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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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78.報告と相談①

「お嬢、今いいっスか?」

「? いいわよ」

「ここじゃアレなんで、仕事する部屋で……」


 朝食後、メロに呼び止められた。

 ハルヒトはメイドがお勧めしてくれたドラマを見るとかで部屋に戻ってしまったので丁度良かったわ。なんだかんだでハルヒトも読書やドラマなんかの娯楽を見つけて過ごしている。あたしもだけど、ずっと屋敷内にいるから窮屈な思いをしているかと思いきや、案外そうじゃないらしい。どうやら実家と比べると過ごしやすいみたい。


 メロと一緒に執務室に移動する。扉を閉めて、中央にあるソファに腰掛けると、メロはあたしの前に座った。


「何? アリサのこと?」

「そっス。あれから一週間経ったし、一応報告しとこうと思って……」


 何か進捗と言うか、距離感のヒントになることがあればいいんだけど……。

 まあ相手はメロだし、あんまり期待しないようにしよう。こうして、あたしの意図を汲んで動いてくれるだけでもありがたいことだしね。


「わかったわ。教えて頂戴」

「はいっス。で、やっぱり最初と同じで……なーんかお嬢のことを探ってるっぽいんスよね。ユキヤく、さんとは恋人同士なのかって他のメイドに聞いてたっス。墨谷サンに注意されてたけど……」

「ふーん……他は?」

「やけにお嬢が変わった理由を知りたがってたっスね。そんなんおれだって知らないし、メイドたちも『そんなの私らが知りたいよー!』って言ってたっス。ちょーどその場にいたんで『今がイイんだから理由とか別によくね?』って言ってみたら、歯切れ悪い感じになっちゃって……やっぱり理由が知りたいみたいなんスよ」


 メロの報告にあたしは足を組んで、ついでに腕組みをする。

 やけに理由に拘るのね。と、なると……『陰陽』に報告するためよね、きっと。「九条ロゼリアは以前とは違います」って報告したとしても理由を求められると考えるのが普通だわ。「○○という理由で九条ロゼリアは真っ当になったみたいです」という具合に……。

 とは言え、あたしが変わった理由なんて「前世を思い出して、このままだとデッドエンド一直線だから」という理由以外はないのよね。これまでの行いを反省したのも、ユウリたちに何か詫び的なものをしたいと思ったのも、そこからの副産物。

 アリサを納得させるためにそれっぽい理由を作った方が良いのかしら。


「──そう。でも、あたしの前では当然そんな素振りは見せないわ」

「そりゃそっスよ。お嬢の機嫌を損ねたらクビになるかもしんないんだし……仮になんかのスパイだとしたらそれは一番避けたいんじゃないっスか?」

「確かにそうね」


 言われてみれば当然の話だわ。あたしの前ではお行儀の良いいい子って感じ。初日に浴室に入って来ようとしたことだけは未だに謎だし引っかかるんだけど、あれを除けば本当に問題がない。

 ゲーム内でもロゼリアに対してミスをするというシーンもなかったし、ストーリー上危ういところもあるにはある。けど、そういう危うさが発生する時って大体誰かのルートに入った後のイベントなのよね……つまり、今現在は誰のルートにも入ってないからあたしに対して危なっかしい行動を起こすことはない、と思いたい。


「そういう質問に対するメイドたちの反応はどう?」

「普通、っスかね? 知りたい理由もわかるって感じで……おれみたいに怪しんでるやつはいな、いわけじゃないんスけど……」


 途中まで言って歯切れ悪くなってしまった。悩ましげに首を捻っている。

 アリサの言動を怪しんでる人間が他にいるとも思わないんだけど、誰かいるのかしら。

 メロは考え込んだ末、悩んでもしょうがないと言いたげに首を振ってあたしを見つめてきた。


「お嬢」

「何?」

「キキ、呼んできていいっスか?」

「え」


 いや、流石にキキを巻き込む気はないわよ。

 ちょっとびっくりしてすぐに答えられずにいると、メロは「違う」と言いたげに首を振った。


「や、おれとおんなじことさせようってんじゃないっス。……キキもちょっとアリサの言動が引っかかってるっぽいんスよ。お嬢が直接聞いてみる価値はあるんじゃないかと思ってたんスよね」


