第0話 こうして3姉妹はレトロゲームを始めた
【序章 カイコの独白】
お父さんが、死んだ――。
私たち3姉妹にとって、受け入れがたい現実。
大好きだったお父さん。
もう笑いかけてくれることはない。
もう怒ってくれることもない。
まだ幼かったミコは泣きじゃくっていた。
いや、小学生だったチョコも私も、声を枯らして泣き続けたっけ。
でもお母さんだけは、私たちのそばで毅然とした態度を崩さなかった。
だけど私たちが寝入ったあと、声を押し殺して泣いていたのを、私は知っている――。
あれから数年――。
お母さんは私たちを養うため、必死に働いている。
お父さんはゲームが大好きだった。
その影響で、私たち3姉妹もゲームが大好きになった。
家計は苦しかったけど、お母さんは私たちがゲームで遊ぶのを止めたりはしなかった。
お父さんが好きだったことを、お母さんも知っているから……。
ある日、お父さんの部屋にこっそり入った私たちは、見つけてしまった。
お父さんの遺した、宝の山のごときレトロゲームの数々を――。
☆☆☆☆☆
【愛する娘たちの日常】
さて――。
俺の愛する娘たちは、今どうしているかな。
もう俺が死んでから何年も経ってしまった。
俺のことなんて、すっかり忘れてしまっているかもしれない。
それならそれで構わない。すっぱり諦めて帰ることができるからな。
……いや、もちろん悲しいとは思うが。
だが、俺のことなんて忘れてしまったほうがいいのかもしれない。
娘たちには幸せになってほしいのだから。
懐かしの我が家が見えてきた。
少々怖くもあるが……。
のぞいてみることにしよう。
どれどれ……。
おっ。3人とも集まっているみたいだな。
おや? あそこは俺の部屋のはずだが……。
…………。
そうか。俺の宝物だった古いゲームを見つけたのか。
もちろん一番の宝は娘である彼女たちだったわけだが。
薄汚れた古いゲーム。
俺が死んだあとも、隠したままになっていたんだな。
隠していたというよりも、古いから仕舞っておいただけだったが。
とはいえ、娘たちにとっては時代遅れのゴミでしかないだろう。
こんな汚いのが残ってた。捨ててしまおう。
そんな会話の果てに、ゴミ袋に投げ込まれてしまう運命が待っているに違いない。
しかし、俺が苦笑まじりで思い描いたような展開にはならなかった。
チョコ「カイコ姉、これって……」
カイコ「ゲームねぇ~。しかも古いわ。さすがお父さん~」
ミコ「姉様方、おふたりとも、目がキラキラ輝いてますね」
チョコ「そういうミコこそ! ほら、ヨダレ拭けよ!」
カイコ「ふふっ。私たち、ゲームが大好きだものねぇ~。お父さんの影響で」
ミコ「父様は神様です!」
チョコ「出た! ミコのオヤジ信仰!」
ミコ「なんですか、チョコ姉様! 悪いとでも言うんですか!?」
チョコ「べつに悪かねぇけどよォ……」
カイコ「ふふっ。ミコはお父さんにべったりだったものねぇ~。
まだ幼かったけど、ミコが『おとうちゃま~』って呼ぶ声、
今でもはっきりと耳に残ってるわ~。
よちよち歩きで、まだ可愛かったのよねぇ~」
ミコ「ちょ……、カイコ姉様! 赤ん坊の頃のことなんて、忘れてください!」
カイコ「いい思い出よぉ~? 忘れちゃったらもったいないわ~」
チョコ「そうそう。ミコをからかう、いいネタにもなるしな!」
カイコ「ふふっ、そうね」
ミコ「姉様方、いぢわるです……」
チョコ「まぁ、それはともかく……。このゲームの山、すげぇな!」
ミコ「ミコたちが今これを見つけたというのは、天国の父様のお導きかもしれません」
カイコ「そうねぇ……。それじゃあ、これから1本1本、みんなで遊んでいきましょう!」
チョコ「異議なし!」
ミコ「はい、カイコ姉様!」
…………。
カイコ、チョコ、ミコ……。
俺の知っている頃からすると、随分と大きくなった娘たち。
3人とも、俺のことを忘れてなどいなかった。
しかも、俺の遺したゲームの山を――時代遅れの化石染みたゲームの数々を、喜んで遊んでくれるというのか。
ありがとう……3人とも……。
俺には、すでに流せなくなっているはずの涙が、心の奥底から込み上げてくるように感じられてならなかった。
せっかくだし、娘たちの様子をしばらくのあいだ観察してみることにしよう。
今の俺には、時間はそれこそ無限にあるのだから――。
☆☆☆☆☆
【人物紹介とルール解説】
カイコ「というわけで、私が長女のカイコ、高校1年生よ~」
ミコ「カ……カイコ姉様、誰に喋ってるんですか!?」
カイコ「ふふっ、細かいことを気にしちゃダメよ~」
チョコ「突然家の中で自己紹介なんて始めて、
頭がおかしくなったかと思ったゼ……」(ぼそっ)
カイコ「あら、チョコ。なにか言った~?」
チョコ「い……いやっ、なんでもない!」
カイコ「あら、そう? ふふふ……」
ミコ「カイコ姉様、笑顔なのに怖いです……」
カイコ「ふふっ。私はおしとやかでか弱い女の子よ~。
それはともかく。
私はロールプレイングゲームとアドベンチャーゲームが大好きなの~」
チョコ「アドベンチャーっていうか、ノベルゲームだろ! それもBLの!」
カイコ「ちょ……!? そ……そういうのもやるってだけよ~!
