16 妹の采配(決断3)
短いですが、どうぞ。
こんなお母さん、いるのかな?
「娘の……、結衣の好きにさせるわ」
声を震わせながらそう言った小夜子さんだったが、これがまだどういう意味なのか、はっきりしていない。
私のターンだ。
畳み掛けるように、私は言葉を発した。
「それは、私がこれからすることを……お兄ちゃんとユッチを結婚させるように私が行動を起こすことを、小夜子さんは認めてくれるということですね? 協力していただけるということですね?」
どういう意味? なんて私は聞かない。
欲しい答えだけを提示する。
答えがまったく違っていても問題ない。
小夜子さんの、はっきりとした意思を言葉にして欲しい。
私はジッと小夜子さんから目を離さず、答えを待つ。
あなたのターンですよ?
小夜子さんは、何かを諦めたかのように大きくため息をついて、今度は落ち着いた声で言った。
「ええ、そうよ。でも、協力はしないわ。唯ちゃんはやりたいようにして構わないけど、私は唯ちゃんのために何もしないわ。」
「それで十分です。私の行動とそのあとでユッチが選んだ道が何であっても認めてくださるとだけ、約束してください。」
「いいわ。その代わり、結衣に無理強いをすることだけはしないでね。あの子に何かを聞かれたとき、嘘をつくのも駄目よ。それから……」
小夜子さんはそこで言葉を切って、決意のこもった眼差しで私を見て言った。
「唯ちゃんのお兄さんがもし、結衣を幸せに出来なかったときは……私は唯ちゃんを許さない」
小夜子さんの言葉に、私は大きく頷きながら言った。
「大丈夫です! お兄ちゃんは私が知っている男の人の中で、一番素敵な人ですから♪」
私は自信たっぷりにそう言って、小夜子さんに笑いかけた。
きっと最高の笑顔で笑えたはずだ。
そんな私を、小夜子さんは抱きしめた。
細い腕と小さな胸に包まれて、果物のような甘くていい匂いがする。優しいお母さんの匂いだ。
「本当に……唯ちゃんはお兄さんが好きなのね」
小夜子さんはそう言って私の頭を撫でながら、しばらくそうしていた。
小夜子さんがいったいどんな顔をしているのか、私には見えなかった。どんな気持ちで、これからのことを私に任せているのか、私にはわからなかった。
とにかく私は、小夜子さんを……ユッチのお母さんを攻略した。
さあ、次にカードを切るのはユッチの番だよ。
……お兄ちゃん、あと少しだからね。
壊れないで、待っててね。
残るはユッチ・結衣の攻略のみ。