第7話 スパルタンX
カイコ「ただいま~」
チョコ「おっ、やっと帰ってきたな!」
ミコ「お帰りなさいませ、カイコ姉様」
カイコ「ごめんなさいね~。委員会で遅くなっちゃった~」
チョコ「委員会か。なにやってんだ?」
カイコ「図書委員よ~。ふふっ、私にぴったりでしょ~? 文学少女って感じで~」
ミコ「文学……少女……ですか……?」
チョコ「主に読むのはBLマンガのくせに、なにを言うかな、この姉は」
カイコ「なによ~。これでも学校では、似合ってるって言われてるんだから~」
チョコ「なるほど。学校では猫かぶってるってわけだ」
カイコ「クラスメイトは本質を見抜いてくれてるのよ~」
ミコ「カイコ姉様は、図書委員に立候補したんですか?」
カイコ「う……。推薦よ……。誰もやりたい人がいなくて……」
チョコ「つまり、似合ってるからって言われて、押しつけられたんだな」
ミコ「面倒なことなんて、基本やりたくないものですからね」
カイコ「私は立候補したっていいくらいに思ってたから、
べつに嫌だなんて思ってないわよ~?」
チョコ「だがそのせいで、ゲームする時間が減った!」
カイコ「た……確かに、それはそうだけど~……」
ミコ「まぁ、いいです。今日のゲームを始めましょう」
チョコ「そうだな!」
カイコ「……でも考えてみたら、今日の担当はチョコじゃないの。
私抜きで始めててもよかったのに……」
ミコ「3人で一緒に楽しまなくては、意味がありません」
チョコ「そうだゼ! オヤジもそれを望んでるはずだ!」
カイコ「ふたりとも……」
ミコ「というか、今回のゲーム、まだ決めてなかったですし」
カイコ「あら? そういえばそうね~。すっかり忘れてたわ~」
チョコ「だったら、さくっと決めてくれ!」
カイコ「そうね~。あまり時間もなさそうだし、これにしましょうか~」
ミコ「スパルタンXですか」
チョコ「おっ、待望の格闘系だな!」
カイコ「格闘っていっても、チョコの好きな対戦格闘ものじゃないけどね~。
同じ頃のだと、イーアルカンフーが対戦格闘系になるとは思うけど~」
ミコ「あまりネタにもならなそうですしね」
チョコ「ふむ。ま、なんでもいいや! とにかく、始めるゼ!」
カイコ「コンティニューはできないけど、長くはないから、頑張ってね~」
☆☆☆☆☆
チョコ「スパルタンXって、ジャッキー・チェン主演の映画だったよな!
見たことはないけど!」
カイコ「そうね~。ユン・ピョウやサモ・ハン・キンポーも出てる、
カンフーアクション映画ね~」
ミコ「ゲームは、オリジナルストーリーのようですが」
カイコ「主人公はジャッキーが演じていたトーマスだけど、他の2人は出てこないし、
シルビアをさらったミスターXさえ、映画にはいなかったみたいだわ~」
チョコ「そんなんでいいのかよ」
カイコ「当時は細かいことは気にしない感じだったのかしらね~」
ミコ「あまり細かくない気もしますが……」
カイコ「そんなことより、ゲームが始まってるわよ~」
チョコ「わかってるって。ザコ敵を倒しながら、左に進んでいけばいいんだな」
ミコ「パンチとキックで戦うんですね」
カイコ「あとは、上でジャンプ、下でしゃがむ。操作としてはそれだけね~」
チョコ「なんともシンプルだ!」
ミコ「攻撃時の、アチョーって声が、なんかいい感じです」
カイコ「ちなみにこのザコ敵は、つかみ男よ~」
ミコ「近寄ってくると腕を上げて抱きついてくるんですね」
カイコ「つかみかかってくるってのが、正しいはずだけど~」
チョコ「でも、なんか嫌だな。主人公が女じゃなくてよかったゼ」
ミコ「抱きつかれると、ライフがぐんぐん減っていきますね」
チョコ「そうだな~。おっ、死んだ! びょ~ん、って効果音がマヌケっぽい!」
カイコ「遊んでないで、先に進みなさいな」
チョコ「んじゃ、とりあえず一旦リセットで……」
カイコ「今度は真面目にやりなさいよ~?」
チョコ「わかってるって。オレにかかれば楽勝だゼ!」
ミコ「ナイフ投げが出てきましたよ!」
カイコ「名前だけ出せば説明のいらないキャラで助かるわね~」
チョコ「ナイフは上投げだったらしゃがんで、下投げだったらジャンプでかわせるな。
近寄ってしゃがみパンチ連打!」
ミコ「さくっと退治ですね」
チョコ「へっ、ざっとこんなもんさ!」
カイコ「なんてゆっくりしてないで進みなさいな」
ミコ「進まないと、敵は無限に出てくるみたいですね」
チョコ「だったらさくさく進むだけさ!」
カイコ「そして出ました、棒術使い~」
ミコ「棒って……術、なのでしょうか……?」
チョコ「知るか! ともかく、棒を使わせなければいいだけだろ!
