リズ・アルベールの記憶 リズにできた初めての友達ラキオ 疾風の章
「リズには夢はあるかい?」お父様が言った。とてもやさしい笑顔だ。忘れたくても忘れられない、
「あるよ!お父様みたいな、立派な魔法使いになりたいの!」
「そうか、、それは、とても光栄なことだね。でもね、、お父さんはリズに魔法使いにだけはなってほしくないと思っている。」いつも優しい温和な父がこのことを言うときだけ、いつになく真剣になる。そんな父の顔を見ているととても胸が締め付けられるような気がした。
だから私はそれから夢を聞かれたときには、必ずお花屋さんになりたいと言うようにしている。花屋に特別思い入れや深い意味があるわけではないけれど、戦場で戦う魔法使いと町の中で笑顔で花を売るお花屋さんというのは、なんとなく対極にある気がした。それに、私が物心つく前に魔族に殺された母がお花屋さんだったらしい。私のリズという名前は紫色の花からきているそうだ。確か花言葉は優しい嘘という意味だったような気がする。
そんな会話をした半年後、お父様は魔族との戦争の最前線で殿として、一人孤独に戦地に残り死んだという報せが届いた。
私はそれでも九歳になる春に名門魔法学習塾 アイテールに入学した。父が魔法使いにだけは、なるなといった。そんな父が自身で言ったことを証明するかのように死んだ。だからこそ私は魔法使いになると決めた。
それはもはや、私の夢ではなくなっていた。目標?それも違うだろう、多分義務、もしくは呪縛といったほうが意味合いが近い。
私がアイテール学習塾に入学した理由は大きく分けて二つほどある、一つは単純明快でアイテールからは何人もの優秀な魔法使いを輩出しているから、二つ目も単純だ、アイテールには推薦制度がある。アイテールで優秀な学習成績を収めれば、指定の高度魔法学習施設への推薦を受けることができる。私はその推薦制度で、国立魔法学院 第九魔術学習施設 シャコガイルへの推薦を受けたいと思っていた。
なぜ、シャコガイルに入学したいかそれの理由だって単純だ。シャコガイルが一番多くの特級魔術師を輩出しているからだ。私が魔法使いを目指す理由も、アイテールに入学したきっかけも、シャコガイルへの推薦を狙う理由もすべて単純だ。つまるところ、単純に強くなりたいから。私はどんなに考えても単純にしか生きられないのだと思う。
私がアイテール学習塾に通い始めて三か月ほどたった。
私はどんどん魔法の才能を開花させていった。私はいわゆる天才というやつなのだと思う、周りが習得までに三時間かかる魔術技術を、二十分ほどで習得できた。魔法使いとしてのキャリアは順調といっていいだろう。
一学期の終わりの成績、私の総合成績は二番だった。魔法技術つまり実技の面では、私が同学年の中では一番だった。だが魔術歴史学や魔術化学などの座学を含めると、二番ということらしい。私はこの結果を見て心底馬鹿らしいと思った。どれだけ魔術の歴史を知っていようが、魔術の知識を持っていようが、死ぬときは死ぬだろう。私の父のように。心の中で成績表に対して冷笑していた。
私は一学期の終業式をさぼった、出る意味がないと思ったからである。別に終業式に出たところで成績が上がるわけでもなければ、魔法技術が研鑽されるわけでもない。
私は終業式当日アイテール学習塾の寮にずっと引きこもっていようと思っていたのだが、寮長などに見つかって、アイテールに報告されるのも面倒だったので、アイテール学習塾の校庭でさぼることにした。
校庭はさほど広くなく遊具も控えめな砂場が一つと、ブランコ、滑り台と雲梯というありきたりなものだった。
私はブランコに腰を掛け、アイテールの一学期終業式が行われているであろう、アイテール学習塾本館をぼうっと眺めていた。
そんな私に声をかけてきたやつがいた、
「こんなところであの名家であるアルベール家の長女がさぼりですか?いけませんね?」
そいつは少し赤みがかった髪色で、ベリーショート、黒縁の眼鏡をかけていて、右手に何やら難しそうな本を抱えている男の子だ。そいつは私の隣のブランコに座って右手に持った何やら難しげな本を無言で読み始めた。
