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第1章 コンビニの魔法使い

第1章 コンビニの魔法使い




無数の世界の中に、こんな奇妙な世界がある——

魔法と科学技術が共存し、幻想と競技が織り交ぜられた場所。

しかし、この大地は自由ではなく、誰かが変えるのを待っている。

かつて、息をのむような壮絶な試合がすべての人々を魅了し、この神秘的な世界の運命を変えた。この歴史的な対決を、最初から語ってみよう——



「万方杯マジックフットレース…魔士チームが麒麟チームに1点差で辛勝…いや、めっちゃヤバいだろ!」

コンビニの中で、みすぼらしい男が棚から新聞を手に取り、眉をひそめながら昨夜の試合について熱く語る。まるでプロの解説者みたいな口ぶりだ。だが、彼の目は新聞の端からチラチラとカウンターの若い店員を盗み見ている——まるで潜水艦が潜望鏡を出すように、慎重に周囲の「状況」を探っている。



店員が背を向けて棚の整理に夢中なのを確認すると、男の口元にニヤリと笑みが浮かぶ。視線は冷蔵ケースに並ぶハイネケンの列へ。


「チャンスだ…」


息をひそめ、男はそっと冷蔵ケースを開け、ビール瓶を1本抜き取ると素早くジャケットの中に隠す。そして、何食わぬ顔で店の出口に向かって歩き出す。

だが、最初の一歩を踏み出した瞬間——


「カチャッ!」


見えない力が男の両足をガッチリとロック。男はドアの前でピタリと静止し、靴の裏すら地面から離せない。

「なんだこれ…!?」


さらに奇妙なことに、ジャケットに隠したハイネケンが突然ふわりと浮かび上がり、空中でくるりと一回転した後、店内にまっすぐ戻っていく。


男——トムは、口の端をピクピクさせながら白目をむき、諦めたように振り返る。


「ウェイド、さすがにバレるか…」


カウンターの後ろでは、赤いコンビニ制服を着た若い店員が腕を組んでトムを見つめ、苦笑いを浮かべている。

「トム、トム…何回言えば分かるんだ?」


ウェイドは赤と白のストライプの平凡な制服を着ているが、どこか周囲と調和しない独特な雰囲気を放っている。少し乱れたセンター分けの長髪と、だらしない口ひげが彼に渋い魅力を添えている。今、彼は目の前のこのみすぼらしい男——トムを呆れたように見つめている。


左手を軽く振ると、指先でクルクルと回転していたハイネケンが何かに操られるように冷蔵ケースへ戻っていく。「カタン」と音を立て、瓶は元の位置にピタリと収まる。まるで誰も触れていなかったかのように。


これは紛れもない魔法だ。ウェイドの動きを見れば、彼の能力が正確で、しかも熟練していることが一目瞭然だ。


ビールを盗むのに失敗したトムは、言い訳もせず、くるりと振り返ると、急に悲壮な表情を浮かべ、涙目で訴え始める。


「ウェイド…またクビになったんだ!俺、ほんと可哀想だろ!」


トムは清掃員の仕事をしていたが、今日、突然上司から「もう来なくていい」と言われた。これで最近23回目の解雇だ。彼が怠け者なわけではない。問題は、彼が魔法を使えないことだ。


この世界では、魔法と科学技術が共存し、すべての市民は幼い頃から魔法教育を受ける。だが、底辺出身のトムには正式な魔法訓練を受ける機会がなかった。他の清掃員が魔法で箒を操り、ビル全体を瞬時に掃除する中、トムは腰を曲げて必死にモップをかけ、到底そのスピードに追いつけない。当然、何度も仕事から追い出されてしまう。


彼は顔を覆い、すすり泣く。「この世界、俺に生きる場所なんてないよ…」


その惨めな姿を見たウェイドは、ため息をつきながら近づく。

彼は冷蔵ケースからハイネケンを取り出し、トムの手にそっと渡す。


「ほら、持ってけ。俺のおごりだ。」


ウェイドにはトムの境遇を変える力はない。それでも、この瞬間だけは、目の前の涙を見過ごせなかった。

だが、この小さな親切は、彼に何の報いももたらさなかった…




「何度言えば分かるんだ!底辺のゴミに施しなんかするな!耳ついてんのか!?」

店長のオリバーが怒鳴り散らし、ウェイドの額を指差してまくしたてる。

だが、ウェイドは静かに立ち尽くし、表情一つ変えない。まるでその言葉が彼には何の意味も持たないかのように。


「『あの方』を怒らせて、完全に干されて、行く宛てがなかったから雇ってやったんだぞ!さもなきゃ、お前なんか雇うわけねえ!」


オリバーは冷たく鼻を鳴らし、軽蔑の眼差しを投げる。「もう一度こんなことやったら、容赦なくクビにするからな!」

そう言い放つと、首を振って立ち去る。


ウェイドはオリバーの背中を見送り、ため息をつくと、自嘲気味に笑う。

「また怒られたか…」

肩をす部分を下げ、気を取り直し、魔法で冷蔵ケースの表面を拭く雑巾を動かす。だが、拭いているうちにその動きが徐々に遅くなり、やがて止まる。


彼はカウンターにもたれ、焦点の合わない目で遠くを見つめる。まるで目に見えない重圧に押しつぶされているかのように、動けない。


「もし…あの日に戻れたら、俺はどうしただろう?」


彼は小さくつぶやく。記憶が潮のように押し寄せる。

時は遡り、4年前——






25歳のウェイド・ブルックスは、かつて万方魔法学校で「最も才能ある魔法の新星」と称された。


学生時代、彼の才能は驚異的だった。他人が数ヶ月かけて習得する基礎魔法を、彼は1週間でマスター。高難度の召喚術、結界術、元素操作といった魔法も、彼の手にかかれば本能のように自由自在だった。


だが、この万方世界では、魔法に対する規則は厳格だ。

どんな強力な魔法も、秩序に逆らってはならない。科学制度を変え、社会構造に挑み、労働システムを覆し、医療システムに触れることさえ許されない。

これは厳しいルールに縛られた世界であり、魔法は決して自由の象徴ではない。


ウェイドはかつて、このすべてを変えたいと夢見た。不公平な枷を打ち破ることを志し、大きな理想を抱いていた。

だが、彼の家柄は平凡で、権力者の後ろ盾もなかった。


現実の重圧に耐えかね、彼は妥協を選んだ。病床の母と、問題ばかり起こす弟のために、魔法学校に残り、安定した教師の道を選んだ。


当初は、これで十分だと思っていた。

この世界のルールに従い、責任を果たし、家族を守れると信じていた。


だが、ある日——

耐え難い出来事が起こった。


それ以降、すべてが一変した。



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