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最終話 レトロゲームは永久に不滅です!

今日は、お母さんから大事な話があると言われている。

チョコとミコと私、3人に。


お母さんはいつも忙しく働いていて、顔を合わせる時間もあまりない。

ただここ最近は、笑顔を見る機会が多くなったように感じていた。

だから、なんとなく予想はついていたけど。


チョコも、末っ子のミコですらも、察しているようだ。

おそらく対話の席にはもう1人、私たちの知らない人が加わるのだろう、と。


お父さんが亡くなってから、もう何年も経つ。

それは当然の流れと言えるのかもしれない。


とはいえ。


ミコはお父さんに異常なほど懐いていたから、明らかに不機嫌そうな顔をしていた。

いつも元気いっぱいなチョコだって、なんとなく沈んだ表情を浮かべていた。



「くーたん……」



自分の部屋で、私は熊のぬいぐるみに話しかける。


お父さんに初めて買ってもらったプレゼント。

薄汚れてボロボロになってしまってはいるけど、今でも大切にしているぬいぐるみ。



「私たちの生活、がらっと変わっちゃうかも……」



ぎゅっと、くーたんを抱きしめる。


汚れているだけじゃなくて、ニオイも結構ひどいかもしれない。

だけど、落ち着くニオイ……。

お父さんとの思い出を余すことなく脳裏に映し出してくれるニオイ……。


くーたんは紛れもなく、私の宝物なのだ。


そして、私たちがいつも遊んでいるレトロゲームの数々。

それらもやっぱり、私たちにとって大切な宝物。

お父さんと私たちをつなぐ、大切な絆。


新たな生活が始まったとき、こういった品々はどうなってしまうのか。

きっと全部、私たちのもとから消えてなくなってしまう……。



「お父さん、私たち……どうするべきなのかな……?」



くーたんを胸に抱き、天井を見上げながらつぶやく。

答えがあるはずもない。



結局、迷いを拭い去ることができないまま、運命の時間を迎えてしまった。

帰宅したお母さんの隣には、ひとりの男性が控えめに立っている。


この人が、新しいお父さんになる人なのね――。



 ☆☆☆☆☆



ついに、この日が来てしまったか。

最初からわかっていたことだが、いざ目の前に迫ってくると、やはり寂しさが込み上げてくる。


あいつが――愛する妻が娘たちに話しかける。

ここは状況的に、元妻と言うべきか。



「ただいま。えっと、こちらは○○さん。同じ会社の人で、私より3つほど年下の人よ」



紹介を受けた男性は頭を下げ、3人の娘たちを遠慮がちな瞳で見渡す。



「初めまして。みんなの話はお母さんから聞いてるよ。お母さんに似て聡明そうで、3人ともとても可愛いね」



ぺこり。

対する娘たちは、戸惑いながら頷きだけを返す。

まだ距離を置いている――心のうちを探っている、といった感じなのだろう。


それは男性のほうとて同じだ。

むしろ、この家の住人である4人を相手に1人で立ち向かっている状況なのだから、これ以上ないほど緊張しているに違いない。



ある程度ぎこちない会話を続けたのち、元妻が娘たちに自分の意思を伝える。



「私ね……この人と、再婚しようと思ってるの」



さて……と。


俺は去るべきだな。

ここにいてはいけない。

新たな家族誕生の妨げになってしまう。


静かに去ろうとした、

そのとき。



「父様!」



突然、ミコが叫んだ。

あの男性を、もう父親として認めたのか。

……いや、そうではなかった。



「父様! そこにいるんですよね!?」



ミコの視線はリビングの隅――すなわち、まさに今俺がいるこの場所へと向けられていた。


そんな……。

死んで幽霊となっているこの身……。

見えるはずがないのに……。


ミコは一直線に、俺のほうへと駆け寄ってくる。

ミコだけじゃない。

チョコとカイコも、まっすぐ、迷いなく、俺のもとへ。



「父様!」「オヤジ!」「お父さん!」



3人は叫び、俺に抱きついてきた。

俺もぎゅっと、3人を抱きしめ返す。


無論、本当に彼女たちの温もりが感じられるわけじゃない。

娘たちにしても、3人でお互いに肩を抱き合っている格好になっているだけで、俺の温もりを感じているわけではない。


それでも、俺たち4人の心は今、しっかりとつながっている。

父親と娘として、しっかりと温め合っている。


愛しい3人の娘。

お前たちは俺の子だ。

腕に力を込め、ぎゅっとぎゅっと、熱い抱擁を交わす。



しかし――、


それもここまでだ。

俺は心を鬼にして、そっと離れる。


きょとんとした、娘たちの顔。



「お父さん(もしくは父様、オヤジ)、どうしたの?」



そう言いたげな瞳。


そんな娘たちを残し、俺はすーっと壁をすり抜け、天井から空へと昇っていく。

あとは、お前たち新たな家族だけの時間だ。

そこに俺は必要ない。


流せるはずのない涙が頬を伝う。

これが未練というものか。


だが、仕方がない。


さようなら、愛しい娘たち。

今まで、本当にありがとう。

ここからは新たな人生を歩んでくれ。

新しい父親を迎え入れ、幸せな人生を歩んでくれ。


俺は遠い空の彼方から、静かにお前たちの成長を見守ることにするよ――。



 ☆☆☆☆☆



「ご……ごめんなさいね、変な娘たちで……」



お母さんが慌てた声を上げる。


誰もいないはずの部屋の隅っこに駆け寄っていき、お父さん、もしくは父様、オヤジ、なんて叫びながら、3姉妹で抱き合っているなんて。

はたから見たら、とても気味の悪い光景だっただろう。



「そんなことないよ。お父さん思いの、いい娘さんたちだね」



お母さんが連れてきた男性は――ううん、新たなお父さんになる予定の人は、笑顔で答えていた。


不意に背を向け、あんな行動に出た私たち。

死んでしまったお父さんのことが忘れられず、新たな父親を受け入れたくないと思っている。