美形男子が出てくるゲームなら全般的に好きだもの~!」
チョコ「どっちにしても、ダメダメじゃないか? カイコ姉、リアルではサッパリだろ?」
カイコ「うぐっ……!
で……でも~、可愛い動物とかが出てくるゲームも好きだもの~!」
チョコ「はいはい。今さらって感じだけどな。事実は事実なんだし。
……ま、紹介を続けるぞ?
オレは次女のチョコ、中学2年生。アクションゲームが大好きだ!
格闘ゲームやアクションパズル、レースにスポーツなんかも得意分野だな!」
カイコ「つまり、暴れるのが好きなのよねぇ~」
チョコ「誤解を招く言い方すんなよ!」
カイコ「ふふっ、それにね、この子、可愛い女の子が大好物なのよ!」
チョコ「うあっ、カイコ姉、なにを!?」
カイコ「事実は事実でしょ~?」(ニヤリ)
チョコ「くっ……、仕返しってわけか……! この悪女め!」
カイコ「ふふっ、チョコほどじゃないわよぉ~」
ミコ「姉様方、ケンカはやめてください。お互いの暴露合戦なんて、見苦しいですよ?」
カイコ「あら、そうよね。さすがミコはいい子ね~。
ってことで、この子が三女のミコ、小学6年生よ」
チョコ「っていうか、暴露合戦ってなんだよ、ミコ!」
ミコ「ひゃうっ! チョコ姉様、ほっぺたを引っ張らないでください~!」
カイコ「まぁまぁ、落ち着いて、チョコ。
ミコは、シミュレーションゲームや思考型のパズルゲームなんかを
好んでプレイする頭脳派なのよね~」
ミコ「あとは、シューティングゲームなんかも好きですね。
昔ながらの弾幕系とか、そういったもの専門ですけど」
カイコ「そうね。FPSなんかだと、チョコの分野になるかしらねぇ~」
チョコ「こんな感じで、好きなジャンルが結構分かれてるってのが面白いよな!」
カイコ「ふふっ。
だからこそ、それぞれが好きなジャンルを担当するって形にできるのよね」
ミコ「ゲームは初見プレイのほうが楽しいでしょうから、
担当者はネットであらかじめ調べたりしてはいけないんですよね」
チョコ「そうだな! そのほうが面白くなりそうだし!」
カイコ「ええ。担当者は順番になるから、
次はどのタイトルにするかを他の2人で決めておく感じね~」
チョコ「担当者以外は、
ネットとかでいろいろ調べておいてOKってルールにするんだよな!」
カイコ「ふふっ。そのほうが、いろいろとツッコミも入れられるしね~」
ミコ「……なんだかそのルールだと、
ミコだけ思いっきり姉様方にからかわれそうな予感がするんですが……」
チョコ「気のせい気のせい!」
カイコ「そうよぉ~?
ミコも普段のうっぷんを晴らしちゃえばいいのよ、チョコが担当のときにね」
チョコ「カイコ姉だって当然標的になるだろ!?」
カイコ「あら、ミコはそんな悪い子じゃないわよねぇ~? ねぇ~~~~っ!?」(ずずいっ)
ミコ「うっ……。はい、カイコ姉様……」(ガタガタ)
チョコ「笑顔でその凄み……。カイコ姉……やっぱ悪女だ……」
カイコ「なにか言った~?」(にこにこ)
チョコ「い……いや、べつに……」
カイコ「ふふっ。とりあえず、最初の担当者はチョコに決定ね!
異論はないわよねぇ~?」(にこにこにこ)
チョコ「う……、はい……」(がっくり)
ミコ「というわけで、最初の担当者はチョコ姉様になりました」
カイコ「それでは、次回第1話、お楽しみに~♪」
こんな、小説とは言えない作品をお読みいただき、ありがとうございます。
レトロゲームをネタにした話を書いていく予定です。
題材にするゲームは、ファミコン、PCエンジン、メガドライブに限定するつもりです。
(CDロムロムとメガCDは含まれます)