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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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65.酒と本音③

「ちょ、メロ……!」


 ユウリが慌ててメロの三つ編みを引っ張った。

 ぐき、とメロの首が嫌な音を立てる。メロは怒った顔をしてユウリの手を振り払い、立ち上がってユウリを睨みつけた。


「おまえさぁ……!!」

「君の言いたいことっていうか、やりたいことはわかるけど、言い方!!」

「他にどういう言い方があるんだよ!」

「それは……ご、ご褒美とか?」

「同じじゃん!」


 確かにお願いもご褒美も同じだわ。何が言いたいのかしら。

 酔いはほぼ醒めていて、気持ちはふわふわしてるけど多分普通に話は聞けてる。もっと酔いたかったのにこれじゃ無理ね。

 けれど、どういうことなのかわからなくて、眉を寄せてしまった。


「……えぇと、ですね。理由はわかりませんが、ロゼリア様が僕らに不信感のようなものを抱いているのはわかってるつもりです。なので、僕らにもメリットがあるという話というか、ちゃんとやれたら良いことがあるっていう……ご褒美というかボーナス的なものがある上での行動という方がロゼリア様も、僕らの行動に納得ができるのではないかと思ったんです。

もちろん、僕もその方が頑張れます」


 言いたいことは何となくわかった。

 でも、それをあたしにぶっちゃけたらあんまり意味がないんじゃないのかしら。要は馬に人参、二人のために人参を用意すればゴールまでは二人が走り切るって確証とはまではいかないものの、ある程度安心ができるんじゃないかって思ってくれてるのよね。

 ……メロもユウリも、今の環境が落ち着くからっていう理由だけじゃ弱いことをわかってる。

 そんなの口から出任せでしょ、ってケチつけるんだとわかってるんだわ。実際その通りなんだけどね。


「僕も、って……ユウリは何か欲しいものがあるの?」

「えぇと、それはこれから考えます……」


 困り顔をして答えるユウリ。頬を人差し指で照れくさそうに掻いている。

 何もないのに条件に出してくるなんてどういうつもりよ。

 困るユウリの脇腹をメロが突っつく。


「おまえ、まさか何もせずにご褒美もらおうとしてる?」

「違うよ。──ロゼリア様は、ハルヒトさんのことも気にしている、んですよね?」


 メロのことを押し返しながら答える。あたしが何も言わずにいると、ユウリはゆっくりと深呼吸をした。


「ロゼリア様、ハルヒトさんの身の回りのお世話などは僕に任せていただけないでしょうか?」

「……は?」

「多分メイドの誰かが率先してやりたがるとは思うんですが、男同士の方がやりやすい部分もあると思うんです。そういう部分を僕に任せてもらえれば、と……監視とまではいきませんが、僕がハルヒトさんのことを見ています。不審な点があればすぐにロゼリア様に報告します」


 つまり、アリサのことはメロが、ハルヒトのことはユウリが見ててくれる、ってこと?

 ハルヒトのことは、正直あんまり接触しすぎなければ大丈夫のはず。──ゲームの中でロゼリアがハルヒトを拾ったのも虐めて遊んだのも、顔が好みだったからなのよね。系統で言うとユウリやノア。あたしが虐めたくなるタイプなのよ、結局のところ。

 ただ、アリサのことは本当に読めない。

 何故ハルヒトと同じタイミングで来たのか。ゲームの時と同じようにロゼリアの悪事の証拠を探しに来たのか、それとも別の目的があったのか……本当にわからない。

 そうやって考えるとあたしが呼びつけさえしなければ時間にゆとりのあるメロが監視をするのは案外いい案かもしれない。けど、アリサとメロが近付くような真似をして良いのかどうかも、ちょっと悩みどころなのよね……。知らない間に恋に落ちてて「よし、逃げ出すためにロゼリアを殺そう」ってなったら困るのよ。

 それだけはあたしの力じゃどうしようもない。

 けど、この問題が現時点でどうにかできないこともわかってる。


「……で。メロはアリサ、ユウリはハルヒトの行動に注意するから、その仕事がちゃんとできたら何かご褒美が欲しい、ってことなのね?」

「そっス。成功報酬的な?」

「その間はご褒美目当てにがんばるから、その間はあたしが不安になる必要はないってこと?」


 ふと九条印が頭に浮かんだけど、あんまり意味がないのよね……。そうやって約束できる話じゃないし、そもそもそうやって約束をして欲しいのはメロとユウリがあたしに対して、だもの。

 ……だめだわ。多分、今は二人を信用するしかない。それ以外、あたしには打てる手がない。二人の申し出は本当に有り難いくらいなのよ……。


「……わかったわ。一旦、あんたたちにアリサとハルヒトのことは任せる。ご褒美とやらはちゃんと考えておいて頂戴」

「やった!」

「はい、かしこまりました。ロゼリア様の嫌だと思う気持ちを取り除きたいのは僕もメロも同じなので、信じてくださって大丈夫です」


 メロとユウリがあたしに向けている感情も、ゲームのストーリーも、なんだか違っちゃってるから打てる手を打っていくしかないと思い直した。

 不安は山程あるけど動いていかなければ変わらない。

 二人を不審に思う気持ちもあるけど、それを二人に向けても余計に拗れそうだし……。アリサとはまだ会ったばかりなんだし、いきなり二人が一目惚れしてアリサを引き止めるためにこんなことを言い出すなんて考えづらいしね。……アリサとの接触が増えるうちに変わることもあるかもしれないけど、そうなったら「応援してるから!」ってお金持たせて送り出すくらいの気持ちでいなきゃ……!


