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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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93.デートの件③

「と言うわけでユキヤと来週デートするから」


 アリサのことは一旦置いておいて、午後にジェイルたちを集めてデートの件を告げた。

 ジェイルは微妙な顔をしている。以前より本当に表情が豊かになったわね。前まで基本仏頂面で生真面目そうな雰囲気だったのに、今ではこうして何も言わなくても表情から感情が読み取れる。

 メロとユウリは「ふーん」ぐらいの反応だった。


「お、嬢様……本当にユキヤとデートをするのですか? アキヲ様の目を欺くためとは言え、そこまで効果があるようには思えません」

「やってみないとわかんないでしょ。南地区のことが不透明になってるんだから……ユキヤがアキヲの言うことを聞いてあたしと仲良くなってるって勘違いしてくれれば、ユキヤを自分の方に引き込もうとするかもしれないし……」

「……ですが」


 ジェイルの渋い反応を見て首を傾げる。

 確かに効果があるかというと非常に謎なところではあるけど、そこまで反対するようなことかしら。


「ジェイル、お嬢がやるって決めてんだからいーじゃん。減るもんじゃないし」

「そうですよ、行き先や内容にもよりますけど……ロゼリア様、デート先や内容などは決めているのですか?」


 メロとユウリはあたし寄りの反応だった。

 メロは単純に楽しんでるだけで、ユウリは多分あたしの言うことにそう反論もないからだと思う。あとは今本人が言ったように行き先とかに問題があったら、反対するって感じ。


「決めてるわよ。あたしの買い物に付き合わせるの」

「……。お嬢が買い物行きたいだけじゃん、それ」

「そうよ、悪い?」

「…………イエ、悪くない、っス」


 堂々と言い放つとメロが視線を逸した。ジェイルもユウリもちょっと面食らっている。

 しまった。つい前みたいな態度を取っちゃった。

 最近こういう態度は取ってなかったから驚いてるのかしら。変わった変わったって言われるけど、根っこの部分が変わったとは思ってないのよね。……メロに言われたみたいに、我慢してるって感じ。

 腕組みをして三人を眺める。目が合ったジェイルは何か困った顔をしている。


「ジェイル? 何かある?」

「……いえ、そう言えば最近お嬢様は全く買い物をされてなかったと思いまして……配慮が足らず、申し訳ございません」


 そう言って小さく頭を下げるものだからちょっと驚いてしまった。別にそういうつもりじゃなかったんだけど……!


「いいのよ、別に。落ち着いて買い物できる心境じゃなかったってだけだもの。丁度いい口実ができただけよ」


 笑って言って見せれば、ジェイルはほっとしたようだった。その横でメロがジェイルの顔をニヤニヤと笑いながら眺めて、そしてジェイルに後ろ頭を殴られるというコントみたいなことをやっている。こいつら全然仲良くなる気配がないのね……。

 そして、ユウリが小さく手を挙げる。


「あの、ロゼリア様」

「何かしら?」

「僕たちもデートに同行してもいい、ということでしょうか?」

「それは当たり前だろう」

「ええ、離れててくれればね」


 ジェイルが何を言ってるんだと言いたげに突っ込むのを聞いて、あたしもそれに同調した。ユキヤとも話をしたけど流石に本当に二人きりというのはちょっと危険だと思うのよね。

 ユウリは「なるほど」という顔をして頷いた。そしてもう一度口を開く。


「……あの、聞きづらいのですが、その日ハルヒトさんは……」

「もちろん留守番。だから、三人のうち誰かはハルヒトと一緒に椿邸に」

「自分はお嬢様に同行します」


 あたしが言い終わらぬうちにジェイルが宣言した。

 ジェイルの顔を両隣からメロとユウリが物凄く何か言いたげに睨んでいるけど、ジェイルはどこ吹く風。これまで買い物に付き合わせるのってメロかユウリだったから、この二人がついてきてくれた方が色々勝手が良いかと思ったのに……なんだか意外だったわ。

