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6 妹の謀略

 こんな妹いたら、ちょっと引くわ……。

 こんな作品を書いていた過去の自分に嫌悪しつつも、予想外にもPVがあることに驚いた今日この頃。

 感想あれば、よろしくおねがいします。

 彼女をお兄ちゃんと結婚させよう。

 彼女と知り合って数日で、私は決意した。



 彼女と初めて出会ったのは、中学三年生の夏休みの始まり、陸上部で最後の大会を控えていた頃だった。

 部活は午前中で終わり、お母さんから買い物を頼まれていた私は帰り道にあるスーパーに寄った。

 ちょうどタイムセールの時間で、セール品の周りには人だかりができていた。

 あれを突破して品物を手に入れるのは、部活でクタクタで空腹な私にはとくかく億劫ではあったが、お釣りはお小遣いにしてもいいというお母さんの言葉を思いだして、私は突撃した。

 オバチャンたちにモミクチャにされながら、どうにか目当ての品物を手に入れつつ、フラフラになりながらやっとの思いでレジに並ぶ列にたどり着くと、同じ学校の制服を着た、私よりも細くて華奢な同い年くらいの女の子が先に並んでいた。

 ふと彼女の買い物かごを覗き込むと、今日の特売品がコンプリートされている。

 彼女もあの混沌の中に突撃したのだと、私は瞬時に察した。後ろで一つ括りにされていた髪が、少し乱れている。

(すごいなぁ……私なんかよりずっと細くて力無さそうなのに。うわっ、すごい。見切り品のお豆腐とか野菜とか……お買い物上手さんだぁ。うわー、肌白い。髪綺麗だなぁ……って!!!)

 レジで会計を始めた彼女の顔を見て、私は衝撃を受けた。

(超美人じゃん! こんな子、うちの学校にいたっけ!?)

 サラサラとして柔らかそうな黒い髪、綺麗に輝く黒くて大きな瞳に小さな鼻と小さな口、整った顔立ちに、キメの細かい白い肌と細い首筋……。

 持っているカバンの色から、彼女が一年生であることがわかった。ついでに名札も確認してしまう。

(須藤……結衣ちゃんか。字は違うけど、おんなじ名前だ。……マイバッグ! 主婦なの!?)

 私が会計を済ませた頃には、彼女は既にマイバッグに買ったものを収めたところだった。

 店の出入り口まで去っていく彼女を横目に、自分はレジ袋に品物を詰め込み、それから自転車を置いた駐輪場に向かう。

 店の中と外では温度差があり過ぎて、滅茶苦茶身体に悪い温度変化に顔をしかめながら歩く。

 すると、先ほどの彼女が自転車の前で……うずくまっていた!!!

「ちょっと、大丈夫!?」

 慌てて駆け寄った私に、彼女は額を押さえながら顔を上げて、弱々しい上目遣いで口を開いた。

「はい……大丈夫です。ちょっと熱に当てられたみたいで、貧血が……」

 風鈴のように涼しげで綺麗な声に一瞬だけドキッとしたけど、すぐに私は彼女を近くのベンチまで運んで休ませた。


 字は違うけど名前がおんなじで、妙な親近感があって、それ以来彼女とはよく話すようになった。

 大会も終わって2学期が始まり、受験勉強をしつつも彼女とはこまめに接触した。

 お父さんは単身赴任で都会に出ていて、たまにしか帰ってこないこと。

 お母さんは知り合いのお店で働いていて、家には小学生の妹と2人のことが多くて、家事は殆どこなしていること。特に買い物と料理が得意だった。

 休み時間は新聞の折込チラシで特売品をチェックしながら、料理の本を片手に夕食のメニューを考えるのが楽しいらしい。

 部活には属しておらず、料理部とか入ればいいのに? と聞くと、妹の面倒を見ないといけないので無理なのだと言っていた。今は家事の方が大変だから、まだしばらく部活動はできないのだと。

 家族思いで責任感が強くて真面目な子だった。だから一緒に遊べる友達が少ないようで、一人でいることが多かった。

 女子力……を通り越して、主婦力まで到達した超ハイスペック美少女。


 若くて綺麗で家庭的、しかもなかなかに真面目……キーワードは揃った。


(ユッチをお兄ちゃんと結婚させよう)


 決断した私の行動は早かった。

 ユッチの前で、私はお兄ちゃんの事をよく話すようになった。

 お兄ちゃんは地味で目立たない人だけど、その裏で真面目で堅実でコツコツやってる努力家で、カッコイイ人なんだと宣伝しまくった。


「唯先輩、本当にお兄さんのこと好きなんですね」

「うん、大好き!」

「羨ましいです。私も頼りになるお兄さんがいればよかったのに」


 私が高校に入学した頃には、こんなやり取りをするようになった。

 ユッチの中のお兄ちゃんの印象を、少しずつ良くしていくように努めた。

 ユッチの家にもたまに遊びに行くようになり、彼女のお母さんや妹がいる前でもお兄ちゃんの話をさりげなく持ち出し、少しずつ宣伝していった。


「唯ちゃんのお兄さん、どんな人かしら。一度お会いしてみたいわね」

「先輩さんのお兄さん、カッコイイの?」

「写真ありますよ! 見ますか?」


 大事にとっておいた、スーツ姿でビシッと決めたお兄ちゃんの写真を公開したら、なかなか好印象だった。

 実家にたまにしか帰ってこないお兄ちゃんに無理を言って、1時間も粘って写した最高の一枚だ。

 さらに月日は流れて、ユッチが受験勉強を始めた頃、彼女が勉強に集中できるようにと私は進んで彼女の妹・麻衣ちゃんの相手をしていた。妹さんはバスケットボールが好きな私に似た活発なやんちゃ娘で、そのために波長があうのか、いい遊び相手になっていた。


「ごめんなさいね、唯ちゃん。麻衣の相手をするのは大変でしょう」

「いえいえ、私もいい運動になって助かってます! 大会前の、いいウォーミングアップです」

「先輩さん、明日も来れますか?」

「麻衣、唯先輩を困らせたらダメよ」

 勉強中のユッチが、参考書から目を離して妹を注意する。

「ごめんね。明日はお兄ちゃんが帰ってくるから、一緒にお出かけするんだ」

 そこまで言って、私はさりげなく、呟くように、努めて寂しそうな声をして言った。

「お兄ちゃん彼女いないから、私がたまに付き合ってあげないと、寂しそうだもん」


「じゃあ、お姉ちゃんが先輩さんのお兄さんの彼女になればいいんじゃない。」


「あははー、駄目だよー。いくらユッチでも、お兄ちゃんは渡さないよー」

「えー。そうしたらもっと先輩さんとバスケできるのに……」

 よし! まずは内堀を埋めていく準備が整った。

 いつも大人しいユッチが珍しく慌てている。麻衣ちゃんは、よほど名案だと思ったのか、私に否定されてちょっと残念そうで、とても不満そうな顔をしている。


 あとは外堀(母親)を埋めて、搦め手(父親)を封じる。

 本丸(ユッチ)までまだ遠いけど、ようやく道が開けてきた。





 お兄ちゃん、待っててね。


 我に策あり♪

 堀を埋め、搦め手(抜け道)を封じ、本丸を落とす……城攻めの基本です。

 兄のためにと奔走する腹黒い妹・唯の活躍は続きます。

 彼女の活躍に注目せよ!

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