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52 陥落

 お待たせしました。


 結衣の母・小夜子の問いに対して、裕一の母・智子は前向きに2人を見守っていく姿勢です。

 その一方で当事者の2人は……?

 お昼前に裕一と電話で話した感じでは、少なくとも結衣ちゃんのことを嫌ってはいないみたいでしたよ。

 まあ、そもそも裕一は就職してから今まで浮いた話が一つもなかった子なので、結衣ちゃんの登場に戸惑っているだけだと思いますよ。多少流されたりお人好しなところがありますけど、本当に嫌ならなりふり構わず追い出すはずですから、裕一は結衣ちゃんを少しずつ受け入れてくれているのではないでしょうか。

 大丈夫ですよ。結衣ちゃんはとっても良い子ですから、一緒にいれば間違いなく気に入ってくれますよ。

 まだ2カ月ありますし、2人の仲については暖かく見守ってあげましょう。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「早く帰りましょう、裕一さん」


 気がついたときには結衣がいて、俺の腕を引っ張っていた。

 俺が一つだけため息をついて立ち上がると、結衣は俺の左腕にガッチリとしがみ付いてしまって、子供のようにニコニコと笑いながら大きな瞳を輝かせながら見上げてくる。

 どうしてだろう? 今になって気がついたのだが、結衣が最初に会ったころよりも子供っぽく見えた。あの図書室で初めて出会ったときは、どことなくしっかりとしていて大人びた印象があったのに、こんな風に積極的に甘えてくる彼女はなんというか……(ゆい)みたいだ。

 否、妹というよりも……ああ、そうか!

 俺は文香の言葉を思い出した。


『恋人としてなら駄目だけど、“お父さん”だったら兄ちゃんほど頼りになる良い男はいないんだよ』


 結衣の父親は俺と出会う少し前に亡くなったそうだ。それ以前にも、単身赴任でずっと彼女のそばを離れていた。

 父親という家庭で最も頼ることのできる大人がいなくなって、長女である彼女はきっと無意識のうちに自分から大人になっていったのではないか?

 結衣の父親のことはよく知らないが、きっと父親を失って出来た隙間を埋めることができる存在(俺)を得て、彼女は本来の子供の姿に戻ったのではないだろうか?

 そう考えると今朝から見た結衣の俺への触れ方や好意は、嫁や恋人でもなければ、妹でもなく、“娘”のそれに見えてくる。

 もちろん、結衣の結婚の目的は父親代わりを得ることではないはずだが、期せずしてそうなった……といったところだろうか?


(確証はないけどね)


 それにしても、文香のゴリ押しで俺はとうとう首を縦に振ってしまった。

 そうだ。冷静に考えれば、もうこの勝負は詰んでいるのだ。どう足掻いても彼女には勝てない、彼女は放してくれない、彼女からは逃げられないと、今朝すでに察してしまったじゃないか。

 これ以上の抵抗は、もう無意味だ。体力と精神力と時間の浪費だ。


(俺の負けです、結衣さん)


 俺はそっと結衣の頭に右手を伸ばして、その柔らかそうで艶のある黒い髪に触れてみた。指で梳くと、サラサラとこぼれてとても気持ちが良い。

 結衣はウットリとした様子で目を細めて、その白い頬をほんのりと染めている。


 俺って馬鹿だよなぁ。なんでこんな可愛い女の子に求婚されて嫌がってたんだろ?

 結衣が未成年(こども)だから? まるで援助交際みたいだったから? 法的・倫理的リスク? 恋愛や結婚に悪いイメージしかなかったから? 自分に自信がなかったから?

 そんなもん、とっくに解決してたじゃないか。唯が馬鹿みたいに駆けずりまわって根回しして、俺は昔から馬鹿みたいに真面目に空回りして自立してて、色んな事情があったとはいえ結衣は自分から積極的に俺のもとにやってきた。

 世間体を気にして結婚して後悔する奴を馬鹿だと思っていた。だけど、自分に寄り添ってくれる文句なしの嫁希望者がいるのに“世間体を気にして結婚しない俺”も、相当な馬鹿かもしれないな。


「帰ろうか?」

「はい♪」


 腕にしがみついて離れない結衣と並んで歩きだす。

 公園から自宅までの短い道のりを歩きながら、俺は結衣に早速提案した。

「あのさ……結衣さん?」

「なんでしょう?」

「結衣さんの実家には、いつ御挨拶に行けばいいのかな? 学校にもこのことは話しておかないと駄目だよね? それから婚姻届だけど、週明けにでも市役所に行って貰ってくるよ。提出はまだ大分先だけど……って!!?」

 結衣の目が驚いたように大きく見開かれたかと思えば、いきなり俺の左腕を開放して正面から俺の体に抱きついてきた。背中に回された手に力が入り、細くて小さくて柔らかくて暖かい拘束がどんどん強くなってくる。顔は俺の胸に押しつけられて隠れてしまって、その表情はよく見えない。

 とりあえず、嬉しいってことなんだろうけど……あれ? あれれれ!? これ、ちょっとヤバい!

