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俺様の妻は子供じゃない



フェラルドがうじうじと自業自得で落ち込んでいた頃。こちらの可愛いらしいのんびり姫も珍しく落ち込んでいた。

生地に薔薇と小花が散りばめられた可愛い長椅子の上で、クッションをぎゅっと非力なりの最大級の腕力で、抱き潰しながら…。



(どうしましょう……フェラルド様を無視してしまったわ。だって、昨日あんな事されるんだもの。お口の周りをぺろりって、ペロリって…………)

「っ!」

リーナの顔はボンッ!と音がたちそうな勢いで真っ赤になった。


昨日リーナはフェラルド曰く男の衝動とやらで、彼に口の周りを思う存分舐め回された。

何やら急に妖しげな雰囲気になり、近づくフェラルドの端整な顔はいつもより数段艶やかで、色っぽくなったのだ。リーナのさくらんぼの口元に寄せた舌が、流れるようにいやらしくお菓子のくずを舐め取り、そこを小さく吸って、また小さく舐めて、もはやお菓子のくずなど何処にも無いがまた吸って、口づけして、また舐め回して、口づけして……etc……。最後の方には彼女の記憶は無かった。



あのときのフェラルド様、濡れたような眸で、妖しく見つめてきたわ。あれが大人の色気というものなのかしら?色気……。

いつものフェラルド様と全然違った……。何だか……


「まるで知らない人みたいで……落ち着かなくて怖かったんだものっ」


そう、小さく悲鳴めいた声を出し、リーナは真っ赤な頬を華奢な両手で抑えた。



「どうしましょう……どうしたらいいの?謝りに行くべきなのは分かっているんだけれど、このままじゃいけない事も……。でも、どうしても恥ずかしくて、顔を会わせられないんだものっ!

何て言っていいかも分からないし……。

もしかして私が変に意識し過ぎなのかしら?そもそも私達夫婦なんですものね!これは夫婦の挨拶みたいなものなのかしら?こんにちは、ペロリみたいな……?えっ?他所の夫婦はみんな挨拶の時こうしてるのかしら?み、見たこと無いけど……。

お父様達もしてたのかしら?

うみ~~!分からないわ!」


コンコン…。


「リーナ様、宜しいでしょうか?」


「!!!」


パニックに陥り過ぎて、口から全てが駄々漏れだったリーナは侍女の呼び掛けに息を飲んだ。

扉の向こうでは、主の返事を待っているようだ。


「は、はい。いいわどうぞ入って」


「失礼致します」


ガチャリと飾り彫りの美しい瀟洒な扉が開く。

姿を現したのは、いつもの侍女ライラ……と最近ようやく見慣れた麗しい男。先程まで彼女をパニックに陥れた元凶でもある。そして今も


「急にすまないなリーナ、ちょっといいか?」


「。。。。」


残念なことに混乱と動揺の極みを尽くした彼女には返す言葉など出ない。いや出てこない。

はい、ともいいえ、とも言わず無言で真っ赤な顔で震えを堪えるように立ち尽くしている。


それをどう捉えたのか、フェラルドは申し訳なさそうに困った顔をした。


「悪い、すぐ出て行くから、少しだけ話しをさせてくれ」


「い、いえっ!気になさらないで下さい。私もちょうどお話がありましたのでっ」


「そうか」


「はい、そうです。。。。」

暫しの沈黙。

夫婦ではあるが、政略結婚の上、年齢が離れた二人だからこその距離だ。

最初に切り出したのはフェラルドだった。


「リーナ、昨日は悪かったな」


「い、いえ、とんでもないです!私の方こそ今朝はぼ~としていて、挨拶も出来ずにごめんなさい」


「いや、お前は何も悪くない。謝る必要はないし、気にするな」


「そんな事ないです。あっあの、もしよろしければ、今からお茶でもいかがでしょうか?」


「茶か、そうだな。丁度仕事も一区切りついたとこだし、頂くとしようか」


それからほどなくしてメイド達がお茶のセットを運んできた。

爽やかな甘い芳香を漂わせた一級品のカップを、彼女達は危なげなくテーブルに置くと、主夫妻に気を使い素早く去っていく。メイド達が部屋から出たのを横目で確認すると、フェラルドは口を開いた。


