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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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87.気に病まないで

 くっ、ジェイルったらいきなりどうしたのかしら。

 前からちょっと様子がおかしいとは思ってたけど、何だか本格的にゲームとはズレてきたような気がするわ。ゲーム内のジェイルは「あの女のことは軽蔑してる」って感じで、ガロからの命令で仕方なくロゼリアの傍にいるって一貫してたもの。

 けど、今はジェイルの意志であたしの傍にいたいらしい。


 ……ちょっとにやけちゃうわ、これ。

 本当にひょっとしたらジェイルだけはあたしを殺そうって思わないかもしれないし、他の誰かがあたしを殺そうとしても守ってくれるかもしれない! って、どうしても期待しちゃう。

 ただ、この『期待』は薄氷のように薄い。

 ゲームで主人公アリスにとってのバッドエンド以外の全ルートでロゼリアが殺されていた事実を思うと、やっぱり楽観的ではいられない。何があるかわからないんだから、気を引き締めなきゃ……!

 ジェイルに告げたように、せめて南地区の件にケリがつくまでは安心できない。当然、ハルヒトとアリサのこともあるんだけど、ゲームのことを考えると南地区のことと二人のことは切っても切れない。


 あたしはゆっくりと深呼吸をして、残ったコーヒーを飲み干す。

 ジェイルや他のみんなとの関係が変わったのは間違いないけど、ゲームのストーリーとは分けて考えなきゃ。ある日突然あたしが前世のことを思い出したように、いきなり何かが変わるかもしれないもの。


 そう自分に言い聞かせたところでタイミングよく携帯に着信があった。

 カップを置いて、代わりに携帯を手に取る。


「もしもし、ユキヤ?」

『ロゼリア様、おはようございます。と言うには少し微妙な時間でしょうか』


 挨拶をしてから、ユキヤが電話の向こう側でくすりと笑う。

 時計を見てみてれば、11時の少し前なので「おはよう」って時間じゃない気がする。別にそんなことも気にしないけどね。


「おはよう。別にいいのよ、それくらい。気にしないで」

『ありがとうございます。──ジェイルには都度色々と情報を共有させていただいておりましたが、ロゼリア様へのご報告がなかなかできずに申し訳ございませんでした』

「え? ああ、気にしないで。ジェイルに色々連絡してくれてるならそれで大丈夫よ、ちゃんとあたしの耳にも届いているし……」


 ユキヤも変なことを気にするわね。ちょっと笑いそうになっちゃったわ。

 あんまり進捗がないってことだから、ユキヤも報告しづらかったでしょうしね。愚痴を言いながらジェイルに報告できる環境の方が良いでしょ。あたしに直接連絡しても「特に進捗ありません」になっちゃってユキヤも気まずいに決まってる。

 まぁ、あたしはあたしでちょっとごたついてたから報告を貰っても上の空だったかも。

 そうだ、アリサ──のことは微妙だけど、ハルヒトのことはあたしの口からも言っておかなきゃ。


「それに、ちょっとこっちもバタバタしてたからね。ちょっと人を預かることになって……進捗がないのは残念だけど、却って良かったのかも知れないわ」


 この件はジェイルからもユキヤに話があったに違いない。

 話題を逸らすように誘導すると、ユキヤが少しほっとしたようだった。


『ああ、ジェイルから聞いています。何でも第八領……八雲会のハルヒト様を一時的に椿邸に住まわせているとか』

「そうなのよ。……ハルヒトのことはようやく落ち着いたから、タイミング的には今日ぐらいで良かったのよね」

『そうだったのですね。そう言ってもらえてほっとしました』


 ユキヤの「ありがとうございます」を聞いて、無駄にしみじみとしてしまった。

 ゲームをやっていた時も思ったことだけど、ユキヤって話し方や内容に引っかかるところがないのよね。結構こっちをいい気分にさせながら話をしてくれるというか、会話を繋いでくれるというか……ま、まぁ、以前のあたしはその辺が逆に『良い子ちゃんぶってる』って感じで気に食わなかったんだけど、今となってはユキヤとの会話は心地よいものになっている。

 それは元々推しだから、というのももちろんある。

 とは言え、それだけじゃなくって……人柄の良さなのか育ちの良さなのか、細かいところまで丁寧だと感じる。

 あたしもこういう人間だったらきっと伯父様も手を焼かなったんでしょうね。


「それで……何か進展はあった?」

『進展と言っていいかわかりませんが、父と繋がりのある組織についてです』

「……ええ、聞かせて」


 少し緊張してしまう。

 昔から繋がっててくれた方があたしの責任は軽くなるけどユキヤが自責の念を覚えてしまうかもしれないけど、最近から始まった繋がりならあたしの責任がぐっと重くなるってやつだわ。


『表現は今後”組織”に統一しますね。──やはり、以前少しご報告した通り、かなり前から繋がりがあったようです。それこそ、父が南地区の代表になってすぐくらいから……』

「そ、そんなに……?」


 う。思いの外繋がりが深い。

 アキヲが代表になってからというともう十年以上経つんじゃない?

