表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/291

89.デートの件②

 ユキヤはあたしの好みに合わせたいって言ってくれたし、結構良いんじゃない?

 ずっとショッピングに行きたかったけど、色々と気が散って楽しめないだろうから全然行かなかった。でも、これなら仕事という側面もあるからショッピングに行けるし、普通に楽しめそうだし気分転換にもなりそう。

 ま、まぁ、結局あたしがユキヤを連れ回すことになるんだけど……これくらいなら良いでしょ。以前のあたしみたいに有無を言わせず付き合わせるわけでもなく、一緒にショッピングに言って仲良く(?)買い物をするってだけだもの。


『ああ、いいですね。ぜひお付き合いさせてください』


 ユキヤはどこかホッとしたように穏やかに答えた。

 さっきのあたしが言った「ベタ惚れってことにしてもいい」という提案が流れたことで安心したって感じ。伯父様のことが絡むから嫌がって当然よね。あたしも今となってはかなり抵抗感があるわ。


「場所は中央区で良いわよね?」

『問題ありません。私がロゼリア様にお付き合いさせて頂くわけですから』

「……多分かなり連れ回すわよ?」


 ショッピングに行けなかった分の発散もあるからね。敢えて言ったりしないけど。

 脅すように言ったのに、ユキヤは楽しそうに笑うだけだった。


『ふふ、楽しみにしていますね。来週以降であれば日程はお任せします』

「わかったわ。詳しい日時と場所はまた連絡する。……ああ、お金は自分で出すから気にしないで」

『それは──……ぁ。いえ、かしこまりました』


 自分が出すとでも言いそうな雰囲気だった。けど、言わなかったのはきっとあたしのショッピングの額がどれくらいなのか想像がつかなかったからに違いない。今「出す」と言って、後で「無理でした」は情けなさ過ぎるもの。正直、あたしもそんなユキヤは見たくない。かと言って、ユキヤの財布を気にしながらショッピングなんて絶対に無理だし、ユキヤにも悪い。

 はー。ようやく気兼ねなく買い物ができそう! 楽しみだわ!

 とは言え、これまでみたいな無駄遣いは控えなきゃ……買ったはいいけど全然着てない服もあるし、箱から出してもいない靴やバッグもある……。

 そう言えば、以前は外商に屋敷に来てもらってたわね。今は気分的にそうじゃなくて、ふらふらと歩き回りたい感じ。


「よろしくね」

『はい、荷物持ちはお任せください』

「……そんなこと頼まないわよ。多分ジェイルたちもついてくるって言うだろうし、荷物持ちはそっちに任せるか、椿邸に送らせるわ」

『やっぱりジェイルたちもついてくるのですね。少し残念です』

「残念? どうして?」


 残念という言葉に驚いてしまった。

 今あいつらがあたしを一人で、もしくは誰かと二人きりで外出させてくれるとは思わないのよね。南地区でも一人でふらふらしないで欲しいって止められたのを覚えているわ。あの時は中央区ならいいとは言われたものの、作戦の一環としてデートであれば特に厳しそう。名目はデートだから離れて歩かせるけど……。


『二人きりだと思ったので』


 噎せてしまった。こんなことを言われるなんて思っても見なかったわ。

 なんてことなさそうに言うユキヤ。……あんまり気にしすぎるのもよくないわ。リップサービス的なものでしょう、多分。


「流石にそれは難しいわね」

『ええ、わかっています。父がロゼリア様に危害を加えないとも限りませんので』

「そうなのよ。いかにも怪しまれそうな真似をするとも思えないけど、安全とも言い切れないのよね」


 そう言うとユキヤは「はい」と躊躇いがちに答えた。

 今、あたしに何かあったらきっと周囲がアキヲの企みじゃないかって言うはずなのよね。主にジェイルとかが。そんな状況だから、あたしを積極的に狙ってくるとも思えない。そうは言ってもあんまり楽観的にもなりきれない。