「どうだリーナ、少しは城内は覚えたか?」


最初に口を開いたのはフェラルドだった。

端正で綺麗な顔の薄い唇が紅茶で少し湿って艶やかに光る。

その色香につい昨日の事がまた頭に浮かんでしまう。

「。。。。。」


「リーナ?」


「えっ!あ、はい色っぽいです」


「色っぽい?何の話しだ?」


「や、いえ、そのなんでもないですっ」


顔を赤く染めたリーナの視線が自分の唇に注がれてる事にフェラルドは鋭く気づいた。

すると彼の中の悪い虫はまたむくむくと顔を出してしまう。

「リーナ、こちらにおいで」

フェラルドはおいで、おいでをして艶やかに笑む。

「?は、はい」


今だ顔を赤く染めたままリーナはすたすたとローテーブルを回りこみ夫が座るソファーの隣にちょこんと腰かけた。

その様子が何とも可愛いらしいのでつい抱きしめてしまう。


「きゃっ」


するとリーナは小さく悲鳴をあげた。

我ながら懲りない男だとフェラルドは思う。

だが言い訳するわけでは無いが、この娘のこの愛らしさに勝てる男は、多分自分の変人の側近くらいだろうと彼は確信している。勿論シルジェスのコトだ。


「リーナ、キスしてもいいか?」


昨日の今日だ、フェラルドは流石に断っておく。

するとより赤く顔を染めてうつむきながら彼女は答えた。

「あ、えと、えと、はい。どうぞ」


何とも初々しく可愛い反応だろう、この瞬間自分の理性を危うく全て手放しそうになったのをフェラルドは感じた。


「昨日はいきなり激しい口づけをして悪かったな、今回は出来るだけ、出来るだけだが控え目にするつもりだから安心していい」

それでもなるべく自嘲するむねを伝えると、

リーナが決意の表情でコクリと息をのんだ。


「いえ、いいんです!夫婦ですので、その、フェラルド様のお好きにされても、それに私はあまりそういう事に馴れていないので、お、お勉強のつもりで、少しずつ馴れていきますから、お恥ずかしいですがフェラルド様色々お教えくださいませ」


顔をこれでもかと赤く染め、恥じ入りながらも一生懸命フェラルドに応えようとするいじらしさたるや、悶絶級に可愛い。フェラルドの危うい理性への破壊力は言うまでもない。


(お恥ずかしいですが、フェラルド様色々やらしいことを手取り足取り全てお教えくださいませって…お好きしてくださいって、いいのか!?キス以上を彼女は望んでいるという事だよな?!遠慮は無用という事だよな?)


「な、馴れる必要はないがいいのか?本当に?途中からまったは聞けないぞ」


「は、はい。遠慮しないでしてください!」


フェラルドは舞い上がっているが、勿論彼女が言ったのはキスの事だ。

彼は大いに脳内で好き勝手に脚色して捉えた。

リーナの頭にはキス以上の行為などはなから存在すらしていない。


「分かった。最初だからな、少し痛いかもしれんが出来るだけやさしくしてやるから安心して俺に全て任せればいい」


え?痛いの?初耳だ。とばかりにリーナは目を軽く見開いた。

(キスって痛いの?昨日はどうだったかしら?あまり痛みは感じなかったけど、痛いのもあるって事かしら?それともフェラルド様がお上手という事かしら?今までのキスはとっても気持ち良かったと思うけど……。キ、キスって色んな種類があるのね…本当に謎だらけだわ。やっぱり妻として少しはお勉強しなくてはダメね。恥ずかしいけれど頑張らなきゃね!)


「はい、よ、宜しくお願いしますわっ!」


フェラルドの腕の中に抱きしめられながらぺこりと頭を下げた。そんな美少女を抱き上げると、フェラルドは逸る気持ちを隠しきれずに大股で寝室へと彼女を運ぶ。


(寝室?何故寝室にきたのかしら?今回のキスはここでないとダメなのかしら?)


