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新妻に恋してしまった。俺様くん。

今日も彼は苦悩する。

それは最近の日課と言ってもいい。



「またここに居たのですか?毎日毎日良く

飽きませんね、取り敢えず戻って下さい。仕事がまだ山のように残ってるんですから!」


肩までの銀髪を後ろで一つに括り、慇懃無礼を見事に滲ませたシャープな顔つきの辛口美青年は、今日も呆れ顔で主を叱咤する。


何せ彼が言う通りここ最近毎日裏の温室で油を売っている主を、毎日わざわざ迎えに行くのは彼なのだから、無理もない。


「うるさいなシルジェス、わかっている。今戻ろうとしていたところだ」


確実にウソだが彼、もといフェラルド・アーラン・ジルンタールはこう見えてジルンタール国の若き賢王である。

艶やかな黒髪と自信溢れる黒い瞳の美青年は、本来ならば執務も真面目でその類い稀な政治力と、采配、民への思い深さで周りからの人望も民からの信頼も厚い男だ。


「そうですか、では早速参りましょうか。」


「シルジェス、お前最近何だかいつもより輪をかけて性格悪いぞ。」


「気のせいですよ」


優秀な側近にさらっと受け流されても今は特に気にならない。

それより気になるモノがあるからだ。

二人は温室を出ると本殿の執務室に向かい裏庭を歩いていた。



「あら、こんにちはフェラルド様」


深緑色の瞳を輝かせ、透きとおる金のふわふわ髪を風になびかせる少女は、このジルンタール国に先日嫁いできたリーナである。


「ああ、今日も裏庭の散策か?」


「はい。いろいろなお花に出会えてとても楽しいです」


「まあ、この国でここより広い裏庭は多分ないだろうからな。あまり奥までは行くなよ。迷子になるといけないからな」


はい、と可憐に微笑むと彼女は再び散策を続けに行く。その頼りなげな、後ろ姿をぽぅっと眺めたままフェラルドがまたひとつ息をつく。

その様を側近の男はややあきれぎみで横目で見ると、彼もまた大きなため息をした。そして、


「行きますよ………」


と主を促す。


「あ、ああ。分かっている!」


そのままフェラルドは側近のシルジェスに、追い立てられながら執務室に向かった。



ジルンタール国と隣国メイスィル国、この二国は隣り合わせだが、ついこのあいだまで小競り合いが続いていた。

だがこの度、ジルンタールの若き賢王と、メイスィルの妖精姫との婚姻という形で和解する事となったのだ。


(妖精といっても勿論普通の人間の少女である。妖精のように可憐で美しいとのことだ)


その政略婚がフェラルドとリーナである。

だがその実、ジルンタールはメイスィルに人質をとったというのが正しいだろう。


ジルンタールはここ最近新しい鉱石を堀あて、その鉱石を元に現国王フェラルドの采配により、更なる国へと潤いをもたらしていた。


一方のメイスィルは、歴代の王達の浪費ぐせと長年の小競り合いにより国庫は絞られてもはや戦などできぬ状態だった。

それを見越した上で、無益な争いを嫌う、現在のジルンタールの賢王により此度の和解となったのだ。

しかし。


「なぁ、シルジェス。やはり俺は悪魔だろうか?

あんないたいけな、まだ十六歳になったばかりの幼い美少女を謀り、人質にしている何て。我ながら最低だと思うぞ」


執務室で素早く一仕事したフェラルドは、紅茶カップをテーブルに置くと、憂い気味に目を伏せた。


「何を今更言っているのですか?あなたが言い出した事でしょう」


「まあ、それはそうなんだが………。」


主の煮え切らない憂い顔を見て、シルジェスはこれ見よがしに息を吐いた。


「『和解と言っても、野心家の現メイスィル国王が

大人しく仲良しこよしなどする筈がない。だが今メイスィルは戦を起こせるほどの経済的国力も無いから、現段階では戦は避けたい。だから一時的に和解を受け入れはするが、今後また国力を取り戻したら牙をむくだろう。そうさせぬためにも、国王のたった一人の溺愛する愛娘を、婚姻という形で人質にとる事にするぞ』と、」


「……………ああ、そのとおりだが、声真似してそこまで正確に言わなくてもいいぞ」


無表情で笑いをとっているのかいないのかイマイチ分からない側近に、フェラルドは引き気味に返した。


「大体、国民を守るために、こと政治に関しては極めて無情な冷断をし、己の結婚さえ政治の手段として躊躇無くさくさく決めるくせに、敵国の小娘に遠慮する必要がどこに有りますか?」


「まあ、それはそうなんだが………お前、俺の事何だと思っている。人を非情な人間みたいに言うな!無情ではなく苦渋の決断だ!」


「……………なんでもいいですけど、私は貴方様の貴重な時間が小娘の憂慮などで無駄に使われたくないだけです」


(おぃ、なんでもいいのかよ!)


「無駄って…………お前、一日の政務は全てこなしているだろう」


「ええ、貴方様はとても優秀ですから。当然です。午前中に政務を全て片付け、午後一で数十人もの謁見をこなして、その後重臣達との意見割れで長引く難しい議会も、そのカリスマであっさり纏めて、歴代議会の早さを記録し続けているのですから」


「…………褒めてもらえるのは有り難いが、それなら何の支障も無いだろう?それとも何か?俺は自身の決断についての考え事さえさせても貰えないのか?」


「……………………」

紫色のキレ長い目をより細め、シルジェスはじっ。と主を見つめた。


「な、なんだ!?その疑惑ともあきれともつかぬ目はっ!」


「いいえ。別に。ただそんな殊勝なお悩みには見えなかったもので。私の知っている貴方様は、一度こう、と決断されたら迷いなく突き進み、それによる結果がどう転ぼうともその全てを受け止め、己の決断の責任を負う覚悟をお持ちのお方だと思っていたので。珍しいなと」


「シルジェス、お前が俺を過大評価し褒めてくれるのは嬉しいが、こっちが恥ずかしくなるから止めてくれ」


フェラルドは片手で顔を軽く覆って天井を仰いだ。

そんな主をしらりと平静で見つめてシルジェスは訂正を求めた。


「過大ではなく、事実です。それが周囲のあなた様への評価です。故に貴方様はどうどうとその評価を受けていいのです」


もはや諦念気味にフェラルドは息を吐くと、


「……………分かった、から。もう止めてくれ。別に俺も今回の政略婚が間違いだったなどとは思っていないが、何というか……………こう」


「嫁いできた姫が、あまりに父王に似ず、愛らしく可憐な、純粋無垢な娘だったので、思わず心をわしづかみにされて似合わない罪悪感を抱いてしまった。ということですね?」


「ばっばかっ!お前っ何をいって、」


シルジェスの言葉に珍しく顔を赤らめ動揺を隠せないでいるフェラルドに、シルジェスは、


「別に非道な扱いをする訳でもなく、あちらへの単なる牽制なだけなのですから。歳の離れた若く可愛い新妻に恋を抱いて大切にされる分には、何の遠慮も要らないと思いますよ」


「。。。。。。そうだな、お前の言う通りだ」


シルジェスのあまりに淡々としたあけすけないい様に何やら否定するのも馬鹿らしく思えてきたフェラルドは、いつもの極めて冷静な自分を取り戻したのだった。







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