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第五章 アレ、見ちゃった

「東、バイク……いいなぁ」

 新聞配達が終わるとオレと東は新聞屋の前に座り込んだ。目の前には既に配達が済んだバイクが五台も並んでいる。

「四台がカブじゃん。一台だけヤマハがある。これすげえカッコよくねえ?」

「おう、音が違うしな」と東が頷く。

「これ、ツーサイクルっていうエンジンなんだぜ、カブより全然速いって知ってる?」

「聞いてるけどどう違うの」

「分かんねえけど加速が凄い。『ビーッ』ってカブをぶっちぎれる」

「こないだ高山さんが『ちょっと乗ってみ』っていうからここでちょっと乗ったんだ。確かにね『グワッ』って来る。速ぇえぞ」

「あと二年か。免許欲しい……」

「イエス、俺も……」

 オレはヤマハにまたがって足で漕いだ。

「東、ちょっと押してよ」

 オレと東はかわるがわるバイクにまたがった。


 今日は新聞屋の給料日、いつもは夕刊の配達が終わると皆は店の中でウダウダしているのだが、今日は違う。全員がサッと帰ってしまった。オレと東は特に行く所もないので、いつものように地べたに座り込んでバイク話だ。

「ヒロシ、バイクのギヤってホンダのカブとヤマハって違うんだよな……」と東がヤマハのギヤペダルを指さして話し出した。

「ん……」オレは東の話を無視してヤマハを睨む。

「カギ、付いてる……」

「エッ」東も気付いた。バイクのキーが差したままだ。

「……」オレと東は顔を見合わせた。――「今じゃん」

「諏訪公園……」それだけで通じた。オレたちは二人でバイクを押し始める。

 脇道に入ると人通りがない。オレはバイクにまたがるとキーを回し、ペダルをキックする。

「ビビン、ババババ」ツーサイクル特有のエンジン音が響く。

「上で乗ろうぜ」そう叫ぶとオレは坂道をゆっくりと登ってゆく。

 諏訪公園に着いた。誰もいない。

「まあまあ広いから一瞬、四十キロ出せる」オレはそう言いながら公園を楕円状に回った。

 東も交代してグルグル回る。

「ビーッ、ビーッ」バイクに慣れてきてだんだん速度が上がる。

「アチョー」、「キーッ」東は急ブレーキをかけるとバイクが横滑りするのを面白がって繰り返した。

「あっ」、「ガシャッ」東がドジった。ブレーキを掛け過ぎバイクが横倒しになったのだ。

「いけねぇ」東は慌ててバイクを起こし止まったエンジンを再起動させようとキックを繰り返す。

「プルルッ、プルルッ」しかしいくら東がキックしてもエンジンがかからない。

「ヒロシ、ちょっと交代」首を傾げた東はオレを呼んだ。

「バーカ、おまえ、キックがヘタなんだよ」オレは「見てろ東」って感じで全力でキックをする。

 しかしエンジンはかからなかった。

「やべえ、押して帰るしかねぇ」オレはあきらめてバイクを押して帰ることにした。

「東、押せ……」東に声をかけると同時に足で漕ぐ。

「ん……動かねえ」バイクが重くて動かない。どうやらブレーキがかかったまま引っかかって解除されないようだ。

「壊れた、ヤバイ、どうしよう……」オレは焦った。

「新聞屋に帰っても誰も居ねえぞ今日は……朝三時まで店長も来ねえし……」とやった東も慌てている。

 バイクを放置して帰るしかない。しかたなくオレと東は公園を出て坂道を下る。

 足がビタッと止まった。最高にヤバイ状況だ。

「あーっ、君ら上で何やってた?」警官が二人、坂を上ってきたのだ。オレたちをジロジロにらんで職質する。

「別に、何も……、景色見てただけです」とオレはとぼける。

「あのな、『学生風の男が二人、公園でバイクを乗り回してる』って通報があったんだ。おまえら関係ねえか?」

「いやー、知りません」と再びとぼける。

「おまえは?」警官は東にも問いかけた。

「そうか、知らないんだな」

「はい……」

「はい……」

「ふふっ、とぼけるんじゃねえ。お前らの服装は通報の通りじゃ。よし、んじゃ公園に行こう。しらを切るなら指紋取るぞ」

 警官の言葉にオレたちは観念した。公園を確認した後、パトカーで横須賀警察に。


 結局、窃盗、無免許運転ということで横須賀署でさんざん油を搾られた。しかし涙を出して反省した振りをしたことで、「初犯」だからと結局注意だけで許してくれた。ただ、無免許の方は実際に免許を取った後、罰則が適応されるらしい。


