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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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67.翌日①

 目を覚ますとベッドの上だった。自分でベッドに入った記憶がないけど、どうやってベッドまで移動したのかしら? って、そう言えば昨日の夜はメロとユウリの二人と話をしてて、そのまま寝ちゃったんだわ。ってことは、あの二人が運んでくれたってこと……?

 ……醜態を晒した気がする。ああもう色んな意味で憂鬱。


 あー、頭痛い。流石に飲みすぎたわ。

 ベッドに横になったまま頭を押さえていると、扉が控えめにノックされた。


「……誰?」


 う。声までちょっと枯れてる。酒焼けかしら、最悪。

 失礼します、という声の少し後にキキが扉を開けて入ってきた。


「ロゼリア様、おはようございます」

「……おはよう」

「朝から申し訳ございません。あ、ユウリから昨日お酒を飲まれたと聞いたので、白湯をお持ちしました」


 そう言ってキキはベッドのすぐ横にある小さめのテーブルに白湯の入ったティーポットとコップを置いてくれた。昨日、せめて水を飲んで寝るべきだったわ。って、そんな余裕みたいなものもなかったんだけど……。

 あたしはゆっくりと身を起こしつつ、コップに手を伸ばした。


「あ、お持ちします」

「悪いわね」


 キキは笑いながらあたしの手元に白湯を半分ほど注いだコップを手渡してくれた。それをゆっくりと飲んで一息つく。

 

「ロゼリア様」

「何?」

「午後にはハルヒト様が椿邸にいらっしゃるそうです。午前中はどうやら病院に行くとのことで……」

「わかったわ。……アリサは?」


 ハルヒトよりも多分アリサの方が問題。

 白湯をちびちび飲みながら聞いてみるとキキは小さく頷いた。


「既に椿邸に入ってます。先程墨谷さんに挨拶をしたところで、今は使用人たちと顔合わせに行っています。……ロゼリア様が落ち着いたタイミングで墨谷さんが改めて連れてくるということでした」

「そう、わかった。……先にお風呂に入りたいんだけど、準備してくれる?」

「はい、承知しました。準備ができましたらお呼びします」


 キキはそう言って一礼をしてから、寝室を出ていった。

 昨日はそのまま寝ちゃったから、とりあえずお風呂に入ってさっぱりしたい……。そこでゆっくりと考えよう。って、これは前世を思い出した時も同じようなことをしてた気がする。お風呂って考えごとをするにはピッタリなのよね。

 地味に痛む頭を押さえながら、ベッドからゆっくりと降りる。


 窓から外を見てみると、憎らしいくらいに快晴。

 夏も終わり、秋の気配がある。

 ──本来なら10月からスタートするはずのストーリーが既に始まっている……?

 確証は持てない。けど、主要な登場人物は全て登場してしまっている。

 ヒロインであるアリスこと白木アリサ、看板キャラであるハルヒトまで現れた。

 ジェイル、メロ、ユウリ、そしてユキヤ。この四人との関係はゲーム内のロゼリアとは違う感じになったけど、アリサとハルヒトに関しては未知数だわ。

 二人とも何故このタイミングなのか、ハルヒトのあの怪我は何だったのか……疑問は尽きない。

 正直、逃げ出したい気持ちがないわけじゃないけど、メロとユウリが協力してくれるし、ユウリの言う通りジェイルには「言い過ぎた」って言っておかないと気持ちが悪いし……何とかがんばろう……。


 キキに「準備ができました」と呼ばれたのでお風呂へと向かった。

 自分でやるから、と告げて一人で浴室に入る。湯気がうっすらと立ち込めていて程よい雰囲気。あたしの好きな薔薇風呂でお湯の上には薔薇の花びらがいくつも浮かんでいた。

 頭のてっぺんから爪先まで洗ってさっぱりしてから、そうっと足先からお湯の中に入る。

 ちゃぽんとお湯が跳ねた。肩までお湯に浸かったところで、一気にリラックスモードになった。……このままお風呂の中で二度寝したい気分だわ。でもそんなことをしたら絶対に溺れて死ぬ。素っ裸の死体になるなんて絶対嫌よ。


「はー……気持ちがいい……」


 浴槽の中に沈みつつ気の抜けた声を出してしまう。

 今後のことをちょっと考えようと思ったけど気持ち良すぎて何も考えたくない……。

 長湯にならない程度にのんびりしてから出よう。これからのことは後で考えよう……。


 気の抜けたことを考えていると、浴室の外で物音がした。

 絶対に誰も入ってこないと思ってたからビクッと肩を震わせて身を起こし、浴室の外へと視線を向ける。

 外から「ちょっと! 入っちゃダメって言ったでしょ!?」「ご、ごめんなさいっ……!」という声が聞こえてくる。声の持ち主はキキと──アリサだった。


 え、怖……!


 キキはともかくとしてアリサが来たのが怖すぎる。なんで……?!

