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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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82.変わった?

 自分が受けたダメージを表に出さないように努めながらメロを見つめ返した。

 メロ、今の言葉を言うのもちょっと勇気が要ったでしょうに。

 物怖じしない性格だとしても、あたしの逆鱗に触れるかもと思ったらそう簡単にこんなことは言えないに決まってる。けど、ユウリとキキはもっと言えない性格だわ。

 多分、二人のことも考えて今の言葉をあたしに告げたに違いない。


 簡単に謝るな、か。

 メロの言ってることはわかる。多分ちゃんと理解できてる。

 昔なら「はあ?! 謝ってんでしょ?!」ってなってて、メロたちはそれを我慢していたわけで……そういうことがあって、今「簡単に謝らないで欲しい」って言う理由はわかるし、理解できる。

 ……こういうことがわかる、理解できるって思えるようになったのもある意味で『変化』ではあるのに、元が酷すぎてようやく真人間になれているかもしれないという程度でしかない。自業自得だからしょうがない。


「──わかったわ」


 それ以外に何も言う言葉は思い浮かばない。

 メロの言葉に対して頷くことが最善に思えた。

 あたしを見てメロが目を細める。どこかほっとしたみたいに。


「……お嬢、ほんとに変わったっスね」

「どうかしらね」


 しみじみと言われても言葉を濁すしかない。変わったと思うし、周りもそう感じてる。

 メロが笑うのを見ながら、足を組み替えた。


「変わったっスよ。前までならこんなこと口が裂けてもお嬢には言えなかったし、ちょっとでも口を滑らせたらぶたれてもおかしくなったっスもん」

「……あんたねぇ」

「ほら、こんなこと言っても怒らないじゃないっスか。言える雰囲気があるだけでもすごいんスよ、お嬢」

「あんたが図々しいだけでしょ。あと、それは別にすごいことじゃないわ」

「おれからしたらすごいことっスよ」


 前がおかしかったのよね。前の状態の中でやってきたメロからしたら『すごい』ことなんだわ、きっと。

 いい意味というか、メロなりにあたしのことを評価(?)してくれてるんだし、素直に受け取っておこう。自分では『まだまだ』って思うし、あたしがそれを実感できるのはきっとデッドエンドを回避した時だわ。

 視線を伏せて考えていると、メロはソファに凭れかかってずるりとだらしなく体をずらす。


「……理由は聞かないって言ったけど、やっぱり気になるっス。何があったのかな、って」

「言わないわよ」

「わかってるっスよ」


 メロが笑う。言ってみただけ、と言い添えて。

 あたしのことを変わったって言うメロにも変化があるのよね。さっきも言った通り。「マシになった?」なんて聞いてきたからイエスと答えたものの、マシになったっていうのとはちょっと違う気がするというか……あ、そう、ちょっと真面目になった気がする。前は不真面目の塊だったもの。


 ……そう言えば、ゲームではアリスに接するにつれて真面目になっていったのよね。

 ルートに入った後もふざけたり不真面目な面は残っていたけど、アリスに対してはずっと真面目だったというか……。

 なんかそんなことを思い出してしまった。

 まぁ、仮に運命の相手というものがいるとしたらメロだけじゃなく、他のみんなにとってもアリス(今はアリサ)だから、あたしには関係ない話だわ。

 でもそうか、キキやメイドたちからアリサとメロたちの様子について情報収集をしつつ、行動の変化を見てればゲームでのキャラクター攻略情報やルート内容と照らし合わせていくことで好感度の状況がなんとなくわかるはず──。あとイベントとか。

