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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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90.牽制

「失礼します。……ロゼリア様、お待たせしました」


 そう時間もおかず、アリサがお茶を持ってやってきた。

 あたしは執務机から応接セットに移動をしている。アリサはゆっくりと近づいてきて、テーブルの上にお茶をセッティングしていった。


 ……確かに、キキの言葉通り、作業はゆっくりめなのよね。丁寧だと言われれば、丁寧に見える。

 ただ、ゲーム情報を持ってるあたしの目にはただ丁寧にやっているようには見えなかった。お茶をここに置いていったら帰りの手荷物はお盆だけだし、厨房や他の部屋に戻る時にどこかに寄っていこうと思えば寄れてしまう。

 あたしの部屋はすぐ隣だし、こっそり様子を伺うことくらいはできるんじゃないかしら。まぁ、鍵をかけてるから簡単には入れないけどね。


「お砂糖とミルクはどうないさいますか?」

「自分で入れるから置いておいて」

「はい、承知しました」


 アリサは頷いてシュガーポットとミルクをカップの傍に置いた。

 あたしは砂糖を入れてかき回してから、カップを持ち上げる。ゆっくりと口元に近づけて一口飲んだ。うん、普通に美味しい。お茶は全く問題はない。

 カップから少し口を離し、アリサを見つめる。アリサは不思議そうにあたしを見つめ返した。


「ねぇ、アリサ」

「何でしょうか?」

「仕事には慣れた? 困ったことはない?」


 にこりとほほ笑みを浮かべて聞いてみる。ちゃんと笑顔が作れているか怪しい。アリサは変な反応はしてなかったから大丈夫だった、と思いたい。

 アリサは一瞬だけキョトンとしてから、すぐに少し照れくさそうに笑った。

 うーん、やっぱりちょっとした笑顔ですら可愛い……。


「お気遣いありがとうございます。大分慣れました。キキさんも墨谷さんも、他の皆さんも親切にして下さるので……今のところ困ったことなどは全くありません」

「そう、良かったわ。何か困ったことがあれば気兼ねせずに言って頂戴」

「はい、ありがとうございますっ!」


 ……頬が少し赤くなっている。

 これって別に意識してやってるわけじゃないわよね? ヒロインの特性的なものかしら? ちょっと幼くも見えて、随分と可愛さが強調されている気がする。あたしは滅多に赤くなったりしないから、こういう可愛げ的なものはアリサに全く勝てる気がしない。

 小動物めいた可愛さもあって……ゲームの中でみんなが構いたがるのも納得だわ。手を貸してあげたい感じがあるのよ、何故か。

 あたしですらそう思うんだから、やっぱり他のみんななんてイチコロなんじゃ……?

 メロは「警戒対象」だなんて言ってたけど、一気に信用できなくなってきた。現時点で実は気になる相手って言われても全く驚かない。本当に、そういう方面にも気をつけていかなきゃ……。


 で、本題。

 キキが言っていた情報──アリサが屋敷内を調べているっぽいという話に釘を差さなきゃ。

 あたしはカップを置いて真っ直ぐアリサを見つめる。

 アリサはどこか緊張した面持ちで少しだけ首を傾げた。……いちいち仕草が可愛いわね……!


「ねぇ、アリサ?」

「は、はい。な、んでしょうか……?」

「昨日、あんたが執務室や応接室の前の廊下にいたのを見たんだけど……何をしてたの?」


 言った。言ったわ。

 にこやかな問いかけに、アリサの表情が凍りつく。

 ひょっとしたら何の反応も見せないんじゃないかと心配もしてたけど、咄嗟の反応が素直だったわ。


 両方とも普段は鍵がかかってて、使う時だけ自分で空けるから……多分廊下でウロウロするしかなかったと思う。まさか窓から侵入しようなんて思わないでしょう。っていうか、そっちの方が目立つ。

 半分くらい推測だけど、この反応を見る限りは当たりっぽい。

 アリサは凍りついたまま、視線を落としてしまった。


「あ、あの、……申し訳ございません」

「理由を聞いているのだけど」


 うう、詰問してるみたい。アリサが居心地悪そうにしていて、あたしも気まずい。妙な罪悪感が胸を刺す。

 とは言え、このまま解放する気はなかった。


「キキか墨谷が指示を間違えたのかしら? なら、あたしから二人に言っておくけど」

「い、いえ……そういうわけでは……」


 多分アリサは今必死で理由を探している。

 屋敷内を調査する時、普段以上に周囲に気を配っていたでしょうから、こんな風にあたしから指摘を受けるなんて想定外に違いない。

 ゲームの中でもアリサはロゼリアはもちろん、モブキャラには一切調査シーンは見つかってないからね。見つけるのは攻略対象だけで、彼らはアリサの行動を見逃し、その後は協力するようになる。……って思い出していくと、やっぱりゲームの中ってかなりご都合主義な展開だったのね。


「……絵、が……」


 ぽつりとアリサが漏らす。

 そして、顔を上げて照れくさそうに笑った。


「ろ、廊下に飾られている絵画が……とても素敵で……その、魅入っていました……」


 なるほど、そう来たか。

 椿邸にはあっちこっちに絵が飾られている。玄関、応接室、廊下、至るところに。そしてそのどれもが芸術的価値の高い絵画ばかりなのよね。本物もあれば複製画もあって、美術館とは比べられないけど、それなりに見応えがあった。

 あたしは小さくため息をついた。


「そう。あの絵が気に入ったならあんたの部屋に移動させましょう」

「えっ!? い、いえ、そんな、勿体ないです。皆さんが見れた方が──」

「絵だって好きな人に愛でられた方が良いんじゃないかしら。飾られずにしまわれたままの絵画もあるはずだから、それを代わりに飾ることもできるし、ちょうど良いわ」


 にっこりと笑って言えば、アリサはそれ以上何か言おうとはしなかった。


「……それにね、アリサ。あんたが絵に気を取られて仕事の方が疎かになってるかもしれない、なんて疑いをかけられたくないでしょ? あたしも変に疑っちゃって悪かったわ。アリサには芸術を解する心があるようだし……もし、他にも気になる絵があるなら教えて頂戴。部屋に移動させるから」

「は、はい。ありがとう、ございます……」


 うう、責めてるみたいでまた罪悪感が。アリサが小さくなる様子に地味に胸が痛む。本当は大好きなヒロインを追い詰めるような真似はしたくないのよ。

 それがアリサの仕事だってわかってても……!

 自分の命には代えがたい……!

 カップを手に取り、口元に運ぶ。それから居心地悪そうなアリサをもう一度見つめた。


「──アリサ。困ったことがあれば相談して頂戴。仕事のことでも、そうでなくても……これからあたしの傍にいてもらうんだし、……できればその、な、仲良くなりたいわ」

「……ロゼリア様」


 照れくさい! 仲良くなりたいとか口に出して言ったことないから無性に恥ずかしい!

 アリサは驚いた顔をしているし、やっぱりこんなのあたしらしくないのよ! わかってても、アリサの顔を見ていたら……つい。


 レドロマのヒロインで、あたしを殺す存在だからと恐れていた。

 けど、何度もアリス視点で操作をして、キャラクターたちと交流をして、アリスを通して疑似恋愛体験をしてる。そんなことを思い出してしまったら、単純に疑ったり遠ざけたりということはできない。

 どうせなら仲良くしたい!!

 アリサじゃなく、アリスって呼びたい。

 そう思っちゃったのよね……。

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