19 麻衣の気持ち
ユッチ・結衣の妹の麻衣視点です。
私は神様が大嫌い。
あんなに頑張っていたお父さんに、何も良いことを呼んでくれなかった。
苦しそうに倒れたお父さんを、私がいくら祈っても助けてくれなかった。
お父さんを連れて行ったかと思えば、今度はお母さんを連れて行こうとして……。
私が何かした? お父さんは悪いことでもしたの? お母さんはどうしてこんなに疲れなきゃいけないの? お姉ちゃんは、何で泣かなきゃいけないの?
何もしてくれないくせに、何も悪いことしてないのに私たちを苦しめて……きっと神様っていうのは、最低な人だ。
子供だから何もできなくて、ただ祈ることしかできなかった私を馬鹿にして……私はもう、あなたを許さない。
子供だから何もできなくて、寂しくて悲しくて不安で、泣きそうになって……でもそんな顔したら、お母さんもお姉ちゃんも私のこと心配して、もっと家族が暗くなって……私は馬鹿みたいに、何も知らない顔して、笑っているだけで精一杯だった。
もう限界!
神様! あなたは雲の上で私たちを見下ろして、こんな風に辛い思いをしているお母さんやお姉ちゃんを苦しめて、いったい何様のつもりなの!? 何が楽しいの!?
なにもしてくれないあなたより、先輩さんの方がずっと頼りになるわ!
先輩さんは……唯さんは、まだお父さんが生きていたときに、ある日突然、私の家に来てくれた。
家の事ばかりで大変なお姉ちゃんの、しっかりもののお姉ちゃんの、唯一息を抜ける……最高のお姉さんだった。
私の我侭にも付き合ってくれて、一緒にバスケしてくれたり、遊んでくれたり……お父さんが入院したときも、すごく遠いのに飛んできてくれた。
何でもできるわけじゃないけど、できることは何でもしてくれた。
ねえ、神様……あなたに先輩さんと同じことができるの?
何もできないくせに、祈るだけ祈らせて……私はもう、あなたなんか信じない!!
もし、先輩さんが悪魔だったとしても、神様よりは何億倍もマシよ!
私はあなたなんかより、先輩さんの……唯さんの言うことを信じるわ!!
「うちのお兄ちゃんと結婚したら?」
あの時、私は公園にいた。
お姉ちゃんと先輩さんがいるのを見つけて、驚かそうと思って隠れて近づいたら、偶然聞いてしまった。
先輩さんの目は真剣だった。
お兄ちゃんのことを心配していたけど、お姉ちゃんのことも心配していて……。
「私の大切なお兄ちゃんを、大好きなユッチにあげる」
先輩さんにとって、お兄ちゃんは何よりも大事な宝物だったのに……お姉ちゃんのために、そう言ってくれた。
先輩さん……私は神様なんかより、何もかも投げ出してくれる、あなたの事を信じます。
何もできない私に代わって、辛そうなお母さんとお姉ちゃんを助けてくれるのは、先輩さんとお兄ちゃんだけです。
だからね、お姉ちゃん……、お姉ちゃんも先輩さんを信じてあげて。
大切なお兄ちゃんと結婚して、昔のお父さんとお母さんみたいに、幸せになって。
大丈夫。
先輩さんが言うんだから、お兄ちゃんはとても立派で優しくて素敵な人で、きっとお姉ちゃんを幸せにしてくれるよ。
お母さんのことは、私に任せて……ね?
「お姉ちゃんは……先輩さんのお兄ちゃんと、結婚するといいよ」
多分彼女も、唯のように病んでいく気がする。
改めて読んで、彼女の思いに少し涙しました。
彼女にとって、唯は神以上の存在……?