「……信用するわよ」

「大丈夫っスよ!」

「お任せください」


 二人の返事を聞いて、それで自分を納得させた。反面で、しっかりしなさいと自分を叱咤しつつ、まだ残っている酒をグラスに入れる。

 それを見たユウリが変な顔をした。


「まだ飲まれるのですか?」

「残したら勿体ないもの」

「お嬢、それ良いお酒っスよね……」


 メロは案の定というか何と言うか、物欲しげにボトルに残っている酒をじーっと見つめていた。残っているのは半分くらい。ユウリがメロの脇腹を突っついているけど、メロは酒から目を逸らさなかった。

 あたしは小さくため息をついて、部屋に常備してあるコップを二つ持ってくる。


「ちょっとだけなら分けてあげるわ」

「流石お嬢。話が早い~!」

「……ロゼリア様、僕は、あの、」

「ユウリはお酒弱かったわね。じゃあ、こっち」


 そう言ってまだ未開封のままだったお菓子をあげた。コップの片方にお酒を半分くらい注いでメロに渡す。

 それぞれに渡すものだけ渡して、あたしはグラスに口をつける。

 はぁ、とため息をついたところで、ユウリがお菓子を手に持ったまますぐ傍まで来て、あたしにそっと耳打ちをする。


「あの、明日、ジェイルさんに一言だけでも……なんというか、謝罪をした方がいいと思います」


 ユウリの提案にグラスを置く。

 そりゃ、あんなこと言ったままにしておくのはまずいのはわかってる。けど、謝罪ね……。なんて言えばいいのよ。酔ってて変なこと言ったとか、あんなの嘘よ、とか? ……なんかしっくり来ないわ。


「あいつのことなんて凹ましときゃいいじゃん」

「ロゼリア様とジェイルさんがギスギスしてるのは良くないよ。色んな意味で」

「つっても、お嬢がジェイルに説得された、って(てい)になるのもしっくりこねーよ」


 メロはソファの肘掛けに腰を預けながら、あたしの言いたいことを言ってくれていた。

 あくまでも、今日はメロとユウリの提案を受け入れただけで、ジェイルの言うことにはさっぱり納得してないのよ。裏切る可能性は誰にでもあって、それはジェイルはもちろんのこと、メロもユウリも例外じゃない。

 猶予されただけ。

 そのための時間稼ぎをしてるだけなのよ。

 グラスを再度口につけ、ユウリを見つめる。


「ジェイルは伯父様の言うことが聞きたいだけでしょ。……あたしの不満は解消されてないわ。ユウリの言うこともわかるけど……」

「や、お嬢。単純に会長の言うことを聞きたいだけってわけでもないっスよ、ジェイルは」

「え? どういうこと?」

「あいつはあいつなりにお嬢の役に立ちたがってるってだけ。……会長の命令に従うことが全部お嬢のためになるって思ってるから拗れるんスよ」


 ちびちびと酒を飲みながら考える。確かに、ジェイルはそうやって考えていると思う。そして、そんなジェイルをあたしは信用していた。……今更その信用がなくなる、っていうのは確かに酷いかもしれない。

 ユウリがあたしの傍で考え込み、それからもう一度口を開いた。


「わかりました。……ですが、ただ、『言い過ぎた』という主旨の言葉をジェイルさんに向けてあげてください。ジェイルさんにも落とし所みたいなものが必要だと思います」

「……いいわよ、わかった」

「お嬢、それはそれとしてジェイルのことも信用してるとか信頼してるとか頼りにしてるとか、そう言ってやると多分持ち直すと思うっスよ」

「なんでよ」

「秘密っス」


 メロが「にゃはは」と楽しげに笑う。一連のセリフとメロの反応を見たユウリが「まさか」と言いたげな表情をして、メロを見つめる。メロは何か言うでもなく、ただ意味ありげに笑うだけだった。

 ……一体何のやり取りなのよ。


 あたしはあたしで気持ちの落とし所と、今後の方針を手に入れることができた。

 不安は尽きないけど、とりあえず今日のところは酒と一緒に流し込んでしまおう。

 ごく、とグラスに残った酒を飲み干した。しばらくすると酔いが眠気を押し上げてきて、ボトルに残った酒をすべて飲み干すことができないまま、ゆっくりと眠りの中に落ちてしまった。

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