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行商人がおとした謀略の欠片

ジルンタールの隣国メイスィル。


ジルンタールと同じく南を海に面し、北を年中雪積もるガベール連峰に覆われている。


西の国境ふきんには岩場が広がり、大河を挟んだその向こうには異なる文化の大国と、雄大な砂漠がどこまでも続いている。


東には広大な平原。

かつて幾度となく戦場となった地で、数多くの名残を未だ残しつつも、ここ最近急遽整備された国境沿いの街道だけは滑稽なほど綺麗で浮いていた。


その東の隣国ジルンタールとの国境沿いにある、エール街道。

今そこに歳の差新婚夫妻がいた。


王家の大行列が厳かに通っている横で、遠慮がちであるが忙しそうに数多くの行商人達が行く。そのときふいにフェラルド達の馬車が停止した。


「おい、なんだか騒がしいな。どうした?」


王家専用の白地に金細工を施した豪奢な馬車から、フェラルドは窓にかかる隠しカーテンを引き顔を出した。


「お騒がせしてすみません。行商人達が今幾人か通って行ったのですが・・・」


立派な白馬を横付けしてきたイーゼルトが前方を見つめながらフェラルドに答える。


「どうやら前方で数台の荷馬車が荷の重みに耐えかね転倒したようです。その荷の下敷きに子供がなっているようで、今前方の兵達が対処しに向かっておりますので、もう少々お待ち頂けますか」


「それは構わないが、怪我人は多そうなのか?重傷人がいるなら、暫く休憩をとってもいいから手当してやれ」


眉根をよせた主が、実は優しい事を知っているイーゼルトは、彼がこう言うのを分かっていた。そしてやはり予想どうりの主の答えに若干苦笑した。


「了解しました。おいっ!向こうの道端に怪我人を運んで手当してやれ」


イーゼルトの指示に、はっ!と幾人かの親衛隊の声が上がる。

と、同時に後ろでガチャリとドアの開閉音もしたが、隊員達の声に紛れて美青年二人の耳には届かなかった。


数秒後、後ろを振り向いたフェラルドが驚愕するのは当然だ。

そこには可愛い妻の姿が無かったのだから………。



****




(本当にフェラルド様は素敵な王さまだわ。自国の民だけでなく、よその国の民まで心配してあげるなんて。お父様とはずいぶん違うのね。私も妻として恥じないようにお手伝いしないとね。

そういえば小さなお子さんまで怪我してる様なことを言ってらしたわ。可哀想に…………急がなくちゃ!)


天然妖精姫リーナが不思議な使命感を燃やし、馬車から抜け出て向かった先は、つい先ほど荷馬車の下から助け出され手当を受けていた少年の元だった。



「大丈夫あなた?痛かったでしょう?でももう大丈夫よ」


周りがいきなり現れた若い王妃に騒然としている中、豪奢な旅装用ドレスが汚れるのを気にも留めずリーナはしゃがみ込んだ。

そしてあろうことか、ぼろを纏った平民の少年の汚れた手を、真珠の様な華奢な両手で躊躇なくきゅっと握り込む。その少年はシエルより少し年下のようだ。


「なっなんだお前っ!この隊列の親玉かあ!?」


リーナの豪奢な服装から普通にそう判断したようだ。

無防備に握られた自身の手を信じられない光景でも見るように少年は凝視し、動揺を隠せないでいる。

生意気そうな目や態度は少年らしく虚勢を張っている様にも見えるが、何処か別の何かに怯えているようにもみえる。


「えっ?おやだま?そうねぇ、多分おやだまではないけれど・・・二番目のおやだまだと思うわ。私はジルンタールから来たリーナよ。この隊列はジルンタールの王家の隊列だから安心していいわ」


その途端、ばっと握られていたリーナの両手を少年が強く振り払った。そしてがばり、と立ち上がる。


「きゃっ!」とリーナが小さな悲鳴をもらし尻もちを着くのと同時に、ひやひやと周りで見守っていた兵達が一斉に少年に向かって動いた。


「やめて!いいの大丈夫だから………ごめんなさい。手を握られるの嫌だった?」


「あっ………ごめん!」


純粋に凹むリーナに気まずそうに謝ると、次の瞬間少年は踵を返して行商人仲間の所にかけて行った。

たどり着いた少年が商人達と何やらチラチラとリーナ達を見て短いやり取りをしたと思ったら、その後すぐに手当もそこそこで行商人達一行は荷馬車に荷を縛りなおしてそそくさと去って行った。



****



リーナが突然消えてしまい探していたフェラルド達が、リーナを見つけたのは彼女がぎゅっと少年の手を握りしめていた時だった。


「ちょっとあの小僧を切り刻んでくる」


と平然と行こうとした主をイーゼルトは慌てて止めた。


「わっ陛下!待って下さいって。わざわざ助けた少年を殺してどうするんです?大体彼の方が握られてるように私には見えますけどね。全く!リーナ様の事になるとこれだから………とりあえず少し様子を見ましょう」



呆れ気味に諌めてくるイーゼルトにふん!と言いつつも兵達の後ろから様子を窺がっていた二人だが、彼女が突き飛ばされた時の反応はどちらも同じだった。


剣の柄に素早く手を伸ばし、駆け寄ろうとした。が、その時に彼女が制したので、とりあえず二人はまた黙って見守る事にしたのだ。


それからすぐに少年は慌てて去って行った。

去っていく姿を見届けながらフェラルドはリーナの傍に行き、抱っこして起こしてやる。


だがフェラルドに抱っこされながらも顔を赤らめるコトすら忘れ、若干しゅんと落ち込む優しく可愛い妻をみて、また大人げない殺意と嫉妬がむくむくと湧いてくるのをフェラルドは止められなかった。


(あの小僧………次にあったら絶対殺る!)


もう一度ギンッと少年を睨み見ると、何やら様子がおかしい。仲間の行商人の中で一番偉そうな奴とチラチラとこっちを見ながら話したかと思うと、急に焦った動きをしだしたボスっぽい奴が、他の行商人仲間たちに素早く指示をだし始めた。


「………」


眉間を軽く寄せたフェラルドは予感した。


(めんどくせぇな……)



とりあえずリーナを馬車に戻したフェラルドは、そそくさと引き上げていく行商人達を、自身の隊列の真ん中辺りからイーゼルトと見渡していた。


するとその時、そばに音もなく一人の親衛隊員(仮)が現れた。



「あの人達、みんなスゴイ真っ青な顔だね。はい、コレ。プレゼント♡落ちてたよ~」


とシエルから楽しげにフェラルドへ手渡されたのは綺麗な一つの石だった。それは加工前の鉱石だった。


「これは……黒銀星石ですね……なにやら行商人達の様子もおかしいようですし、過重で横転した事も考えると………荷を検めさせますか?」


眉をしかめ厳しい表情で指示を仰いでくるイーゼルトに、フェラルドはいや、とゆっくりと首をふる。その漆黒の瞳は底知れぬほど冷たい。


「ここはメイスィルだ。下手に検めて何も出なかった時に、何だかんだと噛みつかれても鬱陶しい。だから今は見逃しておけ。所詮奴らはトカゲの尻尾だ。問題はその後ろ…………頼んだぞシエル」


そう言うとフェラルドはシエルに向けくいっと顎をあげた。それを受け取った零隊長は「は~~い了解しました~~」と明るく言うと次の瞬間には二人の目の前から消えていた。


シエルが姿を消したのを見届けたフェラルドは、自身のイヤな予感が想像よりかなり面倒くさくなりそうで、思わずでっかい舌打ちが出た。








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