とさり。とキングサイズのベッドにリーナは静かにおろされた。


「フェラルド様、今回は寝室でないと出来ないのですか?」


「大胆だなリーナ、寝室でなくとも出来るが、今回は寝室にしておこう。初めてだしな。次回はお前の望む場所でしてやる。どこがいい?裏庭の東やか?それとも図書室、馬車内、俺の執務室、温室でもいいな」


願望も宜しく変態な妄言を繰り広げているフェラルドだったが、ここへ来て漸く何かがおかしい事に気づいた。

彼女は本当に、何も……何にも分かっていないのではないか?と。

今から行おうとしてる事をリーナは一体どれだけ理解しているのだろうか?と。


(紳士として確かめるべきか?欲望のまま進めるべきか?いや、だがリーナも自ら言っていたではないか!

色々お教えくださいと。お勉強すると。遠慮はいらないからお好きに抱いてくださいと。)


言ってない言葉まで欲望に支配された脳内ではご自由に脚色される。結果当然ながら、フェラルドは欲望のままに進める事にした。

そんな悪どい選択をされてるとは露しらず、リーナは無邪気にフェラルドに答えた。


「そうですね、良く分かりませんが、温室など景観もステキでいいと思います」


「よし!では次回は温室で決まりだな」

フェラルドはそういうと自らも寝台に乗り出した。

艶っぽい顔をして、無防備に横たわるリーナの上に股がってきた。


リーナはドキドキと心臓がうるさく鳴りだした。

(またあの色っぽい顔だわ。

どうしよう。落ち着かないわ。)


不安と期待が入り交じりながらリーナは頬を染めた。緊張で潤んだ瞳でフェラルドを見つめる。

フェラルドもどこか落ち着かない様子だ。

いつもの彼の端正な顔もほんのり赤い気がする。

それがまた、リーナの鼓動を早めた。

すると、艶やかな雰囲気を纏わせながらも、突然真摯な表情でフェラルドはリーナを真っ直ぐに見つめた。


「リーナ、俺はお前を愛している。妻としても女としてもだ。政略婚で歳は一回りも離れているが、そんなことは関係ない。死ぬまで大切にお前を守ってやる。だから、俺にお前の大切なものを奪わせてくれるか?」


どこか切な気に感じるほどの、懇願に近い告白に、リーナは体中がぼんっ!と全身火になった気がした。

初めて聞いた。フェラルドの本心。

今までも可愛いとか、大事だとかときどき言ってくれていたが、彼が言うように、政略婚で、歳も離れていたので、ただ子供を可愛がる感じのものに思えてリーナはずっと不安だったのだ。


(フェラルドさまは大人で、色っぽくて美形で、容姿は完璧でおまけに優しくて、頭も凄く良くて、強くて、包容力があって、最高に高い地位に立つお方で、皆から尊敬されるまさに非の打ち所のない素晴らしい男性だわ。それに比べて私は、キスの何たるかも分からずに、ただ動揺するだけの無知で世間知らずの子供……。だから…妻ではあるけれど、きっと女性として見ては貰えて無いってずっと…思っていたのに……)


夫婦が男女の営み、という儀式をすると子供が出来る。それだけは知っているが、勿論その内容がどういったコトをするのかは、リーナは一切知らない。父王の溺愛により嫁ぐ前に学ぶ、最低限の閨房学すらやらされてこ無かったのだ。愛し合ってる男女がキス以上のあれこれをする、なんて発想は彼女には毛頭無い。清いまま大事に籠の中で純粋培養で育てられたリーナは、如何わしい大人の情事に関する事全てから全力で遠ざけられて来たのだ。