 ここはゲームとは違うから、そこまで神経質になってないのよね。一応警戒しとこうって程度。

 それよりもあたしにとってはアリサの方が本当に気がかりで……とは言え、南地区のことはちゃんとしとかなきゃいけなくて……既にあたしのキャパを超えそうだわ。


 そこまで話したところで一旦会話が途切れた。

 話すことも話したし、こんなところかしらね。長電話もユキヤを拘束してしまってよくないわ。


「そろそろ──」

『そう言えば、新しいメイドが入ったと聞きました。なんでもロゼリア様付きの後任だとか』


 うん? ユキヤ、あたしの言葉を遮ったわね?

 妙な話題転換にちょっと驚いたものの、アリサのことはユキヤに話しても──……。

 ……いや、どうかな!?

 ユキヤとアリサ、いやアリスの出会いは、アリスが休みに南地区の調査に行って偶然出会って、という流れなのよね。ここで話をすることは別に問題はない……?

 って、あんまり悩んでもしょうがないか。聞かれた以上、変にはぐらかすのもおかしいし……。


「ええ、そうなの。まだ日は浅いけどちゃんとやってくれてるわ」

『今ロゼリア様付きの方は……えぇと、小山内さん、でしたっけ?』

「あら? 紹介はしてなかったのに、よく知ってるわね」

『ジェイルに聞いたんです。椿邸が賑やかになったと言ってました』

「そうね。確かに賑やかになったわ」


 あたしの心配や不安は比例して増えてる状況なんだけど、まぁ賑やかと言えば賑やかね。


『? 何か困りごとでも?』


 まるであたしの心境を察したみたいにユキヤが聞いてきた。

 エスパーなの? と驚きつつ、平静を保つ。


「ううん、何でもないのよ。南地区のこともそうだし、周囲がなかなか落ち着かないと思っただけ」

『それは──……申し訳ございません』

「え!? ユ、ユキヤを責めてるわけじゃないのよ?! 何度でも言うけど、あたし自身の責任でもあるんだし……あんただけが気に病む必要はないわ」


 ユキヤがしゅんとしたような感じが伝わってきて焦ってしまった。

 責任、感じてるのよね。きっと。あたしが「あんただけの責任じゃない」って言っても、暖簾に腕押しと言うか……アリサから「あなたのせいじゃないですよ」って言ってあげないと……どうにもならない。

 歯痒いけど、こればっかりは悪役たる九条ロゼリアでは説得力がないのよ、悔しいことに。

 何も言わないユキヤにこっそりとため息をつき、こほんと咳払いをした。


「とにかく……気に病むのはほどほどにして、解決できるようにお互い頑張りましょ」

『はい、ありがとうございます』


 少しユキヤの声色が明るくなってホッとした。

 ユキヤが落ち込んだりするのは本意じゃないし、言葉には気をつけないと……ついつい気が緩むと言うか、ぽろっと溢れてしまう……。


「じゃ、そろそろ切るわね」

『はい。デート、楽しみにしています』

「──ええ、あたしも楽しみにしてるわ」


 久々の買い物に胸が踊る。口元に笑みを浮かべて、通話を切った。

 デートだなんて御大層なものになってるけど実際は買い物! あたしの買い物にユキヤを付き合わせるだけ! 『ユキヤとロゼリアがデート』の解釈違い感がものすごいから、とにかく自分自身には『買い物』と言い聞かせる。


 さて、と。

 ジェイルに話して日時と行き先を決めておかなきゃ……無目的にフラフラしたい気持ちもあるけど、今回ばかりは行き先をちゃんと決めておこう。ブランド街というか一箇所に固まってる通りがあるからあそこかしら……。


 そんなことを考えつつ、携帯を置いてぐーっと伸びをした。

 喋りっぱなしで喉が渇いたわね……もうすぐお昼か。

 少し悩んでから、アリサを指名してお茶を持ってくるように厨房に連絡をした。

 キキから聞いた話……早めに釘を差しておかなきゃね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