1 食事前の運動です
初のバトルファンタジー系です!!
まだまだ分からない所が多過ぎるジャンルなので、どうかお手柔らかに!!
カァァン!
雑草を抜いて平地にしただけの殺風景な訓練場。
山奥の小さな家の前で、今日も木剣を打ち合わせる音が響いている。
「いい加減!!勝ちを!!譲りなさいよ!!」
単純に斜めへと斬り下ろしてくる動作。狙いは頚脈だろう。顎を引いて軌道を外す。
予想通りの軌道を辿った木剣は、風を切る音と共に俺の頬を掠めた。
間髪入れずに次の攻撃が来る。中段を狙った一文字を、今度は指で挟んで止めた。
「でも手加減したら怒るじゃん」
柄を捻って俺の指から抜け出した剣は、そのまま袈裟斬りの予備動作を取る。
避けきれないと判断して、受けの態勢を整えた。
「うっっっ!!さいっっっっ!!」
剣同士が触れあった衝撃に木々が揺れる。驚いた鳥の群れが一斉に飛び立った。
俺の前で木剣を振るっているのは小さな黒髪の少女。
名前をクルアという。実父に似た凛々しい顔立ちの俺の養娘だ。
色々あって引き取ってから早10年。今年で12才を迎え、最近になって反抗期に入った。以前の「お父さん大好き♡」な感じも可愛かったが、「フン、もう自分でできるんだから!」な今も可愛い。
背丈は俺の肩ほどで、長い髪を後ろで束ねている。
うん、今日もカワイイ。流石は俺の娘だ。
……さて。俺たち親子には、或る問題がある。
それというのはーーーーー
「……なぁ、ほんとに王立行くのか?」
ズバリ、進路である。
「もう、しつこいよ!?お父さん!」
繰り出された上段の突きを、左手に持った木の短剣で捌く。「お父さんは左手左足しか使っちゃダメ」という約束があるので、俺は利き手利き足を使えない。まぁ妥当なハンデではある。
捌くついでに、足を払って体勢を崩させた。
我ながら子供相手に容赦ないが、これくらいしないと後ですこぶる怒られるのだ。本人に。
意識外の攻撃にクルアの体幹は容易に倒れていく。
前まではこれで終わってくれたんだが……体勢を崩したまま身を捻って回転し、地面を撫でる斜めの軌道で斬り払ってきた。砂埃が舞って視界を奪われる。
(即興にしては良い動き。流石は俺の娘)
内心褒めつつ半身で躱す。
躱された事を察知したクルアは、側転の要領で体勢を立て直した。
「コホッ、でもなぁ?お父さん、クルアには危ない思いさせたくないんだよ」
砂埃に咳き込みながら言う。
「行くったら行くの!もう決めたから!」
そう言い放つと、クルアは助走をつけて跳び上がった。全体重をかけた袈裟斬り……のフェイントを掛けつつの、真上から一本に斬り下ろす軌道。
取り敢えず柄で止めた。予想より重い。手首を曲げて反動を逃す。
「何でこれが分かるのよ」みたいな顔をされたが、剣の刃先の向きで分かる。腕をクロスして剣を肩の後ろに控えさせる構え。大体剣身は隠せていたが、斜めから直下の軌道へ変化させる直前、動きが先走っていた。
「第一どうやって通うの?こっから王都は遠いよ?」
「寮があるでしょ!?流石に家から通わないわよ!」
剣と剣が触れ合った衝撃を利用し、クルアが後方に跳び退く。
「お父さんは一歩も動かない」の約束もあるから、しょうがなく切先を向けて牽制だけしておく。
その直後、案の定と言うべきか正面から向かってきた。
この娘はいつも正面からしか打ってこない。実戦での斬り合いにおいてそれはとんでもない悪癖である。
前に心配になって理由を聞いてみた。曰く、「だってお父さん動かないじゃん」とのこと。
なら動かせてくれ、と懇願したら「動いたら勝てないもん」と返ってきた。
年頃の娘とはこうも気難しいのか、難儀しつつも娘の成長を嬉しく感じた。
「寮だって!?心配で夜も眠れないよ!?いいかい、男ってのはケダモ……」
「男女!!別だっての!!」
向かってくるクルアをいなしては弾き、いなしては弾く。
剣と剣が触れ合う度に衝撃で山が揺れ、筋肉痛が悲鳴を上げた。もうやめたい。大人しく家庭菜園をしていたい。そんな願望とは裏腹に愛しの娘はまだまだ元気に斬りかかってくる。
最近体が鈍ってきたようで、ここ2週間は左腕の筋肉痛が続いていた。原因は明らかに朝食前の運動である。クルアの腕が上がっているというのもあって、日を重ねる度どんどんキツくなってきていた。
「とにかく、行くったら行く!!」
「でもさぁ……」
筋肉痛に耐えながら捌き続ける。
2年前、いきなり「剣術やりたい」と言われた時は心臓が止まるかと思った。
子供の可能性を狭めるなんてもっての外だ。分かってはいた。でも、どうしても剣だけは触れさせたくなかったのだ。
きっと本当の父親も考えは同じだっただろう。だからクルアを預かってからというもの、一切剣には触れさせなかった。昔使っていた剣は捨てたし、剣術書だって家を買う時に売ってしまった。それなのに。
「どうしても」と言うから試してみると、既に基礎が出来上がっていたもんだから尚更驚いた。
一体いつ体捌きを覚えただろうか。甚だ疑問でならない。
「よし。お父さん、そろそろ限界だ。朝食にしよう」
「ルールその3!!『決着が付くまで付き合う事』!!」
またもや馬鹿正直に斬り掛かってきた。
俺は一つ溜息を吐いて、剣同士が接する瞬間に螺旋状の力を掛ける。
カァン
快音と共にクルアの剣が宙を舞う。空中で2、3回回転した後、訓練場の土に落ちた。
ポカンとする愛娘の頭に手を添え、
「はい、終わり。ご飯冷めちゃうよ〜」
煽り気味に言う。
本当はアラフォーの体にはもう煽る余裕など無かった。左腕は痺れてめちゃめちゃ痛いし、最近肩周りにも違和感が出てきた。笑顔を取り繕ってはいるが正直泣きたい。体が悲鳴を上げている。
それでも父のプライドがあるのだ。
余裕を見せたい、カッコいいお父さんだと思われたい。
「もう、それ禁止!!」
顔を膨れさせているクルアを後に俺は家の扉を開けた。