 まさか単独であたしを殺そうとしてる……? こんな無防備なところを襲われちゃたまらないんだけど!

 外が静かになり、人の気配も消える。どうやらキキが連れ出してくれたらしい。

 これ以上のんびりする気分じゃなくなってしまい、あたしはさっさと浴室を出た。体を拭いて、髪の毛を拭いて、ある程度身支度が終わったタイミングを見計らって、キキがやってくる。


「ロゼリア様、入ってもよろしいでしょうか? 髪の毛を乾かしに参りました」

「待ってたわ。よろしく」


 見れば、キキは手にヘアアイロンやコテを持っていた。それらとキキを見比べるとキキはちょっと照れくさそうに笑う。


「お客様もいらっしゃいますし、少し髪の毛を弄らせて頂きたくて……えぇと、その、お洒落をすれば気分もアガりますし……」


 わたわたとキキは言い募った。

 ……なるほど。昨日の夜、メロかユウリ、もしくは帰ってすぐに会ったメイドから機嫌が悪いことを聞いたのかしら。これまでだったら「触らぬ神に祟りなし」だったから、こうしてキキが能動的に何かしてくれるのは珍しい。そして今の心境からすると気持ちがありがたいのと、確かにテンションを上げたかったらいい提案だわ。

 あたしは大きな鏡の前に座って、鏡越しにキキを見て少し笑った。


「じゃあ、お願いしようかしら」

「はい、お任せください」


 キキは嬉しそうに頷いてからまだ濡れているあたしの髪の毛に触れた。

 ……そう言えば小さい頃もこうやってキキが髪の毛を弄ってたっけ。なんか色んな髪型でお互いに遊んでた気がするわ。当時はキキもあたしも小さかったから失敗しても笑い合って終了だった。

 ブオーと音を立ててドライヤーの温風が当たる。


「……ねぇキキ」

「はい、何でしょうか?」

「さっき、アリサが入ってこなかった?」


 キキの表情が固まり、ビクッと手が震える。一瞬あらぬ方向にドライヤーの温風が向かったけどすぐにキキは手元を直した。気まずそうに口を動かす。


「も、申し訳ありません……屋敷内の案内をしていたところで、途中で何故かこちらに入ってしまいまして……ロゼリア様が入浴されているので後で案内すると言ったのですが……すみません、私の不注意です……初日からご迷惑をおかけしました……」


 何故か、ね。ゲームの中でのアリサというかアリスは別にそんなにドジじゃなかったと思うんだけど、なんでそんな不審な行動をしたのかしら。どちらかと言うと「慎重に行こう」って感じだったのに……。

 やっぱりゲーム内の行動とは違ってる……? ひょっとしたら目的も違ってたり……?

 いや、これはちょっと自分に都合が良すぎる考えだわ……。


「いいのよ、キキはちゃんと注意してくれたんでしょうし……。でも、アリサが妙な行動ばかりするようなら教えて欲しいわ」

「かしこまりました。……そんな報告はないようにきちんと教育します」


 むしろこまめに報告して欲しい。

 と、思ったけど、キキにプレッシャーを与えちゃうかもしれない。そのへんの監視はメロに任せてみよう。メロがちゃんと見ててくれるかどうかの確認もできるし。

 いつも通りキキが髪の毛を乾かしてくれる。その後、普段とは違う手順で髪を弄り始めた。新鮮だわ。


「どんな感じになるの?」

「ぁ、ご希望があればそのようにしますが──」

「そういう意味じゃないのよ、ただの興味だから。考えるの面倒だし、全部キキに任せるわ。終わってからのお楽しみでも全然いいし」


 そう言うとキキがちょっと驚いた顔をしてからおかしそうに笑う。考えるのが面倒、というのがどうやらおかしかったらしい。

 昔も「キキ、髪やって」って結構気軽に頼んでたわ、そう言えば。可愛くしてくれればそれでいい、って感じでほぼお任せだった。懐かしい気持ちもあるけど、それをぶち壊してきた経緯も思い出せるから地味に胸が痛い。


「わかりました。ありがとうございます」


 ちょっと、嬉しそう……? 髪の毛を弄るのが好きなのよね。

 あたしはそんなキキの髪の毛を短くしろと言って……ああ、過去の自分の言動が今を苛む。伸ばしていいわよって言いたい。でも言う勇気がない。自分を意気地なしと心の中で責めた。


「そう言えば、行きたい学校選びとか、勉強は進んでる?」

「はい、楽しく進めさせて貰ってます。学校はまだ選びきれてないんですけど……墨谷さんたちも協力してくれてます」

「──そう、よかったわ」


 いずれ言う。ちゃんと言う。絶対言う。

 そうやって自分を戒めながらキキと他愛ない会話をした。年の近い女の子と話すのが楽しいんだってこと、すっかり忘れてたわ。

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