一気に近寄ってしゃがみパンチ連打! おらおらおらおら!」
カイコ「あら、簡単」
ミコ「さくっと倒せましたね、ボスなのに」
チョコ「へへっ、どんなもんだい!」
カイコ「なんて余裕をかましてると、ザコ敵が出てきてやられるわよ~?」
チョコ「くっ、ボスを倒したからって安心していられないってわけか」
ミコ「まぁ、画面の左端まで行けばいいだけですけどね」
チョコ「おっ、階段があるぞ」
カイコ「無事1面クリアね~」
☆☆☆☆☆
ミコ「2面は1面とは逆で、右側に向かって進んでいくんですね」
チョコ「ま、大して変わらないな。さあ、出てこい、つかみ男!」
カイコ「残念ながら、前半はザコ敵との戦いじゃないのよね~」
ミコ「壷が落ちてきましたよ」
チョコ「うおっ、ヘビになった! しゃがみキック! ……う、倒せない!」
カイコ「ヘビになったら、もう倒せないみたいね~」
チョコ「今度は丸いのが空中に浮いてる……?」
ミコ「破裂すると弾を飛ばしてきますよ!」
チョコ「今度は丸っこいのが地面に落ちて……龍になるのかよ!」
カイコ「炎を吐いてきたわね~」
ミコ「以上3種類の仕掛けを避けつつ進むみたいです」
カイコ「壷とか丸い玉とかは倒せるし、龍も倒せるみたいだけどね~」
チョコ「ふ~む。とりあえず、ヘビはジャンプして避けて、空中の玉はジャンプキック、
龍は倒せたら倒して、そうでなければ少し離れて回避、ってところか」
ミコ「さくさく進んでしまうのがよさそうですね」
カイコ「途中からはお待ちかね、つかみ男の登場よ~」
チョコ「べつに待ってないけどな。来るな変態!」
ミコ「さて、ボスですね」
カイコ「ここのボスは、ブーメラン使いよ~」
チョコ「やっぱりそのままだ。ナイフ投げのナイフが戻ってくるようなもんだろ!
近づいて、しゃがみパンチ連打! あたたたたたたっ!」
ミコ「チョコ姉様、ケンシロウになってます」
カイコ「ともかく、2面もさくっとクリアね~」
チョコ「おやっ? シルビアがいる……?」
ミコ「椅子に縛りつけられたシルビアがいて、笑い声が響いてきましたよ。
ワッハッハッハって、これはミスターXの声ってことでしょうか?」
カイコ「トーマス、早く助けにきて~! っていう演出って感じかしらね~」
チョコ「トーマスのすぐ目の前にシルビアがいるように見えるんだけど……」
ミコ「ワープしたんですかね?」
カイコ「きっとトーマスの妄想なのよ~」
チョコ「なるほど、思考がワープしたのか」
ミコ「妄想癖があるなんて、ちょっと微妙な主人公ですね」
☆☆☆☆☆
チョコ「3面だな!」
カイコ「ここは新たなザコ敵が出てくるわよ~」
チョコ「つかみ男、ナイフ投げときたから、今度はムチ使いとかか?」
ミコ「残念、トムトムです」
チョコ「と……とむとむ?」
カイコ「小さな敵ね~。しゃがまないと、攻撃を当てられないわ~」
チョコ「なぜ、トムトム……?
