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リーナはもう俺のもの。

メイスィルの王都ヴェーゼル。


その中心に建つのは、白亜の尖塔がいくつも伸びる贅を尽くした城、ヴェーゼル城だ。

野心家の過去の王たちが力の誇示の為、何度も散財を繰り返し増築してきた城だ。


城内は白を基調にして金細工で飾られている。ジルンタールと建築様式はほぼ同じである。同じ大陸の西にある国同士、文化の違いはそれ程無い。

ただメイスィルは塔の様に縦長に建ち、ジルンタールは何処かの砂の王宮のように、横長に伸びた宮殿だ。

そしてそれは残念ながらメイスィルより断然デカく立派だった。




「おお、リーナ!元気だったか?相変わらず細いな、食事はきちんと食べさせて貰っているのか?」


二人はヴェーゼル城に着くと、とりあえず到着の挨拶をする為、謁見の間へときていた。

だがリーナが謁見の間に姿を現すなり、ギルバート王は挨拶もフェラルドもすっとばし、ぎゅうっと娘に抱きついたのだ。



「お父様、くっ苦しいですわ」


がっしりとした大柄な体躯のギルバートに、リーナがおしつぶされ骨の一・二本も折られそうなので、フェラルドは慌てて二人を引き離した。


もちろん、理由はそれだけでは無い。入室そうそう大国の王である婿をしかとし、開口一番失礼な事をぬかしたのだ。当然である。


それにいかに親子といえどリーナに抱き付いているなど腹が立つし、許しがたい。

多分これがギルバートの久々の至福を邪魔した一番の理由だろう。


フェラルドはギルバートから奪い取ったリーナを、これ見よがしに自身の後ろに隠した。もう、俺のものだ。的に、不敵に笑んで。


「…………おお、婿どのか。視界に映らなんだのでな、いるとは気がつかず、すまなんだな」


気に入らぬ男め、と愛しい愛娘との再会を邪魔されてギルバートも不適に笑んだ。

この時、こんな存在感のある男は他にいないだろう。と、謁見の間に控えていたイーゼルトや他の誰もが皆思わず心中でつっ込んでいた。


さらにイーゼルトだけは、なんとも子供っぽい独占欲剥き出しの主の態度に、小さなため息が漏れ出てしまった。


(あの方は昔から従弟の欲目抜きでも全てが完璧で、冷静な判断力と、時に冷徹なまでの厳しさと、だが懐広いお優しさをお持ちの方だったのに。それがリーナさまを迎えられて以降、なんとも狭量で情けないお方になってしまわれたのか………。

いや、今もあの方は昔となんら変わりない。ただ、リーナ様に関してだけを除いて、という話なだけで………)


シルジェスと同じような事を思い、再度心中で深いため息をつかれたとは知らず、フェラルドも悠々と切り返す。


「いえ、お気になさらないで頂きたい。お義父上殿ももうお歳だ、目が悪くなるのはいたしかた無い事ですよ。何なら腕ききの医師を紹介しましょうか?コチラの国には無い我が国の最先端医療技術を習得した名医を」


フェラルドは、ふん!と何とも不遜な態度で、玉座に戻ったギルバートに美麗な笑みを送る。相手国の医療技術までコケ下す非礼さも優雅?だ。

これからはお互い交流を、とか何とかかっこよくシルジェスに言っていたのは彼だったはずなのだが…………。



「ほう、この国には無い医術か。それは気になるが、だが今のところは結構だ。まだまだわしは耄碌しておらんのでな。剣技もさらに磨きがかかって困っている。婿殿に一度手あわせ願いたい位だ。だがお気持ちだけは受け取っておこう」


この青二才め!とギルバートは内心舌打ちした。


和解したはずなのだが元敵国だ。しかも何処となく尊大気質がかぶる二人の、一触即発の空気に周りははらはらと肝をひやした。

だが、年の功か相手が客人だからか、とりあえず先に(形だけの)礼を取り戻したのはギルバートの方だった。



「まあ、何はともあれ、良くぞ来られた。一週間と短い期間ではあるがゆるりと過ごされよ。催しも多数用意してあるのでな、退屈はせぬと思うが何かあればいつでも申しつけてくだされ。足りない物があれば、用意させるのでな」