 どういうレベルの付き合いだったかはまだわからないけど、そんなに長いなら優先度が高くなって当然な気がするわ。


『はい。ひょっとしたら、父が代表になる前から薄く付き合いがあったのかも知れません。本格化したのが、代表になった頃のようです。……決定的な証拠はないのですが、代表になる前後の動向や、資金の動きなどを見るとそうとしか思えなくて……』

「そうなのね……気付けなくて悪かったわ」


 そんな発想もなかったし、当時はアキヲに良いように踊らされていたものね。アキヲはさぞかし気持ちよく美辞麗句を並べ立てて、あたしをおだてて計画に乗らせていたことでしょうよ。く、今更ながらに過去の自分が忌々しくなってきたわ。


『ロゼリア様、それを言ったら私が──』

「ユキヤ。あんたが気に病みすぎることはないわ。……だって、アキヲはあんたのことをずっと蚊帳の外に置いていたんでしょう? 傍にいても知りようのない事実だってたくさんあるはずだわ。……責任という話なら、管理代行になってアキヲと二年は密に過ごしてきたあたしの方がよほど重い。あたしが管理代行になったことで、アキヲにチャンスだって思わせてしまったわけだしね」


 そう言うとユキヤは黙り込んでしまった。

 あたしはユキヤに責任を感じすぎて欲しくない。推しだからというのもあるけど、それ以上にユキヤばっかりそういうのを気に病むのはおかしいという個人的な憤り。なら、その責任とやらはあたしが背負った方が良い。時期が違っても気付かなかったあたしに非があるのは確かだもの。……そのせいでデッドエンドに近づくのは嫌だけど、個人的にどうしても嫌なのよ。

 電話の向こうで、ユキヤが困ったように笑うのがわかった。


『……お気遣いありがとうございます』

「本心よ」


 きっぱりはっきり言う。

 ユキヤは息を呑んでから、いつも通りの落ち着いた声で「はい」とだけ言った。


 が、それはそれとして不思議に思うことがある。

 何故、この状態に伯父様は気付かなかったのかしら?

 正直なところ気付いてなかったとは思えないのよね……ただ、伯父様はちょっとくらいダーティーな手段は見過ごす節もある。正攻法だけじゃやっていけない、と考えているから。

 だからと言って、こんな風に放置をするのもおかしい。

 伯父様がもし気付いてなかったとしたら、アキヲの方が伯父様より一枚上手ってことになるわ。それは物凄く面白くないから気付いていたけど何か事情があったと考えたいところ。まぁ、それはそれでユキヤが苦しむ原因になったわけで……それも面白い話ではないんだけど……。

 証拠もないのよね……。この際だから伯父様に聞いてみる……? いや、どうやって……?


『──……さま、ロゼリア様?』

「えっ!? あ、悪いわね。ちょっと考え事してたわ」

『掛け直した方がよろしいでしょうか?』

「いいえ、大丈夫よ。何か他にあるなら聞かせて頂戴」

『ありがとうございます。倉庫街の件はジェイルから聞いていると思いますが、現在調査中です。……広いので時間がかかりそうで……申し訳ありません』


 あー! 倉庫街の件!

 早く場所を思い出さなきゃ……根拠はさておき、場所が何となくでもわかればもっとスムーズになるはずなのよ。この件に関しては「お願いね」としか言いようがなかったわ。

 

『……それから、』


 ユキヤが言い淀む。何か言いづらい報告……? なんだか緊張してしまった。

 けど、あたしが緊張してたらユキヤも言い辛いだろうからと思って、緊張が表に出ないように注意する。


「他に何かある? 気にせず言って頂戴」

『その、私から言うのも少し申し訳ないのですが……デートの件で』


 あ! 忘れてた!

 ユキヤの申し訳なさそうな声を聞いて、ちょっとだけ青ざめてしまった。

 自分から言いだしたことなのに……本当に馬鹿だわ。

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