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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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95.デートの件⑤

 デートの日程も決まってあとは当日を待つだけ。

 その間もアリサのことは注意してみてないといけないのよね。あたしが釘を刺したことでちゃんと行動が変わったかどうか確認しないといけないし……これはキキにも協力してもらおう。キキもわざわざあんなことをあたしに相談してくるくらいだから、気になってるでしょう。


 そう思って散歩がてらキキを探した。

 が、何故か他のメイド二人組に捕まってしまう。


「ロゼリア様! ユキヤ様とデートなさるんですよねっ」

「ええ、そうよ。……もう、誰が口を滑らせたの?」

「メロくんに聞きました」


 メロ……! あいつまさか言い触らしながら歩いてるんじゃないの?

 別に隠すわけじゃないし、こそこそするわけでもないんだけど、こんな風に打ち合わせが終わった途端に言われるとは思わなかったわ。まぁ、こうやってキキ以外のメイドが気軽に近づいてくるって状況は悪くないし、彼女たちの野次馬根性は別に嫌いじゃないので、しょうがないわねって態度で笑って見せた。


「来週、ユキヤと買い物に行くのよ」

「ユキヤ様なら紳士的にエスコートしてくれそうですよね~!」

「そうかしら? あたしの買い物に付き合わせる形だし、逆に振り回しそうなのよね」

「それはそれで楽しそうです。そういえば、ロゼリア様は最近買い物を控えられてましたよね……楽しんできてください!」


 瞬きをして、楽しそうに笑う二人を交互に見つめてしまった。

 二人ともにこにこしていて、何だか楽しそう。こっちも自然と楽しくなってきちゃう。


 「楽しんできてください」なんて言われる日が来るなんて思ってなかったわ、本当に。今までは多分「さっさと出掛けてなるべく遅く帰って来て」と思われてたに違いないもの。

 こういうのを目の当たりにするといい方向に変われてるんだってほっとする。たまに気を抜いちゃうから気をつけていこう。

 一息ついてから、二人に笑いかける。


「──ありがと。何かお土産でも買ってきましょうか?」


 そう言うと二人はきょとんとして顔を見合わせて、あたしへと視線を戻してぶんぶんと首を振った。あら、いらないみたいだわ。


「いえいえ! お土産なんて……!」

「そうですよ。だって、ロゼリア様のデートですから。気にせずに楽しんできていただければ……」


 二人は「だから要らないです」と強く言って、一歩あたしから離れる。

 あ、折角だからアリサのことを少し聞いてみようかしら──。

 そう思って二人を引き留めようと手を伸ばす。

 が、少し離れたところからハルヒトがこっちに近づいてきた。ハルヒトが近くにいたんじゃアリサのことは話題にできないわ。諦めてまたの機会にするしかないわね。


「ロゼリア」


 手を引っ込めたところで声がかかり、メイド二人は「きゃっ」と声を上げる。

 王子様みたいな顔と雰囲気してるから本当にメイド受けは良いのよね。


「……ハルヒト」

「ちょっとロゼリア借りていいかな?」


 借りるって何よ。文句を言うよりも先に二人は「話は終わりましたので」と言いながら下がっていった。

 ハルヒトは二人を笑顔で見送り、あたしのことを楽しそうに見つめる。あたしは別に楽しくないのよね。キキのことはハルヒトに聞いてもわかんないだろうし。

 って言うか、キキがどこにいるのかすらも聞けてない! あの二人にデート楽しんできてくださいって言われて終わっちゃったわ。その会話だけでもちょっと楽しかったから、まぁいいか……。

 あたしは小さく溜息をついてハルヒトを見上げる。


「で、何よ」

「改めてお礼を言っておかなきゃと思ってさ」

「お礼?」

「デートに同行させてくれること」


 どちらかと言うとあたしのおかげと言うよりもユウリが助け舟を出したからでは。

 まぁ、最終的に「約束さえ守ればついてきて良い」と言ったのはあたしだけど、話の取っ掛かりはユウリだと思うのよね。


「お礼を言うならユウリじゃない?」

「もう伝えてきたよ。最終決定はロゼリアだっただろ? だから、ありがとう」


 にこにことハルヒトが笑う。すごく機嫌良さそう。

 自由に行動できないにしてもやっぱり外に出られるのが嬉しいみたい。正直、自由に行動させてあげられない時点でそこまで感謝されることでもないと思うんだけど……さっきメイド二人と話していた時と同じで、目の前で嬉しそうな顔を見るとこっちまで嬉しくなってきちゃうわ。