だがココ最近のフェラルドの暴走行動によって、リーナはどうやらキスというものは、スゴくレベルや種類があるらしいとナナメ上に勘違いして学び始めていた。


「フェラルド様、私すごく嬉しいです。政略婚で子供の妻をめとる事になって本当はすごく嫌だったのではないかと、ずっと不安でした。だから……」


喜びで胸が熱く締め付けられ、瞳に涙が浮かんで上手く続きが話せない。

そんなリーナを優しい瞳で見つめると、フェラルドはふっと柔らかく笑んだ。

そしてリーナの眦に浮かぶ水滴をそっと指先で拭いさると、彼女の身体を抱き起こし、ベッドの上で座り直した自身の膝にちょこんと横向きに乗せた。


「そんな事あるわけないだろう。まあ、確かに最初は政治的思惑でお前をもらい受けたが、嫌だなどと思った事は一度として無い」


「それは本当ですか?」


不安気に涙で濡れた瞳で見つめてくる可愛い妻の頬にフェラルドはそっと触れた。


「ああ、お前は従順で優しく素直で、可憐だ。噂に違わぬまさに妖精姫だと思ったぞ。この城内もお前がきてから明るくなったしな。迷子捜索で皆走り回されて随分楽しくなったものだ」


クスクスとまさに楽しそうに笑われてちょっとだけむくれてしまう。


「もう!ひどいですわ!真面目に話しているのにっ!」


ぷいっと顔を反らそうとしたが、頬に触れているフェラルドの手がそれを許さなかった。

ふいに、優しい眼差しから艶めいたものに変わった気がして、リーナは急に落ち着かなくなった。


「で、でも、ほら、やっぱり子供だとお思いじゃないですか。迷子なんかに大人の女性はならないですもの。本当はフェラルド様も大人の女性が…いいですわよね……」


言いながらどんどん凹んできたリーナの頤を、軽く掴むとくいっと上げた。

え?と思った瞬間、唇に温かいものが触れた。


キスされたのだ。

フェラルドはすぐに唇を離すと、妖しく視線を絡ませ、今度は角度を変えて深く濃厚なものを繰り出す。


「んんっ!!」


昨日のように唇を舌で舐めなぞったと思ったら、いきなりそれを割って口の中に生温かな何かが侵入してきたのだ。何が起きたのかびっくりして硬直したリーナが、徐々に舌だと気づくと、さらに驚きで目を見開く。間近にある彼の艶めいた瞳が少しだけ細められる。どうやら笑っているようだ。

それに対して反応する前に、口内で妖しくそれが動きだしたのでリーナはそれどころではなくなった。


「んっ!んんんっ!ん……んっ……!」


近くにあるフェラルドの胸元を必死に掴む。


しばらくして漸く唇を解放されたころには、リーナはくたりと骨が溶けたように力をなくしていた。

目はとろんとして顔を赤く染めて、荒い息を必死に整える。


フェラルドは彼女の息が整うのを待った。

そして今にもくずおれそうな愛妻を抱き支えながら、フェラルドは先ほどの行為で妖しく濡れた唇を開く。


「確かにお前は、世間の大人達からみれば年齢的にも大人になりつつあるが、まだ子供の域を完全には脱していないといったグレーなのかもしれない。俺も単純に他の奴でその年齢を聞いただけなら今でも同じ事を思うとおもう」


「やっぱり……そうですよね」


漸く呼吸の整ったリーナは悲しげにうつむいた。それをあやす様にフェラルドは長い髪を優しくなでると、


「だが、それは俺も同じだ。俺よりひと回りも上の奴からしたら、俺も所詮まだ若造なんだろうな。まぁ、俺の場合はそんな事ほざいたら地中深くで永遠の後悔をさせてやるがな。ゴホン!ま、要はそれは仕方ない事だと俺は思うぞ。年の差なんて縮めようがないからな」


「はい……」

今だしゅんとした可愛い妻を軽く抱きしめて、さらに髪を撫でてやる。その手つきは優しく、愛おしさに溢れている。


「リーナ、お前は勘違いしているみたいだが、俺はお前を子供とは見ていないぞ」


「えっ?でも今、子供だって……」


「世間から見ればな、といったろ?俺はお前を一人の一人前の女として見ている。愛らしい部分も含めて、それはお前の魅力だ。俺はそこも気に入っている。迷子になるところもな。それに単なる子供に俺はあんなキスはしないぞ。

