10-衝撃の事実
「……ハァ……ハァ……ハァ……」
本日、2回目のデジャヴを感じる。
何だか、この世界に来てから不必要なことで走り回ってる気がするのは気のせいだろうか。
手に握りしめてたアヒルさんを解放する。
もう目は光ってなかったけど、左右にカタコト揺れてるから、まだルーイと繋がっているのが分かる。
「ルーイ、久しぶり……って言うのは変かな」
こんなに早くルーイと連絡がつくなんて思っていなかった。
アヒルさんを買ったのだって、いつか渡せたらいいなぐらいの感覚だったのに。
この先の人生で、あと何回会えるんだろうってぐらいの気持ちでいたから、予想外な出会いではあったけど、正直かなり嬉しい。
相手は神様だから馴れ馴れしく接していいのかはあれだけど、ルーイも友達にって言ってくれたし、少しぐらいいいよね?
見知らぬ土地に1人で放り出されるのは、やっぱりちょっと寂しかった。
『まったく、少し目を離すとノルンはすぐに変なのに絡まれるんだから』
「あはは、大丈夫だよ。見た目はアレだけど、普通に良い人だったから」
『良い人?君の元いた世界では詐欺師のことを良い人に分類するのかい?』
「いや、それは……」
違うんだけど、アレぐらいは詐欺とは呼べないかな。
「心配ありがとう。でもさすがに僕だって本物の詐欺師に捕まったりはしないよ、大人だからね」
『その自信が心配の元なんだけどなぁ』
当たり前のことを言ったのに、ルーイは納得しないようだ。
僕はどれだけ頼りなく思われているんだろう?
それとは別に、ルーイにはお兄ちゃんとしてちゃんと言わねばならないことがある。
「ルーイ、急にあんな脅しをかけたらダメだよ?みんなを怖がらせちゃうから」
現に妹さんはかなり怖がっていたと思う。ほんとゴメンね!
『そう?怖がらせるつもりで脅したから僕的には結果に適っているんだけど。詐欺師に騙されたら、やり返すのは基本でしょう?』
「う〜ん、もうちょっと穏便に済ませて欲しいこともあるかなぁ〜」
あの取引はルーイからしたら詐欺に該当するらしい。僕としては助かってたんだけど……。
お互いに良い条件で話がまとまっていたと思う。
……それに、どちらかと言えば、不法入国を犯した僕の方が分が悪いし。
役所に突き出される事もなく、手数料を払うだけで危ない橋を渡らずに済んだんだし。
まぁ、過ぎてしまったことはどうしようもない。
あの店にはしばらく近寄らないで、忘れた頃にまた機会があれば寄ってみよう。
手の平の上でコロコロ揺れるアヒルさんを見る。指で軽く突いてみると、『撫でるなら頭にしようよ』と言ってくるから指先で頭を撫でる。
感触までは伝わらないと思うんだけど、可愛いからいいか。
良い買い物をしたな〜と呑気に眺めていたところで、僕は大事なことを思い出す。
「そうだ!ルーイあのどんぐりのキーホルダーはなに?!ものすごい音だったんだけど!」
『ああ、アレは前に僕が貰ったものだよ。心配だからって言ってね、まったく子供扱いしてさ……。僕はもう子供じゃないから君が持ってたらいいよ』
ようするに、要らないお下がりを回されたらしい。でも僕も要らない……。
ルーイも要らないなら、売ってもいいかな?聞いてみようと口を開きかけ、
『おっと、そろそろ切るね。今、移動中なんだ』
「あ、ごめん」
運転中の通話──念話?は禁止だよね。
どんな移動方法か知らないけど……邪魔はしない方がいいと思う。うん。
「それじゃあ──」また話せたらいいなと次の約束をして話を終えようとした所で、『そうそう』とルーイが話を続け、
『今、ノルンがいる国だけど、俺が選んだ国じゃないんだよね』
「は、はぃ?!」
衝撃の事実がら知らされた。
どうりで貰ったお金が違った訳ですよ。
じゃあ、本当なら僕はなんたらテデス国に送られるはずだったのかな?
「なんでそんなことに???」
『あいつ……ノルンが死んだ原因作った奴だけど。あいつがノルンを送り出す時にまた横槍してきてさ』
「うぇえ……」
なら、僕はまた大地震やらの災害に巻き込まれるところだったってこと?
勘弁して欲しい。人生リスタートのテンポが早過ぎる。
『ここは、そいつが管轄してる国だよ』
まさかの敵国。
いや、僕が敵対してる訳じゃないけど、味方では絶対にない。
「この国の神様は商いの神だって聞いてたけど、けっこう苛烈なんだね……」
『商い?あはは!上手く言ったものだね、俺から見れば『欲』の神ってところかな?』
知り合いであるルーイが言うなら、そうなんだろう。
『あいつの動向には注意してたんだけど、手下の雑魚共までは気にも止めてなくてね。まさか転送中に邪魔してくるような馬鹿な真似するなんて』
「転送の邪魔をしたって……もしかして、その人たちも一緒に地上に送られて来てたりとか?」
『いやそれはないよ。ノルンを地上に送る転送の余波に当たっただけで、呆気なく全員自滅。それだけ弱いから無視してたんだけど──』
ルーイはかなりご立腹のようだ。
弱いからと見過ごしてたその隙を突かれたのが気に食わないんだろうな。
『雑魚は自滅で片付いたけど、指示したそいつらの主人はまだ残ってるんだ──』
『だから──』と、一拍おいたルーイが楽しげに言う。
『いい加減うざったいから、ちょっと始末してくる』
「あ、はい」
つい返事をしてしまう。
見られてもないのに姿勢を正す。
『だから、しばらく連絡が取りにくくなると思うけど』
「えぇっ、大丈夫なの?」
『うん、心配しなくても大丈夫だよ。俺って結構強いんだから!すぐ終わらせて戻って来るから、じゃあまたね』
ルーイの元気な声と共にアヒルさんとの念話が切れる。
(ごめん、ルーイ……)
……違うんです。さっきの大丈夫はルーイの心配をしたんじゃなくて、しばらく1人になる自分の心配をしてしまいました。
ちょっと始末してくるとか、笑いながら言えちゃう人物を心配するなんて、そんな身の程知らずなこと言えません。
むしろ相手の神様の方を心配するべきなのかもしれない。
「……まぁ、怪我しない程度にね」
手の平に横たわったアヒルさんに声をかける、もう聞こえてはいないだろうけど。