 なるほど。キキとアリサの関係もゲーム内とは異なっているし、何か変化があるのかもしれない。ゲーム内ではアリサの指導係は日替わりで特定の誰かというわけじゃなかったからね。キキはゲーム内でも登場キャラクターという扱いで、ロゼリア付きということでアリサとの接触機会も多かった。比較的ロゼリアと距離が近いメイドだから情報源としてストーリーが進むごとに色んな情報をくれるキャラクターだった。

 けど、今は違うのよね。一応、ゲームの中ほどに嫌われているとは思わないし、多少は名誉挽回できてるはず……!


「わかったわ。ちょっと呼んでくれる?」

「はーい。……でもそろそろ来ると思うっスよ。事前に呼んどいたんで」

「あら。やけに準備がいいじゃない」

「まぁ、お嬢が今一番気にしてることかなって思って」


 メロが意味ありげに笑いながら立ち上がる。なんか見透かされたみたいで微妙な気分……。間違ってないからわざわざ否定したり言い返したりもしないけどね。

 メロは扉の方に向かい、静かに扉を開ける。

 すると、廊下には困った顔をしたキキが立っていた。


「来てたなら声かけろって」

「……本当に来ていいのか悩んでたのよ」

「信用なさすぎじゃね?」

「あると思ってるの?」


 相手がメロならわかる、と言いたくなるようなキキの反応。メロの表情はこちらからでは見えないけど変な顔してるんだろうなぁ。

 そしてメロの後についてキキが入ってきた。あたしを見て小さく礼をする。


「失礼します」

「悪いわね、仕事中なのに」

「いえ、大丈夫です。まだ一週間ですけどアリサが一人でできることも増えてきたので……」


 主人公補正、とまでは思わないけど卒なくこなしてるみたい。元々最低限の仕事はできるように『陰陽』の方で予習みたいなことをしてきたって設定なのよね。

 座って。と、キキに言うと、キキは正面のソファにメロと並んで座った。


「アリサのことを少し教えて欲しいの」

「アリサの、ですか?」

「ええ。一週間経つけど、キキの目から見てどう? やっていけそう?」


 とりあえず当たり障りのないところから……。

 キキはあたしの質問にちょっと表情を和らげて小さく頷いた。


「はい、仕事の面では問題ないです。真面目で覚えも良いので……すぐできるようになって、教える側としても結構楽しくやれています」

「そう、それはよかったわ。勉強に集中できる日も近いのかしら?」

「……そうだと良いんですが」

「何か困ったことでもある? いずれアリサはキキの代わりになるんだし、困ったことがあれば教えて欲しいわ」


 やっぱり仕事面は問題なし、と。仕事面で問題がないならこのまま雇い続けることになる。

 だけど、キキに困ったことがないかと聞いてみると、それこそ困った顔をして視線を伏せてしまった。

 これは──ちらりとメロを見るとメロは小さく頷いてキキを横目で見る。何かあると言わんばかりだわ。これはメロがキキに話を聞いた方がいいって提案してくれたのはかなりのファインプレー? いや、実際話を聞いてみないとそうとは言い切れないわ。メロだし。


「……あの、ロゼリア様」


 キキが悩んだ末、と言った様子で視線を持ち上げてあたしを見つめてくる。

 

「アリサのことでちょっと気にかかっていることがありまして……ご報告、いえ、少しご相談をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「いいわよ、もちろん」


 今は白木アリサこと白雪アリスのどんな情報もありがたい。

 そう思っているとちょっとだけ前のめりになってしまった。

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