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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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94.デートの件④

 ハルヒトは目をキラキラとさせたまま、あたしを見て口を開いた。


「ねぇ。オレもついて行きた」

「駄目です」


 言い終わらぬうちに、ジェイルが横から一刀両断してしまった。

 ハルヒトがつまらなさそうに口を尖らせる。


「ジェイルたちはついていくんだろ? 何で駄目なんだよ」

「自分とハルヒト様では立場が違います。ガロ様から極力外に出ないようにと言われていたと思います」

「極力、だよ。一切外に出るなとは言われてない」


 それはそう。確かに軟禁状態ではあるものの、ハルヒトが望むなら多少は外に連れ出してやってくれ、というのは言付けがあった。

 ジェイルにしてみたら、デートの監視とハルヒトの護衛がダブルで襲い掛かるから面倒なのよね。

 ……。

 あれ、このタイミングでハルヒトを置いて行ったら、同じく留守番予定のアリサとの距離が近づいちゃったりしない……? ゲームには当然こんなイベントはなかったけど、二人きりになれるタイミングというのは二人の好感度アップイベント的にはうってつけよね。グッと距離が縮まって、あたしへの殺意を燃やしたり……?

 流石に考え過ぎかしら。

 そもそもハルヒトとの出会いは変わってしまって、あたしを恨んだりすることはないはず。

 どっちがいいんだろうと考えるあたしをよそにハルヒトとジェイルが「連れてって」「駄目です」を繰り返していた。


「……ジェイルさん」


 そっと口を挟んだのは意外にもユウリ。ジェイルとハルヒトは一度会話を止めた。

 ユウリは二人の視線を受けてちょっとだけ怯みつつ、そのまま言葉を続ける。


「連れて行って差し上げるわけには、いかないでしょうか?」

「真瀬、お前」

「ユウリ、君は話がわかるね」


 当然ながらジェイルとハルヒトの反応は正反対。

 メロは他人事だと思って楽しそうに眺めてるだけ。あたしもひとまず静観。


「たまには気晴らしも必要だと思うんです。ただ、ハルヒトさんに自由に行動していただく時間は多分取れません……」

「ああ、オレは全然いいよ。ロゼリアのデートっていうのが気になるから連れてって欲しいだけなんだ。実のところ、この屋敷とこの敷地内だけでも全然不自由してないしさ」


 そんなことを気楽に言ってしまっていいのかしら。っていうか、あたしは結構窮屈な思いをしてるのに、ハルヒトはこの環境で不自由してないんだ……。……裏を返せば実家である八雲会での生活がそれほどまでに窮屈だったということよね。

 ちょっとだけハルヒトの肩を持ちたくなってきたわ。


「──ジェイル、君の面倒くささもオレは理解してるつもりだ。当日は君たちの指示に従うし、余計な行動はしないって約束する」

「……しかし」

「オレ、みんなでどこかに出掛けるってこともしたことなくてさ……」


 あら?

 ハルヒトはすっと視線を伏せ、哀愁を漂わせる。

 掴みどころがなく飄々としている反面、自分が『可哀想』な立場であることをハルヒトは知っている。ゲーム内ではたまにそれを武器にすることがあった。そんなシーンを思い出すわ。


「こんなこともうないかもしれない。ジェイルの仕事の邪魔はしないから……本当にダメかな……?」


 顔がいいって得よね。同性でも効くのかどうかは知らないけど、一定の説得力があるもの。

 でも、こういうことを言っているうちはハルヒトにはまだ余裕がある。多分。余裕がなくなると『可哀想な自分』は流石に武器にできないみたいだったからね。

 ジェイルはハルヒトの様子に少しビビってしまっている。

 ここで断ったら自分が悪者のようだもの。危険な目に合わせないために連れて行かないのが正解だとしても良心の呵責がありそう。多分あたしもこれを正面から受けていたら断りきれなかったと思う。


「……っ。お、お嬢様!」

「え?」

「お嬢様はどう思われますか!?」


 こいつ──!! あたしに判断をぶん投げてきた!