 翌日、オレはビクビクしながら登校した。朝刊の配達のとき店長にキツく叱られた。「こんどやったらアルバイトはクビ」と宣告された。

(せん)(こう)にバレてたら思いっきり説教されるぞ、警察と同じ手で行こう、『涙流して反省』しかねえ」と東と作戦を立てる。

 しかし、ホームルームの時間、教師からは何もなかった。

「ラッキー」オレと東は指でOKサインを交わす。


 寒い朝だった。オレと東は新聞配達が終わると即行で家に向かう。いつも通る――石垣と家の隙間、四十センチほどしかないが、横になれば通れる。ここを通ると五十メートルも近道―― その手前に人が集まっていて通れない。

「なんだぁ?」オレは立ち止まった。人が多くて中が見えない。

「ヘループ、ヘルプミー」石垣の奥から外人の叫び声が聞こえる。

 東がいきなりオレの肩を使ってジャンプして奥を覗いた。

「ハッハッハー、デブの外人が石垣に挟まってる」と東が吹き出した。

「東、ちょっとお前、肩貸せ」オレは東と入れ替わってジャンプした。

 確かにいる、髭を生やしたデブ、腹がつかえて動けなくなったみたいだ。上半身は裸、興奮して顔が真っ赤、必死でもがいたのかハゲ頭から湯気が立っている。

「バカなー、みっともねえ。なんであんな所、通ろうとしたんだ」オレは東と顔を見合わせる。

「ウー、ウー」米軍のジープが到着した。白い制服のSPが降りてきた。

「ワオッ、ノー……」現場を見るとSPも呆れて言葉がない。

 いろいろやったが抜け出せない。結局ロープで上に引っ張り上げることになった。落ちて嵌ったんだから引っ張り上げる。それで正解だったみたい。

 皆が見守る中、男は少しずつ抜けてきた。

「アチャー」東が叫んで手で目を覆った。石垣に引っかかって男のズボンが脱げ、ついにはパンツが。そしてグロテスクなアレも。

「アリャァ」オレも一緒に目を覆う。

「あー、ヤなもん見た……」今日はヤな日だ。「学校サボッっちゃおうか」と真面目に考える。

 ここドブ板通りでは外人(米兵)が思いもよらない騒ぎを起こす。ついこの間も酔った米兵が諏訪公園の柵を乗り越えて転落し、下の家の物干し場のビニール屋根を突き破った事件があったばかり。大きな音がしたので見に行ったら屋根に突き刺さった毛むくじゃらな血だらけの足が突き出ていたという。


 銭湯からの帰り、湯冷めしないようにいつもの石垣の近道を通る。ちょうど『バーテキサス』の裏口のあたり、女性の声が聞こえた。

「ノーノー、チョットマッテ」、「……」、「オケーイ」

 日本語、英語交じりの会話。すぐわかった。例のミーコさんの声だ。建物の高い所にある換気扇が回っていて、そこから光と声と覚えのある香水の香りが漏れている。

「ミーコさん? ……」

 いつもだったら通り過ぎてしまうんだが立ち止まった。つい聞き耳を立てる。

「オー、シー、ハー」、「フフッ」、「オウッ」小さいが二人の声が交互に聞こえる。

「なにしてんだ?」洗面器をそっと地面に置くとオレは無言で石垣に足をかけ上り始めた。

 もうちょっと、もうちょっとで換気扇の高さ。最後のひと踏ん張りで換気扇の高さに達した。半分ブラ下がったような状態で懸垂をしながら中を覗く。

「エッ、」目に入ったのは素っ裸の男女だった。一人はミーコさん。もう一人は髭と体毛の濃い外人。

「何やってるんだ……」オレはもう一息踏ん張って覗き続ける。

「ワウッ、ハーッ」男の声が唸りに近いものになってきた。

「ミーコさんが……エーッ、」

 ミーコさんが男のモノを咥えて叫び声に合わせて早いピッチで頭を動かしてる。

「ウエッ、アレかぁ……」二人がやってる事が分かった。

 気が付いたら懸垂してる腕がパンパンになってた。体重を支えられくなって、「バサッ」と地面に落ちる。

「カランッ」ちょうど落ちた所に洗面器があって大きな音がした。

「やべえっ」焦ったオレは洗面器を拾うことも忘れ、石垣の隙間を必死に抜け出る。家に着くと石垣でこすってあちこちすりむいていることに気付いた。ちょっとヒリヒリするけどたいしたことない。椅子に座ってボーッとするとさっきのシーンがフラッシュで繰り返し出てくる。

「あーっ、ミーコさんがアレやってたなんて……」知り合いがやってるとこ見ちゃったショックがずっと消えない。

 もう十一時、なかなか眠れない。ミーコさんのヌードが繰り返し出てくるんだもの。下半身が反応しちゃってもう限界だ。隣で寝てるユキの寝息を確認してトイレットペーパーを取りに行った。

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