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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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70.翌日④

 ユウリは昼食前に戻ってきていた。式見から何を聞いたのかしら。

 興味があったから暇な時に教えてと伝えたらすぐに部屋に来た。


「ロゼリア様、失礼します」

「別にいつでもよかったのに。……で、どうだったの?」

「色々聞かせて頂きました。ただ、参考になる部分と参考にならない部分とが……」


 秘書歴の長い式見の話なら全部有意義だと思ってたのに、参考にならない部分とやらが気になった。


「参考にならない部分……?」

「要はキキがやるような身の回りのお世話も式見さんがやっているということでした」

「……頼まないわよ?」

「大丈夫です。わかっています」


 あたしがジト目で言うと、ユウリが笑って答えた。前までのあたしならそこまでやらせていたかもしれないけど、今はそんなことまでさせる気はない。というか、ユウリは勉強もあるし、その後は学校に通わせる予定だし……あんまりあたしのことに構わせるのも違うのよね。


「勉強もちゃんとしなさいよ」


 何となく爪の先を見つめつつ言う。……ネイルサロンに行きたい。

 最近、最低限しか身なりがちゃんとできてない。買い物にも行きたいし、一日かけて美容院に籠もりたい。

 って、こんなことばかり考えてるわ。


「ありがとうございます、大丈夫です。……けど、今はロゼリア様のお手伝いをさせていただきたいです。ロゼリア様の身の回りが落ち着かないと僕も集中できないので……」

「そう、そういうことならいいけど」

「……。……ネイルサロンと美容院の予約をしておきましょうか?」


 う。しまった。爪を見すぎていたわ。

 手を揺らして視線を外し、そんなことは気にしてないというアピールをしてみる。


「まぁ、それはそのうちね。行きたい気持ちはあるけど、……落ち着いたタイミングで行きたいわ」

「承知しました」


 せめてアリサとハルヒトのことが落ちついてからで、と思ったけど、落ち着いたタイミングっていうのはゲームのストーリーが終わってからってことだわ。そう考えると数ヶ月は落ち着かないわね……。だとしても「今」じゃないのは確か。

 今日はハルヒトが来るし、現実逃避をしたがってるんだわ。きっと。

 午後には来るって行ってたっけ……。……昨日のこともあるから気まずいわ。


「ロゼリア様」


 気がついた時にはユウリが傍まで来ていてちょっと驚いてしまった。だるまさんが転んだでもしたみたいだわ。

 椅子の上で身を引きつつユウリを見上げた。


「何?」

「昨日言った通り、ハルヒトさんのことは僕が見ています。全て任せてゆっくりしていてください、と威勢のいいことは言えませんが……ネイルサロンや美容院に行ける時間が作れるようにがんばります」

「……具体的でいいわね、それ。期待してるわ」


 絶対大丈夫、みたいなことを言われるよりもちょっと安心できるわ。

 確かに壮大な目標を立てるよりもショートゴール的な、身近な目標を立てて少しずつクリアしていく方がいいかもしれない。当面の目標はゆっくりとネイルサロンと美容院に行ける時間と心の余裕を作ることね。


「お嬢ー!」


 バァン、と無遠慮に扉を開け放ち、メロが元気にやってきた。

 こいつ、ノックって知らないの……?

 イラッとしながら何の断りもなく部屋に入ってきたメロを睨む。ユウリもジト目でメロを睨んでいた。


「えー。なんでそんな顔するんスか?」

「メロ、ノックしなよ。許可も得ずに入ってくるなんて失礼だよ」

「いや、お嬢とユウリだけなのわかってたからいいかなって……」

「よくないってば」


 はぁ。とユウリがため息をついた。言っても無駄そう、というのはわかってるんだけど、苛々しちゃうのよね。愛嬌があると思うことも少なくはないんだけど、こっちの機嫌が悪いと本当に苛々しちゃう。

 けれど、メロはあたしの苛々なんてどこ吹く風って感じで近づいてきた。

 ユウリの横に立って、あたしのことを真っ直ぐに見つめてくる。


「お嬢、お嬢」

「何よ、騒がしいわね……」

「アリサと話してきたんスよ。あの子、やっぱりちょっと怪しいっスね」


 ピク、と眉を動かす。怪しいってどういうことかしら。廊下でメロがアリサと話しているのは見たけど、あれだけで何かわかるもんなの? 


「怪しいって何が?」

「やたらとお嬢のことを聞いてくる。キキの代わりのお嬢付きメイドって立場だし、お嬢のことが気になるのも事前に色々と情報を集めておきたいのもわかるんスけど……聞き方に違和感があるんスよ」

「例えば? 教えて頂戴」


 何故かメロは楽しそうだった。それが少しの不安を煽る。

 何かの前兆なんじゃないか、って……例えば少し話しただけでメロがアリサに惚れたとかそういう……。例えそうなったとしても二人のことを応援する立場を取るから直ちにあたしの命が危ないわけじゃない、はず……!


