49 小姑たち その3
聡子さんが暴走する一方で……。
今回は文香姉さんのターンです。
『どういうことか説明しろ!! こんの……ロリコンがああぁぁっ!!!』
“キーン……”
(……耳、痛ぇ)
聡子の第一声に咄嗟に携帯電話を耳から遠ざけたものの、ちょっと遅かった。
「いや、聡子……とりあえず落ち着いて。これはその、ちょっとした誤解というか、あの……」
『黙れ、この買春野郎! いくらモテないからって弱みに付け込んで女の子の人生を金で買うとか、ふざけるな!! 今すぐ結衣ちゃんを解放しろ!!』
ちょっと待て! 俺が結衣を監禁してるみたいじゃねえか! 結衣から何を聞いて、何を勘違いしてるんだ!?
「ちょっと待て! 聡子、少し落ち着け! 俺の話を聞いて……」
『ロリコン犯罪者の弁明なんか……! ちょっ、アネキ、何すんだよ!?』
『もしもし、兄ちゃん?』
まったく聞く耳を持ってくれない聡子にどうしようかと思っていたところで、電話の相手が急に文香に代わった。
「文香、2人とも結衣さんから何を聞かされたんだ!? とりあえず、落ち着いて俺の話を……」
『ごめん。兄ちゃんの話は帰ってきてからゆっくり聞くね。それまでに聡子は黙らせるから。奥さんが寂しい思いする前に帰ってきなよ。じゃ』
「ちょっ、文香!? 結衣さんは……って、切りやがった」
電話じゃ、まともに話せそうもない。
うん、早く帰ろう。早く事態を収拾しなければ……。
◆ ◆ ◆ ◆
「奥さんが寂しい思いする前に、帰ってきなよ。じゃ」
アネキは私から携帯電話を取り上げて、一言二言兄ちゃんと話していたかと思えば、すぐに電話を切った。
「ちょっと、アネキ! 何す……痛っ!」
「聡子! あんたは黙りなさい! 少し落ち着いて、私の話を聞きなさい」
アネキは私の額を少し強く小突いたかと思うと、そう言って睨み付けてきた。
アネキは怒った顔が様になるタイプの美人で、その釣り目がちな目で睨めば誰彼かまわず竦ませてしまうほどの目力を持っている。今年に入って勤め始めた学校では、生徒が泣き出したこともあったそうだ。
私は圧倒されて、それ以上声を出すことができなかった。
「この結婚……私は賛成よ」
◆ ◆ ◆ ◆
もし、これがただの利害関係が一致しただけの“交際”だったなら、私はすぐに兄ちゃんを犯罪者として警察に通報するわ。
子供を相手に学費や生活費の援助を条件に都合の良い関係を築くなんて言うなら、最低だわ。そんなの、ただの援助交際だもの。
それでなくても、ただの“恋愛”のつもりだったとしたら全力で結衣ちゃんを説得するわ。そんな責任のない関係を、大人と子供でやって良いわけがないからね。
でも、“結婚”してお互いに責任ある関係を築くのだったら話は別よ。
結衣ちゃんの選択は、とても理にかなっているわ。
まず、結衣ちゃんの条件は決して安くない。高校を卒業どころか、その後の人生まで保障するなんて、大人の道楽でできることじゃない。
そして、兄ちゃんが得る物は重たすぎる。援助交際や少女買春の感覚でできることじゃない。
たしかに、成り行きだけ聞けば聡子の感じたこともわからないわけじゃないけど、お互いそんな半端な覚悟でできることじゃないでしょ?
体を売っていつか自分を捨てる“男”を集める女はただの馬鹿よ。
いつか別れるかもしれない“恋人”を手に入れて恋愛するだけなら、寂しい女よ。
人生を捧げて責任と甲斐性を持つ“夫”を得ようという結衣ちゃんは、大したものだと思うわ。
結衣ちゃんの言うとおり、兄ちゃんは立派な男性よ。
聡子、言ったよね? 恋人にするにはアレだけど、お父さんだったらアリなんでしょ?
それってつまり、恋人にするには“魅力”に欠けるけど、夫にするには十分な“将来性”があるってことでしょ? 人生を預けるだけの“信頼”があるってことでしょ? 家庭を持つ“甲斐性”があるってことでしょ? 一家の長を勤めるだけの“責任感”があるってことでしょ?
一つ聞きたいんだけど、聡子は今の彼氏とどうして結婚しないの?
いつかしたいってのはいいから、出来るか出来ないかっていうと……できないでしょ?
でも、彼氏のことは好きなのよね? 愛してるわよね? 結婚したいよね? どうしてすぐに結婚出来ないの? 人生を預ける気はないの? お互いに責任もって寄り添って生涯を過ごせないの?
結局、今のところ聡子の彼氏は“恋人”には出来ても“夫”には出来ない、“結婚できない男”なの。
でも、兄ちゃんは“結婚できる男”なの。この違いわかる?
結衣ちゃんはそれをよくわかっているわ。
それに、普通なら残念に見える兄ちゃんの魅力をよく理解してるわ。
そして、そんな兄ちゃんが好きで、精一杯立てる覚悟も持っているわ。
未成年者だけど、お互いの親の理解もあるから法的な問題は多分ないはず。
だから私は、この結婚に賛成よ。
ただし、結衣ちゃん。一つだけ教えてくれない?
兄ちゃんは……
結衣ちゃんのどこが好きって言ってるの?
文香姉さんは果たして、結衣と裕一、どちらの敵でどちらの味方なのか……!?
恋愛には向かない“結婚できる男”と恋愛が楽しめる“結婚できない男”……もし男性の種類がこの二者択一なら、女性の人生に必要なのは、どちらだろう?
もちろん、両立できる男性もいるはずですが……希少ではないでしょうか?
次回更新は、今のところ未定です。
来週は、ちょっと仕事が忙しくて執筆が滞りそうです。
御理解いただけますと幸いです。




