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4-はじめての友達

 はい。

 またもや見知らぬ場所に飛ばされました。


 断ろうとした僕の声は、女神様には聞き届けられなかったようだ。

 周りの景色も、さっきの宇宙みたいな空間から、何も無い真っ暗な空間に変わっている。


 女神様に代わり現れたのは10〜13歳ぐらいの見た目をした少年だった。

 肩に触れるか触れないかまで伸びた白金の髪、若々しい真っ白で張りのある肌、長い睫毛が縁取った溌剌とした太陽の瞳は内側から光を放つように輝いている。

 ゆったりとした白服の上から装飾過多な青い布を頭と肩に巻き、足には膝下まである鱗で覆われた革製のサンダルを履いていた。

 まるでギリシャ神話をモチーフにしたゲームのキャラみたいな恰好だなと思う。

 少年の座る椅子もまた大層立派なもので、彫刻のような精巧な石造りの椅子は背面が見上げる程に長く、白色の石の表面には隙間なく繊細な彫刻が施されている。王座と呼ぶに相応しい様相の椅子。

 少年は体格に合わないその大きな椅子に足を組み、組んだ足に肘をついて座っていた。

 大人顔負けの態度だが、なぜだかこの少年にはとてもしっくりくる。

 ここには光源なんてないのに少年と少年の座る椅子だけが、ハッキリと闇の中に浮かんでいた。


『間に合ってよかった』


 少年が僕の方を見て笑いかける。


『あいつが送り出す前に回収した僕はすごく頑張ったと思うよ』


 『すっごいギリギリだったんだから』と、ぼやく少年が何に対してそんなに慌てる理由があったのかが分からない。

 神様によって転生させる方法が違うんだろうか?

 今度こそ虫に転生させられたらどうしよう……、なんて最悪な考えが過りどきどきする。蟻はいやだな、でもヘラクレスオオカブトだったらお金持ちに飼われていい生活ができるかもしれない。

 いきなり連れてこられた戸惑いから変な妄想に囚われる僕に、少年がいい笑顔で、


『君が虫になりたいって言うなら、今すぐ地上に送り出してあげるけど?』


 なんて冗談にもならないことを言ってくる。

 まさに今考えていたことを現実にされそうになり慌てて首を振れば、少年がまた可笑しそうに笑う。

 どうやら転生引継ぎにあたり、さっきまで女神様と話してた内容は全て伝わっているようだ。


 改めて少年を見る。

 初対面の相手をじろじろ見るなんて失礼かなと思ったけど、今の僕には目がないから視線の概念はないから問題ないとする。


 とても可愛らしい少年だった。

 声を聞かなければ女の子と勘違いしていたかもしれない。ただ、浮かべている表情や態度からは少女らしさは微塵もないけれど。将来は確実にイケメンに成長なさることだろう。

 だが、こんな人畜無害な可愛らしい少年の姿をしていても、相手は神様だ。中身までそうかは見た目だけでは分からない。


(この子が……)


 僕の転生を女神様の代わりに対応するらしいけど、大丈夫なんだろうか……。

 そもそも、この少年のケンカに巻き込まれて僕は死んでしまったらしいし、先行き不安しかない。

 内心怯える僕を見透かしたか、少年が『もしかして』と言葉を続ける。


『あの女が言った話を信じたの?』

「え」


 片肘を着いたポーズのまま、少年がぱちくりと目を瞬かせる。

 あの女とは、先程まで一緒にいた女神様のことだろうか。


『僕が他の奴とケンカして、君を巻き込んだとかいう話さ』

「ぅ……、そういった話を伺いはしましたが……」


 直接当事者から「話聞いた?」と聞かれるとは思っておらず、しどろもどろな返答をする僕に少年が軽く手を振る。


『あーウソウソ。それ全部、嘘だから忘れちゃっていいよ』

「うそって……」


 僕、女神様に騙されてたの?

 身体があったら、さぞや間抜けな顔をしていたことだろう。


『君が死んだ時の状況だよね。──あの日僕は用事があって、君のいた世界を覗いてたんだ。そうしたら、どこぞの執念深い駄神が嫌がらせに横槍を入れてきてね。俺は無視してたんだけど、次は勝手に怒り出しちゃって』 


 これ見よがしに少年がため息を挟む。


『まいっちゃうよ、俺の身体の周りには常に障壁が展開してて攻撃が当たらないんだ。それなのにムキになって攻撃を続けるもんだからさ、地上にまで余波が向かって地震を引き起こしちゃったって訳』


 ようするに、少年も現場には居たけど巻き込まれただけで、直接の原因ではないけど地震発生の要因として女神様に連帯責任で追及されてると……。


 話の筋道としては女神様が言っていた内容と同じなのに、語る立場が変わるだけで話の印象がだいぶ変わってしまった。

 一方の意見だけを信じてはいけないっていう、見本みたいな話だ。


『フォローしてあげると、君がお人好しで疑うことを知らない子供のような純粋さでもって、騙された訳じゃないよ』


 なんだか言い方に悪意があるような……、もしや少年の責任だと信じていた僕にも怒ってるんだろうか?