 メロとユウリは顔を見合わせる。そして、メロは右手の拳を持ち上げる。


「ユウリ、じゃんけん」

「え? なんで? 僕はどっちでもいいよ。君が決めて」

「おれもどっちでもいいんだって」

「え、意外……」

「お嬢のデートとか楽しそうなんだけど、ジェイルと一緒っつうのが微妙。だからどっちもどっち」


 メロのセリフを聞いたユウリは呆れ、ジェイルは不愉快そうにしていた。

 正直あたしはどっちでもいい。まぁ、ユウリが自分からハルヒトの世話を申し出ていたからユウリが残る方がいいかなってくらい。

 呆れ顔のまま、ユウリが右手を差し出した。


「わかった。じゃんけんね」

「──じゃんけん、」


 二人が拳を揺らして、じゃんけんをしようとした瞬間。

 まるでタイミングを図ったみたいに扉がノックされた。別に誰も呼んでないのに、誰かしら?

 あたしは扉に一番近い場所にいたユウリに視線を送る。ユウリはじゃんけんを中断して扉に向かい、ゆっくりと扉を開けて廊下に立っている相手を見た。


「えっ」


 ユウリの驚いた声を無視して、廊下に立っていた人物が中に入ってくる。

 ハルヒトだった。

 何故か人数分のお茶と簡単なお茶菓子が乗ったトレイを持っている。


「お邪魔します。ちょっと早いけど、お茶だよ」

「は!? なんであんたがお茶を持ってくるのよ!」

「ロゼリアたちが何か話してるって聞いて気になって……でも何の用事もなしに入れないだろ? だから、墨谷さんにお願いして仕事を作ってもらったんだよ」

「あ、あんたねぇ……!」


 客人にお茶汲みだなんてと思う気持ちはあれど、本人が言いだしたことなら墨谷も断れなかったでしょうね。多分止めてくれたとは思うんだけど、墨谷も気が強い方じゃないから……。

 ハルヒトは悪気なさそうな笑みとともにあたしたちが集まっているテーブルとソファに近づいてきた。

 そして、自分が持っているお茶とテーブルを見比べ、ユウリに助けを求めるような視線を向ける。


「……ごめん。ユウリ、こういう時って出す順番とかあるんだっけ? オレそういうの全然知らなくて……」

「ああああやります、僕がやりますっ!」

「いや、オレがやるから教えてくれないかな。後学のためにこういう知識も持っておきたい」


 今後あんたがお茶を出す機会なんてないわよ。と、言いたくなるのをぐっと堪えた。

 本人が知りたいって言ってるんだから教えた方がいいわ、きっと。向学心があるのはいいことだもの。

 ユウリが困った顔をしてあたしの方を見てくるので何も言わずに頷いておいた。教えてあげなさい、って意味はすぐに通じたらしく、ユウリはお茶出しのことをハルヒトに教えていた。ジェイルはもともと知ってるっぽいけど、メロは「へー、そうなんだ」という反応。

 全員分のお茶が行き渡ったところで、ハルヒトが嬉しそうにユウリを見る。


「ユウリ、ありがとう。丁寧に教えてくれて。勉強になったよ」

「いいえ、とんでもありません。こんなことで良ければ……」


 そう言ってハルヒトはすぐに出ていくかと思いきや、そうでもなかった。

 あたしのことを見つめて楽しそうに笑う。


「で。何の話だったの?」

「そんなの──」

「え? お嬢のデートの話っスよ」

「ばっ」


 「言えないわ」と言うつもりだったあたしの言葉を遮り、けろっと言ってしまうメロ。

 その後頭部にジェイルの拳がお見舞され、ユウリがハルヒトから預かったトレイをぶつける。


「いってえぇぇぇっ!!」


 前屈みになるメロの頭にユウリはトレイをぐいぐいと押し付けていた。


「き、み、ねぇっ! なんでそう口が軽いの?! 仕事の範疇だよ、これは!」

「つってもデートじゃん! 仕事でデートって流石におかしいだろ!? おれらもついて行くのに!」

「だとしても、なんでロゼリア様の許可なしに君が言っちゃうの!」

「いでででで、つぶれる、つぶれるっ……!」


 何やってんのかしら、こいつら……。

 思わず遠い目になる程度には呆れてしまった。ジェイルも大きくため息をついている。

 そんなあたしたちとは対照的にハルヒトの目はキラキラしている。

 う、すごく嫌な予感……!

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