25 破談
兄・裕一の答えは?
さあ……どうしよう?
彼女の母親も認めているときては、法的にも何の障害もないということか……?
彼女も積極的だし、誠意もあるし、魅力的だし、悪い話ではない。
……いやいや駄目だろ、こんなの!!
いやいや、そんな目で俺を見つめないでよ!
グラッときちゃうから!
落ち着け、俺!
目先のことに捕らわれるな!
理性的になれ! 自分を律してよく考えろ!
俺がどうしたいかではなく、どうするのが正しいか考えろ!
◇ ◇ ◇ ◇
「だからなんだ……、俺は帰る」
俺はそう言って立ち上がると、今度は俺の方から須藤女史に頭を下げた。
「君とは結婚できない」
「なんでよ!」
妹が立ち上がり、信じられないとばかりに詰め寄ってきた。
「ユッチと結婚してあげてよ!」
頭を上げた俺の両肩を掴み、俺を見上げて激しく揺さぶりながら、妹は必死の形相で俺を睨んでいる。
「きゃふっ!」
俺は妹の額を拳で軽く小突いて黙らせると、一度小さく溜め息をついて、須藤女史に向き直った。
冷たい光を湛えた大きな瞳が、不安そうに揺れている。
小さな唇が震えながら開く。
「私が子供だからですか?」
「そうだ」
俺は間髪いれずに即答し、言葉を繋いだ。
「君はまだ子供だ。君はこれから、きちんと青春を過ごして、きちんと世の中を見て、きちんと恋愛をして、ちゃんと自分の幸せの形を見つけるべきだ。そんな未来があるのに、早まるな」
「でも、私は……」
「助けが欲しいなら、気にせず頼れ。結婚なんてしてくれなくていいから、俺が出来ることはしてやる」
俺はそれだけ言って名刺を取り出すと、テーブルの上に置いた。
そして、隣にいる妹を睨みつける。
「唯!」
俺の声に、妹と須藤女史の肩が同時に跳ねた。
(ああ……彼女もユイだったな)
「俺は帰る! もう少しで俺はロリコンの犯罪者になるとこだった!」
実際にはここまでお膳立てされてるなら問題ないのだろうが、やはりこれは道義に反する。
彼女には十分に誠意があるのだが、俺からしてみれば経緯や名目、立て前はどうあれ、これは生活苦という弱みにつけ込んだ援助交際契約だ。
断じて応じるわけにはいかない!
「2人とも、少し頭を冷やせ。……須藤さん、妹がとんでもないことを吹き込んでしまい、すまなかった。そのお詫びとして君に協力したい。その気になったら連絡してくれ」
俺は妹の頭を掴んで無理やり下げさせてから、もう一度俺も頭を下げてから、図書室の出入り口に向けて歩き出す。
「待ってよ、お兄ちゃん! これはお兄ちゃんのためでもあるんだよ! お兄ちゃんには、誰か常に傍にいないと……また、倒れちゃうよ! お兄ちゃんには、お兄ちゃんを支えてくれるお嫁さんが必要だよ!」
妹の言葉に、俺は歩みを止める。
(なるほど……俺のことも心配してたのか。そういえば前に、自宅で餓死しかけて……。)
そこまで考えて、俺は一度大きく息をついて気持ちを落ち着け、妹に向き直った。
「心配かけてゴメンな。もう、あんなことないようにするから、俺に嫁は必要ないよ。俺は一人で大丈夫だから」
それだけ言ってまた歩いて、出入り口のドアノブを掴む。
「あ、あれ?」
しばらくガチャガチャとドアノブを回し、押したり引いたりしたが、開かない。
(なんで?)
よく見ると、内鍵がかかっていた。
まあ、人に聞かれて良い話をしてたわけじゃないし、当然か。
(カッコ悪!!)
恥ずかしくなって慌てて鍵を開けて、俺は逃げるように図書室を出たのだった。
去り際が残念!
転載用の書き置きのストックはここまでです。
公開当初から予想外の反響により、執筆活動を再開いたします。
次話は週末(多分土曜日)に更新予定です。