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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

泣かされ鳴かされ啼かされて

作者: 灰島 薫
掲載日:2025/10/17

初投稿です。よろしくお願いします。

 基本設定


 人間と獣人が共存する世界。

 人間にも獣人にもアルファ、オメガ、ベータの3種類の性別がある。一般的なオメガバース作品と基本的に同じ設定です。⚠一部捏造設定あり






 あの頃の僕は、何も知らなかった。ただ、心のままに動いていただけだった。




 泣かされ鳴かされ啼かされて



 聖トルレキオン皇国の地方部に存在するルシュタルージュ領。お世辞にも都会とは呼べないそこで、僕は生まれ育った。


 当時13歳だった僕は、学校が終わると、決まって庭園に行った。


 そこにいけば、一緒に遊んでくれる友達がいるからだ。僕の遊び相手____レオン。彼は獣人だ。おそらく。

 なんの獣人なのかは知らない。猫か虎だと思っている。


 普段は僕と同じ、人間のような見た目をしている。


 キャラメル色の瞳に、琥珀のような、髪色。背格好は、僕より目線が少し低いくらいだった。


 レオンとは2ヶ月ほど前に、この庭園で出会い、僕が話しかけてから、僕らはあっという間に仲良くなった。


 彼はあまり遊び方を知らなかったから、僕がカードゲームを持ち寄って、レオンに遊び方を教えた。カードゲーム以外にも、かくれんぼをしたり、追いかけっこをしたり。


 無邪気な彼と遊ぶ日々は楽しかった。僕の両親は、獣人嫌いで、バレたらレオンと遊べなくなってしまうだろうから、僕は両親にはレオンのことをただの友達だとしか伝えていなかった。


「レオン?なんだか、どこかで聞いたことのある名前ね。」


 母はそれだけ言っていた。きっと、レオンが獣人だと知ったら、烈火のごとく怒るだろう。


 彼の笑い声が好きだったし、なんだか胸が温かくなった。


 ルシュタルージュ領に住む人達は、領主の影響で獣人を好いてはいなかった。迫害などはしないものの、獣人に向けられる目は冷めていた。


 そのためか、レオンは普段耳と尻尾を隠していた。それどころか、僕がいくら聞いてもなんの獣人か教えてくれなかった。なぜ獣人が殆どいないルシュタルージュ地方にいるのか、謎だった。


 それはさておき、一緒に遊んでいる時に、レオンの感情が昂ると、耳がひょっこりと出て、ピコピコ動いていたり、尻尾が揺れていたりして、僕の胸はホクホクした。


 この湧き上がる感情を、なんと呼ぶのか僕には分からなかった。ただ、友情の二文字に押し込めるには種類が違うと思った。


 いつものように、学校終わりに、走って庭園に行った。


 ____いた。


 けれど、いつもとはなんだか様子が違った。


 彼は、ぽつんとベンチに座り、俯いていた。表情が見えないので、僕が話しかけると、彼からの返事は無かった。


「おい〜無視すんなよ〜」


 僕が彼の顔を覗き込むと、ぽたり。と何かが滴り落ちた。

 彼は、泣いているのだと分かった。


「わ、わりぃ。泣いてるなんて分かんなかった。レオン、どうしたんだ?誰かにやられたのか?言ってくれたら、俺が、やり返してやるよ!」


 レオンの前では、カッコつけて、兄貴ぶっていた僕。レオンの前でだけ、「俺」と言ってしまう。レオンはあまり自分の話をしなかったから、僕と同じ年齢だということ以外知っていることは少なかった。ただ、僕にとっては可愛い弟分のようで、少年ながらにその容姿は不思議と守ってあげたくなるような儚さを纏っていた。


 レオンは、無言で首を横に降った。どうやら違うようだ。


「ニフラ、ぼく、今度、、[[rb:グランツ皇国 > くに]]に帰ることになったんだ。」


 その一言が僕の胸を引き裂いた。わけを聞くと、レオンのお母さんが、体が弱い方らしく、療養で一時的に滞在していたという。


「・・・なんで、教えてくれなかったんだよ」


 僕は愚かにも、彼に送る言葉を間違えてしまった。


「!」


 彼は、驚いたような顔をして立っている僕を見上げた。

 赤く腫れた目の縁、頬に残る涙の跡。

 その顔を見たとき、僕は酷いことを言ってしまったと、すぐに後悔した。

 今度は僕が俯いた。


「ごめん。こんなこと言うつもりじゃ・・・」


 僕が顔を上げて、彼の方をみると、彼はいなかった。


 タタタタタタタ、、、、、、


 音がした方を見ると、レオンが庭園の出口の方へ走っていくのが見えた。


 嗚呼、僕はなんと愚かなのだろうと思った。



 僕は彼に嫌われてしまったのだ。



 それきり彼は姿を消した。


 翌日、公園に行っても彼はいなかった。

 雨が降ったり、家の手伝いがあったりして、

 僕は次第に外に出る回数を減らした。


 でも、それでも、心は毎日レオンを探していた。


 十日ほどたったある晴れの日、僕はまた、あの庭園に行った。


 レオンがいつも座っていたベンチに、見知らぬ男が座っていた。


 レオンでないことに内心落胆しつつも、僕が目の前を通り過ぎると、男が明らかに僕に顔を向けてこう言った。


「貴様がニフラか。」


(なんで、この人は僕の名前を知っているんだ?)