これまでずっと、わかりやすい名前ばっかりだったのに……」
ミコ「さぁ、どうしてでしょう?」
カイコ「ま、小っちゃいことを気にしてはいけないわ」
チョコ「実際、小っちゃい敵だしな!」
ミコ「…………」
チョコ「と、とにかく! ボスだ!」
カイコ「怪力男ね~」
ミコ「なぜにランニング姿の黒人さん……。ビリーでしょうか?」
カイコ「ブートキャンプなんてしないわよ~」
チョコ「まぁ、パンチとキックしかないわけだし、飛び込む以外に手はない!
近寄ってしゃがみパンチ連打~~~~~!」
ミコ「これまた、あっさりでした」
カイコ「強力なキック攻撃もしてくるみたいだけど、使わせる隙もなく倒したわね~」
☆☆☆☆☆
チョコ「さてさて、4面だ!」
カイコ「また仕掛けがあるわ~。仕掛けっていうか、毒蛾の巣だけど~」
ミコ「毒蛾ですか……」
チョコ「蛾なんかに負けてられるか!」
カイコ「蛾は倒せるけど、もちろん無限に出てくるから、さっさと進むべきね~」
ミコ「蛾の出てくる穴は、全部で4つですね」
チョコ「結構少ないな! 楽勝だゼ!」
カイコ「後半は普通にザコ敵が出てくるわ~」
チョコ「ちょろいちょろい!」
ミコ「チョコ姉様が調子に乗ってます」
カイコ「ふふっ、でも、ここのボスはひと筋縄ではいかないわよ~?」
チョコ「ほほう。出てきたな。……じぃさんか?」
ミコ「妖術使いですね」
チョコ「ま、どんな敵だって楽勝だゼ! 近寄って……むっ?」
カイコ「煙になって消えたわね~」
チョコ「ワープかよ!」
ミコ「壷とか龍の玉とかまで投げつけてきますよ」
チョコ「ふんっ、近寄れればこっちのものだ! パンチっ! ……うげっ!?」
ミコ「く……首がもげましたよ!?」
カイコ「ふふっ、首はもげちゃうから、ダメージを与えられないのよね~。
胴体に当てないとダメなのよ~」
チョコ「くっ、やられた……無念……!」
(再び毒蛾地帯を抜け、妖術使いとの戦いへ)
チョコ「今度こそ! 上手く間合いを詰めて、しゃがみパンチ連打!」
ミコ「あっ、やりましたね!」
カイコ「パターンはランダムでしょうから、短期決戦が簡単に決まることもあるのね~」
チョコ「ふう、強い敵だった」
ミコ「おや? またシルビアと笑い声が」
チョコ「トーマスの妄想シーンだな!」
カイコ「完全に妄想ってことになっちゃってるわね~」
☆☆☆☆☆
ミコ「さて、5面……最終面です」
カイコ「相変わらずのザコ敵が出てくるわよ」
チョコ「もう最後の面なのか。ほんと、楽勝だな!
……むっ、小っこい敵、回転ジャンプしてきたぞ!」
ミコ「トムトムですってば。回転攻撃は、ジャンプするだけで倒せますよ」
チョコ「パンチやキックを出すまでもなく、ジャンプの体当たりでいいのか」
カイコ「それに、左右からナイフ投げが出てくるわよ~」
チョコ「なるほど、これは結構大変だな!」
ミコ「大変だ、などと言いながら、さくっと倒してますね」
チョコ「オレは強すぎるからな!」
カイコ「それではお待ちかねのラスボスよ~」
ミコ「ミスターXですね」
チョコ「ふっふっふ、オレの敵じゃない! 間合いを詰めてしゃがみパンチ!
