9 妹の采配(転機2)
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短いですが、どうぞ。
単身赴任中のユッチのお父さんが倒れたのは、ユッチの受験日当日だった。
会社に一人で泊まり込みで仕事をしていたらしく、早朝、会社の清掃員が机の傍で胸を押さえて倒れているユッチのお父さんを見つけて、すぐに救急車を呼んだらしい。そのとき既に意識はなかったそうだ。
なんとか命は繋いだものの、意識不明の重態で、そのまま入院したらしい。
小夜子さんは大事な時期のユッチに不安をかけまいと詳しい事は伝えずに一人で上京し、それからしばらくしてユッチのお父さんはユッチの合格発表の朝、急激に呼吸が弱まり危険な状態にまで陥った。
ユッチは今、お父さんのいる病院にいるらしい。
電話越しに取り乱したユッチをどうにか宥めて、なんとか状況を聞き出した私は、
「ユッチ、落ち着いて! 泣かないで! 私もそっちに行くから!!」
気づいた時には、何も考えずにそう叫んでいた。
すぐにユッチの所に駆け付けないと!
私が行ったところで何か変わるわけじゃないけど、とにかく行かなくてはいけない気がした。
しかし、通話を切って冷静になり、後悔した。
どうやってユッチのもとまで行けばいいのだろう? 電車を乗り継いで、新幹線を使っても何時間もかかる。否、時間なんてどうでもよくて、私には片道の交通費すらない。
私が電話している間に、お母さんもお姉ちゃんも出掛けてしまい、家には私しかいない。
電話を切るべきではなかった。
唯一、ユッチと繋がっていたそれを、感情的になり自分の手で切ってしまった。
もし、あのまま切らなければ、電話越しにでも何かユッチにしてあげられたかもしれないのに!
どうすればいいの?
泣きそうになったそのとき、居間にあった電話が鳴った。
着信は……?
「ユウイチ」
お兄ちゃんだ!!
お兄ちゃんなら、なんとかしてくれるかもしれない!
一縷の望みに賭けて、私は受話器を取った。
「お兄ちゃん、今どこ!?」
『!!?』
開口一番の私の声に、お兄ちゃんは驚いて声にならない声をあげた。
『どこって、今日から、国立●●会館で教授の研究発表会の手伝いやるって言ってたじゃん』
お兄ちゃんの言葉に、私はガックリとうなだれた。
そういえば、お仕事の出張で今日からしばらく遠くに行くとか言ってたなぁ……。
最後の希望だったお兄ちゃんもいないなんて……。
『あれ、今いるのって唯だけ? ごめん! 頼みがあるんだけど!』
電話の向こうの何も知らないお兄ちゃんは、なにやら切羽詰まっている様子だ。
助けて欲しいのは私の方だよ~(泣)
『今、唯は春休みだよな? 忘れ物したんだ! 交通費も宿もなんとかするから、今日中にT駅まで来て届けてくれないか!』
……はい?
お兄ちゃん、上京してるの?
……。
…………。
………………。
「今すぐ行く!! 何したらいいの!?」
かな~り、御都合主義な展開……。お兄ちゃん・裕一、タイミングが良すぎます。
過去の私よ……、もうちょっと何とかならんだのか?
あとこれ、主人公は妹で良くね?