 ただ、それを表に出すのも難しくって、肩にかかった髪の毛を払い除けつつ顔を背けてしまった。


「……そう。でも、当日あたしはあんたに構えないわ」

「要はジェイルたちとロゼリアを尾行するんだろ? もうそれだけで楽しそうだよ」

「何度も言うけどデートだから、邪魔しないでね」

「──へぇ、そんなに邪魔されたら困るんだ?」

「は?」

 

 何言ってんの当たり前でしょ──。

 そう言うつもりでハルヒトを見ると、笑みを浮かべたままだったけど目が笑ってなかった。軽口のやり取りだと思っていたのにそうじゃなかったみたい。

 少し驚いたけど、ハルヒトはそれを察したみたいに笑い直した。目が笑ってないのを隠すような笑い方。


「仕事だって言ってただろ? 仕事でするデートだとしても、やけに気にしてるから」

「……色々事情があるのよ。周りに仕事だと思われちゃ困るの。だから、この手の話は人のいるところでは控えて頂戴」

「わかった」


 ハルヒトはそれ以上食い下がることなく素直に頷いた。素直にと言うより、聞き分けがいいと表現した方が良いような気がする。……ゲーム内で得た情報があるから、こういうところでハルヒトの背景を思い出してしまう。正妻からの虐待紛いの嫌がらせのせいで、基本的に聞き分けがいい。自分を守るために必要だったという話。

 そういう一面を目の当たりにすると良心がチクチクする。


「最後に一ついいかな?」

「いいわよ」

「デートの相手、湊ユキヤだっけ? ロゼリアはどう思ってるの? 彼のこと」

「どうって──……」


 推しよ。と答えたいのをぐっと堪え、一度口を閉じた。

 なんでこんな面倒な質問してくるのかしら。ハルヒトの様子を見てみても薄く笑っているだけで感情がいまいち読み取れない。ハルヒトがこんなことを誰かに聞くシーンはなかったから、サンプルがないというのが正しいかも知れない。どういうつもりで聞いてるのかさっぱりだわ。

 口元に手を当ててどういう答えが良いのかと考え込む。


「……そうね。ビジネスパートナーかしら、今のところは」


 契約的なものを交わしてるし、南地区のことで色々と協力しているから、これが一番真っ当かつ妥当な回答な気がする。

 ハルヒトの反応を見てみると納得したようなそうじゃないような、複雑そうな顔をしていた。


「そっか、わかった。ありがとう」

「ねぇ、なんでそんなことを聞くの? ユキヤとのことは、ハルヒトには関係ないんじゃないかしら?」


 いまいちハルヒトの考えがわからなくて腕組みをしてまっすぐ見つめた。あたしの視線を受けたハルヒトはどこか驚いた顔をしてから、おかしそうにクスクスと笑い出す。

 ますます意味がわからないわ。


「以前、ロゼリアの恋人になりたいって言っただろ? ライバルになりそうな相手の調査をするのは当然だと思うよ」


 思わずバランスを崩しそうになった。

 あんぐりと口を開けてしまうと、ハルヒトがますますおかしそうに笑う。


「……。……あ、あんた、あれ、あれっきりの話じゃなかったの……!?」

「まさか。デリケートな話だって言うのは理解したけど、それとこれとは別だよ」

「あ、あんたねぇ……!」


 なんかバグってない? ハルヒトがこんなことを言い出すなんて絶対おかしい。

 あたしは開けっ放しだった口を閉じてこほんと咳をする。楽しそうなハルヒトのことを直視していられず、脳内でゲーム情報との照らし合わせを行った。

 少し考えてから、ある可能性に思い当たる。

 ハルヒトが椿邸に来た経緯が既にゲームと異なってしまっている。つまり、ハルヒトに対して害意や妙な感情を持たない異性の代表というものがあたしになっちゃってるんじゃないの? ゲームだったらアリスっていうかアリサのはずだったのに、多分そこがバグってる。生きてる人間に対してバグってるだなんて言い方はよくないけどね……!

 ふう。と一息ついて、改めてハルヒトを見つめた。


「ハルヒト、もっと周りを見た方がいいわよ」

「どういう意味?」

「もっといい相手がいるでしょ。あたしじゃなくてね」


 そう言うとハルヒトは目を丸くして驚いて──それから、呆れ顔で明後日の方向に視線を向けて笑った。

 ……何よ、その反応。馬鹿にしてんの……?

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