そんなふうに見えたに違いない。


実際、心の奥底では、私ですらそういう気持ちが残っているのかもしれないけど。


でも……。

長女なんだから、私がしっかりしないと。


私は意を決して振り向く。

それにならって、チョコとミコも新しいお父さんのほうに向き直った。



「僕は……」



新しいお父さん(仮)が、ゆっくりと口を開く。



「僕は、キミたちの本当のお父さんになれなくてもいい。それでも、お母さんのことを愛しているんだ」



恥ずかしげもなく、言いきった。



「ちょ……ちょっと……!」



お母さんが照れていたけど、そっと手で制し、話し続ける。



「もちろんキミたち3人のことも、娘として精いっぱいの愛情を注いでいくつもりだ。幸せな家庭になれるよう、一生懸命頑張るよ。だから……僕がキミたちのそばで暮らすことを、許してもらえないかな?」



問いかけに対する妹たちの反応はといえば。



「がるるるる……!」



ミコはあからさまに敵意をむき出しにして、威嚇のうなり声を上げていた。

その隣では、チョコが涙を堪えながら、睨みつけるような視線をぶつけている。

完全に、敵対視しているのだ。


私だって、嫌だった。

私たちのお父さんはあのお父さんだけ。その思いはまだ強い。

どんなに優しく話しかけてこようとも、受け入れられるはずがない。


だけど……。


お父さんはさっき、自ら私たちのもとを去っていったように感じた。


寂しかったに違いない。

悔しかったに違いない。


お父さんはそんな気持ちを押し殺し、私たちとのつながりを断ち切ったのだ。

その頑張りを、無駄にしてはいけないと思う。



ふと見ると、お母さんが心配そうに見つめていた。

私たちに判断を委ねてくれているのだろう。

姉として、私は毅然とした態度で、現状と向き合う覚悟を決める。



あの男性の言葉に嘘はない。

お母さんのことを愛しているというのは本当だろう。

お母さんよりも年下の人ではあるけど、自ら前に出て私たちに語りかけてきた態度を見るに、それなりにしっかりしていて、頼りがいもあるように思えた。


それに、私たちに向けられている瞳は、包み込んでくれるように優しい。

きっとお母さんは、内面も含めて総合的に考えた上で、この人を選んだはずだ。

悩みに悩み抜いた末に、よし、私たちに紹介しようと決意して、今日、この家まで連れてきたのだろう。



私は意を決して結論の言葉を紡ぐ。

3姉妹の長女として。



「お母さんが選んだ天国のお父さんは、とてもいいお父さんだった……」



否定的な意味に捉えられかねない言い方だったかもしれない。

拒絶する意図はありません、というつもりで、私はすぐに続ける。



「だから、お母さんが選んだあなたも、とてもいい人のはずです。いきなり3人の子持ちになって大変かもしれませんけど、よろしくお願いします」



深々と頭を下げる。



「カイコ姉……」

「カイコ姉様……」



戸惑いを隠せない妹たちだったけど、やがて、私に合わせて同じように頭を下げた。



 ☆☆☆☆☆



天国のお父さんへ。


お元気ですか?

私たち姉妹は、3人とも元気です。



もう知っているかもしれませんが、報告があります。

私たちの家に、家族がひとり増えました。

新しいお父さんです。


婚姻届は提出したものの、忙しいみたいで結婚式は挙げていません。

それでも、お母さんは新しいお父さんの隣で、幸せそうに笑っています。


あっ、もちろん、お父さんのことを忘れたわけではありませんよ?

私たち姉妹にとって、本当のお父さんは、やっぱりお父さんだけですから。



そうそう、ひとつ報告しておきますね。


お父さんが遺してくれたレトロゲームも、ぬいぐるみのくーたんも、今でも全部残してあります。

お母さんも、新たなお父さんも、捨てろなんて言わず、喜んで受け入れてくれました。



新しいお父さんは、とても優しい人です。

まだ小さいから心配だったミコも、徐々に話せるようになってきています。

お母さんは相変わらず忙しくて、家にいないことも多いけど、笑顔を見る機会が格段に増えました。

もっとも、たまに鬼のような形相になって、私たち姉妹を怒ったりはしますけどね。



これから先も、お父さんの思い出が詰まったレトロゲームを楽しく遊びながら、私たち3姉妹は仲よく暮らしていきます。

でも、思い出に浸るだけじゃありません。

私たちはしっかり前を見て、未来へと向かって進んでいくつもりです。


人生にはたまに息抜きだって必要です。

そんなときに、お父さんのレトロゲームを遊ぶことで、生きていくための糧になれば、と思っています。


なんて。

実際には単に、3人ともレトロゲームが大好きなだけなんですけど。



とにかく、私たちは元気に楽しく暮らしているので、心配しないでください。

……と言うと、お父さんはもう必要ないように思ってしまうかもしれませんが、そんなことはありませんからね?


ミコは相変わらず、「父様は最高でした!」といったことを頻繁に口にしています。

新しいお父さんのことは「お父さん」と呼んで、ミコの中では「父様」と完全に区別しているみたいです。

チョコだって、もちろん私だって、心の中ではお父さんが今も微笑みかけてくれていると信じています。



私たちは未来に向かって進んでいくつもりですけど、

まだまだ、心の支えは必要なんです。

だから本当のお父さん、これからもずっと見守っていてくださいね!


以上で終了です。お疲れ様でした。

ネタにしたいレトロゲームは、まだまだたくさんあるのですが、これくらいで完結させておきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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宜しくお願い致しますm(_ _)m

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