「まぁそう警戒するな。私は、レオン様の遣いだ。レオン様からこれを貴様に渡すように言付かって来た。」


(レオン様、、?やっぱり、レオンって貴族だったのかな?)


 レオンは上質な服をいつも着ていた。もしかすると平民の僕が関われた事自体、奇跡だったのかもしれない。


「レオン様は本来貴様のような下民が関わっていい御方ではない。寛大な御心を持っていらっしゃる御方だ。そんな御方が、仲直りの印にと、貴様に之を渡して来るように私に言い付けたのだ。飲むがいい。」


 なぜなんだ。彼を傷つけたのは僕なのに。

 国に帰ってしまったから、代わりにこの人に頼んだのだろうか。にしても、レオンの考えていることはよく分からない。

 僕は肝が冷える思いでそれを受けった。


 傍目には、至って普通の瓶入りの液体。僕がまじまじと見つめていると、男は溜息を付いて言った。


「さっさと飲め。ただのジュースだ。」


「ありがとう」


 僕はそれを飲んだ。でも、やはり僕は愚かだったのだ。



 ドサリ。



「・・・全く。平民の分際でレオン様に近づくとは。愚か者め。本来なら処分されても文句は言えないが、そこまですることはレオン様が望まないだろう。丁度、我が国で密かに開発した新薬の被検体第一号になってもらおうか。」




 目を覚ました時の僕はもう、僕じゃなかった。


 毛に覆われた体。伸びた爪。鋭くなった視界。そして何よりも、自分の声が、唸り声にしかならないという事実が、恐ろしくて、何もかもが崩れていった。


 檻に閉じ込められていたとき、遠くから話し声が聞こえてきた。


「人間、、、獣、、に、、、、薬」


 僕は施設から脱走した。

 うとうとしていた看守の腰にぶら下がっていた鍵を檻の隙間から取ることに成功し、逃げ出したのだ。


 命からがら家に戻った。でも、ベルを鳴らして出てきた親は僕を見て目を逸らした。


「そんな獣、うちの子じゃない」


 母の声が今でも耳の奥に残っている。僕は、泣いた。どうして、どうして、と声にならない叫びを吐きながら。


 そして、うなだれていると、奴らに捕まってしまった。

 再び、檻の中に戻された。


 そこからの日々は、地獄そのものだった。監視は厳重になり、逃げ出すことができなくなった。


 薬を打たれ、感覚を奪われ、発情させられ、


 何人もの獣人と交尾させられた。


 抵抗すれば、首輪から電流が走り、何度も気絶した。気がつけば、もう唸ることしかできない獣になっていた。


 味も、匂いも、失われていった。

 耳も聞こえにくくなり、ただ、時間だけが過ぎていった。


 僕は、レオンを恨んでいた。信じた自分を呪っていた。


「いつか必ず、復讐する」


 その思いだけが、僕を生かしていた。


 ──そして、ある日。


 施設に、爆音が響いた。白衣の人間たちが逃げ惑い、銃声が飛び交う。


 扉が破られ、現れたのは、美しい鬣を生やした、猛々しい、ライオンの獣人だった。


「ニフラ!!!」


 獣人が何か叫んでいる。それが、僕の名前なのだと気づくまでに、わずかばかりの時間を要した。


 彼はあのときと同じキャラメル色の瞳で、僕を見ていた。

 けれど、僕はもう、彼の名前すら叫べなかった。


「ゥゥウ、アァアあ、あ、、、」


「……二フラ……」


 彼に抱きかかえられた。施設内にいた、白衣の者たちは皆、突入してきた他の獣人に捕らえられた。

 

 うなり声しか出せない僕を抱きかかえる彼の腕は震えていた。


 でも、やっぱり愚かな僕は反射的に彼の首に手を伸ばした。握りつぶそうとした。


 怒りが、憎しみが、全身を駆け巡った。


 彼は抵抗しなかった。危険だと判断した彼の部下らしき獣人が、僕にハンカチをあてた。僕は意識を失った。



 僕は、王宮の一室に監禁される形で保護された。

 レオンは、王族の、それも第一王子だったのだ。


 治療と言われたが、僕はただ、逃げられない檻に入れられたような気がしていた。


 レオンの手によって、僕は獣人に変えられしまったのだと思っていたが、実は彼の婚約者の側近によるものだった。


 レオンが、密かに僕に恋心を抱いていたのだと明かした。

 ところが、レオンの婚約者が、僕を妬み、僕を消そうとしたのだ。


 その事実を知ったとき、僕はすべての感情を失いかけた。


 婚約者は国外追放され、側近は処刑された。


 でも、僕の心は、壊れたままだった。


 レオンは、ずっとそばにいた。何も責めず、ただそっと、私の存在を包もうとしてくれた。


 僕は彼を恨んでいた。


 でも、同時に、ずっと彼を想っていた自分もいた。

 そのことを認めるのが怖かった。けれど──僕はもう、戻れない場所にいた。


レオンは臆することなく、毎日、僕に愛を与えてくれた。

 レオンの愛は、少しずつ、僕を溶かしていった。


 あの夜、僕は初めて、自分が獣ではなく「二フラ」という人間であることを、思い出した。


 そして、涙がこぼれた。

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