……むむっ? 負けた……?」
カイコ「ふふっ。さすがはラスボスね~」
チョコ「へへっ、やるじゃねえか! 次こそは勝ってやる!」
(というわけで、再度ミスターXとの戦い)
カイコ「ふふっ、チョコ、ここはしゃがみキック連打よ~」
チョコ「む? こうか?」
ミコ「……あっ、ミスターXが……」
チョコ「うお……、しゃがみキックに自ら当たりに来てダメージを受けてる……」
ミコ「そして、それだけで倒してしまいました」
カイコ「以上、ラスボス戦終わりよ~」
チョコ「な……なんだか納得のいかないラスボスだ~! 弱すぎる!」
☆☆☆☆☆
カイコ「というわけで、クリアね~。無事シルビアを助けたわ~」
ミコ「確かに、あまり時間はかかりませんでしたね」
チョコ「不完全燃焼な終わり方だったけどな……」
カイコ「そんなチョコに朗報!」
チョコ「えっ……? 嫌な予感……」
カイコ「この頃のゲームだから、もちろん2周目以降もあるわ~」
チョコ「ふむ。それなら予想済み……」
カイコ「でね、アルファベットのXは24番目、すなわち24周目までクリアすると、
シルビアが襲いかかってくるっていう衝撃の展開があるのよ~!」
チョコ「ちょ……っ!? そこまでやれっていうのか……? さすがに24周なんて……」
ミコ「夕飯を食べる前に、夜が明けてしまいますね」
カイコ「しかも、コンティニューできないから、失敗したら最初からよ~」
チョコ「そ……それは勘弁してくれ~!」
カイコ「ふふっ、冗談よ。だいたい、シルビアが襲いかかってくるってこと自体、
単なるデマだもの。実際には24周しても変わらないわ~」
ミコ「マンガで描かれたネタだったという話ですね」
カイコ「でも、実際に24周クリアを検証した動画なんかもあるみたいよ~」
チョコ「す……すごいな……」
ミコ「2周目以降は、ミスターXもしゃがみキックだけじゃ対処できないようですね」
チョコ「ま、とにかくクリアってことで、今日は終了でいいよな?」
カイコ「そうね~」
ミコ「ミコは、おなかぺこぺこです」
カイコ「ふふっ。今日の夕飯は、スパグラタンよ~。
朝のうちに用意してあったから、レンジで温めるだけだけどね~」
チョコ「おっ、美味そうだ!」
ミコ「……スパルタンXだから、スパグラタン、ですか……?」
カイコ「ふふっ、当たり!」
ミコ「ですがカイコ姉様、今回のゲーム、決めていなかったはずでは……?」
カイコ「夕飯が決まってたから、このゲームにしたのよ~」
ミコ「なるほど……」
チョコ「ま、なんでもいいや! 早く用意してくれ!」
カイコ「はいはい。ふたりとも、ちゃんと手を洗ってきてね~?」
(カイコはそう言い残して、台所へ向かう)
チョコ「手洗いか~。面倒だな~。べつにいいじゃんかよ、なぁ?」
ミコ「ですが、言いつけを守らないと、カイコ姉様が襲いかかってきますよ?」
チョコ「くっ、シルビアですら襲いかかってこないのに!」
ミコ「我が家のラスボスですから、カイコ姉様は」
チョコ「しかも、最強のな……。仕方がない、洗面所に行くか」
ミコ「ミコも一緒に行きます」
☆☆☆☆☆
スパルタンXは、当時随分と流行った気がする。
カンフー映画が流行っていた時期でもあったし、時代に合っていたのだろうか。
しかし、カイコが最強のラスボスか……。確かにそんなイメージかもしれないな。
妹たち2人にとっては、姉は絶対に越えられない存在ということか。
それにしても、一緒に洗面所まで行くとは、チョコとミコも仲がいいな。
昔はよくケンカもしていたようにも思うが、随分と大人になったものだ。
カイコがお姉さんとしての役割をしっかりとこなしているという理由もあるだろうが。
……この家にはもともと、俺の存在なんて必要なかったのかもしれないな……。
☆☆☆☆☆
【ゲーム解説】
「スパルタンX」
対応ハード:ファミコン 発売元:任天堂 発売日:1985年6月21日
1984年に稼動したアーケード版(アイレムが開発・販売)を移植したもの。
音声合成を使った掛け声や笑い声が使用されているのが、ヒットにつながった要因となった模様。
アーケード版と比べて、難易度は下がっている。142万本売れた。
なお24周クリアのデマは、コロコロコミックに連載されていた「ファミコンロッキー」で描かれた内容。