「ええ、そうさせて頂きます。お義父上殿のお心遣いに感謝します。こちらに滞在中は夫婦共に世話になる予定ですので、宜しくお願いします」


礼には礼で。例え互いにいちぶつも、にぶつもあろうとも、心中では八つ裂きにして踏みつけていても、煮て焼いて揚げて蒸して、すりつぶして野良犬の餌にしていても、両者とも一国の主である。最低限の礼節は兼ね備えている。

もちろん表面上は、だ。


「おお、そうだ。今回は貴族の若者達も多数呼んであるのでな、是非、貴重な同年の親睦を深めてくれたまえ。婿殿には中々そういった同年代の若者とふれあう機会は少ないであろうからな。婿殿に会いたいと来ている者も多いようだぞ」


「そうですか。分かりました。その際には是非親睦を深めさせて頂きたいと思います」


互いににこやかな笑みを浮かべているが、その瞳には挑戦的な色がくっきりと見えていた。それを証明する様に、心中では両者とも悪態の嵐だった。



(小生意気な青二才め!多少の才を持つかどうか知らんが、いつかその憎たらしいうすら笑いと首を、同時にへし折ってくれるわっ!貴様などに我が愛する娘を捕られてなるものか!)



(食えねえジジイめ!鳶が鷹を生むとは正に良く言ったものだな。こんな強かで強欲な男がリーナの父親とは、未だに信じられん!老い耄れのくせに無駄に鍛えてる様だが、おまえ程度の腕で俺様に手合わせを望むなど、身のほども知らん阿呆の極みだな。いっぺん受けて立って、腕の二・三本でもへし折ってやろうか?)


フェラルドよ、人の腕は二本しか無い。



「お父様、お元気そうで何よりですわ。いつも贈り物ありがとうございます。」


二人の会話がひと段落したとみて、リーナは久々に会う父親に改めて挨拶をした。

すると、もうお前など眼中に無い、とばかりにギルバートはフェラルドを無視してリーナに駆け寄る。


「おお、気にするで無い。可愛いお前が不便な思いをしているなど、わしには耐えられんのだ」


「・・・・・・」


ギルバートはリーナの頭を撫でながら、またしても失礼な言をのたまったが、フェラルドはあえて聞き流してやった。キリがないからだ。


リーナが言った贈り物とは、一月前にフェラルドのもとに嫁いで以来、三日に一度の割合で父親から贈られて来る物の事だ。


その中身は、最新のドレスを始め、それに合う靴、帽子、扇子、スカーフ、ぬいぐるみにお菓子、はたまた白馬など動物まで有り、かなり多彩だった。



「いいえ、お父様。私は不便などしていませんわ。フェラルドさまが何でも揃えて下さるので、困った事は一度もありませんわ。むしろ良くされ過ぎて申し訳ないほどです。なので、御心配にはおよびません」


リーナはにっこりと父親に向けて無邪気に微笑む。それを受け「そうか………なら良いが」と、答えたギルバートだったが、愛娘が憎っくき男を庇った事に、若干悔しげに顔を歪めた。


その様子にフェラルドは「ざまあみろ。」とばかりに内心でほくそ笑んだ。



「あと、お手紙のお返事が遅くなってしまい申し訳ありません」


「そうじゃぞ。なかなか返事が来ぬから、何処ぞで灰になっておるのではないかと、心配しておったわ」


(いちいち嫌みな男だなギルバート奴め!父親の手紙をリーナに渡さない程俺は腐って無い。お前とは違うんだよ!まあ、中身はオレがしっかり検閲しているがな………。多少灰になったモノも有ったかもしれんが……。)


しれっとフェラルドは悪気なく思った。

そう、毎回リーナに送られてくるギルバートからの贈り物や手紙は、残念ながら本人に届く前にフェラルド直々の検閲がはいるのだ。一応、元敵国の王から愛娘への手紙だ。用心に越した事はない。