 ハルヒトが期待をした目でこっちを見ている。うっ、ハルヒトってユウリとかノアと系統が似ていて(ゲーム上はユウリやノアがハルヒトに寄せてるって感じかもしれないけど)、こういう感じでお願いされると途端に負けちゃうのよ、あたしが。

 ノアを甘やかしたくなる心境に近いわ……。落ち着くのよ、あたし。

 あたしは素知らぬ顔をしてハルヒトが持ってきたビスケットをつまんだ。


「別にどっちでもいいわよ。あたしはユキヤとデートだし、ハルヒトのことを見るのはジェイルだから。……ハルヒト、あんた本当に勝手な行動しないって約束できる? あんたのことはあたしの仕事でもあるから、この約束は守って貰いたいわ」

「うん、大丈夫。絶対に勝手な行動はしないよ」

「ジェイルの言うこと、聞いてくれる?」

「もちろん」


 軽いのよね、どことなく。

 ゲーム内では今と状況がちょっと似ていて、屋敷内で軟禁状態だったから外に出るというシーンはほとんどなかった。単なるお出かけってシチュエーションもなかったから判断に困る。

 信用してもいいかどうか。まぁ、ゲームと違って逃げるメリットはないと思うから……。

 少し悩んでから、ハルヒトをじっと見つめる。


「最悪、当日はあんたを手錠で繋ぐわよ」

「ロゼリアに?」


 ……なんで嬉しそうなのよ、怖いわよ。

 内心引いていると他の三人も似たような反応をしていた。


「違うわよ。さっきも言ったでしょ、あたしはデートなの」

「え、じゃあ誰と……?」

「ジェイル、メロ、ユウリ。好きなの選んでいいわよ」


「「「「えっ」」」」


 あたしがそう言うと四人の声が見事にハモり、その直後に時間が止まった。ような気がした。

 ハルヒトも、ジェイルもメロもユウリも、呆然としている。

 その様子は間抜けで面白くて笑いそうになったけど、しばらく黙って観察してみた。

 四人はスーッと視線を動かして互いを監視し合うように見てから、あたしに視線を戻す。


「お嬢様、ほ、本気ですか……?」

「えー。おれ嫌っスよ。そう言うの趣味じゃないし、だるいっス」

「僕もちょっと……周囲から変な目で見られそうですし、動きづらそうです」

「ロゼリア。そんなことはなくていいように、絶対にちゃんと大人しくしてる」


 四人とも普通に嫌がった。何なのよ、最悪の場合って言ったでしょ。

 見てる分には楽しそうなのに……。


「冗談よ」


 しれっと言うと場の空気が一気に緩んだ。四人とも安心している。

 それを見て笑い、2枚目のビスケットに手を伸ばした。


「でも、ハルヒトが勝手な行動するようなら最終手段として準備はしておいて」


 ここまで言えばハルヒトも流石に勝手な行動はしないでしょう。

 ジェイルは嫌そうに「承知しました」と言っていたから、手錠は用意してくれるらしい。

 話が随分遠回りになっちゃったわ。ハルヒトの乱入のせいね。さっさとデートの中身のことを決めておかないと。


「で、本題よ。ハルヒトも座って聞いてて頂戴。日程と場所だけど──」


 ようやく決めたいことに辿り着けた。

 どっちもそう悩むことでもなくて、万が一行きたい店が休業だったりしないように確認だけはしてもらうことにした。行きたい店はもう決まってるから、ジェイルに行く順番を伝えるのみ。場所はメロとユウリがよく知ってるから問題はないわ。

 結局ハルヒトがついてくることになったので、ジェイル、メロ、ユウリの三人もついてくることになった。

 そう時間もかからず、当日のことを決める。行く順番は決めておくし、寄り道はしないってことで話はまとまった。ふらふらしたかったけどハルヒトがついてくるんじゃしょうがない。これはまたの機会にしよう。


 話が終わって解散になったところで、メロがこそっと話しかけてきた。

 ジェイルもユウリもハルヒトも、既に部屋を出ている。


「あのさ、お嬢」

「? 何よ」

「……ユキヤく、さんとのデート……買い物のがメインで、他意はない、っスよね……?」

「他意……?」


 意味がわからなくて眉を寄せて聞き返してしまった。

 あたしの反応を見たメロはどこかホッとした表情を見せる。


「や。わかったんでいいっス」

「何がよ」

「こっちの話っスよ」


 メロは「んじゃ」と言って、部屋を出ていった。

 何だか嬉しそうだけど、今の話で一体何がわかったって……?

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