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「私の隣で読むな、さぼりならほかの場所でやってくれ、目障りだ。」私は突き放すような言い方をした。
「いいじゃないですか?つれないこと言わないでくださいよ、校庭で座れる遊具はここだけなんですよ!さぼり仲間じゃないですか?」ねだるような動作をしてその少年は言ってきた。
「別に私はさぼっているんじゃない、終業式は意味がないからここでぼうっとしてただけだ。」
「意味があったらさぼりじゃないんですか?じゃあ僕もさぼっていないってことになりますね!」そういいながら少年は本を見せびらかしてきた。
「言っておくけど私と君とじゃ覚悟が違う、一緒にするな!」私は少し声を荒らげた。
「さぼりの覚悟って何ですか?意味のない終業式をただただ眺める行為って意味あるんですか?」こいつかわいい顔をして意外と痛いところをついてくる。
「うるさいな、おまえ誰だよ?私はちゃんと成績を残してるからいいんだよ!」
「僕はアイテール学習塾一年ラキオと申します。」ラキオどこかで見たような名前な気がする。私が黙っていると追い打ちをかけるようにラキオは話し始めた。
「僕も一応成績表には学年で一番って書いてあった気がするんですけれど、アルベール様はどのような成績を残されているんです?」こいつかよ、よりによってこいつが一番なのかと私は天を仰いだ。この時、やっぱり学年の成績なんて何の意味もないんだなと心底実感した。
「あのお、何番なのです?名家アルベール家長女であるリズ様は何番なのです?」こいつうざすぎる、今すぐにでも殴ってやりたいような笑顔で聞いてくる。
「二番だよなんか文句ある?ていうかさ学校での成績なんて何の意味もないじゃん、どれだけ勉強ができたって戦場に出れば弱い奴は死ぬんだ。何の意味もない努力を自慢するように言ってくるあなた、ほんと何様って感じなのだけれど。ただのがり勉君が私に偉そうに講釈垂れてこないでくれる。」私は顔を真っ赤にしながら言った。ここまで感情が高ぶったのはお父様としゃべった時以来だった気がする。
「そうですねえ、さっきのあなたにも教えてあげたくなる助言ありがとうございます。」笑顔でラキオは言った。
こいつむかつく。しかし、ラキオから次に出てきた言葉は意外なものだった。
「確かに僕も学校での成績なんて何の意味もないと思っています。あなたの言う通りどんなに成績が良くたって戦場に出れば弱い人間は死にますしね。」真顔だった、この時ラキオの目からハイライトのようなものが消えたような感じがした。
「僕の両親はアイテール出身の成績優秀な魔法使いだったんです。」
「そう?」さっきまでより彼の雰囲気がシリアスな感じがして、私はこれ以上攻撃的な言葉を何も言えなかった。
「二人とも先の戦争で死にました。」この時、私と彼の間に疾風が流れたような衝撃が走った。そうか君も一緒だったのか。私は心の中でだけそうつぶやいた。
「僕には守りたい人がいるんです。何を差し出してでも守りたい人が、だから僕は強くならなければならない。魔法実技で僕より優秀な人が一人だけいるということが分かって、僕はすごく焦りました。不安にもなりました。もしかしたら、シャコガイルへの推薦が取れなくなるのではないかと、それでどんな人物なのか見に来たんですが杞憂で終わりそうでよかったです。これからも冷笑系おさぼり頑張ってください。僕は先に行きます。」彼は笑顔だった。
「ごめん、、、ごめんなさい、私そんなこと知らなくて、さっき適当なこと言ってしまって。本当にごめんなさい」
私は言ってはいけないことを言ってしまった。涙が出そうだったが必死にこらえて謝罪をした。
「別にお構いなく、」彼はさっきの笑顔に戻っていた。
「その本、なに読んでいるの?」私はここで彼が行ってしまったら一生後悔する気がして反射的にいった。
「四年生の魔術化学の教科書です。」彼は淡々と答えた。彼は私より三年先にいた。