だがフェラルドの場合、政治的な部分だけでは無く、私情が大分混じっているのは明らかだ。

リーナは両者の思惑や嫌みの応酬合戦など、全く気づく事なく、こてんと首を傾げる。


「??灰?手紙はちゃんと届いていますよ。けれど、お返事を書き終わる前に、又次のお手紙がきてしまって、なかなか書けずにいましたの。ごめんなさい。」


「そうか、それは悪かったな。仕方ない、送る間隔は少し空けるとするか……。それで良いか?リーナ?」


「はい。ありがとうございます。お父様」


リーナは心配性な父親に可憐に笑んだ。

その極上に可愛い顔に、二人の国王様達は更に骨抜きになっていた。




****




ギルバートへの挨拶も早々に切り上げ、二人は迎賓館に用意されたジルンタール国王夫妻の居室に戻ってきていた。


国賓を迎える迎賓館はいくつかあり、その中の最も大きい建物が二人の滞在中の家だ。

さすがに今回一番の王族の賓客というだけに部屋数も半端なく多いし、多分この城で一番豪勢な客室に違いない。


今回の王族参加はフェラルド達だけだが、たとえいくつもの周辺諸国が集まろうとジルンタールの待遇は今回とさほど変わらないだろう。要するにジルンタールはそれ程に力ある大国なのだ。


中の室内は全て扉を隔て一列に繋がっており、一部屋づつ壁紙や家具の趣向が変えてある。

そしてなぜか夫婦の寝室は端と端だった。

しかもリーナの寝室だけやけに頑丈そうな鍵つきだ。



「悪意を感じずにはおれんな。なんだこの部屋の配置は………大体もう手を出した後だと思わんのか?通常の王族の結婚ならとうの昔に済ませている頃だろうに!」


自室の長椅子に気だるげに腰をおろしたフェラルドは、側に控えるイーゼルトにぶつくさと文句を吐いた。


「陛下………下品です。大体そんなにリーナ様と一緒がいいなら、彼女の寝室で一緒に寝れば良いんじゃないですか。夫婦なんですから誰にも文句は言われませんよ」


「…………いや、それはだめだ」


思いつめた表情でフェラルドは額に手をあてる。イーゼルトはそれを訝しげに覗き込んだ。


「なぜです?」


「決まっている。男の衝動に負けるからだ」


「負けてもいいでしょう。別に。どうせいつかはするんですから。陛下も先程自分でおっしゃったじゃありませんか、通常の王族の結婚ならもうとっくにしてると」


「おまえ…………王子さま面でサラッと、する。とか言うな!どっちが下品だ!お前に心酔してる女共に聞かせてやりたいぞ。全く!」


平然と答えたイーゼルトに軽蔑の色満載でくわっ!とフェラルドは吠えた。

それを不満げにイーゼルトがかえす。


「何ですかその偏見?私だっていたって健康な男なんですけど。それに、顔は関係ないでしょうに。大体私がこういう人間な事は皆さん分かってますよ。それがいいと言われますしね。陛下こそ昔は一夜の戯れが盛んだった時期もあったじゃありませんか」


過去を良く知る従弟同士の不毛な争いがはじまった。

人目がない時にはしばしばあることだが、本来の部屋割りうんぬんリーナうんぬんという話はもう陰も形もない。

フェラルドは面倒くさげに眉根を寄せた。


「人聞きが悪い。人を発情期の犬みたいに言うな。それに別に俺はどちらでも良かった。ただ相手がしつこく誘って来るから応じただけだ。それでも相手はちゃんと吟味していたしな。面倒事はごめんだからな。もとより戯れに愛なんてない」


「うわ、うわ最低ーですね。私はどんな場合でも毎回相手の女性をきちんと愛してますよ。」


「器用な奴だなお前。まるで遊び人の鑑だな、俺には無理だ」


「どういたしまして。たまに自分でもそう思いますよ」


にこっと必殺!美麗な王子さま顔!をフェラルドに向ける。令嬢たちが見たらぱたぱたぱたとドミノ倒し式に失神していくことだろう。


「ねぇ終わった?もてもてタラシ自慢。ジルンタールの王族がみんな遊び人なのは分かったけどさ、そろそろいい?」



「「シエル!?」」







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