「6、7月頃お嬢に何かあったのかとか、南地区にはよく行くのかとか……なんか具体的なんスよね。アリサ自身、聞き方にすごく注意してたけど、メイドとしての仕事をこなすから知りたいってわけじゃないっぽいんスよ」


 やっぱりアリサはあたしの周辺や情報を探ってる──。

 考え込んでいる間にユウリが訝しげな表情でメロを見つめる。


「……それって、もしかして何かのスパイかもってこと?」

「可能性はあると思う。──けどさぁ、……なんつうか、会長通して紹介されたって言ってたじゃん? こんな簡単に潜り込める? って思っちゃって、そこがよくわかんないんだよなァ……」

「それは確かにそうだよね。よほど後任探しが難航し──……あ、も、申し訳ございません」


 ユウリがしまったと言わんばかりに口元を押さえていた。メロが「あーあ」という顔をしている。


「いいわよ、別に。後任探しが難航したのは多分事実でしょうし……」


 九条ロゼリア付きのメイド探しが難航するのはわかるのよ。とにかく評判が良くないし、椿邸も結構人の入れ替わりが激しかった。いくら給料がよくてもそんなところで働きたくないって思われてたんでしょう。それは事実だろうししょうがないと思っている。ゲームでも「メイドとして潜り込むのはさほど難しくなかった」って感じだったしね。

 けど、アリサは潜入捜査とか仕事面は結構きっちりしていたというか、わかりやすいボロは出してなかったと思うけど……。


「……。ねぇ、メロ」

「なんスか?」

「アリサからの質問……例えば、あたしが以前のような人間だったら、おかしいって思った?」


 聞いてみると、メロもユウリも目を丸くしていた。

 考えてもみなかったって顔。

 メロは少し考え込んでから、小さく首を傾げた。


「ぶっちゃけてイイっスか?」

「いいわよ」


 むしろぶっちゃけてくれた方がいいと思いながら頷いた。

 ユウリが不安そうな顔をしていたけど、気にするわけでもなくメロが笑って口を開く。


「お嬢が前のままなら、おかしいなんて感じなかったっスね。いや、それどこから多分色々教えちゃったり、秘密にしなきゃいけないこともそのうちバラしてたと思うっス。何なら愚痴ってたかも」

「ちょ、メロ……その言い方は……」

「いいわよ、別に」


 ユウリがメロを嗜めるのを見て笑う。あたしがいいって言ったんだしね。

 ……と言うことは、ゲームでアリサがうまく言ってたのはあたし周辺の人間があたしに対して悪感情を持ってたことが有利に働いたに違いない。

 けど、今はそうでもなくなっている。

 全員が全員あたしに対して好意的になってるわけじゃなくて、以前よりマシになったって程度だから、あたしに悪感情を持つ人間がいないわけじゃない。とは言え少なくなってるのは事実。特にジェイル、メロ、ユウリ、キキあたりのあたしの傍にいる人間の悪感情が薄らいでいる状況だとアリサは情報収集がしづらくなってるんじゃない?

 よし、このまま少し様子を見よう。


「メロ、そのままアリサの様子を探って頂戴。特に何も注意しなくていいから、好きにさせておいて」

「──ロゼリア様、僕は心配です」


 あら、はっきり言うじゃない。

 ユウリはあたしのことを真っ直ぐに見て言う。ちょっと驚いてしまった。メロが横でニヤついてるのが気になるけど無視。


「スパイだと決めつけるわけじゃないですが、……可能性があるのだとしたら、好きにさせるのは賛成できません」

「ユウリ、あんたの言うこともわかるわ。でも、今は判断材料が少なすぎるのよ……メロだけの感想を鵜呑みにもできないわ。なんたってメロだし」

「ちょっとお嬢」

「……。確かに、メロの話だけで決めるつけるのもおかしいですね。メロですもんね」

「おいユウリ」

「申し訳ございません。結論を急ぎすぎました……」


 あたしとユウリはメロのツッコミを無視して話を進めた。メロはさっきまでニヤついてたくせにものすごく不満そうな顔をしている。

 メロが何か言いたげにしているのを見て、言わせないうちにあたしは声を発した。


「いいのよ、あんたの心配も最もだろうし」

「ロゼリア様。キキにそれとなく伝えてもいいでしょうか? 多分、一番接する時間が多いのはキキになると思うので……」


 そう言えばそうかも。アリサの情報源はキキになるのかしら。

 けど、キキには南地区のことには関わらせないから、その手の情報は出てこないはず……。


「馬鹿正直にスパイかもしれない、なんて伝えないでよ。話を大きくしたいわけじゃないんだから」

「はい、そこは気をつけます。違和感があったら教えて欲しい、というくらいの話にします」

「わかったわ。キキが何か言ってたら教えて」

「承知しました」


 まぁ注意する目が多いに越したことはないのよね。メロだけじゃ不安だし。

 そう思っているのがメロに伝わったのか、メロが何か言いたげにあたしを見つめて、いや、睨んでいた。けど、子供っぽく睨んでくるから呆れるしかない。


「……何よ」


 ようやくと言った雰囲気で声をかけるとメロが口を尖らせる。


「おれがアリサのこと見てるって言ったのに……そんなに信用ないんスか?」

「……まともな信用があると思ってるの?」

「ひっど! もう、おれが何のために頑張ってるかわかんないじゃないっスか……! 二度とお嬢とユウリに『メロだし』なんて言わせないっス」


 ユウリが横でおかしそうにくすくすと笑っていた。メロのおかげでシリアスになりすぎないところは助かっているのよね。それを伝える気にはならないけど。

 それにしても……メロもユウリもアリサに一目惚れでもしちゃうんじゃないかと思ってたのに、案外そういう雰囲気がない。あたしの前だからだとしても、なんだかそれはそれで違和感なのよね……。


「あ、ロゼリア様。午後、ハルヒトさんがいらっしゃる時には僕もご一緒させて貰ってもよろしいでしょうか?」


 ……二人と話をしている間に忘れてた。

 憂鬱だわ。それが顔に出ていたらしく、ユウリが心配そうな視線を向けてくる。

 「よろしく」って何でもない風を装って言うけど、昨日のこともあるから本当に憂鬱……。

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