「あの、ごめん……結衣さん。ストップ! ちょっと力強い! それ、肋骨キマってる! 多分折れないけど、マジ苦しい……グハッ!」

 偶然にも結衣の抱きついた高さで良い具合にキマッてしまい、おまけに俺の予想以上に彼女の力が強かったりで、あまりの肋骨の痛みに俺は取り乱してしまって良い雰囲気が一瞬にして台無しになった。そういえば昨夜から朝まで、添い寝してくっ付いた彼女からどうやっても逃れられなかったしなぁ……。

「ご、ごめんなさい!」

 大慌てで俺から離れた結衣を見ると、冷たい光を放つあの大きくて綺麗な瞳が涙に濡れていた。

「あのあの……私、その、どうして泣いているんでしょうか? 嬉しいのに、えっと、なんで……」

 ああ……今度は彼女が取り乱している。こういうときって、どうすりゃ良いんだろ?

 とりあえず今度は俺の方から彼女の細い体を抱きしめてみた。温かくて柔らかくて、力を入れれば折れて潰れてしまいそうで、ついつい慎重になってしまう。

 果物のような甘い匂いに鼻孔が痺れ、頭がクラクラとしてしまう。

 サラサラとした髪に触れながら、ふと冷静になって周囲を見渡してみる。

 アパートのすぐそばまで来ていて、時間帯も時間帯なので人の目はそんなにない。

(大丈夫だよね? ……通報、されないよね?)

 しばらくすると落ち着いたのか、結衣は俺の背に手を回してきた。先ほどの失敗もあってから、恐る恐るといった感じの柔らかい抱擁だった。


 さて……ここからどうしたものだろう? とりあえずワンクッション置かないと歩き出せない気がする。

 世の恋人たちならば、ここからキスでもするのだろうか? 今の俺には無理。誰かに見られたら通報されそうだし、息酒臭いはずだし……。

 じゃあ、甘い言葉の一つでもかけて……なんて言えば良いのさ? 残念男子は女の子が喜ぶような気の利いた台詞に持ち合わせはないですよ。

 あー……うん。そういえば言うべきことが一つ、あるにはあったなぁ。






「君と結婚するから、ずっと俺の傍に居てください」

 とうとう裕一が陥落。

 タイトルでネタバレですけど、そこは勘弁してください。

 しかし、少なくとも2人が結婚するまでこの物語は終わりません。

 婚約を交わしたところで、大人と子供の交際にはイチャラブな甘い日々だけでなく、様々な課題や困難が付き物です。

 裕一の葛藤はまだまだ続くのです。


 未成年者との恋愛には、課題が山積みです。妹・唯のやったような根回しやあらゆる都合が合致しなければ、このような物語は成立しません。

 いかに真剣な交際でも、現実には成人男性は女子高生相手に恋愛するべきではないと思います。もし女子高生相手に恋したなら、法的リスクを最小限にするべく、交際をすっ飛ばしてすぐに結婚するべきだと私は考えています。実際、問題はそれ以上に複雑難解かもしれませんが…………(^_^;)

 困ったことに結衣はまだ15歳の結婚できない女子高生……はたして、裕一はいかにこの困難を乗り越えていくべきなのか!?


 あと、良識ある女子高生は、この物語を読んでも真似をしないで欲しいです。

 女子高生の読者は少数(まずいない?)だと思いますが、これは作者として強調しておきます。

 いかに真剣な交際でも大人を相手にするならば、自分の生涯を預けられるだけの力(収入・社会的地位・信用)を持った男性に限定して、文香の言うように“互いに責任ある関係”を築きましょう。でなければ、高い確率で相手は法的・社会的な制裁を受け、不幸になるでしょう。


 そして、結婚は互いの自己責任でやりましょう。


 ……


 …………


 ………………なんなんだろ、この後書き?


 次回更新時期は、またしても未定です。

 これからも、本作をよろしくお願いいたします。

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