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13-荷物検査

 深い眠りに沈んでいた意識が浮上する。

 原因は頬に触れる違和感で。

 まだ眠っていたいのに、頬に当たる刺激がうっとおしくて声にならない唸りが漏れる。


「ん〜、むぅ〜……」


 寝返りをうつ。だが、顔を背けた先でもつんつん、つんつんと何かに頬を突かれる。


「……なに〜〜」


 うっすら目を開けると、目の前に女の子の顔があった。


「わぁ!」

「おきた!」


 女の子はレーリンちゃん。この宿屋の娘さんだ。

 なんで僕の部屋に?と思っていると、部屋の外から「レーリンー、何してるの〜降りてらっしゃい〜」と、奥さん──レイナさんの声が聞こえてきた。

 「はーい!」と元気な返事を返し、


「朝ごはんだって」


 と、レーリンちゃんがにっこり笑顔。

 釣られて僕も笑顔。


「そっかー、起こしに来てくれたのかぁ、ありがとうね」

「うん!じゃあ、まってるね!」


 そう言って、トトトと軽い足音を立てレーリンちゃんが出ていく。


「朝から元気だなぁ、羨ましい。それよりなんでレーリンちゃんが部屋に……」


 と、考えた途中で答えに気付く。


(鍵をかけ忘れてた……!)


 昨日の記憶がベッドにダイブしたところで途切れている。

 昨日は色々あり過ぎた所為で、疲れ果ててそのまま眠ってしまったようだった。異国の地でなんて不用心なことをしでかしたのか。


「き、気を引き締めないと!」


 こうして、異世界2日目がスタートした。



※※※※※※※※※※※※※※



 階段を降りると、扉の前でレイナさんとデイムスさんを見つけた。


「あなた〜お弁当忘れてますよ」

「おお、忘れるところだった。ありがとな、でも無理しなくていいと言ってるだろ?お前は店もあるんだ、オレ1人なら適当に済ませられるんだから」

「あら、うちの稼ぎ頭には体力をつけてもらわないとなんだから」


 そう言うと、レイナさんは足にしがみ付いているレーリンちゃんの方を向き同意を求める。


「ね〜」

「ねー」


 レーリンちゃんも肩ごと首を傾げて楽しそうに返す。

 微笑ましい母と娘だ。

 「中身は開けてからのお楽しみです」と、得意げな奥さんに、デイムスさんも嬉しそう。

 口元にやけてますよ、お熱いことです。


「おう。お前の作る飯が1番好きだ。じゃあ行ってくる」

「「いってらっしゃ〜い!」」


 2人で元気にお見送りしてから、振り返ったレイナさんが降りて来た僕に気付き笑顔になる。娘さんとそっくりな笑顔。あ、レーリンちゃんがレイナさんに似てるのか。


「さぁ、朝ごはんですよ!」



 昨夜、夕食の席で聞いた話では、デイムスさんは現在、荷運びと解体、仕分け作業と、3箇所で仕事をしているそうだ。たまに、傭兵時代の指揮能力を買われ小規模な工事現場の監督も任されているらしい。

 ディムロさんは元傭兵だから体力とパワーが人一番ある。本当は給金も高い力仕事をしたいところだが、足を怪我しているため主力になれず雑用関係の仕事しか回ってこない。

 当然、給料は思ったような額にはならず金額は低い、その代わり勤務時間を伸ばしカバーしているようだ。

 パワーが使えないなら体力で、とは考えるのは簡単だが、やってみるとキツイ仕事量になる。

 家族のため動かない足を引きずって、3ヶ所の勤め先に毎日交互に出勤しているデイムスさんは、漢気にあるれていると思う。


 今日の仕事は荷運びの仕事らしい。

 背負えられれば、本来は2人で運ぶような荷物もデイムスさん1人で運び終えるため、結構お声はかかるそうだ。


 朝食を食べつつ、レイナさんに僕の今日の予定を聞かれる。

 とくに予定はないが、生活必需品など買い物をしたいと話すと、おすすめの店を紹介してくれた。

 外に出るなら、ある程度の街並みは知りたいから、探索がてらぶらぶらしよう。

 仕事も探さないといけないし、持ってる荷物の確認もしないといけないから、予定はないのにやることは多い。


 まずは、部屋に戻って荷物の確認からはじめることにした。

 レイナさんはパン作り、レーリンちゃんは宿のお掃除をするそうだ。

 部屋に戻り、今度はちゃんと鍵をかける。

 持ってるアヒルさんが喋り始めたりしたら、いい言い訳が思いつかないからね。


 宿の部屋は、そう特別でもなく、古くもない普通の部屋だ。

 広さは1人暮らしにはちょっと広めに感じるぐらい。広さの理由は、相部屋として使う時に、もう2、3台ベッドを敷き詰められるよう、はじめから余裕をもたせて設計されているらしい。