お前が愛しいからしたんだ。一瞬で理性が吹っ飛ぶほどリーナが可愛くて愛しいからしてしまったんだ。悪いがこれでも理性には自信がある方だったんだがな」


クスリとフェラルドは困ったように苦笑した。


「フェラルドさま…」


リーナは嬉しさで、落ち着いてきた頬の赤みがまた増す。同時に瞳も潤んでいく。


「そんな目で見るなリーナ、また欲情してしまうだろう?どうやら俺の理性はお前には効かないみたいだからな。それに、実際お前の身体は…も、もう十二分に大人だ。先ほどからお前を抱いているが、その……」


「?その?」


「…腕や身体に…二つの弾力ある…柔らかい膨らみが……当たっていて…十分な成熟を俺に告げている……からな…」


「え?なんですか?ごめんなさい小さくてよく聞こえませんでした」

彼にしては珍しく、所々ボソボソと声が小さく話すのでリーナには彼の意図は届かなかった。


(二つの弾力がある当たり?が十分成熟?をフェラルドさまに告げている?リンゴかしら?フェラルドさまはリンゴが好きなのね!あ、待って!あぶないあぶない、二つの、だから双子チェリーかも知れないわね?弾力もプリっとしててチェリーのがありそうだし!)


「い、いや、何でもない。気にするな」


この時フェラルドは思った。

俺は一体どうしたのだろうかと。こんなこと思春期のガキじゃあるまいし恥ずかしがる事でも無いのに…。だが理由は分かっている。


今自分の腕の中でこてん、と可愛いらしく小首を傾げている姫のせいだ。

今まで自分からそれほど強く女性を抱きたいと思った事ははっきり言って無い。

どれだけ美女だの妖艶だのと言われている女性だろうと自分からしたら皆同じに見えた。


ただ誘われて、面倒くさくない相手で、たいして断る理由もないので事に及んだ。という所だ。淡白だと女性達は言うが、全然それでいいと思ったし、実際に冷めてると自分でも感じていた。


だからまさか自分がこれほど女性に執着出来る情熱があったことに逆にびっくりしているぐらいだ。

それも今までどちらかと言えば清純派はちょっとめんどくさそうで苦手部類に入っていたのに。

愛しているなんて台詞を、まさか自分が飾らず本心からこぼれてしまう日が来ようとは……


人生とは分からないものだ。


そしてその相手は一回りも年下の幼妻だった。

結婚など王族の仕事位にしか思っていなかったから相手などはっきり言って誰でも良く、政治的価値があるかないかだったが。


俺はつくづく運が良いと思う。

愛した相手が最初から自分のモノなのだ。

これほど信じていない神に、手の平返しで盛大に感謝したことは無い。何しろ信じていなかったのだから…。

あんなに可愛い妖精姫などどれだけ敵がいることやら想像にかたくない。


「だがまあ、だとしても誰にも負けてやる気も譲ってやる気もさらさら無いがな」


突然ぼそり、と言い不敵に笑ったフェラルドに、これまた小さく小首を傾げたリーナだが、特に気にせずそのまま逞しい腕の中にちょこんと大人しく抱かれていた。




程無くして、ガンッ!と猛烈な勢いで王妃の私室の扉を無遠慮に蹴破ったのは国王の腹心の宰相だ。

つかつかと一切の躊躇なく寝室の扉も「失礼します」と同様に蹴破り対象の人物を見つけると、青筋を立てて、ゆらりと静かな怒りの炎を纏う彼により、フェラルドの至福の一時は無念にも終わった。


「お探ししましたよ陛下っ!」


「お前……もし最中だったらどうするつもりだ」


「ご心配には及びません。その場合は入りませんので」


その台詞を聞いたフェラルドはこの有能な部下は一体どこまで自分達を把握してるのだと、一瞬本気で恐怖的疑問を感じたが、すぐさまそれは深い溜め息と共に流した。







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