表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第3話 「プリンがないとか、世界の終わりなんだけど!」

ドドンと広がる食堂に足を踏み入れた瞬間、思わず叫びそうになった。


「ちょ、朝ごはんでこの広さ!? レストランやん!」


ど真ん中にでっかい長テーブル。両サイドにはイスがズラーッと並んでて、何人で食べるつもりなのレベル。

テーブルクロスは真っ白。食器はピカピカ。天井から下がるシャンデリアが朝日でキラッキラに輝いてる。


「こちらへどうぞ、お嬢様」


マリアが席を引いてくれるけど、あたしはなんかソワソワしながら腰を下ろした。

だって目の前にあるの、フレンチっぽい前菜プレートに、キラッキラに焼き上がったクロワッサンあと

メインプレートには、こんがり焼かれたベーコン、半熟トロトロのオムレツ、

小さいけど形が完璧なソーセージに、緑と赤のよく分かんない葉っぱのサラダ。


「オムレツ、プルップルやん!てかソースまでかかっててオシャ!」

ドリンクは、オレンジジュースじゃなくて、たぶん搾りたての“オレンジそのもの”。

グラスから漂うフレッシュ感が超フルーティーで、ひと口飲んだ瞬間――


「うっっっま!これコンビニじゃ買えないやつだ!」

とりあえずナイフとフォークを手に取ったはいいけど、手が震える。

どう食べるの正解なのか分からない。


――そのとき


「お嬢様。お身体は大丈夫ですか」


背後から低くて落ち着いた声がして、そっと振り返ると、執事がいた。

黒髪オールバック、スーツの着こなし完璧、そして明らかに大人の色気ましましの30手前って感じ。


「あっ、執事さん?」


「ゼノでございます。以前よりお仕えしておりますが……忘れましたか?」


「ごめんね~、今頭まっしろ状態ってやつ?

急に記憶喪失ってやつ」


「……記憶喪失、ですか」


ゼノの眉間に皺が出た。

でもそれ以上ツッコまず、静かにうなずいた。


「それでは、しばらくは“今の”お嬢様に合わせて対応させていただきます」


「うわ~、そういうとこ最高!さすが大人!」


マリアが少しだけ困ったようにゼノを見て、小さくつぶやいた。


「ゼノ様……本当に記憶を失ってしまったのでしょうか?」


「……そうでなければ、人格が変わるなどあり得ない。様子を見ましょう」



ふたりの会話が聞こえたけど、あたしはスルーして食事に集中。

だって、見た目オシャだけど普通においしい!


「うわ、これうまっ!てかプリンってデザートに入ってないの!? それは一大事なんだけど!?」


マリアとゼノがまた顔を見合わせて、

「プリンとはどのような食べ物でしょう!?」

フォーク持ったまま叫んだあたしに、マリアが一瞬止まる。


「……プリン、でございますか?」


「そうそう!あの、たまごと牛乳でできてて、ぷるんぷるんで、上にちょっと苦いソースかかってて!

スプーンでぷすって刺すと、ふるふる揺れて~って、ほら!あれよ、あれ!」


「……まことに恐れ入りますが、それは“蒸した甘い卵料理”ということでしょうか?」


「……え、まって、それしか伝わってない?マリア、冗談でしょ?」


「申し訳ありません、当家の厨房にはそのような品の記録は一切……」


「……うそでしょ。

この世界……プリン、ないの?」


口の中に広がってた高級料理の余韻が、一気に苦くなった気がした。


「だってプリンは、JKの命じゃん……

あたしの心の栄養素が、存在してないって、どゆこと……?」


スプーンをそっと置いて、あたしは天井を見上げた。

キラキラのシャンデリアが、やけに遠く感じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