 窓は両開きの四角型。家具は大きめのベッドに、木製のポールハンガー、丸テーブルに椅子が2つ。

 部屋に鏡があれば自分の顔を見ることが出来たんけど、あいにく備え付けは無かった。

 レイナさんなら鏡を持ってそうだし、あとで聞いてみよう。


 椅子に座り、リュックを開ける。

 昨日見た時と変わりなく、中には宇宙が広がっていた。


「気にしない気にしない」


 非現実から目を逸らし、リュックから物を取り出すと、またルーイの説明が頭に流れてくる。


【地図】この世界の地図だよ

【金貨×100】この世界の通貨

【桃】元気になるよ。お腹が減ったら食べてね

【水】元気になるよ。喉が渇いたら飲んでね

【飴】俺のお気に入りの飴。おいしいよ

【髪飾り】こっちも似合うと思うんだ、悩んだから入れとくね

【ルーイの護石】あ、これは売らないように


 ここまでは昨日と同じ。


【服】着替え用で3着分だよ

【エイドルの石板】熱くなったり冷たくなったりする石

【ホロウアイズ】弓。上手く当たればヘーゼルイーターも一撃さ!


 これで全部かな。

 あとはおまけで、僕が買ったアヒルさんの木彫りが1点。


 地図はやっぱり世界地図のままだった。

 元は神様の物ってことで、携帯みたいに指でフリックしてみたり、2本指で摘んだり開いたりしてみたけど何も変わらない。

 この地図の活躍の場は限られそうだな。


「金貨は〜……、この国では使えないし……」


 両替のためにも身分証が欲しいところだけど、誰にでも気軽に聞ける話じゃない。下手すれば、その場で不法入国者として捕まってしまう危険性がある。


「どうにかならないかなぁ……」


 色眼鏡に聞いてみるか……でも、アヒルさん騒動の後だし、しばらくは保留かな。

 品物を一つずつ確認しては、リュックにしまっていく。


 桃と水と飴は、とくに何の変哲もない食べ物だった。ちょっと桃の実が大きいくらいかな。

 荷を全て取り出してみると、桃の数は3つもあった。

 まだ、ハリもあってぴちぴちだけど、これは早めに食べないと腐らせてしまうから要注意だ。


 水は陶器の瓶にコルクで栓がされたものが3本。重さ的に1本1リットルぐらいとみた。

 異国の地では飲み水として、使える水源が少ないと聞いたことがある。きっと、そこらへんを考慮してルーイも用意してくれたんだろう。ありがたく使わせてもらおう。


 飴は透明な大きな瓶の中に、むき身でたくさん入っていた。カラフルで小粒な飴。100粒ぐらい入ってそう。

 コルクで出来た蓋を開け、一粒摘んで食べてみる。


「あ、おいひぃ」


 ソーダ味だといいななんて考えながら青色の飴を選んでみたら、まんま想像通りのソーダ味だった。

 青いからソーダかラムネ、もしくはブルーハワイのかき氷味かなと予想はしてたけど、見事に当ててしまった。しかも、記憶にあるソーダ味の中でも一番好きな味。

 たくさん入ってると思ったけど、これはすぐ無くなっちゃうかもしれない。そんな事を考えながら、口の中で飴を転がしていると、不思議なことに味が変わりはじめた。


「ん、あれ?味がラムネに変わった?」


 驚く間にも味は変わり、次には懐かしいかき氷の味に変わっていく。

 どうやらこれは味の変わる飴らしい。


「すごい、僕ってば味変全部当てちゃったよ。3回も味が変わるなんて、どうやって作ってるんだろ。なら、こっちの赤いやつは林檎と苺と……トマト?緑のはメロンにキウイに、スイカかな?いや、スイカが赤色かも……」


 なんだか楽しい飴をもらってしまった。ルーイが気に入ってるだけはある。


「あとでレーリンちゃんにも分けてあげよー」


 美味しいけど瓶ごと持ち歩くには重そうだから、買い物に行ったついでに小さい小瓶を買って小分けにしようと決める。


 次に手に取ったのは髪飾り。

 髪飾りは金色のリング型をしていて、緑色の石が金の装飾の隙間に散りばめられた美しい逸品だった。

 ちらりと、今自分の髪に付いている髪飾りに視線を落とす。

 このリングと並べても遜色ない代物だと思う。

 楕円に削られた緑色の石がリング状に連なり、金色の装飾で周りが固定されている。どちらも派手で、お高そう。

 でも、いま付けている髪飾りの方が金ピカ部分は抑えめな印象。

 こっちの派手なのは、壊れた時の代用品として大事にしまっておくことにする。


 そして、服だ。


「着替えまで用意してくれるなんて、ルーイはなんていい子なんだろう!」


 食品、衣類、お金といたせり尽せり準備してくれている。

 こんなにも気を遣わせてしまって悪いなって気持ちと、ありがたやって神様への信仰心とか感謝の気持ちがない交ぜになる。

 いそいそと服を広げて見てみる。

 金のどんぐりやら、装飾品やらで、金ぴかで派手な物が好きそうな印象があるルーイのチョイスにしては、派手さはそれほど感じない服だった。


 1着目は、今着ている服と大差ない、動きやすさを重視した冒険者風の衣装。

 革製の腰巻きやベルトの吊り具が付いている。

 今の服といい、革製の装飾品が多いけど、この世界の一般的な組み合わせなのかな?