『あの女は本気で俺がやったって信じ込んでるんだから。だから、僕にとっては嘘だけど、あの女からしたら本当の話ってこと。安心した?』


 そう笑顔で話す少年に、安心どころかむしろ不安になってきた。


 この少年にケンカを吹っかけてきた神様は、絶対関わりたくないタイプだと判明したんだけど……。

 もう一つ気になるのは──、この少年と女神様も仲が悪いんじゃないかということ。


 女神様をあの女呼ばわりだし、少年の話を聞いてると女神様の話も一方的な決めつけが酷いように思う。

 どちらの話も主観ましましに思えて、僕は誰を信用したらいいんだろう。

 この少年が嘘をつく悪い子には見えないけれど、時として子供は残酷な無邪気さを兼ね備えている。

かと言って、大人の姿だから女神様を全面的に信用するのも駄目だ。大人だって流れるように嘘も付くし、間違いも起こす。


 戸惑う僕を他所に、少年は話し続ける。


『要するに、今回の件に関して僕はまったくの無関係って話なんだけど。まぁ君からしたらただの責任のなすり付け合いを延々と聞かせられてるって思われても仕方ないかな』


 確かにそれはそうだった。

 僕が死んでしまった責任の所在は宙ぶらりんに戻された。

 ただ僕が被害者側ではあるんだが、これからの人生の進路をお任せする身としては立場が弱い。


『だから、君のことは俺が対象しよう。頼りにならない神達の間を盥回しになるのも、これで最後。どう?嬉しいでしょ』

「あ、ありがとうございます?」


 お礼を言うと、少年が満足そうに笑う。


『じゃあさ、まずは友好の印に僕と友達になってよ』

「トモダチですか???」


 僕が?神様と?


『そう!こう見えて僕には友達がいないんだ!』


 それは自慢になりませんよ、と言いそうになるのを何とか喉に押し留める。


 そもそも友達になったところで、転生したら僕の記憶は消えてしまう。友達になったことすら忘れてしまう相手と友達になりたいなんて……と、ここまで思考を巡らせふと気付く──もしかしてこの少年は僕の記憶を消すつもりがないのでは?

 一縷の希望を見出し、ドキドキしながら少年に尋ねる。


「転生したら記憶は引き継げないって女神様から言われたんですが」

『ええ、消さないよ?友達になった後に記憶消して忘れられてたら荒唐無稽なことになるよね』


 やっぱり!

 ありがとう少年!僕を女神様から引き取ってくれて!


(この少年は絶対にいい子だよ!)


 僕の神さま支持の天秤が、女神様から一気に少年の方へ傾く。

 女神様から話を聞いた時は、怒られて引きこもってると聞かされていたから、プライドが高くて我儘な奴なのかと勝手に考えてたんだけど、思ってた印象とはだいぶ違った。


 実際、彼はとてもフレンドリーだ。

 見た目と話し方からしても、普通の子供とそう変わらない。態度は大人顔負けだけど……。

 気になるところと言えば、この少年の話し方ぐらいか。〝僕〟に〝俺〟にと一人称がころころ変わる。

 ふざけている様には聞こえないけど、癖なのかな?それとも一人称を変えたい年頃なんだろうか。


 ともあれ、友達申請を拒否するなんて選択肢は無い。

 神様の方から友達申請される日が来るなんて想像もしてなかったけれど、前世の家族や友人を一気に無くして心細い思いをしていた僕にとっては、たとえ身分に天と地の差があれど、友達になってくれと言われて嬉しくないはずがない!むしろ僕の方からお願いしたいぐらいだ。


「僕でよろしければ……ぜひお願いします!」

『そんな他人行儀な話し方やめてよ。せっかく友達になったんだ』


 そう言われましても、会って数分の大いなる存在を全身で受け入れるのは人の身には荷が重くないか?


「……もうちょっと、時間が欲しいです、かな?」


 頑張って砕けた口調で言ってみるが、ルーイにはまだよそよそしく聞こえるようで『う〜ん、ガードが硬いなぁ』なんて呟いてる。


『ちょっと気安気に僕の名前呼んでみてよ、語尾にハート付けた感じで』


 語尾にハートって神様も使うの?それよりも、


「名前が……」

『ああ、そういえば。まだ僕の名前知らないんだっけ?』


 僕の言葉に、少年は今気が付きましたといった顔をする。

 そんな相手にハート語尾を要求するなんて、どれだけ友達が欲しかったんだろう。


『ん〜どうしようかな。僕は……そうだなぁ、……ルーイとでも呼んでくれていい』

「ルーイ?」


 少しの間を置いて、少年はルーイと名乗った。

 考えてたってことは、本名じゃないんだろうか。偽名、もしくは名前の中にルーイという言葉が入っているのか、なんて思考を飛ばしているとルーイがにっこりと笑顔を向けてくる。


『俺の名前めちゃくちゃ長いけど、そっちで呼ぶ?』

「ルーイ。いい名ですね」


 笑顔に圧を感じて即座に受け入れると、ルーイが満足そうに頷く。


『理解が早くて助かるよ。この名は、天上と地上に住まう神を10000体斬り殺した英雄の名前だよ』


 それはもはや悪魔の名ではなかろうか?

 一人殺せば人殺しだけど、千人殺せば英雄って誰の言葉だったっけ。新ルールに一万人切ったら神になるって付け足しておこう。

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