 あとで思い出さなきゃ……。


「さて、と。──メロ、お金渡すからお菓子買ってきて」

「はーい。何系がいいっスか?」

「……そろそろチョコ系が充実してくるんじゃない? 新商品があれば買ってきて」


 言いながらソファから立ち上がって財布を取りに行く。前と同じ額でいいか。

 派手な長財布を開けながら中身を確認する。……最近、財布の中のお金があんまり減らないのよね。買い物にも行ってないから使う機会がないだけなんだけど。

 そんなことを考えながら財布から紙幣を手にする。


「お嬢」

「きゃっ?!」


 背後にメロが立っているとは思わなくて、とてつもなくびっくりした。びっくりしすぎて肩をビクってさせちゃったわ。ソファで待ってるとばかり思ってたのに。

 驚きすぎて財布を落としちゃったじゃない、もう。

 財布を拾い上げながら振り返る。


「ちょっと。急に背後に立たないで頂戴。あと、財布を持ってる時に覗き込まないで」


 文句を言うとメロは目を丸くしてあたしを見つめていた。

 大体他人の財布を覗き込むとか行儀が悪いのよ。……まぁこのへんはメロだからって諦めなきゃいけないけど。


「……や、お嬢。『きゃっ』って……」

「うるさいわね。驚いたら声くらいあげるでしょ」

「いや、なんかちょっと、かわ──」


 メロが何か言いかけて、はっと何かに気づいて自分で自分の口を覆ってしまう。

 『かわ』? また変わったとでも言いたかったの? その話はもう良いわよ、コメントに困るんだから。

 黙って睨む。けど、メロはあたしの視線そっちのけで、何かまずいものでも食べたみたいな顔をしていた。……なんなの、こいつ。他の誰よりも「なんなの、こいつ」って思う頻度が多いのよね、メロ。今更の話か……。

 気を取り直して財布から紙幣を取り出した。


「メロ、お金。こないだと同じで、半分はお菓子代。半分はあんたへのお駄賃」


 いつもなら「やったー」って伸びてくるはずの手が伸びてこない。

 メロは口元を手で覆ったまま、斜め下を見て変な顔をしていた。あたしの声が聞こえてなさそう。


「ちょっとメロ、聞いてる?」


 返事がない。ただの屍(略、じゃなくて……本当に何なの。

 あたしは溜息をついてメロの視線が向かっている斜め下に潜り込むように首を動かした。


「っ?!」


 あたしと目が合うと、メロはずさっと後ろに下がる。

 不審に思いつつ眉根を寄せ、それ以上は近づかずにメロを見つめる。メロは自分で自分の行動に驚いたって感じの反応を見せてから、軽く首を振ってすぐにあたしの傍まで戻ってくる。


「どうかした? これ、お金ね」


 そう言って紙幣を二枚渡す。メロはそれを受け取って、あたしと紙幣を見比べた。


「……いや、何でもないっス」

「そう? ならいいけど」

「……。……変わったっスよね、マジで」

「またそれ? もういいでしょ」


 顔を顰めて言うと、メロが困ったように笑う。ちょっと疲れてる感じの笑い方だった。

 あたしに「簡単に謝らないで欲しい」って告げたばかりだし、精神的に疲れたのかもしれないわ。気楽そうに見えても、あたしに付き合うのって疲れるでしょうし。

 一息ついて、メロの腕を軽く叩く。僅かに震えたのが伝わってきたので、すぐに手を離した。


「もう出ていいわよ。……お菓子、よろしく」

「……はーい」


 メロはあたしから視線を逸して頷く。

 相手がメロだからって必要以上に疲れさせるのは本意じゃない。あたしはメロから離れて執務机に向かった。


「ちょっと資料の確認したいから」

「わかったっス。……んじゃ、お嬢、またあとで」

「はいはい」


 軽い調子で見送り、さっさと出ていくように手を揺らした。

 メロが執務室から出ていくのを確認してから、鍵のかかる引き出しの中に入れておいたノートを取り出す。

 前世の記憶が戻った時に色々と書き殴ったノート。

 あれから思い出したことをちょくちょくまとめてはいたけど、今はゲーム開始後のキャラクター攻略情報やイベント、ルートのことを思い出してまとめておきたい。

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