 2着目は、肌の露出が限りなく少なくなりそうな、ボタンと装飾が多めのローブ。

 この服と眼鏡を合わせれば、RPGに出てくる魔術学園の先生とか、お偉いさんの秘書のコスプレができそうな、質の良い服だ。伊達メガネが必要かもしれない。


 3着目は、前の服とは逆で露出が多い服だった。

 背中が空いた前掛けみたいなトップに、スリットの空いたズボン。代わりに、肌の露出部分を覆うように、貴金属の装飾品が両腕両脚、上半身とジャラジャラ付いていた。けど、その形状は装飾品というよりも、防具に近いように思う。


「ゲームなら、身軽な戦闘服って感じで流せるんだけど……、普段着にはキツイ」


 でも、装飾品を外せば、夏の寝巻きに代わりにはもってこいだと思う。うん、悪くない。

 広げた服を畳み直し、大事にリュックに仕舞い込む──その途中で、僕に頭脳に衝撃が走る。

 下着がなかった……!!

 

(……なぜだ、ここまでいたせり尽せりだったのに……、たまたま見逃したのか?)


 それとももしや、神様には下着文化がない──?


「いやいや、何を考えてるんだ僕。そもそもパンツまで神様に用意させようなんて、そんな恐れ多いこと考えちゃダメだ」


 ルーイのノーパン説は、記憶から即座にデリート。個人の趣味思想に口出ししてはいけない。

 それよりも、早めに下着がないことに気付いてよかった。買い出しの時に一緒に購入しておかねばならない。


 あらかた荷物はリュックに直し終えた。

 ──さて、問題はここからだ。


 テーブルに残っているのは、ルーイの自動音声を聞いてもよく分からなかった3点だ。


【エイドルの石板】熱くなったり冷たくなったりする石

【ホロウアイズ】弓。上手く当たればヘーゼルイーターも一撃さ!

【ルーイの護石】あ、これは売らないように


 まずは、エイドルの石板。

 見た感じは四角いコンクリートブロック。重さも結構ある。

 大きさは30センチ四方、石板には魔法陣のような円状の模様が彫られていた。

 エイドルさんが誰なのか知らないけど、


「熱くなったり冷たくなったりするってことは、湯たんぽ的な機能でもあるのかな?」


 温度調整機能があるなら、冷たくして桃と一緒に入れておけば、生身より保存状態がよくなりそうなんだけど……。


「使い方が分からない……」


 いまは触ってても、とくに熱くも冷たくもないんだけど、スイッチのようなものも見当たらない。

 魔法陣みたいなのが描かれているし、呪文が必要なのかな?


「これも保留かな」


 次は弓。

 見るからに弓。説明でも弓って言ってるから弓なんだろうけど、矢がないんですが???

 矢がなければ弓は使えない、それ以前に、何故弓矢が必要なのか。

 この世界では狩りなんかが普通に行われているのだろうか。

 説明に出てくるヘーゼルイーターとは……、『イーター』なんて、映画に出てくる化け物にしか付けられてるの見たことないんだけど?


「不穏だ。ルーイにあとでちゃんと聞かなくちゃ」


 そして、最後にルーイの護石。


「なんだろうこれ」


 黄色の綺麗な石だった。削り取られたみたいな角ばった表面に、細い革紐が巻きつきネックレス状になっている。

 護石だから御守りみたいなものだよね?


「首から下げとかないといけないのかな?」


 石の形状自体はそれ程大きくない。親指程度の大きさだ。付けていても不便はない。

 黄色い石の中にキラキラと美しい光が満ちていた。それだけじゃなく、中で何かがマグマみたいに動いているようにも見える。

 揺れ動く光を見つめながら、純粋に美しいと思う。

 これに似た物を僕は見たことがあった。


「ルーイの目みたいだ……」


 初めてルーイにあった時から思っていた、一度見たら忘れられない、太陽の様な輝きを持つ印象深い目。

 見れば見る程ルーイの目にそっくりに見えてくる……、そう思うと、この石にだんだんと愛着が湧いてきた。

 せっかくルーイがくれたんだから、首から下げておこう。御守りは肌身離さず持つのがよろしいものだ。

 引っかかったりしないよう、石の部分は服の中に入れておけばいい。

 荷物の整理も終わり、椅子から立ち上がる。


「よし、荷物も確認し終えたし、買い出しにでも行くかな!」


 目指すは日用品と下着だ!

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