るには……」

「では私の取って置きを食べさせてあげます。特別です」


 それに従って、僕はハンナさんの控える部屋へと通された。


「ごめんなさい。でもお腹すいて仕方がないんです」


 僕がそう言うと、ハンナさんはニコリと笑って、僕の目の前に干し肉を置く。


「いただきま~す」


 僕がそう言いながら干し肉にかぶり付こうとすると、ハンナさんは僕から干し肉を取り上げた。


「こら!オテ!」

「僕は人間ですよ?それにお手をするのは犬でしょう?」

「それは関係ありません。とにかくオテをしないさい」

「わかりました」


 そう言って僕はハンナさんが差し出した右手に、僕の右手を乗せる。なんとなく、いや確実に屈辱的である。

 だがしかし、目の前の干し肉は美味しかった。それにこの体のサイズのせいか、これだけ食べきっただけで、僕は満腹だった。


「命令をやっぱり聞いている。嘘じゃないようね」

「まだ信用してなかったんですか?」


 僕は干し肉を齧りながらそう言うと、ハンナさんは僕を優しく撫でてくれた。なんだこの安心感は……


「見た目はこんな可愛い猫なのに。中身が人間だなんて」

「まあ事実そうなんです。昨日まではただの学生だったんですけどね」

「まあ、学生だなんて。お金持ちだったのね」


 僕の家は少なくともお金持ちに分類される事は無いと思っていたが、この世界での基準は違うのだろう。


「まあ、僕の世界では皆学校に通ってますから」

「そんな!!凄い世界ですね」


 ハンナさんの声の向こう。自室から驚いた顔をしたメンシアが、ドアの向こうから僕を怒鳴りつける。


「いったいあなた何年学校へ行っていたというの!?」

「えーと、6・3に1年半で、10年と半年くらいです」

「そんな!!貴方今何歳?」

「もとの世界では17歳でした」

「じゃあ7歳ぐらいからずっと勉強していたと言うの!?」


 それに頷くと、メンシアはその場所に崩れ落ちた。カルチャーショックが酷いのだろう。


「そんな年から勉強するなんて、この世界では王族や有名貴族ぐらいよ。あなたの世界は狂っているわ」

「僕は裕福じゃなかったけれど、国は裕福だったんだと思いますです」


 自分でも訳の分からない僕の言い訳を聞くと、メンシアは僕の体をひっつかんだ。


「計画変更!あなたはこのまま使い潰すのは勿体ないわ。これから元の世界で学んだことを私に話しなさい!」

「それはいいですけど。僕そんなに賢くないですよ?」

「この際そう言う事は関係ないわ。貴方の常識なんて、ここでは何の意味もないのですから」


 そう言われてみればそうである。僕が頷くと、早速メンシアは僕を掴んで自分の部屋に戻ろうとした。


「お嬢様。今日はもうお休みになられませんと」

「そんなことどうでもいいわ!」

「よくありません!明日は国王陛下と昼食会がありますし、王立学院へ行く準備もしなくてはなりません」


 そういって召使に叱られたメンシアは、仕方なく僕を放り投げると、柄にもなく舌打ちしながら自室の扉を閉める。


「まったくはしたないんですから」


 そういってハンナさんはため息をつく。


「えーと、僕はこれからどうすれば?」

「またお腹がすく前に、今日はもう寝てしまってください。明日の時間に成れば起こします。明日から忙しいので覚悟してくださいね?」


 満面の笑みで首をかしげながらそう言う事を言われると、うれしいやら怖いやら。僕は複雑な気分になりながら、その辺りの部屋の角を選んで座り込むと、そのまま丸まって寝ようとする。なんとなくだがこうするのが一番気持ちがいいと、僕の新しい体がそう言っていた。

 そしてしばらくしてハンナさんがタンスから持ってきた布きれを僕にかけてくれる頃には、僕は夢の世界へと旅立っていた。


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